研究員座談会

地域の魅力を起点とした「地域への想い」の育み方

PANELIST
NTT東日本地域循環型ミライ研究所
  • チーフエバンジェリスト:中山 雄太
  • エバンジェリスト:田中 健人
  • エバンジェリスト:原田 拓哉
FACILITATOR
Slow Innovation株式会社代表取締役/金沢工業大学 虎ノ門大学院 教授
  • 野村 恭彦氏

皆さんは住んでいる地域に「愛」を感じたことがありますか?そもそも「地域愛」や「郷土愛」とは、どのようなものなのでしょうか?今回は、 Slow Innovation株式会社/金沢工業大学 虎ノ門大学院 教授の野村 恭彦氏をファシリテーターにお迎えして、 NTT東日本 地域循環型ミライ研究所の中山 雄太、田中 健人、原田 拓哉が行ってきた、郷土食や音のワークショップ、住民インタビューなどの活動の中から考える地域への“愛着”とその捉え方をテーマに座談会を開催しました。


地域愛、郷土愛の捉え方とは

野村
今日のテーマは「地域の魅力を起点とした住民協働や地域愛の育み方」です。
そもそも、「地域愛」や「郷土愛」って何なのでしょうか。私は東京・国分寺の出身ですが、駅前は全国どこも似た風景になって、実家ももうありません。正直、郷土愛なんて感じにくいんです。けれど、5年前に京都に移り住むようになって地域の人たちと関わるうちに、「生まれた場所じゃなくても地域への思いは育つのかもしれない」と感じ始めました。
田中
私は神戸で生まれて立川で育ったので、「地元」がどこか分からないんです。育った街の姿が変わっていく中で郷土愛を持つのは難しい。でも、自然豊かな里山とか原風景に触れると、何か懐かしい感情が湧くんです。私にとっての地域愛とは、生まれた場所じゃなくて、人間として自然とつながる原初的な感覚に近いのかもしれません。
原田
私は大阪生まれ、育ったのは福岡の糟屋郡宇美町という所です。大学で関西へ、就職で東京に来ました。自分にとって地元というと福岡ですが、「地域愛」って言われると、何か押しつけられているような息苦しさも感じますね。単純に「好き」という言葉じゃ片付かない感情があります。
中山
私は千葉の郊外育ちです。実家はそのまま残っていますが、特別な思い入れはない。でも今、愛媛の松山に移住して暮らしているうちに、方言や人の温かさに触れて、「あ、少しずつ松山市民になっているな」と感じるようになりました。

地域愛の本質について考える

野村
皆さんの話を聞くと、「地元」って生まれた土地だけじゃなく、暮らしや関わりの中で形づくられていくものなんですね。私は「その地域のためなら経済合理性を超えて動ける力」、それこそが「地域愛」の本質だと思っていますがいかがでしょう。
田中
それ、すごく分かります。プロジェクトで出会った人の顔が浮かぶと、「また会いたいな」「何か力になりたいな」と思う。愛というより「放っておけない」という気持ちに近いです。
エバンジェリスト 田中 健人
原田
新潟県小千谷市でプロジェクトを一緒に進めている方に聞いた話ですが、その方の知り合いが地元に戻った理由について、「地域愛ではなく“怒り”が原動力だった」と語っていたそうです。地域の大切なものが次々と失われていく現状、そしてその状況になるまで手を打てなかった上の世代への怒りが、活動を続けるモチベーションになっていると。地域愛という言葉の響きはきれいだけど、現実にはそういう複雑な思いも含まれているんですよね。われわれも安直に「地域愛を醸成する」などと言ってはいけないなと、ハッとさせられました。
野村
なるほど。家族愛といっても、100%好きというだけじゃないですものね。良いところも悪いところも受け入れる感じですね。もしかしたら「愛」という言葉が少し美しすぎるのかもしれません。
中山
佐賀県唐津市で食文化のプロジェクトに関わった時も、当初「地域愛」と言っても皆さんピンとこないようでした。でも郷土料理を地域の外から訪れた人と一緒に作るワークショップを開いたら、それまで当たり前だと思っていた地域特有の料理の価値に気付いて、「地域の食文化を誰かに話したり残したりしたい」と感じる方が増えました。直接「地域愛」と言葉にはしなくても、それがいわゆる地域愛なんだなと感じました。
チーフエバンジェリスト 中山 雄太
田中
私も函館で住民インタビューをしたとき、地元の人たちが自分のストーリーを語る姿を見て、良いことも悪いことも含めて「愛着」が生まれるんだと感じました。

地域への愛着を再認識するローカルディグ活動

野村
今、偶然に出た「愛着」って、いいキーワードですね。過去とつながっている自分の一部みたいな感覚でしょうか。
中山
そうですね。愛着というのは、自分に結びついた感覚。何かあったときに気になってしまうような存在です。
野村
私が移住先の京都に感じている「愛」はそれとは少し違っていて、未来への覚悟や責任感、コミットメントに近い。「愛着」は過去、「愛」は未来につながる意志なんでしょうね。
原田
日本人にとって「愛」はちょっと重い言葉ですよね。「愛着」くらいのほうが自然に言える。地域への思いって、結局そこにいる“人”への思いとセットだと思うんです。会いたい人がいる場所だから、心が向かう。
野村
ローカルディグの本来の目的から見ても、外部の人に地域愛を芽生えさせ、地元の人に愛着を再認識させる効果があるようですね。
原田
小千谷で行った“音のワークショップ”では、農作業の音を録音して聞き直したら、「うるさいと思っていたコンバインの音が、実はセミの声や風の音など自然の音と調和しているんだ」と気づいた参加者がいらっしゃって。今回は“音”という切り口でしたが、これまで意識していなかった視点から地域を見ることで、地域の魅力を再発見できるんだなと感じました。
エバンジェリスト 原田 拓哉
中山
先ほどお話した佐賀でのワークショップで、各参加者が互いの家庭のお雑煮について紹介し合う時間を設けたところ、他の家庭のお雑煮と比べてみて初めて「自分の家庭や地域の味」がそれぞれ独特の個性なんだと気づいた参加者が多くいました。地域を愛することは、その土地に生きる自分を愛することでもあるんですよね。

地域は自分の「役割」を意識できる場所

野村
では、地域愛って地方だけのものなんでしょうか。東京では育ちにくい?
田中
いや、都会でも地域活動が盛んな場所なら成立すると思います。
原田
でも東京は便利すぎて、「誰かがやらなきゃ」という意識が芽生えにくい。一方、地方は公助が薄い分、自然と共同体意識が生まれやすい気がします。
中山
地域で役割を持って動いている人の姿は、それを見聞きする人々の共感を得やすいですね。やっぱり「自分の役割」を意識して生きている人の話は心に響きます。
野村
もともと人間には「自分が社会の循環の中で役割を果たしている」という実感を求める欲求があるのだと思います。でも地域を守るのは大変で効率も悪い。その“しんどさ”を支えるのが、地域愛なのかもしれません。都市生活で役割を見失った人が、その欠けた部分を埋めに地域へ行く──私はこれを「地域愛による欠損埋め立てモデル」と呼びたいです。
Slow Innovation株式会社/金沢工業大学 虎ノ門大学院 教授 野村 恭彦氏
原田
分かります。地域の方とともに行っている自然体験プログラムの運営のため、横須賀へ3年間通い続けていますが、都心では持てなかった“役割”を、心のどこかで求めていたのかもしれません。こうした場づくりがあちこちでできていけば、地域にも役立つし、都会で乾いてしまった人の心を満たすこともできますよね。
田中
わざわざ現地に行かなくても、デジタルを使って失われゆく音や風景を記録・アーカイブして共有する仕組みがあってもいいですよね。ICTで「地域愛」を広めたり深めたりする形も考えられますね。

経験から地域を捉えなおすミライ研の活動

野村
都市に暮らしていて「もう消費したいものがない」と思うほどに満たされるのも贅沢ですが、最良の贅沢は「地域の一部となって役割を持つこと」かもしれません。それが人生の意味を作ってくれる。そんな意味を求めて皆がいろいろ熱心に動くようになれば「地域愛エコノミー」が生まれるのではないでしょうか。
こういう動きが各地に立ち上がってくると、“地方創生”みたいな上から目線の話ではなく、もっとフラットに、ウェルビーイングが高まるのではないかと思います。
「地域愛」をとなえるだけではなく、皆さん一人一人が経験から捉え直すこと自体が、ミライ研らしい活動だと思いますので、これからも経験し、対話し、それを発信し続けてください。
今日はありがとうございました。

メンバー紹介

  • 中山 雄太

    Yuta Nakayamaチーフエバンジェリスト

    研究員として、持続可能な地域社会と、そこに関わる人々のウェルビーイング向上を目指し、地域の食文化を主なテーマに調査・研究を行っています。また、企業の新たな地域への関わり方として、社員の自主的な地域活動への参画を促し、こうした活動が社員のウェルビーイングや企業エンゲージメント、本業に対してどのような影響をもたらすのか継続的な調査を実施しています。

  • 田中 健人

    Kento Tanakaエバンジェリスト

    地域に根差した文化や日常の営みを手がかりに、「住む意味」や豊かさを探っている。調査・編集・発信を通じて、土地の文脈を読み解き、人と地域がゆるやかにつながり続ける関係を模索している。

  • 原田 拓哉

    Takuya Haradaエバンジェリスト

    福岡県糟屋郡宇美町という都心にほど近い田舎で育ち、進学で関西へ、就職で東京へ。徐々に地域から遠ざかる。
    20代はIT・コンサルと地域とは無縁の業界に従事。30代でNTT東日本へ転職し、横須賀市役所への出向を機に地域との関わりが深まる。その後ミライ研へ移り、地域資源×教育体験や、地域×デジタルの調査研究に取り組みながら、地域との関係を再構築中。

  • 野村 恭彦

    Takahiko NomuraSlow Innovation株式会社 代表取締役 / 金沢工業大学 虎ノ門大学院 教授

    クロスセクターイノベーションの実践と研究に従事。大学院ではイノベーションマネジメント、ファシリテーション、未来思考、リーダーシップについて教えている。

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