研究員座談会

持続化に向けた共創の仕組みづくり

PANELIST
NTT東日本地域循環型ミライ研究所
  • チーフエバンジェリスト:阿部 寛之
  • チーフエバンジェリスト:高山 麻由美
  • エバンジェリスト:谷口 翔太郎
FACILITATOR
武蔵大学社会学部 メディア社会学科 教授/武蔵学園データサイエンス研究所 副所長
  • 庄司 昌彦氏

NTT東日本 地域循環型ミライ研究所の活動も2026年で4年目に入りました。これまで地域の各地で行ってきた試行的な単体の実証活動を、自律的かつ有機的な活動に発展させていくための動きも始まっています。今回は、武蔵大学社会学部 メディア社会学科 教授/武蔵学園データサイエンス研究所 副所長の庄司 昌彦氏をファシリテーターにお迎えして、同研究所の阿部 寛之、高山 麻由美、谷口 翔太郎がデジタル活用や仲間づくり、社内制度整理などの活動において考える“地域共創”の取り組みの面的なひろがりをテーマに座談会を開催しました。


地域共創の取り組みを点から面に

庄司
本日は皆さんの現在の取り組みを伺いながら、「いかにその活動を面的に広げるか」、「持続性を持たせるには」といった観点で議論したいと思っています。まずは皆さんの現在の取り組みを教えてください。
阿部
私は今、デジタル技術を使って、消えかかっている「街の記憶」の記録や、「地域の魅力」の可視化に取り組んでいます。デジタルの力で地域固有の風土を可視化することで、住民のシビックプライドや地域愛を醸成するのがねらいです。具体的な取り組みとしては、北海道や新潟で第二次世界大戦時の遺構のVR化や地域の特徴的な音を集めたサウンドマップ作りに取り組んでいます。
谷口
私はミライ研全体のプロジェクトを俯瞰し、施策を検討する役割を担っています。常に考えているのは、私たちが関わらなくなっても活動が持続できる仕組みをつくれないか、という点です。持続性を保つためには、私たちだけでなく仲間づくりが重要だと考えています。そのため、他の企業や地場企業、大学などの教育機関とも連携できる場として、「Palette」というイベントを運営しています。
高山
私はミライ研で情報発信を担当しています。現在、最も力を入れているのは、約3万人いるNTT東日本グループ社員の中で、地域活動に積極的に取り組む方々の活動を社内外に発信することです。
弊社には、業務外で、伝統文化の継承、スポーツ振興、自然保護、高齢者・障がい者支援など、幅広い分野で活躍する社員がいます。こうした社員を「地域エバンジェリスト(以下、地域エバ)」と認定して、その活動を発信・応援することで、社員全体の地域活動への自主的な参画意欲を高めることを目的としています。

点を面にしていく

庄司
それぞれ、取り組みは様々ですね。
それでは、「いかにその活動を面的に広げるか」、つまりは”点”を”面”にしていくことが求められていると思うのですが、皆さんの活動の中で、そういったことをどう意識されていますか?
阿部
今はまだ事例づくりの段階なのですよね。でも、単につくっておしまい、にならずに、住民の皆さんにとって財産になるようなデジタルコンテンツに仕上げたいと思っています。まずは事例を積み重ねることで、地域とデジタルの新しい関係性を世に示していきたいなと考えています。
谷口
「Palette」に関しては、参加企業同士の新しいプロジェクトの芽吹きもあり、少しずつ理想の形に近づいてきています。もう一つ、南魚沼では学生の地域参加を促進する活動を展開しています。
PoliPoliGovという仕組みを活用して若者の声をライトに集めながら、地域を盛り上げていく試みです。すぐに移住や定住には至らないまでも、関係人口としての裾野は広がっているのではないかと感じています。
高山
地域エバへのインタビューを通じて、地域活動をしていることで会社に引け目を感じている社員もいることが分かりました。改めて「会社が応援している」と明示的に伝えるだけでも、地域エバ社員のやる気が高まり、取り巻く職場・同僚も応援したいという気持ちが醸成されると感じています。制度として体制を整えることが気運の醸成につながり、活動を面として広げていくことにつながっていると感じています。
庄司
またまたそれぞれ異なる視点で面白いですね。取り組みを持続させる、という観点での課題感もそれぞれお話ください。
阿部
デジタル化という行為が、その地域の文化をアーカイブとして後世に残すことにつながるので、文化の継承という観点では大きな意義があると考えています。ただし、取り組みとしては地味な活動ですし、現在はわれわれが主導して、ある意味おせっかい的に展開している状況です。また、アーカイブ化した資料の活用方法についても、まだ整理できていません。地域学習などに接続させていく構想はあるものの、具体化には至っていないのが現状です。
庄司
なるほど。でも、地域の中ではなかなか生まれにくい、調達もしづらい技術を外からスッと入れることで、NTT東日本さんがインパクトを与えている感じですよね。しかも、一時的な広がりじゃなくて、時間軸の長さ――次世代につなぐという“縦の視点”を重視しているところが面白いと思います。谷口さんはいかがですか?
谷口
私は、縦というより横の広がりを意識しています。PoliPoliGovを通じて、若者と地域の接点をつくり、そのきっかけから地域を好きになってもらう。そんな流れを横展開していきたいと思っています。ただ人を巻き込むだけではなく、その活動が本当に地域住民のものになっているのか、そして住民の皆さんに良い影響を与えられているのかということを、常に考えています。
庄司
なるほど。地域のみなさんと関わっていくときに、心掛けていることはありますか?
谷口
とにかく「話を聴く」ということですね。あまりかしこまった感じではなく、立ち話のように自然な雰囲気で伺うことを心掛けています。
エバンジェリスト 谷口 翔太郎
庄司
インタビューというよりは、飲み会みたいな感じでしょうか?
谷口
そうですね。ものによってですが。一緒にキャンプファイヤーしたりもしました。
庄司
阿部さんはいかがですか?
阿部
実は、ワークショップという形での交流はあるのですが、十分な対話はできていないと感じています。地域との窓口は博物館の学芸員の方が担ってくれていて、その方は協力的なのですが、そこから地域に浸透するには時間が掛かりそうだなと…。テーマも専門的なので、広く浅くというよりは特定の人の偏愛をくすぐるような「関わりしろ」を増やせればと思って取り組んでいます。
チーフエバンジェリスト 阿部 寛之
庄司
なるほど。どちらかというと専門性の高いところに深く刺さって、そこで根を張って、それを長く続ける――そんな感じですよね。一方、谷口さんは、いろんなところに深く、広く入っていくタイプ。
広く種をまいて、そして「これは長期的に芽が出ます」というイメージなのかなと思います。高山さんは、地域エバの活動を通じて感じるところはありますか?
武蔵大学社会学部 メディア社会学科 教授/武蔵学園データサイエンス研究所 副所長 庄司 昌彦氏
高山
そうですね。私自身、地域エバの素晴らしい活動を、社内で「興味はあるけどまだ参加できていない」という社員にもぜひ知ってほしいと思っています。社内外に発信することで、“共感の輪”が広がったらいいな、という気持ちで情報発信しています。
昔ながらのボランティアベースのCSR活動って、社員の価値観が多様化してきたこともあって、運営が難しくなってきていると思うんですよね。企業としては、事業性のある領域で社会貢献活動を進める方向にシフトしている。それ自体はうまくいくんですが、じゃあ事業性がないエリアではどう活動したらいいのか、という課題が残るわけです。
そこで、社員の自主性や興味、関心、楽しみといったものから始まる地域貢献活動を、会社が公的に応援することで、事業性のないエリアでの活動もサポートできないかと考えています。目的意識が曖昧なまま、共感が薄く、社員のモチベーションが上がらない状態で活動をすることも避けられますし。
今は単なる応援にとどまらず、地域エバの方々のウェルビーイングやエンゲージメントを、調査・研究の面から深掘りする取り組みも始めています。
チーフエバンジェリスト 高山 麻由美
庄司
おっしゃる通りで、CSV(Creating Shared Value)として価値を業務につなげていけたら良いと思いますし、地域エバの方々の満足度というものが、重要な指標になるかもしれませんね。地域エバの方々がたくさんいる企業なら、引き出しが多く、アイデアが溜まったプールから事業性のあるものもどんどん生まれてきそうです。
今日3人の話を伺って、それぞれ考え方や捉え方が異なっているところが面白いと感じますし、視点の異なる人たちが集まっている時点で、それはもう“面”になりつつあるんじゃないかと強く感じました。ミライ研の取り組みは、まだ始まって間もないですが、企業内の仕組みとしては手応えが見えてきている気がします。いろいろな取り組みを積み重ねて、その中から複数のモデルが生まれると、この取り組みもさらに加速するんじゃないでしょうか。ぜひ今後も試行錯誤を一緒に続けていきましょう。
本日はどうもありがとうございました。

メンバー紹介

  • 阿部 寛之

    Hiroyuki Abeチーフエバンジェリスト

    宮城県仙台市出身、長野県長野市在住。
    教育移住の実践者、また地方在住者としての視点から、都市と地方の新たな関係性や、デジタルと地域文化の掛け合わせによる価値創出の可能性、さらに自然を活用した新しい教育モデルの構築をテーマに、調査・研究を展開中。

  • 高山 麻由美

    Mayumi Takayamaチーフエバンジェリスト

    2024年7月から現職。ミライ研では主に、調査研究活動に励むメンバーや地域活動に情熱を注ぐ社員のみなさんの、情報発信のお手伝いをしています。

  • 谷口 翔太郎

    Shotaro Taniguchiエバンジェリスト

    2015年NTT東日本に入社。企業法務・知財を中心に、消費者庁や株式会社PoliPoliへの出向を経験。現在は、主にミライ研活動の全体方針立案などを行うとともに、地域循環型社会の実現に向けた社会の在り方(必要な仕組み、制度や法令等)について研究。Paletteの企画運営のほか、地域×テックや地域×音を切り口にした調査研究、官民共創・政策提言など。2015年NTT東日本に入社。企業法務・知財を中心に、消費者庁や株式会社PoliPoliへの出向を経験。現在は、主にミライ研活動の全体方針立案などを行うとともに、地域循環型社会の実現に向けた社会の在り方(必要な仕組み、制度や法令等)について研究。Paletteの企画運営のほか、地域×テックや地域×音を切り口にした調査研究、官民共創・政策提言など。

  • 庄司 昌彦

    Masahiko Shoji武蔵大学 社会学部メディア社会学科教授 / 武蔵学園 データサイエンス研究所副所長

    専門は情報社会学・情報通信政策で、特にデジタルガバメント、地域情報化など。デジタル庁オープンデータ伝道師、総務省地域情報化アドバイザー、社会情報学会副会長なども務める。

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