(報道発表資料)

2025年7月11日
NTT株式会社
NTT東日本株式会社

多数の高解像度カメラ映像の画像認識処理を支える低負荷データ収集通信制御技術をIOWN APN上で実証
〜広範囲で正確な野生鳥獣監視の実現による現場作業負担軽減に貢献〜

発表のポイント

  • RDMA通信の開始/終了タイミングをコントローラで制御する技術により、通信性能を確保したまま多数の高解像度カメラ映像データを最大1/1000の低負荷で収集できることを実証
  • 多数の高解像度カメラ映像データを低負荷に収集することで、野生鳥獣の種類や数を継続的かつ面的に監視でき、山林への定期的な見回り調査のような負担の大きな現場作業を削減可能
  • 今後は野生鳥獣監視のみならず、さらなる遠隔監視分野への応用可能性を探索し、現場作業の抜本的削減といった社会課題の解決に貢献

NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)とNTT東日本株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:澁谷 直樹、以下「NTT東日本」)は、野生鳥獣監視をはじめとするカメラ映像を画像認識する遠隔監視ユースケースにおいて、IOWN オールフォトニクス・ネットワーク(All-Photonics Network、以下「APN※1」)と低負荷データ収集通信制御技術により、通信性能を確保したまま多数の高解像度カメラ映像データを低負荷に収集できることを実証しました。

今後は、IOWN APNと本技術を活用し、野生鳥獣監視のみならず現場作業の抜本的削減に繋がる遠隔監視サービスの実現に向けて引き続き技術開発を進めてまいります。

1.背景

近年、作業者の担い手不足や高齢化の対策として、ネットワーク経由でカメラ画像をサーバへ送信し、AIで画像認識を行う遠隔監視の導入が進んでいます。例えば、熊や猪などの動物を検知する野生鳥獣監視、交通量の測定や駐車場の出入りを管理する車両監視、不審者の検知や進入禁止区域への立ち入りを監視する侵入検知などが挙げられます。しかし、ネットワークやサーバ負荷の制約によりデータ収集に利用するカメラの台数を増やすことや解像度を上げることができないため、局所的な監視に限定されているという課題があります。具体的には、現在の野生鳥獣監視では罠の状況確認のような点の監視に留まっており、動物の種類や数を継続的に把握する面的な監視をできていないため、山林への定期的な見回り調査のような現場作業はいまだ人手で行われています。このような負担の大きな現場作業を削減するために、多数の高解像度カメラを配備し画像を分析することによる人手を介さない広域な監視の実現が求められています(図1)。

カメラを配備する際の制約のうち、ネットワークの観点についてはIOWN APNや6Gといった次世代通信技術の発展により解決できる見込みがあります。一方、サーバ負荷の観点については大容量データの受信処理に要する負荷への対策方法が確立されていません。そのため、多数の大容量データを低負荷に収集する技術の確立が求められています。

図1 野生鳥獣監視の現状と本通信制御技術で実現する将来像

2.実証実験

本実証実験では、NTT中央研修センタ(東京都調布市)とeXeField Akiba(東京都千代田区)をIOWN APNで接続し、NTT中央研修センタに設置した複数の4Kカメラで撮影した画像を、eXeField Akibaに設置したサーバに送信してAIによる画像認識を行う実験システムを構築しました。また、画像認識のユースケースとして、野生鳥獣監視、車両監視、侵入検知の3つを再現しました(図2)。

本システムでは、1つのビルやエリアに多数設置されたカメラが回線を共用し、遠隔地のサーバへ画像データを送信する構成を採用しました。また、多数のカメラが設置された環境を模擬するため、実際のカメラを接続した実端末に加え、仮想的にカメラを構成する仮想端末も併用しています。実験では、画像データを収集した際のサーバ負荷、スループット、および画像認識の精度を測定しました。

図2 実証実験システムと本通信制御技術の動作

2-1.技術のポイント

多数の大容量データ受信時に処理負荷が増大する要因は、OS(Operating System)からアプリケーションへのメモリコピー処理です。この課題を解決する方法として、あるサーバのメモリから別のサーバのメモリに直接データを書き込む技術であるRDMA※2の適用が考えられます。RDMAは高速/低負荷である特徴を有していますが、通信路のロスレス性を前提に動作するため、ネットワーク内部でパケットロスを抑止する仕組みを構築する必要があります。従来、RDMAが利用されてきたデータセンタネットワークでは、近傍に設置されたすべての通信機器でフロー制御機能を連携動作させることによりパケットロスを抑止してきました。しかし、今回のデータ収集が対象とする広域ネットワークは、さまざまな通信機器が広範囲に多数配備されていることから同様の機能を動作させることが困難であるため、パケットロスの抑止が行えず、RDMAをそのまま利用すると通信性能が著しく低下してしまいます。

そこで、多数の端末から発生するRDMA通信の開始/終了タイミングをコントローラで制御することにより、パケットロスを抑止して通信性能を確保する低負荷データ収集通信制御技術(以下、本通信制御技術)を確立しました。本通信制御技術では、収集すべきデータの発生を契機として端末が通信の開始をコントローラに要求し、コントローラが各端末の要求に基づきRDMA通信が衝突しないよう通信の開始/終了タイミングを制御することで、パケットロスを抑止します。また、RDMAの高速性と収集データごとに異なる遅延要件の多様性といった特徴を踏まえ、速やかな分析が必要なデータの場合のみ通信開始/終了を即時行い、分析に時間をかけてもよいデータの場合はシステムのスループットを高められるよう一定量データを集約して通信開始/終了を行います。このような動作により、タイミング制御のオーバーヘッドを極力抑えて通信性能をより高めることができます。

このように、高速/低負荷である一方で通信路のロスレス性が求められるRDMAに対して、データ収集に適した通信制御を行うことにより、通信性能を確保しながら多数の大容量データを低負荷に収集することが可能になります。

2-2.実証実験の成果

従来のRDMAでデータを収集する場合は、サーバ負荷の低減が可能であるものの、多数の端末で回線を共用することによるパケットロスが発生し、通信性能が大幅に低下します。一方、本通信制御技術でデータを収集する場合は、RDMA利用時のパケットロスを抑止できるのでスループットを約5倍向上できることを確認しました。また、TCP※3でデータを収集する場合と比べると同等の通信性能を確保しながら受信処理に要するサーバ負荷を最大1/1000まで低減できることを確認しました(図3)。

本通信制御技術を適用することによる効果として、カメラの収容台数の増加や高解像度化が考えられます。TCPの場合はサーバ負荷の制約などにより収容台数が制限されますが、本通信制御技術を用いる場合、サーバ負荷は無視できるほど小さく、利用可能なネットワーク容量の上限まで収容台数を増やせるため、カメラ収容台数を約10倍※4拡張できることが見込めます。また、多数のカメラでの収容台数増加による広範囲の監視実現に加えて、4Kのような高解像度カメラ画像を使った画像認識によって、動物が小さい・カメラからの距離が遠いといった理由で被写体が小さく映る場合でも高い精度で検出可能となることも見込めます。本実験システムでは、小さく映る被写体の検出において、フルHDで撮影した場合の検出率が約60%であるのに対し、4Kで撮影した場合は約80%となり、20%程度の精度向上を確認できました。

このように、多数の高解像度カメラ映像データ収集により継続的な面的監視が可能になることで、遠隔監視の適用領域を拡張し、現場作業の負担軽減につながります。特に、野生鳥獣監視においては、動物の生息数や行動範囲・移動経路といった高度な解析に拡張し、現地の定期的な見回り調査作業負担を軽減することで、作業者の担い手不足や高齢化の問題解決に貢献します。

図3 サーバ負荷と平均スループット

3.各社の役割

NTT 低負荷データ収集通信制御技術に関する実証実施と結果分析
NTT東日本 「All-Photonics Connect powered by IOWN」の提供と実験システムの構築
山形県における鳥獣害対策の実証※5の知見を基にした模擬環境での技術評価、現地ニーズを踏まえたユースケース創出

4.今後の展開

今回、低負荷データ収集通信制御技術により、通信性能を確保したまま多数の高解像度カメラ映像データを低負荷に収集できることを実証しました。

今後は、IOWN APNと本技術を活用し、野生鳥獣監視のみならず更なる遠隔監視分野への応用可能性を探索することで現場作業の抜本的削減といった社会課題の解決に貢献できるよう引き続き技術開発を進めてまいります。

【用語解説】

  • ※1IOWN APN(オールフォトニクス・ネットワーク)
    IOWN Global Forumにてオープンにアーキテクチャ策定が行われているフォトニクス技術をベースとした革新的ネットワーク。フォトニクス(光)ベースの技術の適用範囲を拡大することで、現在のエレクトロニクス(電子)ベースでは困難な、低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現する。
    https://www.rd.ntt/iown/新規ウィンドウで開く
  • ※2RDMA (Remote Direct Memory Access)
    ネットワークを介してメモリ上のデータを直接転送する技術。データセンタや高性能計算などの短距離のデータ転送で利用されている。
  • ※3TCP(Transmission Control Protocol)
    IP(Internet Protocol)通信で広く利用される通信プロトコル。輻輳制御や再送制御等の制御機能により信頼性の高いデータ転送を実現する。
  • ※4データ収集通信に利用できるCPUリソースが4コア、400Gbpsのネットワーク帯域を想定した場合
  • ※52024年8月30日地域の猟友会と連携した鳥獣害対策 〜AIカメラを活用した実証実験を開始〜
    https://www.ntt-east.co.jp/yamagata/new/detail/pdf/20240830_01.pdfPDF[355KB]

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