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第8回 いつかくる その日に備えて

「防災の日」に誓う

2005年9月1日午前9時30分、駿河湾から遠州灘を震源域とするマグニチュード8.0の大規模な地震が発生、県内各地は震度6弱以上となり、沿岸には大きな津波が来襲。家屋は倒壊し、道路は損壊、交通機関をはじめ電気・ガス・水道・電話なども被害を受け、多数の死傷者が出た…。

こうした想定の下、「防災の日」のこの日、「静岡県・焼津市総合防災訓練」が実施された。国や地方自治体、自主防災組織などとともにNTTグループも参加し、地域住民が見守る中、被災した通信設備の復旧訓練を本番さながらに展開した。

NTTグループからの参加者は、前夜から会場近くに宿泊していた。NTT西日本静岡支店災害対策室長の酒井伸夫は言う。

「万が一、交通機関の事故などが起きて訓練に参加できないようなことがあってはならない。人々の命にもかかわる通信を担う我々にとって、防災訓練は極めて重みがあり、また、このように多くの人が集まる場において迅速で的確な復旧作業を披露することは、災害時に通信が途絶してもこうやって復旧できるんだという安心感を持っていただくと同時に、孤立してしまったら…という不安を払拭することにもつながり、非常に重要な意味を持つのです」

焼津市災害対策本部が置かれた市総合運動公園では、「ポータブル衛星通信装置」を組み立てて特設公衆電話を開設する訓練などが行われた。

通信ケーブルが被災した場合には、「ディジタル衛星車載車」を派遣し、通信衛星を利用して避難場所などに臨時に特設公衆電話を設置することになっているが、災害地域への交通が途絶して車が入れないときには、人力で持ち運べるポータブル衛星通信装置が活躍するのだ。

技術者たちによって手際良く組み立てられたポータブル衛星通信装置をよく見ると、ボルトやネジなどの部品にさまざまな色が塗ってある。

「ポータブル衛星通信装置を組み立てるためのボルトやネジは何種類もあり、似たような大きさでも微妙に形状が違っていたりする。ただでさえ紛らわしいのに、災害時には焦りが募って余計に手間取ってしまう。あらかじめ色分けし、同じ色の部品同士を組み合わせるようにしておけば、作業時間も短縮できるし、誰でも簡単に組み立てられるのです」とNTTネオメイト静岡・伝送無線サービスセンタの小沼泰男が説明する。最先端機器の組み立てを「色分け」というアナログ的な知恵と工夫で効率化しているわけだ。

一方、3キロほど離れた清見田公園では、緊急車両のサイレンが鳴り響き、上空を自衛隊のヘリコプターが飛び交う緊迫した状況の中で通信ケーブルの切断復旧訓練が行われていた。

地震の影響でちぎれて電柱から垂れ下がった通信ケーブル。円陣を組み、互いに声を出し合って意識を合わせた技術者たちがそれぞれに持ち場へと走る。ケーブルの切断部分をロープで一時的に連結し、ケーブルに結んだロープを電柱の足場釘に引っ掛けて引き上げるのは3人がかりの力作業だ。井戸水を汲み上げる釣瓶(つるべ)の要領でケーブルを本来の高さにまで引き上げる。

電柱の上部では、高所作業車のバケット(作業カゴ)に乗った技術者2人が待っており、引き上げられたケーブルのたるみを「張線器」という工具で規定の張力にまで引っ張る。ここまでのケーブルを引き上げる一連の工程を「架渉(がしょう)作業」と呼ぶ。

架渉作業を終えると、バケットに乗った技術者2人は、一時的に連結してあるケーブルの切断部分へと移動し、接続作業を始める。この日に使ったケーブルは100本の通信線が束になっている。その一本一本をこよりを撚るように手ひねりでつないでいく。

容赦なく照り付ける日差しの中で行われた訓練は、約30分ほどで終了した。まさに技術者たちの連係プレーである。「本当の災害時のつもりで、一刻も早く復旧させなければとの一心でした」。バケットから降りてきたNTTネオメイト静岡の大塚英秋は淡々とそう話し、気持ちよさそうに汗をぬぐった。

「通信を担う我々にとって防災訓練の持つ意味は極めて重い」とNTT西日本静岡支店災害対策室長の酒井伸夫

「ポータブル衛星通信装置」の組み立て作業。短時間で組み立てられるように、ボルトを色分けするなどの工夫が凝らされている

断線した通信ケーブルの復旧作業に励む技術者

衛星携帯電話で臨時の電話回線を確保

応急仮設住宅に設置した特設公衆電話の試験通話を行う