災害用伝言ダイヤル『171』の例でも分かる様に、ソフト面からの災害対策が重要性を増してきた。また、最近の大規模災害では、これまで想定していなかったトラブルが明らかになり、新たな課題となっている。
最近、目立ちはじめたのがファクス兼用機など複合電話機でおきるトラブルだ。複合電話機とは主に、「電話+ファクス+コピー+スキャナー+子機」といった多機能型の最新電話機をいう。
災害対策から見た場合、複合機でまず問題になるのが電源だ。単機能の電話機には電話局から電力が供給されていて停電しても使えるようになっているのだが、複合機の場合、一般電源がなければ通話機能が使えない機種がある。通信網が復旧していても停電が長引けばせっかくのライフラインを生かせない。
便利な反面、弱さがあることを知る人は少ない。災害時の情報伝達を研究している東洋大学社会学部の中村功教授は、「複合機でも電話局からの給電で使えるようにする技術規格のJIS化などを早急に検討ですべきではないか」と語る。
また、停電が回復した後の「リセット問題」がある。2004年7月に起きた新潟県三条市の豪雨水害では次のようなケースがあった。電話機がつながらないとの『113』通報を受けたNTT-MEの社員が駆けつけて調べてみると、停電が回復した時に各種の設定が工場出荷状態にリセットされてしまい通じなくなっていた。
工場出荷状態にリセットされることなどほとんどの人が知らないだろう。通信事業者にとっては、こうした問題に細やかに対応をするのが新たな課題となっており、電話機の使い方を知ってもらう努力も求められている。
通信サービスの故障受付である『113』を、災害時におけるサービス向上のためにどのように告知し、運営していくのかについても災害対策の一つのテーマになってきている。
工事や保守を担当するNTT-MEやNTTネオメイトでは、『113』に寄せられた各種の故障内容を集計し、特殊な事例は全支店に参考情報として流すなど情報の共有を図っている。しかも現場で処理できない時は、24時間体制で本社のネットワークセンタなどが支援するようになっている。
ところが、利用者がNTT東西の『113』に連絡しても対応できない状況もある。NTT以外の通信事業者のサービスだ。こうした通信サービスは、NTT東西に基本料を払う必要がなく、利用料金の安さをアピールしている。しかし、これを技術的にみるといくつもの課題がある。加入者宅から最寄りの電話局の入口まではNTT東西の回線を使い、電話局の中では他の通信事業者の交換機につながっている。そこで不具合が発生しても他の通信事業者が対応すべきことで、NTT東西の『113』では対応できないのである。だが、利用者のほとんどがその仕組みを知らない。
「同じ地域に住んでいて、電話で困っている利用者がいて、NTTならなんとかしてくれると信じていらっしゃる。なのに、『それは他の通信事業者の問題で』と断るのは正直、忍びない。仕方がないとは言いたくないけれど、そう言わなければいけなくなる。」と松野室長は打ち明ける。
全国どこでも同じサービスを利用できるユニバーサルサービス。それを現場で支えてきたNTTの社員にとって、ユニバーサルサービスは自らのアイデンティティであり、DNAそのものだ。それが今、大きなジレンマを抱えているのも事実である。
『113』受付模様(NTT東日本新潟支店)
電話機の故障のケースは様々
取材:船木 春仁