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2025年12月18日
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所
NTT株式会社
NTT東日本株式会社
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(本所:東京都千代田区、所長:黒橋 禎夫、以下「NII」)、NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)、NTT東日本株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:澁谷 直樹、以下「NTT東日本」)は、激甚災害時のネットワーク維持を想定し、通信状況に応じて光伝送レイヤの設計・制御を自動化することで、波長変換を含む光波長パスにおける経路切替やオンデマンド追加設定を短時間で実現する技術の実証に、世界で初めて成功しました。本成果により、迅速な光波長パスの経路切替・追加提供が可能となり、先端技術研究を支える高信頼な通信基盤の実現と、その利便性の向上が期待されます。
NIIが構築・運用する学術情報ネットワーク(SINET)※5は、日本全国の大学・研究機関に提供される学術情報基盤です。各地域のSINET拠点を介して全国の大学・研究機関が接続し、400Gbpsの超高速回線により、日本の学術研究を支える全国規模の通信ネットワークを形成しています。 近年は、大型実験装置やビッグデータなど研究で扱うデータ量が急速に増加しており、それらの増大する大容量データを、途切れなく転送するための信頼性の強化が重要になっています。
一方で、昨今激甚化する風水害や地震等の災害により、光ファイバの切断等による通信障害が相次いでいます。激甚災害で光ファイバが障害を受けた場合のサービス復旧技術として、あらかじめ準備した予備経路への即時切替(プロテクション切替※6)があります。さらに、予備経路への切替後も障害が長期化するリスクに備え、新たな予備経路への切替(リストレーション切替※7)を行うことで、信頼性の向上が期待できます。しかし、予備経路を探索・確保するためには、波長リソースや設備の事前準備が必要であり、さらに伝送経路の評価・選定などの工程を手動で実施していることから、実際に予備経路を探索・確保してトラヒック迂回するまでに数時間かかることもあります。
NTTでは、リストレーション切替を短時間で実現する技術や、その制御機能を応用したオンデマンド光波長パス設定を実現する技術の開発を推進しており、光信号レート、伝送方式※8、波長を自動で評価した上で最適設定するAPNコントローラ技術の開発を進めています。
今回、NTT東日本の商用光ファイバケーブルと、NTTの伝送装置、APN コントローラ、波長変換器、光トランシーバを実装したスイッチ装置を用いて構築した光伝送ネットワークに、NIIのIPコントローラおよびデータ転送サーバ(MMCFTP※9)を組み合わせ、2つのコントローラによるマルチオペレーション連携を実現しました。この環境下で、光波長パスの経路切替とオンデマンド追加(増速)の2つのユースケースに関する実証実験を実施しました。
図1.APNコントローラおよびIPコントローラを用いた連携制御による
光波長パスの経路切替(リストレーション切替)の概要図
東京都内の3つのデータセンタ(A、B、C)を光ファイバで接続した光伝送ネットワーク環境において、以下の2つのユースケース検証を実施しました。
本実験では、激甚災害により先端研究用トラヒックが流れる伝送経路が寸断された場合を想定し、リストレーションによる経路切替を自動で実行してトラヒックの転送を復旧させるような、以下シナリオを検証しました。
上記実験の結果、経路切替の操作開始から10分以内に全トラヒックの転送が回復したことを確認しました。
図2.実験1における構成
本実験では、先端研究の実施状況に応じて通信基盤の利用帯域を拡張する場合を想定し、実験1で検証した経路切替の自動化機能を応用することで、オンデマンドで回線を増速する設定を自動で行うような、以下シナリオを検証しました。
上記実験の結果、増速した光波長パスにより全トラヒックが転送できたことを確認しました。
図3.実験2における構成
現状、光波長パスの開通や増速には、設備情報や波長リソースの確認、伝送経路の選定、光ファイバ条件を踏まえた伝送到達性の評価など、複数の工程を手動で行う必要があります。エンドツーエンドで波長リソースや伝送到達性が確保できない場合には、伝送経路や伝送方式(変調方式など)を見直す必要があり、光波長パスの提供までに数時間以上かかることもあります。
今回開発したAPNコントローラ技術は、エンドツーエンドで波長リソースが確保できない場合でも、波長変換器を含む最適なルート、波長、伝送方式などを自動かつ一元的に設計し、光波長パスの迅速な開通や経路切替を実現します。
光波長パスの設定では、エンドツーエンドで同一波長を確保する必要があります。しかし、激甚災害発生時など多数のオンデマンドな迂回経路を設定する必要がある場合には、同一波長を確保できないことがあります。従来は、経路上に高価なトランスポンダを配置し、光信号を電気デジタル信号へ変換した後に波長を変換することで光波長パスを設定していましたが、電気デジタル信号処理に伴う遅延や消費電力の増加が課題でした。
本技術により、波長変換に伴う遅延や消費電力の増加を最小限に抑えた光波長パスの設定が可能となります。
光トランシーバ※11の小型化により、これを収容可能なルータやスイッチ装置が登場し始めています。これにより、ルータやスイッチ装置から直接APN網に接続することができ、省スペース化や装置コストの低減が期待されます。一方で、光トランシーバに対する波長やレーザパワーの指定、光レイヤの監視など、APN接続に必要な設定が求められ、管理が複雑化する懸念があります。
本技術では、ルータやスイッチ装置が本来有するレイヤ2/3機能と、APN接続に必要な光レイヤ機能の制御権限を分離し、APNサービス提供事業者が保有するAPNコントローラから光トランシーバを制御します。これにより、サービスネットワーク事業者やユーザは光レイヤを意識することなく、高速・低遅延な伝送サービスを利用することが可能となります。
図4.要素技術の実装概要
| 組織 | 役割 |
|---|---|
| NII |
|
| NTT |
|
| NTT東日本 |
|
図5.各組織の役割
本実験では、マルチレイヤでのオペレーション連携により、激甚災害時を想定した予備経路の自動探索・確保によるトラヒック迂回を10分以内で実施できることを確認しました。本成果の適用により、光伝送ネットワークのさらなる信頼性向上が期待されます。
NIIは、世界最高性能のネットワーク基盤SINETの整備を通じ、日本の研究・教育の発展を引き続き支えていきます。また、今後も高速・大容量性、高信頼・安定性向上をめざします。
NTTは、IOWN APNのさらなる普及拡大に向け、光伝送ネットワークの信頼性向上とオンデマンド回線提供を可能とする高度化技術の開発やユースケース検討を推進していきます。
NTT東日本は、大容量・高信頼な光伝送ネットワークを活用したサービスの実現にむけて、検討を進めていきます。
【用語解説】
報道発表資料に記載している情報は、発表日時点のものです。
現時点では、発表日時点での情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承いただくとともに、ご注意をお願いいたします。