「Palette〜地域とミライをつくるゼミ〜」第6回 レポート

地域エバンジェリスト制度から考える、
企業と地域の越境人材の可能性

DATE
2025年12月24日(水)14:00〜17:30
VENUE
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
PRESENTER
  • 松下 慶太氏(関西大学 社会学部 教授)
  • 中山 雄太(NTT東日本 地域循環型ミライ研究所)
  • 小林 奈穂氏(国際大学GLOCOM主幹研究員・研究プロデューサー)
FACILITATOR
  • 伊藤 将人氏(国際大学GLOCOM研究員・講師)
ORGANIZE
  • NTT東日本 地域循環型ミライ研究所
  • 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
PROGRAM
  1. イントロ
  2. 中山雄太・地域エバンジェリストによる話題提供
  3. 登壇者によるパネルディスカッション・質疑応答
  4. おわりの挨拶

NTT東日本株式会社は、さまざまな形で地域に関わる社員を「地域エバンジェリスト」として認定し、支援する取り組みを行っています。「Palette〜地域とミライをつくるゼミ〜」の第6回では、この地域エバンジェリスト制度を事例に、企業と地域の越境人材の可能性を議論しました。

ゼミの前半では、ミライ研が地域エバンジェリストを対象に行った調査の報告があり、そのなかで、実際に地域エバンジェリストとして活動されている萩野岳士さんと千葉一深さんからそれぞれの取り組みの紹介がありました。参加者からは、「制度の詳細を知りたい」「社外の活動に対するモチベーションや職場の理解は?」等々、多くの質問が寄せられました。後半では、有識者を交えたパネルディスカッション、会場参加者によるグループディスカッションを通して、これらの質問に答えていくとともに、こういった制度を社会に広げていくことの意義や課題について議論を深めました。


地域で輝く社員を後押し
社員・地域・企業の三方よしの価値を拡大

PRESENTER:中山 雄太

NTT東日本は地域通信事業者であり、全国津々浦々、さまざまな地域でサービス・事業を通じて地域の皆様と関わってきました。そして地域社会の一員として、それぞれの地域のお祭りや森林保全、各支店ビル周辺の環境美化などの社会貢献活動を行っています。さらに近年では、複雑化する社会情勢や正解のない課題に取り組む人材を育てていこうと、人材育成プログラムに地域への越境体験を組み込むなど、多様な形で地域と関わってきています。こういった地域との関わり方は、会社が企画してそこに社員が参画するものですが、ここで紹介する地域エバンジェリスト制度は、社員が自発的に業務外で地域活動に参画し、それを会社が応援するというものです。

地域エバンジェリストとは

エバンジェリストという言葉は、みなさんもお聞きになったことがあるかと思います。もともとキリスト教の伝道師を指す言葉ですが、最近は、特にIT分野で、新しい技術や製品について、その背景にある理念や魅力をわかりやすく人々に伝え、社会に価値を届ける人という意味合いで使われています。

これに対し当社の地域エバンジェリストは、プライベートの時間を地域活動に捧げている社員を指しています。業務外でも自身の興味関心にもとづいて精力的に地域活動に関与する彼らの姿勢を通じて、地域の魅力や価値が発信され、共感の輪が拡大しているのではないか。そういったことから地域活動の価値を伝える伝道師、「地域エバンジェリスト(地域エバ)」と命名しました。

現在、地域エバは約300名、男女比は約男性6:女性1で、男性が多くなっています。活動分野は、野球やサッカーのコーチ・監督などの「スポーツ支援」が圧倒的に多く、自治会や消防団などの「自治体関連」、お祭りの継承などの「文化芸術」が続きます。そのほか、「学校ボランティアの会」や「ハンドメイドを通した地域のつながり」、また「おやじの会」で、お子さんが通う学校や施設でバザーに出店したり環境整備に取り組んだりしている方もいます。「温泉の供給」という変わり種もあり、この方は地域の温泉の源泉を管理して、一帯の住宅や旅館に安定的に温泉を供給していく活動をしています。

当社は「地域循環型社会の共創」をパーパスに掲げています。それぞれの地域活動に取り組む社員である地域エバは、まさにこの理念を体現して牽引する存在だということで、全社的に応援するとともに、周りの社員にも地域で活動してみたいと思ってもらおうと、ミライ研では彼らの活動の様子を取材して発信しています。

私たちと地域「story」|地域循環型ミライ研究所|note

ここで、実際に活動されている地域エバのお二人から、どのようなことに取り組まれているのかを紹介していただこうと思います。萩野さん、千葉さんの順でよろしくお願いします。

萩野岳士さん:東京都新島村で「合同会社るとり」を立ち上げ

私はNTT東日本の東京事業部で業務に携わりながら、副業として、昨年6月、東京都新島村で「合同会社るとり」を立ち上げ、新島のアピールや観光促進をしています。

そもそものきっかけは、東京都が実施したワークショップに参加したことでした。島内外からいろいろな仕事を持つ人たちが集まって、新島村の課題を探り、新規ビジネスを創出しようという研修プログラムでした。そこで検討した新規事業プランを新島村の村長さんや村役場の方、東京都の職員の方などに向けてプレゼンしたところ、最優秀賞に選ばれ、一緒に検討したチームのメンバーとともに実際に起業しました。

メンバーは5人です。1人目は私で、代表として業務全般を担っています。2人目は新島に移住して塩づくりをしている塩職人、3人目は元プロサッカー選手の環境音楽クリエーター、4人目はリクルートに勤めているシステムエンジニア、5人目はウェブ制作会社を経営しているデザイナーです。

何をしているのかというと、新島は海がきれいで、夏は観光客が多いのですが、秋冬は閑散期でなかなか来てもらえません。そこを課題視し、年間を通じて来島してもらう仕組み・仕掛けをつくっていこうとしています。

具体的には、農業・体験業・宿泊業という3つの柱をつくりました。まず、新島は食べ物がおいしい。あめりか芋や明日葉など島ならではの特産品があり、それを島外にアピールしていきます。耕作放棄地を借りて耕し、自分たちでつくって納品します。2つ目は、そういう農作業に触れてもらうことも含めて、島ならではの良さを体験していただきます。3つ目は、宿泊なしには来られない島なので、その宿泊先を自分たちでゼロからつくっていきます。この3つを柱に、新島を含む伊豆諸島全体をPRして、内地だけでなく世界にも発信していきたいということで、会社をつくって活動を推進しています。

地域エバstory#17「島の未来を創る情熱」|地域循環型ミライ研究所

千葉一深さん:分身ロボット「OriHime」のエバンジェリストとして活動

私は1990年にNTTに入社し、PHSの開発、システム開発やコミュニケーションの研究、ペルソナ等のデザイン思考を使った研究サポートなど、多種多様な分野に携わってきました。

そのなかで、2人の子どもを出産し育てました。産休・育休という時間をとったことで、人と人のつながりの大切さを実感し、子どもに対する政策やまちづくりに興味を持つなど、あらためて一人の母親として社会との接点を持つという経験をしました。復職後は、仕事と育児の両立に悩んだ時期もありました。コロナ禍前でしたが、育児があるという理由で、NTTグループでは在宅勤務が可能でした。ただ、やはり仕事を持ち帰って一人でやるのは孤独感があり、情報欠落が起きるのではないかという不安もありました。また、毎回、上司に「すみませんが明日、在宅勤務をさせてください」と言うのですが、同じように働いているのに、なぜ「すみません」と言わなければいけないのか、自分の中で腑に落ちないところがありました。

そういうなかで出会ったのが、分身ロボットOriHimeの初号機でした。音声だけでなく手も動くし、首を振ったりもする。このモーションが付いていることで、コミュニケーションスタイルが変わると確信しました。これをどうにかして社会に出したい。娘が成長して働くとき、当たり前のようにアウトプットだけで評価される世界になるためには、テレワークが当たり前になる必要があります。それなら、この分身ロボットで出社すればいい。「すみません」と言わなくてもいい社会を娘に残したいと思いました。

2015年7月にITイノベーション部技術部門に異動になり、OriHimeをテレワーク分野に適用するという、オリィ研究所とのベンチャーコラボを企画しました。その頃のロボットにはミュートボタンがなかったので、「テレワークにはミュートボタンが必要ですね」などと話し合い、オリィ研究所の技術者が改造を重ねて今の形になっています。

その後、営業系組織であるビジネスイノベーション本部に異動になり、業務上OriHimeから離れることになりました。しかし、このロボットを社会に認知してもらうには、技術のエバンジェリストとしてその価値をきちんと伝えなければいけないと思い、それからはプライベートで、オリィ研究所公認のOriHimeエバンジェリストとして活動しています。育成施策の「パラレルワーク」を活用して、仲間を集めてOriHimeのビジネススキームをつくったり、研修施策の「ダブルワーク」としてミライ研に参画させていただいて、埼玉県の横瀬町でテレワーク実証を行ったりしています。

OriHimeを使ったオープンイノベーションでは、いろいろな立ち位置で動いています。リサーチャーもするし、エバンジェリストとしてストーリーテラーもするし、どうビジネスにするかというところもやります。企業の一員として誰かの役に立つために仕事をしていくWorkでの立ち位置と、自分が社会とつながり社会に溶け込んでいろいろなことを学んでいくLifeでの立ち位置を、ぐるぐる回しています。私はLifeでは子ども2人の母親であり、高齢の母の子どもであり、PTAの役員もやっています。Workでは、技術者として、また会社の中での先輩社員という役割があります。みなさんも、LifeとWorkの中で多様な顔や役割を持っていると思います。そういうものが混ざり合ってグラデーションしていくなかに、私というものがあるのだろうと思います。

東京の日本橋に「分身ロボットカフェDAWM ver.β」がありますので、ぜひ一度お立ち寄りください。OriHimeはAIではなくて、生身の人間が遠隔で操作しています。AIではなくHI(Human Intelligence)だということが、このロボットの大切なコアになります。今年、デンマークにも分身ロボットカフェができました。海外でも同じように、ハンディキャップを持った方々がロボットを動かしてカフェをするという世界観を、彼らは実現しています。このロボットを操作する方々をパイロットと呼ぶのですが、パイロットの方々が日々、noteやSNSにさまざまな発信をしています。失敗談や成功したこと、楽しい話など生の声が綴られていますので、ぜひ見ていただければと思います。

地域エバstory#02「小さな一歩から生まれた、社会を変えるパッション」|地域循環型ミライ研究所

地域エバの取材を通して生まれた仮説と調査

萩野さん、千葉さん、ありがとうございました。
ミライ研では地域エバの取り組みの認知度を高めるとともに、地域エバ自身のモチベーション向上や他の社員への波及を狙い、それぞれの取り組みを取材して社内外のメディアに積極的に発信しています。こうした取材活動を通じて、私たちは次のような仮説を持ちました。
地域エバ社員は他の社員に比べて、

  • ウェルビーイングが高いのでは?
  • 会社へのエンゲージメントも高いのでは?

この仮説を検証するために、今年6〜12月に調査を実施しました。まず、過去に実施したインタビューを解析して質的調査を行い、その結果を踏まえて地域エバ全員に量的調査(アンケート)を実施しました。そして、その質と量、両面からのデータを多角的に分析する全体分析を行いました。

質的調査のフェーズでは、これまでの2年間で約40名のインタビューデータがあり、その中から全体を俯瞰できるように、活動分野や活動歴、活動頻度などが分散するような形で10名をピックアップし、その語りを一言一句、付箋に書いて貼りながら解析を行いました。そうやってあぶり出した要素を、次の量的調査のアンケート設計に活かしました。量的調査のフェーズでは、地域エバ全員を対象にアンケート調査を行い、100名超の方から回答を得ました。

その結果の分析から、次のようなことが明らかになりました。

  • 84%の地域エバが、地域活動を通じて前向きな気持ちを感じている
  • 95%の地域エバにとって、地域活動は人生の大事な部分を占める
  • 集中・没頭、関係性、達成感等の面においても、地域活動が重要な役割を果たしている
  • 75%の地域エバが本業へのポジティブな影響を実感。具体的な影響としては、人脈や視野の広がり、自身のスキル向上の実感などが挙げられた
  • 地域活動で磨いたスキルはその活動にとどまらず、本業に活かすなど会社への貢献意欲も高いことが確認された
  • 本業で自然に身につけてきたマネジメント能力やパソコン等ITスキルが、地域において貴重な資源に
  • 約7割の地域エバが上司や同僚からの理解や支援を感じている。会社からの理解や支援は、自社への誇り、ロイヤリティの向上に寄与
  • 職場からの理解や支援を実感するほど、地域活動の本業へのポジティブな影響を感じる

NTT東日本グループでは、家族・友人・趣味・休みなどと同じように、仕事も人生の一環であるというワークインライフの実現を推進しています。地域エバは、活動の性質上、平日の対応が必要な方もいることから、会社が整備を進める柔軟な働き方を実現する各種制度をフル活用してワークインライフを実現していると考えられます。地域エバのフレックス制度、リモートワーク制度の活用率は、それぞれ55%と45%でした。回答者には、故障修理対応やコールセンターなど、職務上リモートワークが難しい方も含まれますので、活用できる方に絞ると活用率はもう少し高いと見ています。いずれにしても、社員の地域活動を後押しするにあたっては、上司や同僚から応援を受ける組織風土というソフト面と、柔軟な働き方を可能にする制度の充実というハード面のどちらも欠かせないといえます。

ここまで見てきたように、社員の地域活動参画は、さまざまな観点で社員と企業にポジティブな影響をもたらしています。また、地域にとっても、企業で働く人間が関わることの意義は大きいと考えられます。実際、地域エバの約9割が、自身の活動が地域に好影響をもたらしているのではないかと答えています。インタビューでも、「企業で働く人が継続的に関わることで事業に広がりが出てきた」「地域活動に外部の風が入ることによって活動が活性化された」という回答がありました。地域エバの存在は、企業と地域社会との関係を、支援する/されるという二項対立ではなく、共に価値を生み出していくパートナーとして再定義していく必要があることを示唆していると考えられます。

本日の話の内容をまとめると、社員の地域活動参画は、社員・企業・地域に「三方よし」の効果をもたらしています。特に業務外の活動を応援するところに本モデルの新規性があり、地域活性化につながる新たなモデルとして、より磨きをかけて、皆様にお届けしていきたいと考えています。そのまま導入するのは難しいという業種や業態もあると思いますが、こうした社員の活動を後押しする柔軟な働き方は、それぞれの企業、職場において、社員と地域をどのように接続させるかというヒントになり得ます。また、制度があるだけではなく、しっかりと活用できる風土、このような活動を認め、応援する職場づくりが大事になってきます。

最後に、私たちは、このモデルをさらに磨いていきたいと考えていますが、弊社内だけの展開ではどうしても限界があります。ご参加・ご視聴の皆様とともにさらにブラッシュアップしていって、社員が越境する、地域に関わることがもたらす価値をより広げて、社会的インパクトにつなげていけるよう、本日の後半で議論していきたいと考えています。


パネルディスカッション・質疑応答

「ひと肌脱ぐ」ために越境する

伊藤
話題提供をしていただいたお三方に、有識者お二人を加えて議論していきます。ご紹介すると、関西大学社会学部メディア専攻教授の松下慶太先生、メディア論、ソーシャルデザイン、ワーケーションなどでご存じの方もいらっしゃるかと思います。続いて、国際大学GLOCOM主幹研究員の小林奈穂さん、組織論、まさに今日のテーマである企業と越境というところで研究・実践をされています。今の話題提供を受けて、何か感想や質問があればお聞かせください。
松下
最近、越境のパターンに3つのレイヤーが出てきたと考えています。1つ目は昔からあるモデルで「ひと旗あげる」。地方から都会に出てきてひと旗あげるという言い方をしますが、そういう成功や上昇を目指した越境です。2つ目は「ひと皮むける」。修羅場をくぐって成長していくなかで越境が大事だというモデルです。越境して帰ってきて、自分たちの組織にどう貢献できるかということも探られますが、基本は自分の成長なので、修羅場を越えて自分の成長につなげていく。3つ目は、「ひと肌脱ぐ」で、地域のために何かひと肌脱ぐことが自分のウェルビーイングになり、引いては組織の価値として還元されていく。そこでは個人の幸福を目指しているのだけれど、それが企業や地域にとっても価値になっている。これは時代とともに変わったということではなくて、この3つの越境パターンが入り混じっていて、今日の話題は3つ目のモデルに近いと思いました。
小林
私は活躍を応援する組織に関心があるので、実際にどういう制度でやっているのかにすごく興味があります。今日、お話を伺った地域エバのみなさんは、会社では広く社会を見つつ、地域の活動では地域社会に目を向けて、マクロとミクロの両輪でやっていらっしゃる。そういうマクロとミクロの両輪に加えて、仕事とプライベートの両輪でもやっているので、4WDで人生を駆け抜けながら、制度の中でバランスをとって新しいことを手掛けているという感想を持ちました。

働きやすい環境整備と支援制度が追い風に

伊藤
制度の詳細を知りたいという質問をSlidoにもいただいています。どうやら地域エバだけというのではなく、NTT東日本にいろいろな支援制度があって、その組み合わせの中に地域エバもあると思ったのですが、実際のところどうなのでしょうか。
中山
制度というと、何かすごくかっちりしたものを想像されるかと思うのですが、実際はかなりフランクです。まず私たちのほうから、「地域エバンジェリストに認定しますので、それぞれの地域で何か地域活動に取り組んでいる社員の方、手を挙げてください」という声掛けをして、それに対して手を挙げていただいた方は基本的に認定をするという流れになっています。そのうえで、地域エバのためというより、社員全員が働きやすいように会社がこれまで整備を進めてきたリモートワーク、フレックスを中心としたさまざまな制度を活用しながら、地域活動と本業を両立させている方が多いと考えています。
数万人の社員規模で300人というのは微々たる数ですが、実際のところこうした活動をしている方はこの数倍、数十倍いると見ています。みなさん、「エバンジェリストとまで言われなくても…」と遠慮されて、これぐらいの数になっているのではないかと思います。
萩野
私にとって、「どこで働いてもいいよ」と言ってくれるNTTのリモートワークスタンダードがすごく追い風になっています。業務中でもフレックスで、たとえば「1時から2時は副業の会議なので抜けます」ということが柔軟にできます。こういったことをフルに活用することでバランスよく働けていて、NTTの働きやすい環境がなければ今の私はないと思います。もちろん現地に行かないとできないことも多々ありますが、リモートで村の人たちと話をすることも多くて、そういった環境をうまく使っています。
先ほどの松下先生の3つのモデルでは、私はひと肌脱ぐ派だと思っています。島をよくしたい、この人たちのためにやっていきたいと思ったからこそ、今に至っています。「大変でしょう」とよく言われるのですが、全然苦ではなく、楽しんでやっています。
千葉
ひと肌脱ぐという感覚も確かにあるのですが、どちらかというと私は自分で未来をつくりたいタイプです。その時に自分に言い聞かせているのは、自分が言ったことには責任を持つ、覚悟を決めるということです。私の場合、途中で異動がありましたが、2割の時間を社外の活動に使っていいという制度があって、その時間を使ってエバンジェリスト活動をしていました。制度があっても、使いたいと思うかが重要で、自分にしかわからないような小さなことでも、それをやり抜きたいと思ったらいろいろな制度を活用して自分の時間を当てていくことが大事だと思います。その2割でやっていくときに、本業の仕事が8割になるとは限らないので、そこをいかに効率的にやっていくかで、逆にモチベーションが高くなるという部分もありました。制度が整っていて周りの理解があるからこそ、こういう活動ができていて、まさにウェルビーイングが上がっています。
先ほど四駆というお話がありましたが、いくつかある車輪をうまくコントロールする力は、小さな経験でもどんどん積んでいくと、どんどん成長します。若いうちは成長するという感覚があるかと思いますが、年齢が上になっても人間はずっと成長し続けられるので、その時々のやりたいことに正直に、真正面からやっていくスタンスが大事だと思います。

職場の理解が活動を後押し

松下
採用の段階で、もともとそういった活動をしている人たちがアンテナ感度高く入ってくるのか、それとも入ってきてから刺激を受けて、自分もそういった活動をしてみたいとなっていくのか、何かエピソードがあればお伺いしたい。また、上司や同僚の理解がない場合はどうなのか、事例があれば聞かせていただきたいと思います。
萩野
私が地域エバとして新島でやっていることをnoteで発信しているのですが、たまたま先々週、それを読んだという大学4年生から連絡が来て話をしました。その学生はある地域特産の醤油の製造に携わっていて、「もちろんNTTの仕事は目一杯やりたいし、それと併せて地域の活動も継続してやっていきたいのですが、それができるのですか」と聞かれたので、「できます。ただ上司や周りの人たちの協力が不可欠だから、それを当たり前と思わずに、謙虚に周りの人たちにきちんと伝えていくと、自分なりにやりやすい環境になるよ」と言うと、すごくスッキリした表情をしていました。NTTでそれができるのなら入りたいという学生が現実にいるので、いい制度だと思います。
小林
制度面の話で、評価制度とつながっているのかどうか。先ほど2割は社外の活動を認めてもらっているという話がありましたが、実際どのようにされているのでしょうか。
中山
評価という点で、地域エバの活動が、人事などの評価に直接つながっているということはありません。ただ、取材した多くの地域エバの方から、「わざわざ自分の活動の話を聞きに来てくれて、記事にして外にまで発信してくれる」という言葉を聞きました。こういう応援の姿勢に、多くの地域エバの方が意気に感じるところがあるようです。
職場の理解がない事例について質問がありましたが、私は職場から理解されていないという話を聞いた記憶がないです。たとえば、お祭りに出るというと、職場の人たちがみんな見に来て応援してくれるとか、私がインタビューに行ったときも、基本は1対1で話を聞くのですが、「こいつの取り組みを一緒に聞かせてくれ」と上長や周りの方が乱入してきて、すごく良い雰囲気だと思ったことがあります。職場の顔だけではない別の顔も含めて、トータルでお互いを理解し合っている職場はいい状態だと見ています。
千葉
自分の上長に2割の時間でそういう活動をしたいと伝えるときに、ただ「したいです」と言うだけでなく、背景や自分がそこに何を賭けていきたいのかというパッションも伝えるようにしました。そうすると、OriHimeのことを調べて、「なるほど」と言ってもらえました。また、自分一人では到底わからないことがたくさんあるのですが、いろいろな部の経験のある部長がサポートについてくれて、フィードバックをもらえる制度もあります。ダブルワークでは、送り出してくれた上長とミライ研で受けてくれた上長が、この研修の中でその人がどう成長したかをやりとりする制度的な仕組みもあります。その辺を企業が提供していることが特色だと思います。

まず体を動かしてから考える

萩野
こういう活動をしていると、「そもそもなぜやっているのか」「何をモチベーションにやっているのか」と、いろいろな人から聞かれます。先週、20代の人たちと話していて、「僕もやってみたいですが、そういう勇気がありません」と言われました。そういう人たちは、きっかけさえあればできるだろうと思うのですが、一人でその壁を乗り越えるまでにはいかない。そういう人たちに、どういうアドバイスをしたらいいでしょうか。
松下
僕はいつも学生に、「頭で考えすぎだから、直感で体を動かすことをやってみたほうがいい」と言っています。自分の直感を信じて、まずは体を動かしてみる。たとえば、新島に行く理由はなかったけれど、行ってみたら「これだ」と思ったというのは、行動が先で、理由は後付けです。小学生からずっと「考えてからやりなさい」と言われ続けてきて、理由とモチベーションを前段階に置きすぎて、「理由もなくそんなことをやっていいのですか」と、理由がないと動けない体になってしまっています。そこの身体論が大きいと思って、そういうアドバイスをよくします。
萩野
すごくよくわかります。その第一歩が踏み出せない子が結構多くて、私もよく「まずはやってみたら」と言うのですが、もう少し踏み込んでどう言えばいいのか、行き詰まってしまいます。
小林
入り口となるプログラムがあってもいいという気がします。自分が活躍する地域を自分で見つけて、ネットワークをつくってというのは、すごく難しいです。私は先週、長野の千曲でのイベントに参加してきました。集団で同じ時期に行ってワーケーションをして、そこで地域資源と自分たちができることを掛け合わせて事業アイデアを考えるというワークをやってきました。自分から地域に出て行って考えるのはなかなか難しいですが、場がセットされて、そこに行ってしまったら、その場にのみ込まれて必死に頭を動かしていくしかない。なんとなく可能性を感じているのだけれど、いきなりどうしていいかわからない人たちのために、そういう入り口プログラムがあるといいと思います。

はじめの一歩は何でもいい

松下
プログラムやきっかけがあると飛び込みやすくなるというのはもちろんそうですが、一方で、今まで内発的な動機でやっていたからこそのエバンジェリスト活動だったところをどこまで担保できるのか、そこが難しいという気がしています。プログラムがあれば行きやすいし、「こういうのがあるから行ってみたら」と言いやすいけれど、それが内発的動機のようなものを打ち消してしまうことはないだろうか。制度として細かいことが決まっていないということも含めて、今後どう考えていくのかをお伺いしたい。
中山
自発的かどうかに関して、地域エバの方々の入り方にはいろいろなパターンがあります。趣味を活かして、自分の興味関心にもとづいて活動に突き進んでいる方もいれば、たまたま会社の研修プログラムで接点を持ったという方、もしくは家族の介護などの事情があって、やむにやまれぬ状況で入っていったという方もいます。必ずしもその入り口は、セットされたものが悪いとは言い切れないと考えています。入り方はともかく、いま取り組んでいることにいかにスポットライトを当てるかだと感じています。
先ほど、地域エバの活動自体は直接、評価につながっていないと説明したのですが、NTT東日本の人事制度の設計として、自分の目の前の仕事だけではなく、自分のチームや他組織に対してどれだけ貢献しているかを観点として見ている部分があります。地域活動までは直接、そのスコープに入ってこないと思いますが、地域活動を通じて地域に貢献する、他者のために何かひと肌脱ぐという姿勢が、転じて会社の中の自チーム、他組織に対する貢献にも結びついてくると、回り回って、評価につながるような人の変容につながっていくのではないかと考えています。
千葉
入り口はカリキュラムがあっていいというのは、私もそうだと思います。そのあと、伴走支援できる人を育てたい。イノベーターは10%くらいしかいないと言われていますが、それを20%、30%にするには伴走支援する人が必要です。その伴走支援は、相手の内省を引き出すものであって、答えを与えるものではないので、対話して、自分で考える余白を渡すことが大事です。われわれは先を走った者だと思うので、話をしたいと言ってくれれば、いつでも話をする時間を設けたいと思います。
小林
今の子どもたちは探究学習という、やりたいことを見つけていってそれを地域で実践していくという教育を受けてきています。それができる子たちが育って、会社に入った途端、それができない環境になってしまうというのは、せっかく育てたものを摘んでしまうことになるので、すでに社会にいる大人側にもそうした学びの機会や制度ができればいいと思います。あらためて、地域エバンジェリストはすでにそういう制度になっていて、今後さまざまな活動に広がっていくだろうとすごく期待しています。
松下
AIが出てきたなかで、人間らしさとは何だろうと考えるとき、今日のような活動はひとつのヒントになるのではないかと、それこそ直観を得ました。一歩を踏み出すところをどう評価するかは、探究活動の評価もそれに近いと思います。それは自分で一歩を踏み出したことへの評価なのか、背中を押されたのか、プログラムという形で手を引かれたのか、段差につまずいてとりあえず一歩が出てしまったという感じなのか。一歩の出方はいろいろあるだろうという気がしていて、それをトータルでどうデザインしていくかは、教育もそうだし、地域もそうだし、企業もそうだし、もちろんわれわれ大学も含めて考えていきたいと思った次第です。
伊藤
地域エバンジェリスト制度がいいと思うのは、はじめの一歩の出方はいろいろですが、どんな一歩であってもとりあえずお墨付きを与えて、「いいですね」と発信するところです。ともすると、私たちは質の高い活動をしている人を支援し、企業も成果がすぐに出そうな人にお墨付きを与えがちです。今後、企業に限らず地域に関わるところも含めて、非常に示唆的だと思いながら聞いていました。それでは、これでトークセッションを閉じさせていただきます。登壇者の皆様、ありがとうございました。

メンバー紹介

  • 中山 雄太

    Yuta Nakayamaチーフエバンジェリスト

    研究員として、持続可能な地域社会と、そこに関わる人々のウェルビーイング向上を目指し、地域の食文化を主なテーマに調査・研究を行っています。また、企業の新たな地域への関わり方として、社員の自主的な地域活動への参画を促し、こうした活動が社員のウェルビーイングや企業エンゲージメント、本業に対してどのような影響をもたらすのか継続的な調査を実施しています。

  • 伊藤 将人

    Masato Ito国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)研究員

    地方移住定住や関係人口、交流人口など地域を超える人の移動と、持続可能なまちづくり/地域振興に関する研究や実践、政策立案に携わる。近年は、移動の社会学をテーマに、移動から世界/社会を考える研究にも力を入れている。

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