「Palette〜地域とミライをつくるゼミ〜」第4回 レポート

地域文化を活かす・発信すること×企業の関わり方
〜Palette参加企業の皆様の発見とモヤモヤ〜
& Palette 2025年度夏の懇親会

DATE
2025年9月3日(水)16:00〜20:00
VENUE
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
PRESENTER
  • 小穴 啓介氏(株式会社スマイルズ プロジェクトマネージャー兼バトンのヨコク事務局員)
  • 蓑毛 萌奈美氏(株式会社スマイルズ PR担当)
  • 葛西 啓之氏(株式会社 いのちとぶんか社 代表取締役)
ORGANIZE
  • NTT東日本 地域循環型ミライ研究所
  • 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
PROGRAM
  1. イントロ
  2. 株式会社スマイルズ 小穴 啓介氏から話題提供
  3. 株式会社いのちとぶんか社 葛西 啓之氏から話題提供
  4. グループディスカッション
  5. ディスカッション・質疑応答
  6. Paletteの運営について

「Palette〜地域とミライをつくるゼミ〜」の第4回は、参加メンバーが対面で話し合いながら文化×地域を考える、現地開催の特別懇親会として開催されました。

いつも議論に参加いただいている株式会社スマイルズの小穴氏と蓑毛氏、株式会社いのちとぶんか社の葛西氏にご登壇いただき、「地域文化を活かす・発信すること×企業の関わり方」を切り口に、さまざまな取り組みの中での発見やモヤモヤを共有しながら、グループディスカッション、質疑応答で議論を深めました。


Smiles:地域課題のピントとヒント 時々、お困りごと

PRESENTER:小穴 啓介氏

私は株式会社スマイルズでプロジェクトマネージャーを担当しています。もとは出版社に所属して、『ディスカバー・ジャパン』という日本の魅力再発見をテーマに掲げた文化系の雑誌を担当していました。当時は日本全国を飛びまわる生活で、47都道府県すべてに行くということを20代で達成しました。その後、スマイルズに所属し、地域ブランディングや事業支援、コンテンツづくりなど、地域の課題に伴走しながら寄り添うアウトプットを続けています。その流れのなかで2022年にコクヨ株式会社との共創ユニットが立ち上がり、地域共創ユニット「バトンのヨコク」に発足当初から携わっています。

妄想と実業が得意です。

スマイルズについては、スープストック東京というスープの専門店でご存じの方もいらっしゃるかと思います。そういった飲食などの実業をやっていて、よく「我々は妄想と実業をやっています」という言い方をします。どういうことかというと、いまスマイルズが取り組んでいる事業には大きく「自分事業」と「コンサル・プロデュース」の2つがあり、この2つの領域を行き来しながら事業を展開しています。

「自分事業」は、自分たちの会社が汗をかいてやる事業です。飲食業のほか、アパレルとしてgiraffeというネクタイブランドを運営しています。PASS THE BATONという新しい形のリサイクルショップも運営していて、年4回イベントを実施しています。

そういった自分事業を展開するなかで培った経験を活かして、外部のコンサルティングやプロデュースを行っており、私は主にこの「コンサル・プロデュース」に従事しています。

何をやっているかというと、事業づくり、エリア開発、新規事業の支援、企業のCIやVIのデザイン、飲食業の背景を活かした社内シェフによるフードプロデュースなど、ほぼ何でもやっています。この多岐にわたる事業の中から、きょうは「地域プロデュース」に視点を当ててお話しします。

“かたいもの”を“やわらかくする”現場仕事をしています。

この地域プロデュースでやっていることを平たく言うと、固いお題をいかに柔らかく届けていくかという現地仕事です。伝統的工芸品をプロデュースしたり、ちょっとお固い企業のウェブサイトをリニューアルしたり、町工場のプロデュースをしたり、いろいろな地域の小さな固いものを柔らかくする仕事をしています。

地域のユニークネスを、価値に変える。

「バトンのヨコク」のテーマは、地域のユニークネスを価値に変えることです。もう少し具体的にいうと、次の3本の活動を軸に展開しています。

  1. 地域と企業を結ぶ「プラットフォーム活動」:自治体や企業が一堂に集うカンファレンスや企業間交流を促すイベントなどを行っています。
  2. 自ら実践・実験する「課題解決活動」:自分たちが実際に地域に出向いて課題解決プロジェクトをしている活動で、地域伴走プロジェクトのほか、「カダイエット」という課題を適切に設定するためのワークショッププログラムをこの9月にリリースしました。
  3. 実践知を届ける「情報発信活動」:我々のウェブサイトでいろいろな企業の取り組みや自治体の優良事例を発信したり、ポッドキャストで、音声によって我々の想いや地域活動の裏話をお届けしています。

「バトンのヨコク」は、小さな地域の“お困りごと”に向き合う姿勢を大事にしています。たとえば、関西の小さな村のブランディングプロジェクトでは、現地で地元のおじさんと鳥鍋をつつきながら、どんなことに困っているのか、何を解決したいのかをヒアリングして村の未来を考えました。

地域プロジェクトで見えてきた視点

スマイルズやバトンのヨコクで地域プロジェクトに取り組むなかで見えてきた視点があります。地域に行くと、いろいろな話を聞きます。
「なんか流行っているし、アートトリエンナーレ!」
「とりあえず話題づくりだ! ゆるキャラを作ろう!」
「ウチの町にもインバウンド対策が大事だ!」

全部が間違ってはいないと思うのですが、我々はそこにすごく違和感があります。本当に向き合うべきなのは課題の側なのに、地域に行くとどうしても、何ができたかというアウトプットにばかり目が向けられてしまいます。

課題のクリエーションにこそ価値がある。

このアウトプットではなくて、「課題づくり」にこそ本当の価値があるのではないかと我々は考えています。その地域がどんな課題を抱えているのか、何を解決しなければいけないのか。そこを丁寧にひも解くことによって、おもしろいユニークなアウトプットが生まれていきます。

我々が課題づくりをするとき、すごく意識するのが「ピントとヒント」という考え方です。

「ピント」は課題設定の視点です。山積する課題の中から、この村では何にフォーカスして解決しなければいけないのか、どんな課題が決定的な解決策につながるのかを、しっかりディスカッションして絞り込んでいくことが大事です。「ヒント」は、その見つけた課題に対して、どうやって解決していくのかという手段側です。これはアイデアと言い換えることもできます。この2つを掛け合わせていくことによって、地域の文化にしっかり根づいたユニークなアウトプットが増えるのではないかと思います。

ここでひとつ、皆さんに考えていただきましょう。「遅いエレベータ」という事例です。ある都心のビジネスビルには、エレベータが1機しかありません。これがすごく遅くて、とにかくエレベータの待ち時間が長いと、利用者からクレームがたくさん来ています。このとき、皆さんはどういう解決策を提案するでしょうか。

この話をいろいろなところですると、「エレベータを新しくして最新型を導入しよう」という答えが多いのですが、実はすごく画期的な解決策があります。それは、エレベータホールに鏡を付けることです。

本当の課題は「エレベータが遅いこと」や「エレベータの台数が足りないこと」ではなくて、「利用者がエレベータの待ち時間が長いと感じていること」です。これを課題と捉えると、鏡を付けることで、利用者は身だしなみを整えたりして、エレベータを待つ時間が苦にならなくなります。心理コストをどう減らすかが、この事例における課題設定なのに、新しいものを導入しようという思考回路になってしまいます。このピントをどう合わせていくかは、地域においてもすごく大事なポイントです。スマイルズはこのピントとヒントという考え方で、地域課題の解決をお手伝いしています。事例を3つ、ご紹介しましょう。

CASE 1 デデデデデンサン(伝統的工芸品産業振興協会)

伝統的工芸品産業振興協会から、「工芸品と若年層との新規接点をつくってほしい」というお題をいただきました。短絡的に考えると、「若者向けに商品開発をしよう」「原宿でポップアップすれば接点をつくれるのではないか」となるかもしれません。

我々はピントとヒントという考え方に基づいて、伝統的工芸品の本当の課題は何なのかを考えていき、実は、生活者との距離感をどう埋めるかではないかと捉えました。課題は新規接点の場をつくることではなくて、どうコミュニケーションでその距離感を埋めていくかだと捉え、ヒント側のアウトプットを考えていきました。

たとえば、伝統的工芸品はこれまで、「こんなに複雑な工程で作られたから素晴らしい」という、作り手目線でPRされていました。そうではなくて、「これはどうやって使うのだっけ」という生活者目線でPRしてはどうだろうか。作り手の目線ではなく、使い手の目線からの販促PR施策に取り組むことをアウトプットとしてプロデュースしました。

ごく普通の机に伝統的工芸品を置き、神社によくある三方にクリップを乗せてみる。伝統的工芸品に造詣の深い方からすると失礼なアプローチかもしれませんが、若い方にとっては、「これぐらいの感じで使っていいんだ」とか「こう並べると意外と可愛い」などと、伝統的工芸品と生活者の距離がグッと縮まった瞬間があると思います。このPR手法を百貨店の催事や売り場に持っていき、販促PRをさせていただきました。

CASE 2 シオクリビト(福島県商工会連合会)

シオクリビトというプロジェクトは、福島県商工会連合会からお仕事をいただきました。物産展などで販売していたが、コロナ禍でイベントがなくなったので、急ぎオンラインで開設しなければならなくなったというご相談でした。いただいたお題は、オンラインにおける地域産品の販促とPRです。

巨大ECモールに出店するとか、とにかく商品を100個ぐらい集めてPRするといったことが想起されやすいと思います。ただ、普通のECサイトではモノ紹介が埋もれてしまうのではないかと思いました。それをどう解決するかと考えたときに、ECサイト自体にファンが根付いて、そこでしっかりコミュニケーションすることが、長期的には大事ではないか。短期的な収益ではなく、長期的にそのサイトのファンになって購買が生まれる状況をどうつくっていくか。こういったことを課題として設定していくと、こういう手法が生まれました。モノではなくヒトを主役にしたECサイトを制作して、「〇〇さんが作っています」ということを全力で押し出していく。だから、このサイトは、かなりスクロールしないと商品が出てこないという不便な設計になっています。エモーションコマースという感情や想いで購入していくことをPRの拠りどころとして、このサイトを運営しています。

CASE 3 an and an(スナックQuattro)

これはan and anというブランドをプロデュースさせていただいた事例です。和歌山市にアロチというスナック街があります。そこのスナックのママから、「スナックの客が減ったから何とかしてほしい」という依頼があり、私も現地に行きましたが、とにかく人がいない。スナック街とは言えないほど真っ暗な状況が続いていて、「昔は繁忙だったんだけど…」というママの声を聞きながら、どうやってこの状況を打破していこうかと考えました。

普通に考えると、「ナイトツーリズムで観光客を呼べばいいのではないか」とか、「地域の人に使ってもらうことが必要だから、地域割クーポンを配布して利用率を上げよう」とか。こういったアウトプットも正しい打ち手だと思いますが、我々は課題として、昼の時間を使った新しいビジネスモデルをつくることが必要ではないかと考えました。スナックという業態自体、地方ではどうしても難しいので、夜はスナックをやりながら昼にも何かできることが持続性につながるのではないかと考えました。生まれたのは、スナック発のスナック(お菓子)ブランドです。社内のシェフと一緒に考えて、スナックブランドをプロデュースしました。スナックのママたちが自分たちの手で、一つひとつ作っています。これを和歌山のアロチの特産品としてプロデュースしました。背景のユニークさからいろいろなメディアに取り上げられ、なんと今年の春、東京駅地下のグランスタにお店をオープンするに至りました。まさにシンデレラストーリーで、スナックのママさんも、「まさかこんな舞台に自分が立つなんて」とおっしゃっていました。

ユニークな課題には地域独自の文化がまとう。
ユニークなアウトプットではなくて、ユニークな課題をどうつくっていくかを考えていくことで、必然的に地域独自の文化(ヒトがおもしろい、スナックのママ文化など)がまとってきます。これが、これら3件の事例から我々の感じたことです。

最近のお困りごと

  1. 勢いある、あの担当者はいずこへ…
    地域の方、特に行政の方は入れ替わりが激しくて、最初に「よし、やろう」と言ってくださった方が異動していなくなると結構つらいです。
  2. 小さいけど多いステークホルダーの複雑性
    全然関係のない地元のおじいちゃんからクレームが入っても、そういう方々を見過ごせません。こういうステークホルダーとどう向き合っていくのか。特に地域に拠点がなくて、いちいち出向いていく関係性の中で、どう地域との接点をつくっていくかはすごく難しいと感じています。
  3. NOTボランティア、持続的な予算確保
    バトンのヨコクとスマイルズでは、企業や自治体からお金をいただいて地域の活動をしていますが、どうしてもやりたいことができてしまうと、ボランティアっぽくなってしまう部分があります。地域も潤うし、我々もしっかりビジネスができるような持続的なスキームづくりがすごく難しい。ここは目下、直面している課題です。
  4. 「いいね やろう! 1年後ですが」というスピード感
    「議会の関係で、今年は無理でした」とか、予算取りのタイミングで後回しになることも多くて、スピード感がなかなか地域と合いません。我々としては明日にでもやりたいことが、「承認の関係で半年かかります」ということもよくあります。
  5. うまくいきすぎると、新しいことができない
    うまくいきすぎて、新しいことができなくなるということに最近、直面しました。3年くらい結果を出して、違うことを提案すると、「今うまくいっているので、変える必要はないです」。「3年後、どうなっているかわからないですよ」と言っても、「少なくとも3年間盤石であればOKです」と、目先の変換がうまくできなくなると感じています。
  6. 地域の課題解決、1社でやる時代は終わり、仲間を!
    地域課題解決を1社でやる時代は終わったと感じています。きょう参加されている皆さんと一緒に何かできたり、いろいろな仲間でもって面として地域にぶつかっていくことは、地域にとってもいいことだと感じています。こういった地域課題解決や、ピントとヒントの考え方を皆さんと一緒に実践できればいいと思います。

宣伝させてください!

10月31日に「地域課題の大視察展」というイベントをやります。地域をめぐるピントとヒント展、地域の名プレーヤーの方々によるトークセッション、大名刺交換会、展示なども予定していますので、時間があればぜひ遊びに来てください。


株式会社いのちとぶんか社:ぶんかで、いのちを、つなぐ。

PRESENTER:葛西 啓之氏

私はプロの和太鼓奏者として活動しつつ、いろいろなことをやっています。和太鼓との出会いは高校時代の部活で、そこで和太鼓にはまり、太鼓をたたきすぎて首の骨を疲労骨折してしまいました。東京大学に進学してからも太鼓への情熱は消えず、和太鼓グループ彩-sai-というサークルを立ち上げました。卒業後は広告代理店に入社しましたが、やはり太鼓をやりたいということで、2013年に退社してプロの和太鼓奏者に転身しました。以降、海外も含め各地で演奏活動を行っています。

創作太鼓とは

我々がプロとしてやっている和太鼓を“創作太鼓”といいます。これは、和太鼓の楽曲を創作し、興行で演奏して食べていくジャンルです。もちろん楽器の和太鼓自体は昔からありますが、この創作太鼓の文化は非常に新しく、戦後の1960年代に始まったものです。
1970年頃から地方創生事業などと絡み合ってブームになり、1980年代以降、音楽エンタメと和太鼓が結びついて、西洋楽器ともコラボして、ひとつの市場になりつつあります。今ではアマチュアや地域の団体も含め、1万以上のチームが国内で活動しています。

創作太鼓以前の太鼓の歴史

太鼓は縄文時代からあったのではないかといわれていて、縄文土器の中に、革の面を張って太鼓のような使い方をしていたのではないかというものがあります。また、2022年に奈良県で出土した太鼓形埴輪(6世紀前半)は、おもしろいことに今の和太鼓と全く同じ形をしています。文献としては『古事記』に初めて太鼓が出てきます。有名な天の岩戸のシーンで、天鈿女(アメノウズメ)という女性の神様が太鼓を踏み鳴らして、天照大神を岩戸から出したということが記されています。

太鼓がどのように使われてきたかというと、わかりやすいのは稲作との結びつきです。雨乞いや虫送り(太鼓の音は邪を払うといわれ、稲についた悪い虫を払うとされる)で、伝統行事として豊作祈願に太鼓をたたくことがあります。

戦国時代には戦と結びつき、戦を描いた絵巻物に陣太鼓が出てきます。味方を鼓舞したり、敵を威嚇したり、また情報伝達のための合図として使われました。石川県に伝わる御陣乗太鼓には、上杉謙信の軍勢に攻められた村人が、鬼の面とワカメを被り、太鼓を打ち鳴らして夜襲をかけたところ、「妖怪が出た」と上杉勢が退散したという逸話があります。

江戸時代に入ると、時刻を知らせるために太鼓が使われるようになり、今でも太鼓門や太鼓櫓の残るお城やお寺があります。

このように和太鼓はいろいろな使われ方をしてきました。時々の社会情勢に合わせて柔軟に役割を変化させてきましたが、形は一切変えていません。究極の美ともいわれます。

いのちとぶんか社設立

この和太鼓が、戦後復興の中で、日本人のアイデンティティを取り戻すという文脈で注目されたのが1960年代です。1970年以降は高度経済成長の流れに乗って、音楽エンタメのジャンルで和太鼓が活躍し、私もその世界で戦っている先輩方の背中を見て憧れ、太鼓の道に進みました。

2015年頃、私の中で大きな問題意識が生まれました。高度経済成長の、音楽エンタメブームの頃の日本とは、明らかに時代が変わっています。そのなかで、和太鼓をはじめとした日本の文化の社会的役割も変化していくべきではないか。今ここで変化しないと、百年、二百年後、日本の文化も和太鼓もこの世の中に残っていないのではないか。そういう問題意識を持ち、和太鼓をはじめとした日本の文化を活用して社会課題を解決することをモットーに、2022年、いのちとぶんか社を設立しました。

日本の文化研究と地域文化の掘り起こし、さらにそこで掘り起こしたものをいかに今の社会課題(教育、まちづくり、防災、環境問題)につなげていくかという活動をしたいということで、社内にプロ和太鼓奏者、防災の専門家、まちづくりの専門家に在籍してもらい、社会課題を横断的に解決していこうという取り組みを行っています。

具体的な取り組み① 太鼓×健康×コミュニティ×防災

UR都市機構との取り組み事例で、足立区の花畑団地で「花畑ささえあいプロジェクト」をやっています。今の団地は高齢化、孤独死、防災課題などを抱えていて、社会課題の温床のようにいわれています。そこをもう少し活気づけられないか。その先にコミュニティが生まれて、若い人の入居率も上げたいという課題の中で、まずは集会場で毎週、おじいちゃん、おばあちゃんに太鼓をたたいてもらっています。太鼓をたたくと、背筋が伸びてかっこよくなってきます。そこで、子どもたちも一緒に盆踊りをやりました。徐々にコミュニティができあがってきたところで、自治会の皆さんと地区防災計画を作って、3カ月に一度、防災訓練を行っています。

具体的な取り組み② 芸術(心の変容)×防災(知識)

芸術×防災をテーマに、固い防災対策をわかりやすく伝えていこうという取り組みです。「防災と生き方を考える日」と題して、木と革という自然のものでできた和楽器によるコンサートを通じて、「自然との共生」を考えるとともに、具体的な防災対策の知恵を学びます。

具体的な取り組み③ 【浪江町】地域文化の振興×共助体制の構築

弊社の本社は福島県浪江町にあります。ご存じのように、浪江町は東日本大震災で大変な被害を受けて、人がいなくなり、神楽や田植え踊りなどの文化もなくなりました。それをどうやって復興させようかということに関わり、関わっていくうちに、やはり住まないと文化はわからないし、現地のおじいちゃんに「おまえ住めや」と言われて、2021年に住み始めました。避難指示が解除された後、2019年に神社を再建して、民俗芸能の復活を一緒にやりました。やはり芸能はコミュニティの起点です。芸能が復活すると、練習会などで徐々にコミュニティが生まれていき、そこで生まれたコミュニティをただの飲み会で終わらせず、大変な目に遭った教訓も受けて、災害時に今度は困らないようにと自主防災組織を立ち上げて、みんなで防災計画を作ったりしています。

具体的な取り組み④ 【浪江町】地域文化の創出×コミュニティ育成

浪江町には移住者が多く、移住者と元からの住人が一緒に活動する場ということで、創作太鼓のチームを立ち上げました。これを町の新たな観光コンテンツにしていこうと、太鼓を活用したまちおこしをやっています。

具体的な取り組み⑤ 【浪江町】エリアマネジメント

いま浪江町では隈研吾氏の設計による大規模な駅前再開発が始まっていて、3年後には、木とソーラーパネルでできた大屋根や商業施設が立ち並びます。浪江町をはじめ福島県双葉郡は、原発災害を受けて、これからの人間の幸せとは何かということに非常に真摯に向き合っています。文化・自然回帰・新エネルギーをテーマに、この施設をどう活用していくかというところで、エリアマネジメント業務をやらせていただいています。

大切にしている考え方:「にじみ」

「横断的」ということが今後のテーマだとすると、文化的な用語の「にじみ」という考え方を大事にしなければいけないと思います。これから社会課題を解決していくうえで、「にじみ」という考え方をいかに実地に取り込んでいくかが鍵になります。「にじみ」とか「ぼかし」、太鼓でいうと余韻、そういう一点で終わらないで、他者にじわじわと波及していくような考え方は、日本の文化的特徴で、そういったことがこれからの社会で大きく役立つのではないかと思います。

私が思う日本文化の魅力

これは私の人生テーマとも重なりますが、「和」とは何でしょうか。

私は、「不便さを愉しむ心」が、日本文化の本質的価値ではないかという仮説を立てています。私のバイブルである谷崎潤一郎先生の『陰翳礼讃』に、「風流とは寒きものなり」とあります。非常にいい言葉です。

たとえば、暑いからとクーラー、寒いからと暖房、暗いからと電灯……、このように外部環境を快適に変えていくことが、この数百年の文明的なアプローチでした。一方で日本の文化は非常におもしろくて、環境は変えられないという前提に立って、自分の心の捉え方を変えて環境を愉しもうという方向で進化してきました。どちらが良い/悪いではなくて、文化的な特徴としてそういうことがあるということです。

四季の変化を愉しむというのも、冷静に考えるとおかしな話です。我々もやはり夏は暑いし、冬は寒い。四季などなくて365日、同じような気温であれば、服も買わないで済みます。それなのに四季の変化を愉しむという、ちょっと不思議な感覚が現代も残っています。

この根本には、環境そのものを愉しまないと生きていけないという考え方があるのではないか。なぜそうなったかというと、災害大国日本です。日本では昔から大地震や洪水が頻発し、富士山が噴火し、浅間山も噴火し、日本人にとって自然環境はどうすることもできないもの、もう少し言うと、諦めの美徳のようなものではないかと思います。そういうなかで適応していくために、自分の心をその中で愉しむように変えていったことが日本文化の集積といえるのではないか。この仮説に立つと、「和」とはすなわち究極のエコです。

今後取り組みたいこと

  1. 美意識に根差した、環境問題解決の取り組み
    いま環境問題で、いろいろなエネルギー的なアプローチ、技術的なアプローチが出てきています。それに加えて、そもそも心のあり方を変えるようなアプローチが、これから本格的に環境問題に取り組むうえで必要なのではないか。夜に電気を消す、そのことは我慢ではなくて、美しいから電気を消すのだというような考え方を、どうやって浸透させていくかということに、重点的に取り組みたいと思います。
  2. 地域文化に根差した、地域の共助コミュニティの育成、防災課題の解決
    URや浪江町と一緒に進めているような、地域文化に根差した地域の共助コミュニティの育成とそれを通じた防災課題の解決が、弊社のメインテーマになると考えています。

最後に告知になりますが、NTT東日本地域循環型ミライ研究所と共同研究を進めています。浪江町で立ち上げた創作太鼓のチーム「太鼓浪音」に、関係人口の方に入っていただいて、一緒に演奏しようというプロジェクトです。そこで関わっていただいた方が、より深い地域活動や、災害時の助け合いで現地にいなくても何かできることがあるのではないか、そういったことまで含めて調査研究します。興味のある方はぜひ、こちらにもお力添えいただければと思います。

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