「Palette〜地域とミライをつくるゼミ〜」第5回 レポート

政策形成のなかで、いかに市民や企業と協働していくのか?〜政策における市民・企業参加のデザイン〜

DATE
2025年11月4日(火)17:00〜19:00
VENUE
オンライン(Zoom)
PRESENTER
  • 小野寺 晃彦氏(マカイラ株式会社 シニアコンサルタント)
  • 石塚 理華氏(一般社団法人 公共とデザイン 共同代表)
  • 谷口 翔太郎(NTT東日本 地域循環型ミライ研究所)
FACILITATOR
  • 伊藤 将人氏(国際大学GLOCOM研究員・講師)
ORGANIZE
  • NTT東日本 地域循環型ミライ研究所
  • 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
PROGRAM
  1. イントロ
  2. 谷口翔太郎による政策・共創のデザインに係る問題提起
  3. マカイラ株式会社 小野寺 晃彦氏による話題提供
  4. 一般社団法人 公共とデザイン 石塚 理華氏による話題提供
  5. ディスカッション・質疑応答
  6. パネルディスカッション・質疑応答

「Palette〜地域とミライをつくるゼミ〜」の第5回は、「政策における市民・企業参加のデザイン」をテーマに取り上げました。

人口減少や少子高齢化に伴い、社会・地域課題が複雑化し、地方自治体における人手不足も深刻化するなかで、自治体単独で政策を立案・実行することは困難さを増しています。一方で、地域に暮らす市民や企業、地域外部から関わる多様な人々が、政策形成や実行のプロセスに参画する動きが広がりつつあります。

今回は、自治体運営と市民参加型デザインに豊富な経験を持つゲストを迎え、行政、企業、住民、関係人口といった多様な主体が政策に関わり、共創するために必要な仕組みについて問題提起し、現場で直面するモヤモヤや難しさを共有しながら議論しました。


多様な主体が政策に関わり、共創するために、必要な仕組みとは?

PRESENTER:谷口 翔太郎

私は2015年にNTT東日本に入社して企業法務に携わりながら、一時期、消費者庁や株式会社PoliPoli(ポリポリ)に出向していました。今回は、消費者庁で政策を動かす側にいた経験や、PoliPoliで政策の官民共創を盛り立てていく側にいた経験、また今の地域循環型ミライ研究所での実証なども踏まえながら問題提起をしたいと思います。

Section1:現代の民主主義、政策の効果測定

そもそも政策とは何でしょう。「政策とは象のようなものである。あなたはそれを見れば象と認識できるが、それを定義せよと言われると簡単にはできない」という有名な文言があるように、政策という言葉は多義的で、解釈もいろいろです。たとえば、元厚生労働省官僚の千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)は次のようにおっしゃっています。

“政策とは
政府独自のリソースを活用して、人々の行動変容を促し、社会課題を解決する営み”
※役所のリソース・政策ツールに縛られると代わり映えしないものに
※役所の政策自体で完結するのではなくて、民間とのコラボが重要

これは広い意味で政策を捉えていて、私の認識とも一致します。今回は特に※印の部分を念頭に置きながら話をしたいと思います。

消費者庁は、消費者行政の司令塔だといわれています。つまり、消費者が遭遇する消費者トラブルにはいろいろあって、それぞれの所管は厚生労働省だったり総務省だったりするわけですが、その消費者トラブルが起きているということに対して、各省庁の消費者行政を取りまとめるところとして消費者庁があるということです。

私はそこに1年間出向して、美容医療に関する注意喚起、仮想通貨に関する注意喚起、携帯電話料金に関する注意喚起、成年年齢引下げに関する啓発動画の作成などを行いました。

そこで活用したもののひとつが、PIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム)です。これは何かというと、消費者が何かのトラブルで困ったとき、188に電話すると、最寄りの消費者生活センターにつながって、そこで相談をすることができます。消費生活センターは、受けた相談内容をPIO-NETに入力するので、ネットワークには膨大な量の消費者トラブルが格納されていきます。消費者庁はその情報を見ながら、「これは相談が急増している」「これは深刻だ。質が悪い」といったものを拾い出して、公表したり注意喚起したりという政策を行います。要するに、政策の身近なところに国民の声があるということが消費者庁の特徴です。

そういった仕事をしていて感じたモヤモヤのひとつが、現代の民主主義の問題です。本来は相談が多いもの、深刻なものに手当てしていくことが必要ですが、権利を持っている人が声を大にして言っているから対応せざるを得ないとか、あるいは、ニッチな問題だけれど、SNSに取り上げられて大きく注目を浴びたので行政もそこに向かざるを得ないとか、そういった部分が民主主義を歪めているのではないだろうか、真に社会課題を解決するための営みになっているのだろうかとモヤモヤしました。また、「政策は有権者の声を反映させるだけで足りるのか?」という疑問も持ちました。たとえば温暖化で、私たちの今の活動の影響が実際に現れるのが遠い将来だとしたとき、その将来の利益を、今の有権者の声だけで選択できる制度になっているだろうか。これから起こり得ることに対応していくためには、どういう政策立案のプロセスを生むべきなのか、未来の利益を選択するためには、どういう仕組みが必要なのかということを考えています。

もうひとつのモヤモヤは、効果検証の難しさです。私が消費者庁にいたとき、コロナ禍に絡んだ詐欺トラブルが結構ありました。CMなども打ちながら「相談してください」と周知したのですが、この効果の検証が大変でした。達成できそうな観点のみからの検証や、後付けのお抱えアンケートは違うだろうと思いつつ、では広告のリーチ率が上がればいいのかというと、本当は広告がリーチした後の行動変容を促せたかどうかではないか。では相談件数が減少すればいいのかというと、逆に相談件数が増えたほうが、皆が認知して相談してくれたということではないか。何をもって効果というのかは、本来、施策をやる前に建て付けておくべきことですが、そこがなかなか難しかったということがありました。

政策において行政ができることには限界があり、民間の事業者の知見を要する場面も多いと思います。これは事業者にとってもチャンスです。事業者が政策に関わる直接的なメリットは多くあります。たとえば、規制や文化が最適化されていないことによって開拓できない市場があるときには、政策を変えていくことでブルーオーシャンの市場が広がります。また、規制によって事業の幅が制限されている場合には、規制を変えることで事業がどんどん拡大していきます。そういったことから、PoliPoliに出向して、どういう形で官民共創ができるのかを学ぼうと思いました。

Section2:官民共創の姿、企業の政策関与

PoliPoliは、政策共創プラットフォームを提供しているスタートアップです。政治家や行政に対して、市民が直接、声を届けられるプラットフォームをつくっていて、政策共創のための資金を提供するPolicy Fundという寄付基金もあります。また、企業が政党などに対してルールメイキングを働きかけていくときのサポートなども行っています。そのなかで私が携わったのは大きく2つです。

ひとつはPoliPoli Govという、行政に市民が直接声を届けられるプラットフォームの運営です。「パブリックコメントが集まらない」「政策の評価手段がない」「アイデアを発散させたい」などの相談があったときに、行政の政策に対する市民の意見を収集して分析して提言していくというサービスで、市民参加のハードルを下げながら多くの市民から意見を収集するようなプラットフォームになっています。

こういった市民参加型合意形成プラットフォームは他にもあり、有名なものにオープンソースのDecidim(デシディム)があります。また、Liquitous(リキタス)社がLiqlid(リクリッド)というサービスを提供しています。このように、世の中に必要とされて、サービスもいろいろと出てきているのですが、行政の方からは、「市民共創は仕事を増やす」というような声が上がることも多くて、モヤモヤしています。意見がたくさん出ると考えることが増える。行政として取りまとめの負担がかかる。政策の選択肢が多様化すればそれだけ関連部署との調整も増える。また、意見を聴いたからには、それを採用しない場合にはその理由をきちんと説明しなければならない。「これをやっていくのは結構大変だが、それをやるメリットが私たちにあるのですか」「そもそも人的リソースが減るなかで行政が対応できるのですか」といった話をよく聞きました。

そこで考えたのは、市民の声を反映した政策を企画実行するメリットが、行政にあまりないのではないかということです。行政は独占市場で、サービスが悪いからと市民が簡単に他の行政に乗り換えるようなものではないので、いい政策を打ったことのメリットがあまり感じられない。これを、たとえば、統一した基準軸で政策を評価し、評価点の高い自治体には人が集まるし、その政策に関与した職員にはプラスの人事評価が与えられるようにすると、より市民の声を聴くようになるのではないかと考えました。また、行政に人的リソースがないのなら、たとえば意見収集から政策立案までを民間に委ねたり、ICTやAIを活用して政策案を考えてもらったりして、行政はそれを決定して実行する機関に徹する、もしくは、行政が行う政策と民間が行う分野を明確にしながら、行政は行政が担うべきサービスだけを行うようなこともあり得ると思います。

PoliPoliでのもうひとつの仕事はルールメイキングのサービスです。これについては、このあとご登壇いただく小野寺さんが詳しいと思いますが、民間企業が政策に関わっていくという話は、今かなり注目されています。たとえば、令和元年の経済産業省の報告書には、次のように書かれています。

“既存のルールの中で確実に許される範囲でのみ新しいビジネスを模索する企業とルール変更をも視野に入れて模索する企業では、最初から競争条件が全く異なっており、どちらが有利かは言うに及ばずである。”

「どちらが有利かは言うに及ばず」と、相当強い表現です。一方で、企業側はハードルが非常に高いだろうとも感じています。中央省庁との関係を構築しながら検討会の委員になる、国会議員に提言をしていく、業界団体を設立して話を進めていくなど、そういったことに時間とノウハウがかなり必要で、それを一企業がやっていくのは大変だと思います。

ひとつの切り口として、今ちょうど募集中のPoliPoliの「1万人未来圏」をご紹介します。1万人以下の自治体を舞台に、ガバナンス、財政、産業、インフラ、技術などすべてを再発明して、それを論文に書いて応募すると、いいアイデアにはPolicy Fundから賞金を出し、それを実現するプラットフォームとしてPoliPoliが伴走支援するというものです。誰でも「あるべき社会はこれだ」と言えて、それがいいものであれば伴走してもらいながら実現に向かっていくということが、少しずつ生まれ始めています。

Section3:ボトムアップ型の市民共創の形

ミライ研では、地域の課題解決の施策検討をボトムアップで行うことができるのではないか、また課題解決に地域外の人々を巻き込むことで関係人口を創出できるのではないかという仮説をもって、YouKey Collegeという、一般社団法人「愛・南魚沼みらい塾」が実施しているプロジェクトと連携して、南魚沼で実証を行っています。

YouKey Collegeは、大学生が南魚沼に行って、地域を自分の中でいろいろと問い直しながらアイデアを形にし、地域の中でプロジェクトを実施することによって、学生たちの地域ファシリテータとしての素養を育成するプログラムです。ここと連携し、学生たちのアイデアについて、PoliPoli Govを使って市内外の方々から意見を募集します。そこで市内外の方が意見を言ってくれると、アイデアがどんどんブラッシュアップされていき、それは学生たちの人材育成につながり、より地域の課題解決に優れたプロジェクトにもつながっていきます。また、市内外から意見を言ってくれた方々にとっては、自身の知見で地域に貢献できたことで、南魚沼に対する愛着が生まれて、関係人口、南魚沼のファンになっていくのではないかということを実証しています。

いまPaletteも協力して、学生たちが地域について学び、意見募集をし、実際に南魚沼で進路の相談会を行ったり、地域の自然マップを作ったりしています。今後は、市内外の方々にアンケートやインタビューを行い、どうすれば南魚沼に関わってもらえるのかを調査・研究していきたいと考えています。

ただ、今すごくモヤモヤしているのは、いい活動が生まれたとしても、それを担うリソースがないということです。

そこで考えたのは、カレッジの学生が出したアイデアに対して、市内外の人が自分も意見を出して応援したいと思ったときに、ふるさと納税や地域おこし協力隊などの制度も使いながら、人的・金銭的なリソースをそこにつぎ込めるような仕組みです。そのリソースを使って持続的にアイデアを実装すれば、それが行政に政策として採用されてリソースが投下される、こういう世界もあり得るのではないかと考えました。

最後に今回の話をまとめて、私からの問題提起を終わります。

  • 政策とは何か
  • 政策が等しく(未来も含めた)国民のためのものであるならば、声の大きい問題や今の利益を優先する民主主義を変える必要はないか?
  • 政策の主体が行政であるとされているならば、市民や企業も政策の主体になりうる形にアップデートする必要はないか?
  • アップデートするにあたって、市民や企業が行政と政策を共創するハードルを下げるには?
  • 政策を市民や企業が共創していく社会の先に、その担い手をうみだす社会の仕組みとは?

政策デザイン×参加デザイン

PRESENTER:小野寺 晃彦氏

先日、大リーグでドジャースが優勝しました。大谷翔平選手は二刀流で大活躍でしたが、私はそれを上回る三刀流を標榜しています。1999年に自治省(現・総務省)に入省して、地方創生プロジェクトなどを担当しました。2016年から政治家として青森市長を2期務めた後、公共コンサルのマカイラ株式会社に参画し、この三刀流を売りに仕事をしています。

マカイラ株式会社

マカイラは、公共戦略、公共のルールメイキングについてお手伝いすることを、民間企業の立場でやっています。これを業界用語でパブリックアフェアーズ(Public Affairs)と呼んでいます。スタートアップ支援から始め、今はモビリティやサーキュラーエコノミー、フィンティックなど、いろいろやらせていただいています。

たとえば、市民やNPO、あるいは企業の方が、「こういう規制緩和ができないか」と政治家や行政に相談に行ったとして、やはり行政のルールや政治家のワードがあるわけです。行政機関のスケジュール感は全然わからないし、政治家が使う符牒もなかなか通じません。そういったところをマカイラが通訳するという言い方をしています。

マカイラのお客様は市民の皆さんや企業、ベンチャー企業、スタートアップの方々ですが、Innovation Focus(既得権益の打破)、Social Good(社会への便益)、No Rent Seeking(個社利益NG)というルールがあって、ただ自分の会社が儲かればいいというようなお話はお断りするということを最初から明示しています。

政策×参加のデザイン〜市民の声の反映〜

皆さん、TTPという言葉をご存じでしょうか。「徹底的にパクる」の略です。企業でも自治体でも、うまくいっている事例をパクっていくのは基本で、私が青森市で市長職を務めたときも、TTPを一生懸命やりました。

政策に市民の声を反映させるための参加のデザインには、いろいろなものがあります。たとえば、三重県津市では、市内37地区で半年に1回、地域懇談会を開いていて、前葉泰幸市長自らが出て行って市民の話を聴いています。平成27年から市内37か所をぐるぐる回っていて、今年で388回になるそうです。その話をセミナーで聞いて衝撃を受け、ぜひ青森でもやりたいということで、平成29年の就任後、すぐに市内37町会連合会をぐるぐる回るタウンミーティングをやりました。

若者の声を聴くということでは、愛知県新城市の若者議会が話題になりました。予算提案権まで付けて予算の使い道を若者が考えるという議会で、非常に感銘を受けました。青森市にも子ども会議はあったのですが、非常に小さくやっていたのを、議場に入ってもらって、市当局に向かって堂々と提案するという会に変えました。

政策×参加のデザイン〜企業の声の反映〜

企業の声の反映では、福岡市のFukuoka Growth Nextが有名です。旧大名小学校という廃校になった校舎をスタートアップ支援施設に変えて、延べ約400社が入居しています。青森市でもぜひこれをやりたいということで、商工会議所の1階を借りて、Aomori Startup Centerをつくりました。当初は「スタートアップって何ぞや」という雰囲気でしたが、2022年度までに101件の創業を成し遂げました。

また、2008年に横浜市が「共創フロント」という、全国初の官民連携窓口を作りました。2024年度までに500件以上の企業とのコラボ事例が生まれています。これもぜひ取り入れたいということで担当課を設置し、OPEN CITY AOMORIという公民連携ポータルで受け付けています。青森の有名なねぶた祭で出た廃材を、株式会社クリーマと連携してアップサイクルするプロジェクトなどを実施しています。

政策×参加のデザイン〜デジタル民主主義〜

Decidimは、兵庫県加古川市の駅周辺のまちづくり、福島県西会津町の協働のまちづくりや地元高校の活動などで使われています。Liqlidも、鎌倉市の「まちかどベンチ」プロジェクト、千葉県木更津市の自転車によるまちづくり、柏市の柏の葉スマートシティの公園をどうするかというエリアマネジメント的な取り組みなどに使われています。デジタルプラットフォームは、今の参加型デザインでは当たり前になっていますが、これをどう使うかはこれからの課題だと思います。

また、企業の声では、SOCIALX(ソーシャルエックス)が「逆プロポ」という仕組みを提供しています。これは、企業が関心のある社会課題を提示して、それに対して自治体の側がプロポーザルをします。たとえば、企業側から「動物を通じた子どもたちのワクワク体験を一緒に作りませんか」とか、「ふるさと納税寄付で見守り活動ができるかを検証したい」などと提示して、自治体がそれに応募します。企業の参加は、かつては自治体の官民連携窓口を一つひとつ当たっていたのですが、それを取りまとめるようなサービスができてきているのは、デジタル民主主義ならではだと思います。

政策×参加のデザイン〜課題〜

市民参加で政策を作っていくときの課題を3つ、実例に応じてご紹介していきます。

① AIの活用
東京都港区がAGREEBIT(アグリービット)社のD-Agreeという議論プラットフォームを使って、区の総合計画を策定したことがニュースになりました。D-Agreeは、ファシリテーションにAIエージェントを使っています。

AI導入には課題があり、それが中小企業AI活用協会研究サイトにまとめられています。まず、AI導入にはメリットがある一方で、倫理的・社会的な課題があります。AIは学習データによって、どうしてもいろいろなブレが出ます。まんべんなく公平に取り上げるわけではなく、大きい声、わかりやすい意見が取り上げられやすくなったりします。また、AIのブラックボックス化の問題は、参加型デザインに限った話ではありません。AIが判断したファシリテーションが、実際どのように順番付けしたかを説明できません。さらに、デジタル基盤を使う以上、どうしても若年層やITに詳しい方の意見が集まってくるという格差が出てくる恐れがあります。

② 議会民主主義との両立
2つ目は議会との関係です。福島県西会津町では、Decidimを活用して総合計画を策定しています。その取り組みについてのトークセッションで、西会津町の藤井靖史CDO(最高デジタル責任者)がこう指摘しています。「住民と行政がデジタルで直接つながって合意形成を行う仕組みは、民主主義を担保する三権分立が成り立たない状態を加速させる可能性もある。しかし、我々が血を流して獲得した選挙という仕組みをないがしろにしてはいけない」。これは重要な投げかけだと思います。一方で、行政が使うなら議会も使えばいい、という議論もあります。

③ 社会便益と個社利益
3つ目は、2023年に新聞報道等で話題になった福島県国見町の高規格救急自動車の事業です。企業版ふるさと納税を、いわば悪用して、寄付金還流のような形でビジネス化しようとした会社社長の「自治体の行政機能をぶん取る」という発言が報道されて大問題になり、最終的に事業は中止になりました。

東洋経済オンラインの記事をお借りすると、「官民連携を一概に否定するつもりはない。だが、地方創生もデジタルも地域発展の手段であって、それ自体が目的ではない。そして、公金を原資に使う以上は何をするにも確かな民意の裏付けがなければならない。私たちの公金は、一企業が営利のために好き勝手に使っていい代物ではない。主体性なき自治体の官民連携には、いずれ大きな落とし穴が待ち受ける。持続可能な地域社会の実現には、住民一人一人が自治の主体として権利と責任を意識し、意思決定に関わる不断の努力が欠かせない」。一企業が営利のために公金を使っていいということはないはずで、この辺の落とし穴をしっかり判定していくことが大事だと思います。

三重県桑名市の伊藤徳宇市長が、すごく大事なことをおっしゃっています。桑名市で官民連携が成立する割合は26%で、「民間提案の4分の3は実現していないということですよね」という問いかけに対して、「確かに、民間のただの営業も多いです。しかし、行政では出てこない答えは民間が持っています」。

官民連携、市民参加に取り組む価値はある、ただ、気をつけなければいけないことがある、ということです。

冒頭に戻って、弊社マカイラは、だからこそNo Rent Seeking、個社利益の代弁者にはならない、Social Goodである事業に対して支援するということに取り組んでいます。


政策における市民・企業参加のデザイン

PRESENTER:石塚 理華氏

公共とデザイン

私たち「公共とデザイン」は、ソーシャルイノベーション・スタジオと名乗っていて、2021年に法人化した団体です。企業、住民、行政と手を取りながら、どうすれば手触りある社会をつくっていけるのか、どういう形で協働すれば、隠れたニーズを見つけて、それを活動につないでいけるのかを模索している団体です。

最初に、私たちが大事にしていることをいくつかご紹介します。

ひとつは、個人のモヤモヤ、生活の中で感じている課題感、心配事、関心事といったものを、コミュニティや社会につなぎ直していくことです。

たとえば、「パートナーと2人で都内に住んでいて、働きながら子育てしたいが、両親も近くにいない。仕事と両立できるだろうか」という課題があったとします。

こういう課題は、「あなたが、そこに住んでそういう仕事をしているから悩んでいる。それなら、あなたが仕事を辞めるか引っ越せばいい」というように、個人の問題として捉えられがちです。しかし、少し引いてコミュニティという観点で見ると、地域で高齢者が孤立している、学生が自宅と大学との往復だけで地域に関わりを持たない、地域で子育てしようといっても子育てをしているのは子育て世帯だけなど、世代間の関わりの欠如が見えてきます。あるいは、もっと広い社会という領域で見たときには、高齢者の孤独死、若者の流出、子育て世帯の減少、税収減少などの社会的な問題、あるいは惑星的な気候危機という大きな課題にもつながっています。この「つながりあっている」という感覚を、改めて取り戻していくことが重要だと考えています。

もうひとつは、行政・企業と私たち市民のあり方を変えていくことです。現状、行政・企業と市民の関係は、「行政や企業が考えて作ったものを提供します」「では、私たち市民はそれを受け取ります」という構造になってしまいがちですが、そうではなくて、市民が行政・企業と一緒に声を上げられるような場所をつくっていく。そこから何か活動だったりルールだったり、そういうものを生み出していくためのきっかけをつくっていく。その場自体が、参加した方の人生の可能性、何かやりたいことを形にしていく力を得られるような場になっていくことを目指すといいのではないか。デザインの領域でいうと、Co-Designの話と近いのですが、誰々のためのデザインから、デザインwith、デザインbyと、どんどん変化していったほうがいいという話をしています。

その中で私たちは「ライフプロジェクト」という、ミラノ工科大学のエツィオ・マンズィーニ(Ezio Manzini)先生の言葉を使っています。

これは個人の内発性や衝動から生まれるプロジェクト(活動)が、社会を形づくるものになり得るという考え方です。たとえば、ある人が、「街の中でみんなが食べられる野菜や果物を育てたいが、公園でそれができないか」と言って、コミュニティガーデンを街の人に開くような活動をしたとします。そうしたら、そこにいろいろな地域の人たちが参加して、それが社会の風景のひとつになっていく。個人が進める活動が外側に発露していくことが、社会を形づくることになると考えて、個人の「やりたい」「こうしたい」が発露していくような社会の環境を生み出していくことを私たちの活動としています。

ちょっとわかりにくいので、盆踊りに例えてみます。何もない広場で、「踊ってください」と言われても、なかなか踊り始めることはできません。そこで私たちは、やぐらや太鼓を用意したり、音楽を流したり、屋台を出したりします。こういった雰囲気をつくれば、踊りたい人は踊り始めるし、私から踊り始めてもいい。私たちがやっているのは、人々が自律的に活動し始めるようなインフラストラクチャをデザインすることです。

そのためには、複数のセクターや立場を交えた協働のあり方が重要です。行政と企業だけではなくて、住民活動から生まれてくるものを何か制度にしていく、そこで生まれる価値観を社会に浸透させていく、そういう可能性を模索しています。

こういったソーシャルイノベーションの器を増やしながら、クリエイティブデモクラシーの実現、民主的な社会環境をつくっていくことを目指して、私たちは、行政、企業、NPO、民間団体と一緒に取り組んでいます。具体的な取り組みについて少しご紹介します。

トップダウンからのアプローチ(欲望形成のための介入)

「みやざきミライ史」は、宮崎市の高校生、大学(院)生と一緒に、探究学習をしながら政策提言を行ったプロジェクトです。市制100周年記念事業の中で行われたので、これまでの100年で培われた宮崎の価値を改めて探しながら、100年後の望ましい未来を描いて、それを実現するために5年後、10年後までにこういうものが必要ではないかという提言を行いました。

学生や市民の方に「何をしてみたいですか」「どんなものが欲しいですか」と聞くと、「(なんとなく言われているから)活性化が大事だと思います」「高齢者のための何かがいいんじゃないですか」と答える方が結構います。学生に「本当にそう思ってるの?」と3回くらい聞くと、「なんか、みんなそう言ってるし」みたいなことを言います。これはおそらく社会人も同じで、「自分がすごく注目しているから」「自分がすごく関心があるから」ではなくて、「私は関係ないけど、社会でそう言われているから」というところで言っていることがたくさんあります。「こうしたい」を醸成していくようなプロセスが大事だと思いました。

私たちは「欲望形成支援」と呼んでいますが、プロジェクトを通して、「こうしたい」を醸成していく、その支援をしていく役割を担いました。それには、ワークショップ、プロジェクト、プラットフォームなどのインフラがあるだけでは不十分で、その機会を活かしていく能力、先ほどの盆踊りの例でいうと、踊ったことがある経験みたいなものが重要になります。そこを支援する、個人が形づくりたいものを考えていくプロセスをつくりました。

併せて、個人の「こうしたい」「こうありたい」を社会のシステムに接続していくことも大事です。参加者である学生個人にとって望ましい100年後の世界、その人自身にとって望ましい生活やあり方を模索してもらい、それを提言としてまとめる過程で、まちの住民の話を聴くなど、探究学習的な地域と関わり直すようなことも行いました。そこで出てきた「こうしたい」は、行政にとって、基本構想や事業計画に反映するための潜在的な市民ニーズになっていくはずです。参加者たちの「こうしたい」を形づくりながら、それが社会の何かにつながっていくということを仮説として持っていました。

実際の活動では、学生1人が住民1人にインタビューし、それを書き起こして、それをみんなで100年の年表にしました。また、逆に100年後の未来をスペキュラティブに考えて、100年後はこういうことがあるかもしれない、こんな未来は欲しい/欲しくないと、フィクションも交えて会話しながら、時間軸を行き来しました。そのなかで学生たちが改めて、「宮崎のいいところはこういうところだ」「こういうところ私好きかもしれない」というのを見つけて、それをいろいろな場で発表したり、自分たちが面白いと思うことをやったりしながら形づくっていきました。

6つのチームに分かれたのですが、1つのチームは、道という視点から宮崎市を見てみようということで、いろいろな方に自分のお気に入りの道とその理由を聞き、キャッチコピーを付けて、そこから宮崎市の魅力を話し合いました。やはり宮崎市ならではのものがあるので、そういうものを遺産として守るというより、使いながら未来に残していくような制度があればいいという話をしていました。

また、地元の人が宮崎市を楽しみ尽くすために、それぞれ自分が一番楽しいと思うテーマで小冊子「ZINE」を作ったチームもありました。宮崎市の古着店マップや癒されに行く自然マップなどを作り、それを市民に配布するなかで、地元の人が自分なりの宮崎の楽しみ方を公表できるようなローカルサイトがあれば、それ自体が外の人たちに向けた魅力発信にもなっていくのではないかと話していました。

最後に、俳優の堺雅人さんが話をする市制100周年記念イベントがあり、1,700人ぐらい集まった宮崎市民を前に、これらの提言を高校生・大学生がプレゼンしました。

こういう望ましいあり方を共につくっていくことで、未来世代と一緒に政策や事業を考えていくことができそうだということを、私としてもすごく感じたプロジェクトでした。

ボトムアップからのアプローチ(わたしのモヤモヤから社会構造へアプローチする)

もうひとつは、私たちが助成金事業で行った「産む」に対する向き合い方を問い直すプロジェクトです。「産まみ(む)めも」というタイトルで、産まない/産みたい/産む/産めない/産もうか、にかけています。

「産む」と聞くと、皆さんが当事者として思い浮かべるのは女性のお母さんだと思います。しかし、そこには父親がいるはずですし、産まない選択をした人、産めなくて不妊治療で苦しんでいる人、特別養子縁組で血縁ではない家族の形をつくっている人、いろいろな人がいます。そういった見えない当事者と一緒に、「産む」について改めて考え直すというプロジェクトを行いました。

普通に解いていくと、見える当事者だけで終わってしまうところを、社会の課題をシステミックに捉え直すために、医療従事者、NPO、当事者団体、起業家の方々にお伺いしながら、社会の構造やその上にある社会的な価値観を明らかにするところから始めました。このプロセスの中で、いろいろな当事者、これから「産む」について考えたい人たち、アーティスト、クリエーターなどと一緒にワークショップを4回、連続で行いました。

その中でモヤモヤや問いも出てきて、現状の当たり前の社会構造を疑いながら、あったかもしれない未来を想像する、現状を問い直すためのヒントとして機能することができたと思います。そこから、私たちとして、こういう未来があり得るのではないか、こういう未来が理想の社会なのではないかという社会像の提案を最終的に行いました。

いろいろとリサーチし、いろいろな方のお話を聴いたなかには、不妊治療のあるある、特別養子縁組のあるあるもありました。一方で、自分が子どもを持つ/待たないについては、自分の道しか見えなくて、それ以外の人たちを想像することがものすごく難しい。そこで、他者の物語を実感し、モヤモヤを表現するための演劇ツールキット「産magination」を作りました。産むにまつわるさまざまなシチュエーションを想定して、自分にあったかもしれない、もしかしたらあるかもしれない立場を即興で演じてみることで、自分の中にある価値観や無意識の偏見があらわになり、それをみんなと話し合うためのツールです。

これを政策や制度につなぎ込むとしたら、何ができるかを考えるために、研究者の方たちとワークショップを行いました。

テーマは「第三者による精子・卵子提供による出産」です。これについては法律がまだ整備されていなくて、日本ではできないことになっているのですが、検討自体はされています。まだできないけれど検討されているというものについて、当事者に聞いても、そういう選択肢があったらどうなのかを想像しづらいし、政策を考えている方たちはマクロで見ていることが多いので、当事者個々人がどう感じるかまではなかなか想像できません。難しいテーマで異なる意見がたくさんあるときに、落としどころを見つけるような、これが決定された場合に生活者がどう受け取って制度として運用し得るのかを測るようなツールになったという感覚があります。政策立案時に当事者の状況を生々しく想像する補助ツールとしての可能性があるということを、このワークショップで感じました。

サマリとモヤモヤの共有

改めて、複数のセクターや立場を交えた協働のあり方が、持続的な活動にしていくうえでは大事だと思います。やはり制度を作っただけ、ルールを作っただけでは運用されないので、そこに利用する人の想いがあってこそだということを日々感じています。

一方で、個別の活動だけで社会的な意向やシステムの変革を起こしていくことはなかなか難しいと思います。たとえば、新しい規範を作っていくような活動が生まれても、個人や特定の人たちのコミットメントに依存してしまうと、2、3年で活動が終わってしまうことが往々にしてあります。面で捉えていくような活動は、行政や企業と協働して行っていかないと難しいと感じています。

こういう社会システムを取り扱うとき、長期的、あるいは公共財を目指すような取り組みに誰が資金提供するのかは、私の中でモヤモヤしています。現状、行政の制度では難しいし、個々の企業で行うこともできないと思います。

たとえば、渋谷区とのプロジェクトで、精神障害者の雇用についての社会システムをマッピングしました。プロジェクトの中で望ましい社会像を作って、それを実現するための機会領域と介入の可能性を、ポートフォリオアプローチを使って整理しました。ただいろいろな機会を作って、望ましい社会に向けてそれを実行していこうとなっても、たくさんの機会を実行するための時間とお金を意思決定していくは誰だろうと思います。EUはEU基金の5年、10年の助成金でやっているところが多いのですが、今の日本の状況ではなかなか難しいと感じています。

また、先ほどのデジタルプラットフォームや参加型予算のように、プロジェクトを受け入れて支えていくような場や機会が増えていると感じているものの、社会システムと私の「こうしたい」が接続するための方法はまだ多くないと思います。

参加のデザインを考えるうえで最後に紹介したいのは、参加とは単なる同席ではなく、「便益・負担・権限の配分を当事者主導で設計し直すこと」というデザイン学者の言葉です。参加にはフェーズがいくつかあるので、どの当事者がどういう形でどのフェーズに参加しているかを気にし続けなければならないし、それが便益や権限の配分に関わってくるので、課題の当事者(地域であれば住民)がより考えて全体設計する必要があるということです。


パネルディスカッション・質疑応答

市民・企業参加は行政の負担を増やす?

伊藤
Slidoにたくさんの質問やコメントをありがとうございます。皆さんの関心の高いものから取り上げていきます。まず、市民参加による行政の負担増加問題について2つ寄せられています。
「『多様な市民参加による行政側の負担の増加問題』をどう考えるかは重要な論点ですよね。私は必要な仕組みだと思いますが、知り合いの職員は安定を望んで行政に就職したので、イノベーションや新しい取り組みへの関心は低く、こういった取り組みも面倒だと感じるだろうな〜と話していて思います」
「『市民共創は仕事を増やす』の圧力を有形無形、様々な形で感じるときがあります」
小野寺
自治体サイドからすると、残念ながら、こういうのを面倒だと感じるというのはまさにその通りです。行政は基本的に、安定して前年と同じことができるかという継続性が大事なので、新しいことを持ってくる企業やNPOは一瞬面倒くさいと感じます。
では、どうすればいいかというと、たとえば、官民連携窓口を設けている自治体は決して多くないですが、一義的にはそういう窓口があるところを調べるという方法があります。「官民連携します」と始めたのが前の首長であっても、行政はいったん担当窓口ができると受けざるを得ないDNAがあるので、そういうところをうまく使うといいと思います。
石塚
私からは、企業というより市民参加の文脈でお話しします。私たちが行政と仕事をするなかで、リサーチの段階で住民に集まってもらって話を聴くことがあります。職員に同席してもらうこともあるのですが、結構嫌がられます。「何か言われるのではないか」「苦情になるのではないか」という負担感はすごく大きいです。
私たちとしては、そういう場に関わるときには、まず行政職員に向けて、「そういう苦情を言いに来る方は、何か言いたいことがあって、すごいエネルギーで言いに来る方が多いですが、リサーチでは普段の生活を話していただくので、そこに来て一緒にお話ししてくれるような方だと、何か悪いことになることはまずないです」と、丁寧に説明するようにしています。
谷口
負担があっても、それがその職員や自治体の評価につながるような制度、私が冒頭でお話ししたような人事制度が考えられますが、それには時間がかかります。
私がPoliPoliにいたとき、ある自治体の職員と住民との座談会を企画したことがあります。住民の方が「こんなに大変です」「これが足りないと思います」と言うのに対して、職員も、「それを言われるのもわかります」「いろいろあるなかで、こういう事情で今こういうことを選択しています」などと話していました。
そこのコミュニケーションがそれまでできていなくて、「なぜ行政はこれをやってくれないのか」という不満がたまっていたのが、行政側もそれを考えつつ、バランスをとってやっているということを言えていて、住民からも「それを知ることができてよかった」「うちの自治体のことを考えてくれている職員さんがいてよかった」と、前向きなコメントが寄せられました。そういう想いが醸成されていくのは、多少負担が増えたとしても、自治体にとっていいことだと思います。根本的な解決にはならないかもしれませんが、ひとつの方向性になると感じました。

民意を反映するのはパブコメ? SNS? それとも…

伊藤
市民の意見を聴く制度としてパブリックコメントがあります。今はパブコメに代わるものとしてデジタルプラットフォームなどが出てきていますが、こういったものが民意を正しく反映するものなのか、偏ってはいないのか、疑問に思う方もいます。
「パブリックコメントの現在の位置づけ?機能?有効性?ってたしかに気になります。個人的にはあまり意味がないのかなと思いつつ、正しい声の伝え方としては有効なのかなと思ったり…」
小野寺
パブコメはSNSができる前に作られた制度です。実際、SNSがパブコメの代わりを成してしまっていて、ある種の制度疲労を起こしているのではないかと思います。元のパブコメにはほとんど意見が寄せられていない一方で、その脇でSNS上で意見がものすごく飛び交っているのを見ると、パブコメの制度疲労をすごく感じます。
伊藤
小野寺さんが市長をされていたときはどうでしたか。たとえば、SNSなどで「これは問題だ」という声がものすごく上がってきたとき、ボット的なものもあると思いますが、実際にどのように対応されていたのでしょうか。
小野寺
ボット的なものはコピペになっているのであまり気にしないのですが、SNSでどういう意見が上がっているかというのは、やはり気になりました。政治家は実名を出すので、自分の個人アカウントに大量の意見が送られてきたこともあって、正直、気にしすぎと思うぐらい気にしました。
ただ、Xとフェイスブックとインスタグラムではメッセージの色が違います。ヤフコメと2ちゃんねるも違うということがあり、その辺のSNSの性質をわかりながら意見を判定しないと、偏った意見を気にしすぎてしまうことになります。こういうご意見も聴くけれど、私の場合は実際に町会を回って聴いたということもありますので、それをどう峻別していくかが大事です。このSNSはこういう特性があるということを考えなければいけないというのは、経験者として痛感しています。
石塚
これはパブコメというよりデジタルプラットフォームの話ですが、そこに誰が参加できるかが媒体によって違うというのは問題視されているところです。一方で、デジタルに触れない人がいるので、そこをあきらめましょうというのも違うという気がしています。
ひとつご紹介したいのは、フィンランドのヘルシンキで参加型予算の取り組みを行ったときの事例です。Decidimでプラットフォームを用意しながら、実際のリアルないろいろな場所にファシリテータ的な役割をする人を配置したと伺いました。そもそも参加型予算という取り組み自体が難しいですし、それをオンラインだけで伝えるというのもかなり難しいので、リアルな場に来た人たちにきちんと教えながら進めていったということです。そういう形で、アクセスにギャップがある人に対して、教育的な観点を担うような人たちがいることで参加のハードルを下げるような動き方が必要だと思います。
伊藤
なるほど、興味深い事例です。そういう声を上げる人を支援するような、ファシリテータ的な役割は、誰が担い手になり得るのでしょうか。行政職員なのか、学術機関なのか、それとも市民の中から手を挙げてもらうのか、どのようにお考えでしょうか。
石塚
ひとつヒントになると思ったのは、東京都美術館と東京藝術大学がやっている「とびらプロジェクト」です。市民が3年任期で参加して、アート・コミュニケータとして美術館の中でプロジェクトを行います。アートに興味がある人たちが集まって、自分たちでプログラムを作って活動していくという形で運営されています。この形は地域のファシリテータにも適用できるのではないかと思います。

「見えない当事者」をどう巻き込む?

伊藤
石塚さんは「見えない当事者」という話をされていましたが、次の2つはそれに関わる質問ではないかと思います。
「包摂とリスクマネジメントとでも言えるようなことが重要そうだと思いました。“参加しにくい人”を組み込むというのも今回のテーマの一角だと思いますが、この件についてのお考えを知りたいです」
「市民参画というとき、マイノリティであるために、いないことにされている属性の人がいるのではないか。他方で、最大公約数を目指すのが(それだけではないが)政策において重要だといえ、その意味においては、マイノリティを無視しても政策は成立するといえる。そのバランスをどうとるべきなのか悩む」
石塚
まず、今の課題がどういう社会の構造や状況で起きているのかを、システミックに明らかにしていく必要があります。
たとえば「産まみ(む)めも」のプロジェクトでは、「産む」を直接的にやると子育て当事者だけになってしまうところを、そこから外れているけれど「産む」に関わる人たちを見つけていく、透明になってしまっている当事者を探していくということを行いました。この声を上げられない当事者、包摂されていない人が誰なのかをわかっておくことが必要だという気がします。施策を行うときの優先順位は低いかもしれませんが、少なくともそういう人たちがいるということを、施策をする側がわかっておくことは大事だと思います。
また、行政の中でリサーチを行うときに、いま本当に困っている人たちにアプローチすることが難しいことがあります。ヒアリングやリサーチ自体がその方を傷つけてしまうことになるかもしれないとか、その余裕がないという場合もあります。たとえば子育て当事者で、6か月の子どもがいるお母さんにリサーチの時間を取ってくださいとはなかなか言えません。そういった場合に、そういう経験をされた方や周辺の支援者にお話を伺うことがあります。渦中にいる人を必ず巻き込めるかというと、そうではないこともありますが、なるべくその人たちから遠くならないような形で関わっていって、改めてどうやって関わっていくのが理想かを一緒に考えていくのがいいと思います。
伊藤
小野寺さんはタウンミーティングの話をされていましたが、いかがでしょう。
小野寺
議会制度が始まったのは明治で、もともと議会はパブコメ的なものとして生まれたはずです。ただ、たとえば議員に知り合いがいない人は意見が言えないので、それをタウンミーティングで聴くようになったというようなことだと思います。明治から大正、昭和、平成、令和と、ご質問の“参加しにくい人”やマイノリティは、圧倒的に声を上げやすくなってきています。それでも、たとえばデジタルが使えない方、マイノリティで声を上げづらい方に寄り添って声を聴くには、タウンミーティングのようなアナログの取り組みだったり、子ども議会だったりというように、それは永遠の工夫だと思います。
SNSはパワーがあるし、誰でも発信できます。だからマイノリティの皆さん、かつては声を上げられなかった方々も普通に上げられるようになっていて、そこをどうやって声を拾い上げていくかだと思います。SNSにも良い面と悪い面があって難しいですが、そういうツールができていることはすごいと改めて思います。
伊藤
谷口さんはいかがでしょうか。
谷口
先日、奈良市の月ヶ瀬地区のプロジェクトで調査を行いました。旧月ヶ瀬村で、住民が1,000人ぐらい、数年前までは議員を出していたけれど、今はもう議員を出せていないという地域です。そうすると何が起こるかというと、移動手段があまりないので行政がタクシーチケットを出すという話になったときに、そもそも月ヶ瀬地区にはタクシーが来ないのに、タクシーチケットだけは送られてきたということがあったそうです。議員を出せなくなると、声が届けられなくなって、行政サービスも含めて政策を享受できなくなっていくということが、おそらくこれからいろいろな地域で起こり得ます。かといって、そういった人たちの声を拾っていって、全部を政策に反映していくというのも限界があると思いました。
私たちが月ヶ瀬に入ってやっていたのは、もう行政に頼らずに、自分たちで生きていかなければならないとなったときに、それをどういう持続可能な形でできるのかを探ることです。政策がアプローチできないのであれば、そこを民間や自分たちでできるような仕組みにするという考え方もあります。最初に申し上げた政策とは何かという定義とも関連しますが、その部分は考えようの幅があると思ったところです。

法人の形態で官民連携に違いがある?

小野寺
Slidoに「公共とデザインさんは一般社団法人ですが、いわゆる株式会社等としてやるのと一般社団法人やNPOで参画していくのとでは、なにか違いはあるのでしょうか?これは、小野寺さんサイドの話としても聞いてみたいです」という質問をいただいています。私もすごく興味があるので、実際やってみてどうなのか、石塚さんにぜひお聞きしたい。
石塚
私たちのやりたいことは、NPOでは難しいと思っています。私たちは、たとえば障害者に係る取り組みを子どもや福祉の領域につなげたり、都市につなげたりということをやっています。NPOは活動の領域が決まっているので、その領域の中で動くのは難しいと思います。もうひとつ、株式会社でもできなくはないのですが、気持ちの問題として、株式会社にすると最終目標が利益になってしまうので、そうではない形で法人活動がしたいと思って社団法人にしたというところがあります。
伊藤
逆に小野寺さんにお聞きします。受けるほうの行政サイドとしては、どういう法人がどういうサイズで来るかによって初見の印象が違うものですか。一般社団法人とNPOと株式会社では、受けとめ方に差があるのでしょうか。
小野寺
マカイラとしての小野寺と行政経験者としての小野寺で2つあります。マカイラとしては、株式会社のほうが仕事がしやすいと感じています。一般社団法人やNPOの支援もしているのですが、往々にしてビジネスモデルとして成立しない理想を言われることがあります。もちろん、たとえば平和といったビジネスに乗りにくい事業もあり、我々も実際にそれを支援しています。一方でGXのような環境系は、最後は利益を出すことを考えて仕事をしているところと、純粋にCO2を減らさなければとやっているけれどそれがビジネスに乗りませんという話をしているところでは、やはり永続性に違いがあるので、そこは株式会社だとDNAが合うというところがあります。
一方、行政経験者としては、逆に株式会社が来るとちょっと警戒する、営利目的ではないか、自社の利益で来ているのではないかといったん警戒するというのは、やはり公務員のDNAとしてあります。NPOや社団法人のほうが、いったんは安心するということはあります。何が正しいかはないと思います。このあたりは法人とは何だろうという深い議論でもあるので、すごくいい質問をいただいたと思います。

私たちが未来の利益を選択するために

石塚
谷口さんがおっしゃっていた未来世代の利益を考えた選択をどう行うかという話は、参加型デザインの領域でも非常にホットなトピックです。たとえば、孫世代が大人になった時にどういう自然資源が残っているかを想定したうえで、何かを決定していくというのはなかなか難しいし、それが長期的な課題であればあるほど、その決定にはかなりの想像力が必要になってきます。それについて、こういう方法があるのではないかというのがあればお伺いしたい。
谷口
石塚さんの資料にもありましたが、その役になりきるという手法は有力だと思います。先日、あるプロジェクトで、過去に起きたことが本当に正しかったかどうかを、いろいろなステークホルダーの役になりきって対話してみるということを体験しました。単に「想像してみてください」ではあまりピンとこなかったのですが、役になりきると、本当に自分の内発から出るところがあって、自分ごと化されて納得感が違いました。想像とは全然違う感覚でした。
伊藤
たとえばインフラにしても、水道管や道路は必ずどこかで補修しなければならないのですが、ではその費用を誰が負担するかというのは、かなりリアルな話です。そういった意味で、「未来を語る」ということは学術的にも重要ではないかと思います。
自治体行政がやっている仕事の多くは、実は未来の話です。計画を作ります、戦略を作ります、ガイドラインを作りますというのは、全部未来のことを考えています。ただ、従来のように、線形的にこうなるだろう、人口が増えていくだろう、財政収入が増えていくだろうと予想可能だった時代ではなくなっています。非線形的とか複雑な未来などと語られますが、そういったなかで従来とは異なる形で、まさに自分ごととして、他人の未来予測ではなく私たちの未来予測として、未来思考としてそれを担って考えていくことが非常に重要なこととして上がってきています。だからこそ、それがホットなトピックになっているのだろうと思います。
そういう意味で、私は「未来の主流化」と言っています。未来を、計画やガイドラインや戦略の真ん中に置いて、具体化していくことが求められています。それには行政だけでなく、市民や企業も参加していくことが必要だと思います。それは多様性が、不確実なものをめぐる正しさの可能性を上げることになるからです。
マカイラさん、公共とデザインさん、そしてミライ研のような組織が増えていくこと自体が、今日の話のひとつの解になっていくと思いますので、ぜひ皆さん、これを機に関心を持って、さまざまな形でつながっていただければと思います。本日はどうもありがとうございました。

メンバー紹介

  • 谷口 翔太郎

    Shotaro Taniguchiエバンジェリスト

    2015年NTT東日本に入社。企業法務・知財を中心に、消費者庁や株式会社PoliPoliへの出向を経験。現在は、主にミライ研活動の全体方針立案などを行うとともに、地域循環型社会の実現に向けた社会の在り方(必要な仕組み、制度や法令等)について研究。Paletteの企画運営のほか、地域×テックや地域×音を切り口にした調査研究、官民共創・政策提言など。

  • 伊藤 将人

    Masato Ito国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)研究員

    地方移住定住や関係人口、交流人口など地域を超える人の移動と、持続可能なまちづくり/地域振興に関する研究や実践、政策立案に携わる。近年は、移動の社会学をテーマに、移動から世界/社会を考える研究にも力を入れている。

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