地域の魅力を「音」から探る?その道のプロたちが語る佐渡金山レコーディングの舞台裏
- INTERVIEWEE
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- 映像カメラマン:鶏冠井 健人さん
- 音響エンジニア:中村 隼さん
- 太鼓芸能集団「鼓童」:前田 順康さん
- 太鼓芸能集団「鼓童」:住吉 佑太さん
- ミライ研 客員研究員:柳沢 英輔さん
地域循環型ミライ研究所(以下、ミライ研)では、地域の「音」に着目し、その場所の魅力を再発見する「フィールドレコーディング」を新潟・佐渡を舞台に継続的に行っています。その中のひとつ、佐渡金山でのレコーディングに参加した佐渡在住で映像カメラマンの鶏冠井(かいでん) 健人さん、音響エンジニアの中村 隼さん、同じく佐渡を拠点に世界で活躍する太鼓芸能集団「鼓童」の前田 順康さん、住吉 佑太さん、そしてミライ研の客員研究員・柳沢 英輔さんにそれぞれプロジェクトに関わった背景や、その場所の「音」というものへの想い、このプロジェクトを通じた今後の展望を伺いました。
映像と音の共通性に気付かされた神秘的な体験(鶏冠井さん)
――まずは、このプロジェクトに参加したきっかけを教えていただけますか。映像の中でパフォーマンスをされている太鼓芸能集団「鼓童」さんに「プロモーションビデオを撮影してほしい」とお声掛けをいただいたことがきっかけです。「鼓童」さんには、普段からお仕事でよくお世話になっているので、こちらも「ぜひお願いします」という感じでした。
――実際にフィールドレコーディングを撮影してみて、いかがでしたか。今回「フィールドレコーディング」というものに初めて触れたのですが、勝手ながら自分が普段行っている映像制作と共通するものを感じました。僕の場合、撮影対象にカメラのレンズを向けることで、レンズを通した化学反応が起きて、ありのままのものとは少し違うものが見る人に伝わるのではないか、と思っていて。「レコーディング」という行為にもそういった要素があるのかな、と思いました。そのため、「鼓童」さんたちのパフォーマンスが「レコーディング」という形になったときに、どのような仕上がりになるのかワクワクしながら撮影に臨ませていただきました。
――「音」だけ、という表現方法にどういった印象がありましたか。率直にとても新鮮でしたし、少し神秘的にも感じました。映像は基本的に目に見える対象を記録する性質がありますが、レコーディングの場合、目に見えない「音」というものを扱うので、現場でそれらを自在に操っている様子がまるで「魔法」のようでした。終始、不思議な空間に迷い込みながら、カメラを回している感覚がありましたね。
――鶏冠井さんは佐渡の祭りに魅了されて移住されたと伺いましたが、実際に住んでみて感じた佐渡の魅力について教えていただけますか。やはり一番は「人」ですかね。もちろん人の温かさというのもあるのですが、伝統芸能というものを通して、日常の当たり前の人間関係の中にも、祭りの準備や実施を通じて培ったつながりや、関係性が滲み出ているんですね。それが面白い。また、祭りの日には、島内の人たちが普段の関係性を超えて一致団結するんです。そんなところに強く惹かれます。
――今後、どのような切り口で撮影したら、より佐渡の魅力が伝わると思いますか。いうまでもなく、祭りの担い手の方々は、そこで日常生活を営まれている一般の方々なんですね。例えば、郵便屋さんだったり、農家さんだったり、市役所の職員だったり。その方々の普段の生活にフォーカスして、いわば「ハレとケ」を対比させた構成にしてみると、人の多面性が表現できて魅力的に映るのかなと感じています。
――担い手一人一人の熱量や想いが伝わるような切り口ということですね。そうですね。例えば今回の金山でのレコーディングも、坑道で働いていた昔の人たちの想いに、「音」というものを通して近づける作品になると思っています。結局どこまでいっても、人の熱量や想いというものに、人は惹かれるのではないでしょうか。
佐渡のリアルな音を世界へ届けたい(中村さん)
――中村さんは長年海外でご活躍された後、数年前に佐渡へ移住されたと伺いました。そのきっかけはなんだったのでしょうか。最初はドイツで起業しようと考えていたのですが、やはり海外だとハードルが高く、日本に戻ってから起業することにしました。そこで、場所を色々と探すうちに偶然見つけたのが佐渡。「起業の島 佐渡」みたいなキャッチコピーが出てきたので、とりあえず行ってみるか、という軽い気持ちで最初は訪れました。そこから島のビジネスコンテストで入賞し、起業のための補助金が出たり、もともと親戚がいたり、というのもあって住むことを決めました。
――実際に住んでみて、どのような印象を持たれましたか。大きい街だと通勤だけで疲れてしまうのですが、ここにいると朝起きた瞬間から仕事に取り組めるので、「研究開発」という意味では、とても集中できる環境だと思います。また、疲れたらすぐに豊かな自然の中でリフレッシュできるところもいいですね。
――今回のプロジェクトで「その場にある自然の音を組み合わせながら、ひとつの作品にしていく」というコンセプトを聞いた時、最初どのように思われましたか。「このようなことに挑戦する人が、佐渡にいるのか」と驚きました。ドイツのベルリンに住んでいた頃は、フィールドレコーディングを編集して音楽にする知り合いはたくさんいたのですが、日本でその話を周りにすると怪訝な顔をされたりしていたので。そういう自分自身も、最初はフィールドレコーディングというものに懐疑的でした。ただ、ある時、映画の仕事に携わったなかで、初めて自然の中の音をとってみたんです。すると、後日録音された音を聞いた際に、録音時には聞こえてこなかった音がマイクから流れてきたんですね。この「改めて新しい音の存在に気付く」という点が、徐々に面白いなと感じるようになりました。
――中村さんが開発されているマイクは、フィールドレコーディングの現場においてどのような利点があるのでしょうか。360°の音を録音できる無指向性のマイクを、屋外でも持ち運びがしやすいように小型化しました。また、通常小さくすればするほどノイズが上がったり、周波数が変わってしまったりするのですが、ドイツのとあるメーカーのマイクカプセルを使用することで、高音質が可能になりました。繊細な膜部分には特殊な保護シートを貼ることで、湿度やほこりにも対応しています。
――実際に坑道の中で録音されていかがでしたか。実は去年、同じような環境であるイタリアのサルディニア島の洞窟で録音したのですが、その時は音がすごく反響していました。一方、今回は逆に音の響きが少ない印象で、まるでスタジオでとっている感覚でしたね。また、坑道内に水が流れていたので、空間自体の湿度も高く、そのような環境下での音はとても新鮮でした。
――最後に、ご自身の活動について今後の展望を教えていただけますか。現在も立体音響※に関する研究を続けているのですが、この手法を使って佐渡の様々な自然や街の中にある音をとることで、島のリアルな魅力を世界中に届けることができるのではないかと思っています。特に今関心があるのは、島内に多く点在するお寺の鐘。それらの音を30個くらいサンプリングしてみたいです。
※立体音響:音の出る方向、距離、拡がりを3次元の空間全体で再現し、まるでその場にいるような臨場感と没入感を生み出す音響技術 。
自然とのセッションは発見の連続(前田さん、住吉さん)
――今回、演奏の舞台に「坑道」を選んだ背景には、どういったものがあったのでしょうか。
- 前田さん
- 実は昨年の秋ごろ、柳沢さんと佐渡の土地の音をとりながら、そこに暮らしている方のお話を聞く、という活動をしたことがあったんです。その際に「無名異焼(むみょういやき)」という佐渡の焼き物の窯元である北沢窯さんにもお伺いして、お話を聞いたり、土の練る機械の音をとらせていただいたりしました。その帰り道、柳沢さんと「金山で採れた土で作られた焼き物を、坑道で演奏してみたら面白いんじゃないか」という話になって。それも、完成品ではなく、制作過程で割れてしまったりしたものを再利用しよう、と。一度割れたり、かけたりしてしまうと窯元さんの方では崩してしまうんです。そのため、このプロジェクトを通した別の使い道を模索してみたいと思いました。また、北沢窯さんでは風鈴も作られているのですが、この音がすごく良くて、僕自身、実際に叩いてみたくなってしまったんです。こうしたことが重なり、太鼓演奏と一緒に「無名異焼も坑道で演奏する」という形に至りました。
――実際に演奏されてみて、いかがでしたか。
- 住吉さん
- 自然の音が溢れる環境に身を置くことで、「自分はこの場所で、どんな音を出したくなるのかな」といった考えが徐々に浮かんできて、演奏自体が自分自身と対話しながら探究していく旅のようでしたね。また、最初の一音「バンッ」と出した時に、地形の影響で少し高音が反射したり、音の余韻が長くなったりして、普段室内で出す音とは聞こえ方が全然違いました。こうしたある意味自然とのセッションによって色々な発見がありましたし、やりがいのある演奏でした。
- 前田さん
- 僕は元々人が意図を持って出す音と、自然が出す音について、はっきりとした境目は存在せず、植物や動物同士も何かしらお互いに音での関係性を持っていると思っているんです。そして、自分自身がそうした関係性の中に「人」としての音を出して参加することが好きなんですよね。そのため、普段行かないような場所に行って複数人で演奏し、客観的にその音を聞く、という体験は自分にとって、とても充実したものでした。
――今回のプロジェクトに限らず、これまでのフィールドレコーディングを通じて、今まで住んできた佐渡への見方は何か変わりましたか。
- 住吉さん
- 島内の様々な方にお話を聞いて回ったのですが、それぞれが普段聞いている音や、お気に入りの音が一人一人違うんです。おすすめの観光地を聞くと大体共通した答えが返ってくるのに、音の場合はそうじゃない。「佐渡の中で、こういう風に音を聞いている人がいるんだ」と知ることができたのが一番良かったです。
――改めてフィールドレコーディングの魅力は、どんなところにあると感じましたか。
- 住吉さん
- マイクでとっているからこそ、一音一音立体的に聞こえてくるというか、その心地良さみたいなものはすごくあるな、と感じています。また、自分が演奏していた時の記憶はもちろんあるのですが、その時に聞いていた音とはまた全然違って聞こえてくるのも新鮮な体験でした。こうした点がフィールドレコーディングの魅力であり、醍醐味なのではないでしょうか。
- 前田さん
- フィールドレコーディングをやっていると、いかに普段自分たちが「聞く」という行為を選択的に行っているか、ということが自覚できるんです。例えば演奏中、自分は太鼓の音を追いかけるのに夢中で聞こえなかったのですが、セミが鳴いていたんですね。後日、録音された音を聞いてみると、確かに太鼓の音に紛れてセミの鳴く音も入っていました。これを知った時に、自分の耳がセミの音を「あえて」聞いていなかったんだな、と思いました。
――最後に、これらの作品をどんな人に聞いてもらいたいですか。
- 住吉さん
- まずは佐渡の人に聞いてほしいですね。「これ、本当にここで鳴っているんですか」といった驚きを感じてほしいです。彼らが改めて自分たちの住む環境に違った視点で出会い直すことができたら、とても楽しい体験になると思います。
- 前田さん
- これから佐渡を訪れる旅行客の方々にも、事前に聞いていただいて、実際に音の鳴っている場所を巡っていただきたいですね。「聖地巡礼」というと、一般的に目で見ることが多いと思うのですが、フィールドレコーディングを使った「聴覚の旅」みたいなものができたら新しい視点で面白いなと思います。
場所の「音」に焦点を当てたアプローチが、新たな地域の魅力を掘り起こす(柳沢さん)
――はじめに、フィールドレコーディングを始めたきっかけを教えていただけますか。大学生の頃にタイで伝統楽器を習っていて、その録音を後日聴いたことがきっかけです。当時、小学校の教室で先生から習っていたのですが、その録音には楽器の音の他にも交通音や鳥の声、隣の教室の先生の声など、色々な環境音が入っていて、聴いているうちにみるみるその時の風景や感情がよみがえってきたんです。その体験がとても面白く、美しく感じたんですよね。
――今回のプロジェクトを始めた経緯を教えていただけますか。佐渡でのフィールドレコーディング自体は約2年前から始めました。3回目の滞在のときから太鼓芸能集団「鼓童」さんと活動を共にするようになり、彼らが太鼓や笛などの楽器、あるいはその場に落ちている石や鉄筋などのモノを使ってその場の響きと呼応するように演奏するプロセスを記録しています。今回の佐渡金山でのレコーディングもそのひとつになります。
――実際に録音してみて、良い音は録音できましたか。まだ録音を聴いていないので何ともいえないのですが、今回の取り組みは、佐渡金山の土で作られた「無名異焼」という焼き物が、坑道内での演奏を通して再び佐渡金山という場所へ還っていく、という面白いアプローチだと思っています。
――今回のような鼓童さんとの共同プロジェクトと、ご自身だけで行ってきたものとの違いを教えていただけますか。これまでは自分ひとりで環境音を中心に録音して、作品にすることが多かったのですが、このプロジェクトでは、鼓童さんが環境と「対話」しながら音を出している中に、僕もマイクを通してその「対話」に参加するように録音することで「その場の響きを一緒に作っている」というのが一番の違いなのではないかと思います。例えば、僕自身の身体性や考え方、僕と鼓童さんとの関係性、さらには鼓童さんと環境との「対話」といった色々なものが重なり合い、それが響きとなって記録されている気がします。また、自分自身のことでいえば、単純に彼らと一緒に様々な場所に行ってレコーディングをする、というのが新鮮で楽しかったですし、自分の中での「フィールド」に対する捉え方も拡がるような経験でした。
――フィールドレコーディングを含めたこれからの音楽表現において、「即興性」や「場所性」というものがひとつのキーワードになりそうでしょうか。そうですね。現在でも野外で演奏して、自然の音を取り入れる、ということをやっているミュージシャンやアーティストはいらっしゃると思うのですが、単純に「自然の音を取り入れる」ということではなく、「その場所の文脈や響きをどう捉えるか」というアプローチが、これからの音楽表現でも重要になってくるんじゃないかなと思います。例えば、今回のような佐渡金山の坑道は、これまでに色々な歴史が積み重なって存在しています。そのため、そこでの音の響きの中には、「鉱山の歴史が現れている」と捉えることもできるのです。スタジオでの録音だけでなく、こういった「場所性」というものを意図的に取り入れた演奏や音楽表現というものを面白い、と感じてくれる人が少しずつ増えてくれるといいな、と思います。
――今後の展望を教えていただけますか。これまで島の様々な場所で録音してきましたが、今後は地域住民の方々の語りについてもその場の音と一緒に記録していきたいと考えています。というのも、通常、語りの録音はテキストとして使用されることが多いのですが、そうした際に、背景の環境音や、声から感じるその人らしさというものは、そぎ落とされてしまうんですね。でも、音として残しておけば、数年後、数十年後に語り手のことを知っている人がその録音を聞いた際に、文字で読む以上の生々しさや懐かしさを感じることができると思います。その他にも、地域住民の方々自身に、生活の中で聞こえる音や、好きな音を録音してもらって、その音に対する語りと一緒にアーカイブ化していきたいです。いわゆるサウンドアーカイブやサウンドマップというものですね。こうした住民の方々と共に行う地域の音の記録と活用が、その場所の新たな魅力を開拓していくことにつながっていくと考えています。
メンバー紹介
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鶏冠井 健人
Kento Kaiden1989年、宮城県仙台市生まれ。2012年、新潟大学教育学部卒。東映デジタルラボ株式会社入社後、主にテレビドラマのオンライン編集(編集の仕上げ工程)に従事。多種多様な作品に触れ、クライアントの要望を柔軟且つ的確に応えるためのスキルを磨いてきた。2022年9月、佐渡島に移住。その目的は「伝統芸能“鬼太鼓”を撮るため」「佐渡島で映画を撮るため」。
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中村 隼
Shun Nakamura音響エンジニア。ドイツでの音響研究を経て、信号処理分野で論文を発表。2024年末に帰国し、新潟県佐渡市を拠点にオーディオブランド「音響中村屋」を設立。超小型無指向性コンデンサーマイク「Omni One」を製造し、海外を中心に販売を展開する。また、地元製造業と連携した業務用音響機器や音楽ガジェットの開発や立体音響技術の研究にも取り組んでいる。
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住吉 佑太
Yuta Sumiyoshi1991年生まれ。香川県出身。小学2年生より和太鼓をはじめる。2010年に公益財団法人 鼓童文化財団研修所に入所。2013年よりメンバー。舞台では主に太鼓、笛を担当。2018年『巡 -MEGURU-』、鼓童浅草公演『歩』(2021年)、『山踏み』(2024年)を演出。2022年『ミチカケ』では音楽監督を担当。鼓童発の実験音楽レーベル「0on(ぜろおん)」を主宰。2021年、香川県文化芸術新人賞を受賞。
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前田 順康
Masayasu Maeda1996年生まれ。熊本県出身。2014年に公益財団法人 鼓童文化財団研修所に入所。2017年よりメンバー。舞台では主に太鼓を担当。踊りにも挑戦し、作曲や外部指導も行うなど表現の領域を広げている。2020年より交流学校公演の構成、アース・セレブレーション2022、2023のコンサート演出を担当。ソロ活動としては2021年8月、東京2020 パラリンピック開会式に出演。
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柳沢 英輔
Eisuke Yanagisawa日本学術振興会 特別研究員 RPD(国立民族学博物館外来研究員)専門:音文化研究、民族音楽学、ソニック・エスノグラフィー
これまで主にベトナム中部高原の金属打楽器ゴングをめぐる音の文化についてフィールドワークに基づき研究を進めてきた。また場所の特徴的な響きに焦点を当てたフィールド録音作品を国内外のレーベルより多数出版。
近年は、京都や新潟県佐渡島など国内のプロジェクトにも取り組んでいる。
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