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第8回 いつかくる その日に備えて

企業の論理を超えて

災害が起こると、多くの人が家族や知人の安否を気遣う。全国から被災地へ安否確認などの電話が殺到すれば、電話がつながりにくい状態が発生してしまう。こうした事態を避けるため、阪神・淡路大震災の教訓から開発されたのが、災害時の安否確認システムである「災害用伝言ダイヤル171」だ。

全国50カ所に設置した伝言蓄積装置に伝言を分散するので、混雑を避けて、家族をはじめ大切な人との伝言のやり取りができる。

NTT西日本静岡支店では、あらゆる機会をとらえて「171」の周知に努めている。「防災の日」の訓練会場でも体験サービスを実施し、利用方法が書かれたシールや名刺大のカードを配布した。

「災害が起きたときにこれを持ってると全然違うんだ。カノジョにも渡しといてね!」

「おとーさんにも渡しといてくださいよ!」

NTTネオメイト静岡の災害対策担当、山本久喜は、訓練会場を訪れた中学生や自主防災組織の皆さまにも気さくに話し掛け、「171」のシールやカードを手渡す。

その隣でNTTネオメイト静岡営業所の提坂享司が「いつもこの調子なんですよ」と笑う。

静岡県防災士、災害ボランティアコーディネーターの資格を持つ山本は、ボーイスカウトなどから防災についての講演を頼まれることが多く、「楽しみながら覚えてもらう」ことをモットーとしている。そんな山本の周りを子どもたちが取り囲む。

「171」の体験コーナーで、丁寧に利用方法を説明していたNTT西日本静岡支店災害対策室の土屋真弘は、「171」を懸命にPRする意味をこう語る。

「災害時に大切な人の安否が確認できなければ、誰もが不安や焦燥に駆られます。自分の家族がどこにいるか分からないという場合などに、伝言を聞いて無事を確認できれば『あぁ、みんな元気なんだ』って安心できますよね。被災した人たちには、そうした安心感というのがとても大きな意味を持つのです」

土屋は「171」の利用方法を説明する際、「録音よりも、まず再生を」と強調する。

「『171』全体の伝言の容量は800万件。1電話番号につき録音できる伝言は最大10件ですが、大規模な被害が想定される東海地震では利用する人が増えて最大7件になるかもしれないし、5件になるかもしれません。そうなると1件の伝言が重みを増します。ですから、まず再生をしてみて、伝言が入っていれば、それに基づいて行動するなり、返事をするなりした方が、伝言をより有効に活用できるわけです」

さらに「録音の際は間違いを避けるため、例えば『お父さんです。小学校にいます』といったあいまいな表現ではなく、『お父さんの○○ですが、○○小学校にいます』などと固有名詞を使い、人と場所が特定できるように」と助言する。

訓練に参加していた焼津市内の男性は「このようなサービスがあることは知っていましたが、『171』という番号までは知らなかったので、いざというときになって『何番だったっけ?』という状態になっていたかもしれません。今日を機にぜひ覚えたい」。

自主防災組織の一員で、阪神・淡路大震災や宮城県沖地震で災害ボランティアも経験しているという男性は、「毎月1日(1月1日は除く)にこのシステムが試用できるのを利用して、娘と伝言の練習をしています。"明日は我が身"です」と話す。

体験コーナーに設置された液晶モニターの映像からは、こんな言葉が流れていた。「散り散りになってしまった家族が『171』のおかげで再び出会うことができ、日ごろおろそかになっていた家族のきずなまでもグッと強まったような気がしています」

NTTグループでは災害時の通信手段確保のため、「171」のほか、停電時の街頭公衆電話の無料開放や、学校などの避難地への特設公衆電話の設置などの対策を用意している。

県全域が地震防災対策強化地域である静岡県では、県下全域に被害が予想され、発災後に1,200カ所を超える避難地に特設公衆電話を設置するのは極めて難しい。そこで、約1,100カ所の避難地に約3,100台特設公衆電話を事前に設置し、被災者の緊急通信の確保に努めている。

「NTT西日本静岡グループの社員数は約3,000人。県全域が被災し、社員の中にも被災者が出ることを考えれば、1,200カ所を超える避難地へ迅速に特設公衆電話を設置しますとは言い切れません。維持コストはかかりますが、被災者の方々の緊急通信を確保することがライフライン企業としての使命だと思い、事前設置に踏み切りました」とNTT西日本静岡支店災害対策室長の酒井伸夫は語る。

それは奇しくも静岡県防災局の岩田孝仁防災情報室長の「県下全域が大規模な被害を受けることを考えたとき、現実問題として、誰も支援に行けない可能性も否定できないため、県民一人ひとりが食料と水3日分を準備しておいてほしい」という切実な言葉と重なる。

「被災者が被災者を支援しなければならない」という厳しい現実を受け止め、NTTグループの技術者たちは常に臨戦態勢を崩さない。

「災害用伝言ダイヤル171」の体験コーナー

「災害用伝言ダイヤル171」のシールとカードを配るNTTネオメイト静岡の災害対策担当、山本久喜

「災害用伝言ダイヤル171」周知用のカード

「被災時には安否確認による安心感が大きな意味を持つ」と語るNTT西日本静岡支店災害対策室の土屋真弘