「よそ者」は本当に地域の力になれるのか?『企業と地域でつくる関係人口』刊行記念トークセッション
- PANELIST
-
- 高橋 博之さん(株式会社雨風太陽 代表取締役社長)
- 田中 輝美さん(島根県立大学 准教授)
- 伊藤 将人さん(国際大学GLOCOM主任研究員・講師)
- 霜鳥 正隆(NTT東日本 地域循環型ミライ研究所 所長)
この度、NTT東日本 地域循環型ミライ研究所(以下、ミライ研)は、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(国際大学GLOCOM)主任研究員・講師の伊藤 将人さんと共に、企業と地域が協働しながら関係人口を育むことの可能性や課題を描いた『企業と地域でつくる関係人口――事例から学ぶ地域共創プロジェクト』を刊行しました。それを記念し、地域共創・関係人口創出の第一線で活動する株式会社雨風太陽 代表取締役社長の高橋 博之さんと島根県立大学 准教授の田中 輝美さんをゲストにお迎えして、トークセッションを開催。途中、参加者たちの質問も交えながら、地域との関わり方の変遷や、企業だからこその悩み、関係人口のこれからなどを多彩な観点から熱く語り合いました。
はじめに
- 霜鳥
-
皆さま、こんばんは。まずは、ミライ研について紹介させていただきますが、その前にNTT東日本のパーパスについてお話させていただければと思います。NTT東日本は2023年に「地域循環型社会の共創」をパーパスとして掲げました。こちらは我々の通信ビジネス自体、人々の生活があって初めて成り立つものであるからこそ、地域の皆さんと循環型社会を共創していくことが我々の存在意義である、ということで定められたものです。ただ、「地域循環型社会の共創」と言っても、すぐに具体的なイメージは湧きません。そこで、実際にパーパスの解像度を高めるために設置されたのが、このミライ研になります。主な研究テーマは文化、食、自然といった地域の暮らし、心に深く根付く社会的価値の保存、活用ですが、それらがしっかりと守られていくために、経済的価値との両立と、それらの価値の循環も重要視しています。そして今回、このような様々な研究やプロジェクトを初めて書籍という形でまとめさせていただいたのが本書となります。
- 霜鳥
-
こちらには「都市に拠点を置く多くの企業は、豊かな地域資源の恩恵を享受するだけでいいのか」「我々は企業としてはどうあるべきなのか」といったことについて悩み、考えながら行ってきた実践のプロセスを多数掲載しています。改めて本日は「我々企業が本当に地域の力になれるのか」「地域へ関わる際に求められる熱量とは」「関係人口の議論はこれからどこに向かうのか」といった、まだ答えの無い問いについて、ぜひ皆さんと議論し、模索することができれば幸いです。
関係人口は個人の活動から企業の取り組みへ
- 伊藤
- 霜鳥さん、ありがとうございます。それでは早速ゲストのお二人から、今回の書籍についての感想や、コメントなどをいただけますか。
- 高橋
- 改めまして、株式会社雨風太陽代表の高橋と申します。書籍の内容でいうと、日本航空(以下、JAL)の社員である上入佐くんが、コロナ禍で自宅に閉じこもっている大学生をJALの飛行機に乗せて、地域の生産者のところにつれていく「青空留学」という取り組みが紹介されていましたが、元々ですね、彼は全然地域に関心がなかったんですよ。ただ、たまたま僕が東日本大震災から10年後の2021年に、節目の年ということで岩手と宮城、福島の生産者たちをひとりで巡っていたら、彼とその友人がその活動を面白がって、「一緒に歩きたい」と福島に来てくれたんですね。その時に彼らは、農家や漁師の力強い生き方に圧倒されて「地域ってめちゃくちゃ面白いんだ」って気づいちゃって。そこからずっと地域と関わり続けて、特に上入佐くんは元々整備部だったところ、地域関連の事業部へ異動して、そのまま社内で「青空留学」を立ち上げてしまったんですよ。そうした中で、JALの中期経営計画の中にも「関係人口」というワードが入ってきて、今、全社的に様々な事業が展開されているんです。これを見たときに、結局、企業と地域の関わりも、最初は個人の強い意志から始まっていることが多いな、と改めて思いました。また、「ふるさと住民登録制度※1」がもうすぐ始まりますが、受け入れる地域の方は少しずつ盛り上がっている一方で、送り込む企業側の議論はほとんど聞こえてきていないのが現状です。そうした中で、個人での地域活動を推進する「地域エバンジェリスト※2」という仕組みを持つNTT東日本さんの果たす役割は、非常に大きいんじゃないかと感じています。
- 伊藤
- ありがとうございます。では、続いて田中さん、よろしくお願いします。
- 田中
- 皆さま、改めましてこんばんは。島根県立大学准教授の田中 輝美です。私は島根県で生まれて育って、新聞記者からフリーのジャーナリストになり、今は大学で人材育成をしています。今日は地方の立場や、次世代を見ている立場からお話できたらなと思います。まず、この本について、出版本当にお疲れ様でした。私自身も『関係人口の時代』という本を昨年出したのですが、「企業と地域はどう関わったらいいのか」というお問い合わせをたくさんいただくんですね。今日のテーマにあるように、これまでは地域と個人の関わりが前面に出てきていた中で、次のフェーズは企業がどう地域と関わっていくのか、というところなんだろうな、と思っています。ただ、地域側から見たときに、関係人口を受け入れる関係案内所が地域に必要と言われているのですが、送り出す側の関係案内所も必要なんじゃないかと思っています。この本を読んで、企業がその役割を担える可能性があるのではないか、と改めて強く感じました。
- 伊藤
- 以上のように、お二人からコメントをいただきましたが、霜鳥さん、いかがでしょうか。
- 霜鳥
- そうですね、田中さんが仰っていた企業と個人それぞれの地域との関係性については非常に共感しました。個人の話で言えば、僕は元々地域に大きな関心があって。妻の実家はリンゴ農家なのですが、その原風景もずっと守っていきたいと思っていました。そうした中で、コロナ禍になり、時間が生まれたので、東北のビジネススクールにリモートで通い始めたんです。さらにはそこで出会った方々と、地方と首都圏をかき混ぜるようなコンソーシアム団体に入って様々な活動をしてきました。その中で「地域の中で、どういうことができるのか」ということをずっと考えてきた結果、埼玉南支店長として地域づくりに取り組んだ際や、今回ミライ研の所長という立場になった時に、とても大きな力になったんですよね。ただ、それはあくまで私個人の話なので、それを企業の力、さらには社会のシステムに変えていくためにはどういう風にしていくべきなんだろうか、というところをこの時間に皆さんとお話していきたいです。
※1 ふるさと住民登録制度:実際に住まわずとも、スマートフォンアプリなどを通じて応援したい自治体に「住民」として任意で登録できる仕組み。地域活性化や将来的な移住を促す新しい制度として、2026年度中の本格運用に向けて準備が進められている
※2 地域エバンジェリスト:業務外でも自身の興味・関心に基づき、特定の地域に継続的かつ身体的に関与し、企業と地域社会を結びつける社員を、地域の「エバンジェリスト(=伝道師)」として認定するNTT東日本独自の社内制度
地域との関わり方はもっと柔軟でいい
- 伊藤
- 早速、参加者の方から質問が来ていますので、ご紹介させてください。「地域側としては、企業との取り組みにおいて、時に金の切れ目が縁の切れ目となってしまうことが過去少なからずありました。入口として、企業が費用負担する研修等であるのは裾野を広げていく上で必要だと思うのですが、そこからいかに社員自ら時間とお金を投じて地域との関わりをつくっていくところまで移行させるのでしょうか。」
- 伊藤
- この辺り、高橋さんからお聞きしてもいいですか。
- 高橋
- この10年、「企業と地域の共創」というのは多く叫ばれてきましたが「やっぱり儲かんないね」と言って撤退してしまうのを僕も各所で散見してきました。その理由としては、地域への入り方が「限られたパイを取り合うビジネス視点」だからだと思うんです。よく仲間とも話すんですが、「共創」の前に「共生」があるべきだよね、と。自分たちの経済活動や、都会の消費社会を支えているのは地域の方々なんだ、と気づいた時に「この人たちと共に生きる」って覚悟を持つと、簡単に辞めないじゃないですか。
- 伊藤
- それは重要な部分ですよね。過去のイベントでも「共創の前にまずは人間関係を構築せよ」ということを仰っていた方がいました。ちなみに、雨風太陽さんでは社員が地域に出ていくことを積極的に後押しされていると思うのですが、その辺りは社内でどう位置付けられているのでしょうか。
- 高橋
- 都市で生まれ育った社員からすると「地域に関わりに行こう」と言ってもなかなか重い腰が上がらないんですよね。それで本人に詳しく聞いてみたら「自分がそこに行って、どう貢献できるのかさっぱり見当がつかない」と。とはいえ、興味はあるらしいので、「一人ひとり僕に相談してほしい」と言いました。そして、僕が彼らの興味関心に合った地域の知り合いのところに送り込む、ということを社内制度として始めたんです。まさに「送り込む側の案内所」ですよね。
- 田中
- 高橋さんは企業側だったので、地域側からのお話をさせていただくと「地域と何かやりたい」と言ってくださる方はたくさんおられるんですが、私たちにとって地域というのは、「人生そのもの」であり、「暮らしのそのもの」なんですよね。ですが、パートナーとして組んだ時に、正直に申し上げて、相手から見た時に私たちが稼ぐための「手段」なんだな、と感じる瞬間がたまにあります。手段化されるのではなく、同じ目的に向かう対等なパートナーでいられるといいなと思っています。そのうえで、「継続」の定義をもう1回丁寧に考え直した方がいいと思っているんです。例えば「一生関わり続ける」ことを求めると、最終的にどうしても「やっぱり続かなかったね」になりやすいのではないかと。プロジェクトのように、ある目的が達成されたら、関係はそれで区切りをつけていいと思うんですよ。もちろん人生をかけて付き合うのもいいし、そうでなくても、1つ目の目標が達成されたら、次の課題や仲間が変わってもいい。関係人口は、一時期でも同じチームとして良い地域や、良いものを作るための「助っ人外国人みたいなものだ」という話を周りとしていますね。
- 霜鳥
- よく田中さんの本の中でも、地元の人からの「お前はここに骨を埋める気があるのか」というセリフが登場しますが、そうなると、人間、自然と心のシャッターは閉じちゃいますよね。なので、プロジェクト型としての関わり方は、社員たちの心理的安全性にもつながるとても良い関わり方だと感じます。また、助っ人外国人の話ですが、例えば日本のサッカー選手が欧州に行くのは、お金以上の価値を感じているからだと思うんですよね。確かに地域に社員を送り出すということは、企業にとってどういう効果が生まれて、それが人的資本経営としてどうつながるのかというところを意識するのは大事だと思うのですが、それは本質じゃないな、と。やっぱり地域に行く社員からすると理屈じゃなく、心なんですよね。地域でどういった人と出会って、心を動かされ、そこに関わるようになるのか。こういった個人の経験や、モチベーションが土台にあるので、企業で取り組む上では、そこが難しいところですね。
- 高橋
- モチベーションは人に教えられないですからね。さらに言えば、例えば、都会の企業人として鎧を着て生きていた人が、地域に行ってその鎧を脱いだ時に、自分の本当にやりたいことに向き合ったとするじゃないですか。そうなった時に企業でやっていることとは別のモチベーションが生まれてしまうと辛くなるんですよね。そうなると、企業を説得するための政治力や実績が必要だろうし、なんとか形になるまで踏ん張ることも大事になってくる。じゃあ、この踏ん張るのをどこで学ぶかというと、やっぱり地域なんですよ。僕は企業よりも地域のコミュニケーションの方が難易度高いと思うんです。前者は同じような価値観の人が集まっているので、割とコミュニケーションは簡単ですが、後者は偶然そこに生まれた人の集まりなので、その中で合意形成して、プロジェクトを進めていくことって、実はものすごいコミュニケーション能力が問われるんですよ。地域エバンジェリストの方々の中に「地域ではコミュニケーションスキルを学びました」と答えている人が結構いたのは、そういった理由だと思いますね。
都会を離れて本当に成長できるのか
- 田中
- 私、霜鳥さんに率直に聞いてみたくて。先ほど高橋さんも言われたように、私も、地域というのは学びに溢れていて、送り込まれた人は、企業とは違う成長の場になっていると思うのですが、本当にそうなっているのか。それとも時と場合によることがあるのか、その辺りいかがですか。
- 霜鳥
- そうですね、率直に言うと、まだなかなか明らかになってない部分ですね。「地域での越境研修は良い」というのは、なんとなく言われているところですが、具体的にどういうところが良いのか、という部分はさらに研究をしていかなくてはならないところです。ただ、僕自身で思い返してみると、スキルの獲得は目的ではなくて、結果なんです。その地域が好きだから、あの人に会いたいから行く。そしたら結果的に成長していました、という感じで。
- 田中
- スキル獲得が当初の目的でなくとも、結果的に本人や地域が共に育ち合っているという状態は、まさに現代の学びの形の一つだと思いますよ。
- 霜鳥
- 確かにそう言われると、そうかもしれません。さらに「教育」という広いテーマで言えば、生成AIがこれだけ台頭してくると、人の育て方というのもしっかりと考えなくてはいけないなと感じています。インテリジェンスとしての知識をまとめるのはAIに任せられますが、あれは結局二次情報の塊ですから。一次情報が溢れている地域に入ることによって、それらに直接触れ、考えていく。そういったことが教育の場でこれから非常に大切になってくるんではないでしょうか。
- 田中
- AI時代になればなるほど、身体性の価値は上がってきますよね。
- 高橋
- 本当に。結局これまで新幹線や飛行機など、人間は時間を作るために高速で移動できる手段を発達させてきたのに、むしろ忙しくなっていますよね。AIも一緒で。時間が生まれるかと思いきや、さらに忙しくなる道が待っていると思います。そうなると人間の機械化に歯止めがかからなくなった末に、合理性が際限なく追求される社会の中でメンタルを壊してしまう人が増えていくんじゃないですかね。一方で、企業の話で言えば、最近AIの台頭で新卒を採らなくなっている、と様々なところで聞きます。本当は若い人を入れて組織を新しくしていきたいのに、そう簡単にはいかない。そうした時に僕は人事の方たちと、ポジティブな意味で40代、50代の背中を押して、地域に関わることで第2の人生に進んでもらうのはどうか、といった話をしているんですよ。都会の組織の中では力を発揮しきれなかった方々でも、地域へ行くと、自分だけの役割、生きがいみたいなものが見つかりやすいと思うんですよね。
移動「する/しない」選択ができることの大切さ
- 伊藤
- 「関係人口は結局限られた人の話じゃないのか?」というコメントも来ています。「結局のところ、金銭的、時間的余裕のある人や企業しか対象になっていないような印象もあります。実際のところ、どうなのでしょうか」「子育てや介護で、プライベートで地域に行きにくいという方もいると思います。そんな方が地域に行きやすくなるために企業経由で地域と関わる機会を作ることは、良い意味の強制力として働くのではないかと感じました」
- 伊藤
- こちらに対しては、まずは霜鳥さん、いかがでしょう。
- 霜鳥
- 「地域に入りたいが家庭との関係性に悩む」というところは、私も非常に共感するところがありまして。人によって人生のフェーズって全然違うんですよね。やっぱりそれぞれのフェーズにおいて、関われる時と関われない時があるというところを許容されることが必要だと思っています。地域エバンジェリストについても同じで「全員がそうなれ」ということじゃありません。地域と関わらないという選択をするのも、多様性の一つなので、そういった色んなやり方ができる体制をまずは作っていかないといけないと感じます。
- 高橋
- 僕も社員には同じように言っています。子どもが生まれたばかりの夫婦は地域に関われる余裕なんて全くないし、病気と闘っている時だってそれは同じ。それぞれのライフステージに応じて柔軟に変えていく、ということだと思うんです。また、「結局のところ、金銭的、時間的余裕のある人や企業しか対象になっていないのでは」といった質問がありましたが、僕はこれまで観光、ビジネスが中心だった移動の目的に「生活のため」という新しい選択肢が出てくると思っていて。「いつ誰とどこで働くんだっけ」「いつ誰とどこで子育てするんだっけ」「いつ誰とどこで余暇の時間を過ごすんだっけ」ということを一人ひとりがオーダーメイドでデザインできる、いわば流動とシェアの時代ですよね。確かに今までは、一部のお金持ちが田舎に別荘を持つという形でこれに近いことをやってきましたが、これからはそういった生き方を望む人の希望を叶えられる社会をどう作っていくかだと思っています。
- 伊藤
- 私は普段「現代社会において移動とは何か」といった研究をしているので、それについてお話させていただくと、まず一つ目に「移動は目的なのか、手段なのか」という議論があります。基本的にこれまでの考え方の多くは、移動=手段が中心だったのですが、例えば、鉄道に乗って移動していること、目的地が無かったとしてもそれ自体に何か多幸感があったりとか、満たされる感覚もあったりするわけで。そんなことを考えた時に、「移動する/しない」みたいなことは、目的や手段の話でもあるのと同時に、存在論的な話でもあるな、と気づいたんですね。存在レベルで、移動そのものが私たちの生活と強く結びつく社会に確実になってきているなと感じます。もう一つは、選択肢の話です。選択肢があるというのは非常に重要で。裏を返せば、移動をしたい時にできるっていうことと、移動したくない時に移動しないっていうのは、どちらも同じだけ価値があることなんです。そう考えた時に「私はこの地域が好きでここにとどまり続けたい」「この地域で私が集落の最後のひとりとなってしっかり閉じたい」といった人に対しても、移動する人のことを考えるのと同じぐらいのレベル感で考えていかなきゃいけないんじゃないのかな、と思います。
- 高橋
- 多様性は、人間の幸せを考える上でとても大事だと思うんですよね。今、人口減少の話って暗い話になりがちじゃないですか。確かにみんなが同じ方向を向いていた右肩上がりの時代に手に入れたものはたくさんあるけれども、一方その過程で手放したもの、こぼしたものもたくさんあって。こういった右肩下がりの局面はそれを取り戻すチャンスだと思っていますね。
- 田中
- 「関係人口」というのは、絶対それがいいということではなくて、そういう選択肢もあるよ、という提案なんですよね。学生に対しても「地域に出て『人生の単語数』を増やそう」ということをよく言っています。
- 霜鳥
- 「人生の単語数」というのは、とても素敵な表現ですね。その上で、僕はその単語数っていうのをハッシュタグみたいなもので考えた時に、それらをどこかでまとめる社会的な案内所みたいなものがあれば、より良いなと感じました。例えば、ある自治体での活動を途中でやめてしまったけれど、別の自治体の方で同じような活動を再開できたり、ある自治体で草刈りをスキルとして覚えたら、他の自治体でもすぐに草刈りのプロとして活動できたり、といった感じです。そういう仕組みができると世の中全体で流動とシェアの流れがますます進むんじゃないでしょうか。
人口減少時代だからこそ「よそ者」と新しい歴史をつくる
- 伊藤
- 最後に紹介させていただくのは、今回のテーマの一つである「よそ者」に関するこんなコメントです。「『よそ者』はいつまで『よそ者』なのか。地元の人が幼少の頃から共有している歴史には、『よそ者』はどこか気後れしてしまいます。かといって、自分の地元にその人がフランクに入ってこられると抵抗感があったりします。よその人と新たな歴史を紡ぐことにオープンになりたいです」
- 伊藤
- こちらについて、田中さん、高橋さんいかがでしょうか。
- 田中
- もう地域は人口が減っていくのが当たり前で、これからはそれに合わせて社会を作っていくことになるのですが、その時に「よそ者」というファクターはとても重要で、共に新しい歴史を作っていけるかどうかが地域のこれからを左右すると思っています。さらには人口減少時代だからこそ、自分たちの地域らしさを共に学びながら大切にしていくことができるのではないかと感じています。
- 高橋
- 今、「東京の人」のような感じで歩いていても、実は3世代、4世代前に遡ると、多くの人は地方出身者なので、そういった歴史的視座に立つと、「よそ者」じゃないでしょうって僕は思うんですね。大事なのは、地域経営、地域づくりをする時に、もはや地元住民だけではできない状態になっているので、多様な担い手を作ること。都会の企業、大学生、移住者や観光客、そして関係人口もここに入ってきます。もはや「よそ者か、よそ者じゃないか」そういう区分から一歩前に出て、多様な人が新しい視座を持ち込める状態でいることが、これからの地域に求められているんじゃないですかね。
- 伊藤
- 私もこちらに関連して、2つほど共有したい話があります。1つ目はここ最近ずっと、韓国や台湾の移住、関係人口の研究をしているのですが、ある韓国の自治体が日本の地域おこし協力隊制度を参考にして2010年代から似たような制度をやっていて、それが今、韓国国内で波及してきているんです。東アジアの国々は一極集中や人口減少など、日本と似たような課題を抱えていますが、そういった時に隣国の取り組みはとても参考になるんだなと気づかされました。もう1つは、国際大学GLOCOMのメインキャンパスがある新潟県の南魚沼市ですが、学生が今、64か国から来ているんですね。それぞれ卒業後、世界中に散らばっていくのですが、そう考えると、彼ら自体、実は国境を超えた関係人口なんじゃないかと思う時があります。今の日本の移住や関係人口の話は、この外国から来た人の視点が全く抜け落ちている、もしくは、そういう人たちを前提としないような形で制度が作られたり議論が進んでいたりするんですね。それは多様性の時代、移動の時代にすごくもったいないなと感じています。
- 伊藤
- ここで、あっという間に閉会のお時間となってしまいました。それでは皆さん、締めの言葉を一言ずつお願いできますか。
- 高橋
- これからの経済情勢を踏まえると、僕は人が頻繁に移動してあちこちに泊まり、乗り物に乗り、飲み食いすることで、内需を最大限に喚起するものが「ふるさと住民登録制度」だと思っています。これは国が制度を作ったからといって、自動的に登録が増えるわけではなく、それぞれの自治体や企業、そして一人ひとりがその制度の中で「どのように都市部の人々と関係性を作っていくのか」ということを模索していく必要があるんですよね。なので、一部の人が育てるのではなく、みんなで大切に育てて、10年後にはこの制度が花開いているといいな、と思います。
- 田中
- 私からは、地方の立場から「Let’s草刈り」という話をしたいと思います。今、草刈りで困っていない地域はほぼありません。もちろん企業なので「自分たちのスキルを活かして地域に貢献したい」という気持ちも理解できますが、敢えて言わせていただくと、現地で一番喜ばれるのは、まず草刈りではないかと。ただし、いきなり行くんじゃなくて、家族が草刈りで困っている社員などを探して、そこから「じゃあ手伝い行きましょうか」と徐々に関係性をつくっていくのが大切だと思います。さらに言えば、草刈りはPC作業とは違って、直接自分の手を動かして頑張った分、綺麗になり、目の前の人に感謝される。こんなこと普通に企業勤めをしていたら、なかなか無いという話を何度も聞きました。なので、参加した社員たちの満足度は毎回非常に高く、リピーターも多くいらっしゃいます。皆さんにもぜひ「Let’s草刈り」をおすすめしたいです。
- 霜鳥
- 私は以前から地域エバンジェリストのような形でずっと地域と関わってきていて、その時から高橋さんと田中さんを存じ上げておりました。そのため、今日の会は、まるで草野球をやっていた少年が、プロと一緒に並んでいるようで非常に光栄で、楽しい時間でした。僕自身、地域エバンジェリストは人が夢を諦めないで済む制度だと思っていて。これから個人の力で物事を変えていく世の中にしなくてはならない、ということを考えると、この制度自体が関係人口を考えていく上で、大切なキーワードになっていければいいなと考えています。
- 伊藤
- 皆さん、本日はお付き合いいただき、ありがとうございました。
登壇者プロフィール
-
高橋 博之
Hiroyuki Takahashi起業家、雨風太陽代表取締役。1974年、岩手県生まれ。2013年に毎月ひとりの生産者にスポットライトをあてて、食材も付録でついてくる情報誌『東北食べる通信』を創刊し、編集長に就任。2016年、農家や漁師から直接食材が購入できるスマホアプリ「ポケットマルシェ」をスタート。地域と多様なかたちで関わる人々のことを表す「関係人口」という言葉の考案者としても知られる。
-
田中 輝美
Terumi Tanaka島根県浜田市出身・在住。大阪大学文学部卒業後、山陰中央新報社に入社し、報道記者として、政治、医療、教育、地域づくりなど幅広い分野を担当した。2018年総務省ふるさとづくり大賞奨励賞。大阪大学大学院人間科学研究科で関係人口を研究して博士(人間科学)を取得し、2021年島根県立大学地域政策学部に着任。著書に、『関係人口の時代』中央公論新社、『関係人口の社会学』大阪大学出版会、『関係人口をつくる』木楽舎など。
-
伊藤 将人
Masato Ito社会学者(博士)。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員・講師。長野県出身。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程、日本学術振興会特別研究員を経て現職。地方移住や関係人口、観光など地域を超える人の移動に関する研究や活動、政策立案に携わる。主著に『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』(2024、学芸出版社)、『移動と階級』(2025、講談社)、『戦後日本の地方移住政策史』(2025、春風社)など。
-
霜鳥 正隆
Masataka ShimotoriNTT東日本 地域循環型ミライ研究所 所長。環境省認定制度脱炭素アドバイザー、まちづくりソーシャルデザイナー・プロフェッショナル上級。入社後、営業現場を経て、経営企画、マーケティング、人材開発などを歴任。2023年から再生可能エネルギーの開発・供給を担うNTTアノードエナジーに従事し、地域脱炭素の事業化に取り組む。NTT東日本埼玉南支店長として自治体・企業・大学等による脱炭素コンソーシアムの組成を推進。地域共創を通じた持続可能なまちづくりに関心を持つ。
CONTACT
研究所の活動についてのお問い合わせ、
協働・連携のご相談は、こちらからお願いします。