「Palette〜地域とミライをつくるゼミ〜」第2回 レポート

都市と地方の交流/循環は、地域と教育に何をもたらすのか?
〜地域資源を活かした固有の学びと、探究学習のミライ〜

DATE
2025年5月13日(火)18:00〜20:00
VENUE
オンライン(Zoom)
PRESENTER
  • 信岡 良亮氏(株式会社アスノオト 代表取締役・さとのば大学 理事長)
  • 早坂 淳氏(長野大学 社会福祉学部 社会福祉学科 教授)
  • 本間 愛佳(NTT東日本 地域循環型ミライ研究所 エバンジェリスト)
FACILITATOR
  • 伊藤 将人氏(国際大学GLOCOM研究員・講師)
ORGANIZE
  • NTT東日本 地域循環型ミライ研究所
  • 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
PROGRAM
  1. イントロ
  2. 本間 愛佳による話題提供
  3. 株式会社アスノオト 信岡 良亮氏から話題提供
  4. 長野大学 早坂 淳氏から話題提供
  5. パネルディスカッション・質疑応答ファシリテーター:伊藤 将人氏(国際大学GLOCOM研究員・講師)

5月13日、「Palette〜地域とミライをつくるゼミ〜」の第2回がオンラインで開催されました。

今回のテーマは、地域×教育です。都市と地方の交流/循環のポジティブな影響が、地域づくりや教育の分野で関心を集めています。また逆に、地域固有の学びの機会が新たな交流と循環を生み出してもいます。そうしたなかで鍵を握っているのが探究学習です。それは学習者にとって新たな機会と可能性を拓く場であると同時に、フィールドとなる地域にも、関わる大人にも多様な影響を与えています。

ミライ研においても、地域での探究学習に関するプロジェクトを自治体や学校、地域団体と実践するなかで、学習者に対する効果や地域に与える影響等についてワクワクするミライを感じつつも、その実現を目指す過程においてさまざまな課題や悩みが生まれています。

第2回Paletteでは、地域での教育に関わる有識者や地域での実践者を交えながら、さまざまな視点から地域と教育を眺め、目指すべきミライや課題、解決アイデアなどを語り合いました。


地域をフィールドにした教育モデルの実践から見えてきたこと

PRESENTER:本間 愛佳

昨年度、ミライ研では、地域循環型社会の共創モデル構築に向けて、地域×教育をテーマにした4つのプロジェクトを実施しました。本日はその中から、長野県喬木村と新潟県十日町市における取り組みをご紹介します。

長野県喬木村:地域越境型探究学習を起点とした地域愛醸成効果の実証実験

1つ目のプロジェクトのフィールドは、喬木村(たかぎむら)という、長野県南部の人口約6,000人の村です。高校生を関係人口の潜在層として捉え、生徒が地域課題をテーマに探究学習を行うことによって、生徒自身の成長や、生徒や地域双方にとってどのような地域愛の醸成効果があるのかを検証しました。自身が居住している地域とは異なる地域に赴いて探究学習を行うことを「地域越境型探究学習」として、独自に定義しています。

この取り組みは、NTT東日本が連携協定を結んでいるドルトン東京学園との共同プロジェクトとして、半年間の選択授業の一環で実施し、高校1〜3年生の16名の生徒が参加しました。まず事前学習として、学校の所在地である調布をフィールドにリサーチ手法や問いの立て方の基本を学びました。6月に3日間の喬木村のフィールドワークを行いました。その後、事後学習として課題の深掘りを行って、最終的には喬木村とも接続をしながら探究成果を発表しました。こういった一連の流れの中で探究サイクルを繰り返していくことによって、学びや探究を深めていくことを目指しました。

喬木村でのフィールドワークは、サテライトオフィス開設や企業誘致に挑戦されている元校長先生、阿島傘という伝統工芸品の保存継承に向けて活動されている傘職人の方、高齢化率85%の集落住民との交流などを通じて、地域の魅力や課題を深く理解することにつながったと思います。

実証結果の詳細は割愛しますが、生徒一人ひとりが、探究学習をきっかけに、これまでの人生で何の接点もなかった地域に関わって、社会課題に対する興味や関心を深めました。その真摯に地域と向き合う姿や、「ただいま」「おかえり」を互いに言い合えるような関係性をわずか3日間で築こうと積極的にコミュニケーションをとっている様子を見て、私自身も純粋に心動かされる場面が多くありました。そして、探究学習後にビジネスコンテストに出たり、農業インターンに参加するなど、精力的に活動している生徒もいます。

若い世代が探究学習のテーマとして特定の地域を学び、その地域との交流を図ることは、生徒の主体性を促し、生きた学びを育むのではないでしょうか。そして地域にとっても、探究学習を受け入れることから新しい発見が得られて、それが活性化の一助につながるのではないかと、その可能性を強く感じました。

新潟県十日町市:棚田企業研修を起点としたCSVマインド醸成効果の実証実験

2つ目のプロジェクトは、新潟県十日町市における棚田企業研修です。このプロジェクトでは、企業に所属する社員の育成に着目しました。担い手不足に直面する棚田をフィールドとして、CSV(Creating Shared Value)経営を推進する次世代リーダーの人材育成効果や、「通い農」という関係人口の創出効果を検証しています。

このプロジェクトは、現地で地域おこし協力隊であり、社会起業家としても事業展開をされている星裕方氏、また、同じく着地型の旅行事業を起業されている井比晃氏と連携し、昨年の夏から秋にかけて実施しました。

事前学習で、そもそもパーパスは何かということや、社会課題解決のためのアプローチ方法を学び、その後、9月に現地研修を行い、最後に、得られた学びを踏まえた個人のアクション宣言やディスカッションを通じた振り返りを行いました。参加社員は13名、自社が掲げているパーパスと所属部署の業務のつながりを理解したい、机上では知り得ない地域課題解決の糸口を地域の人と対話することで探りたい、今後のキャリアに活かしたいなど、それぞれが当事者意識や課題感を持って参加していたところが特徴的でした。

9月の現地研修では、さまざまな立場を演じながら合意形成を図る地域おこしロールプレイ、行政職員や耕作農家との対話、そして実際に星峠の棚田での稲刈りを体験し、五感を通じて中山間地域の現状を知り、また多様なステークホルダーの価値観や課題感の違いを学びました。

実証結果を一部ご紹介すると、参加社員の能力開発に一定の効果があったと考えています。参加者全員が、中山間地域が抱える社会課題について解像度が高まり、職場でのパフォーマンス向上、ウェルビーイングにも寄与したことがうかがえました。また、通い農という行動変容までには至っていないものの、参加者全員に十日町との多様な関わりしろが生まれました。これらのことから、棚田をフィールドに企業研修を行うことが、社員の人材育成効果はもちろんのこと、地域にとっても関係人口化という点でポテンシャルがあることがわかりました。

実践から生まれたモヤモヤ

これらの実践から生まれたモヤモヤとして、主に4点があります。

  • 学習者が地域との継続的な接点を持ち、さらなる成長につなげるための仕組みは何か。そのためにどのようなICTの活用、コミュニティの形成、また、受け入れ側の体制やリソースが考えられるのかが論点になります。
  • 学習者のアイデアを誰が形にするのか。実際に2つのプロジェクトを進めるなかで、せっかく生まれたアイデアが探究学習や検証の中にとどまってしまうことは非常にもったいないと感じています。
  • 共創意識が生まれて維持されていくためのステップは何か。また、どのような地域の価値が磨かれて、人々の関心や活動とマッチングされるといいのかというところで少しモヤモヤしています。
  • 最後は大きなテーマになりますが、どのようにして社会全体に、このような取り組みを波及させていけるのかという点です。

都市と地方の交流/循環は、地域と教育に何をもたらすのか

最後に、都市と地方の交流/循環は地域と教育に何をもたらすのか、本日のイベントのタイトルへのアンサーとしてまとめてみました。

2つのプロジェクトから見えてきた効果は、地域にとっては、域外との交流によって地域の魅力の再発見や課題解決への糸口につながること、そして教育にとっては、現地でしか知り得ない情報の習得により新しい視座の獲得につながることです。

これらの効果を循環させ、動かしていくにはモノやコトといった資源だけではなく、その地に住む人にも着目をしながら、地域をフィールドとした教育機会をつくっていくことがより良い効果につながるのではないでしょうか。特に「精力的に地域課題に取り組む人」の存在は、学習者の学習効果を高めると感じています。

実際に十日町では、棚田を取り巻く多様なステークホルダーの立場や課題解決の複雑さを、参加者それぞれが目の当たりにして、「それは誰のための課題なのか」「正解がないから難しい」といった声もあがりました。その経験や気づきは、地域に赴いて、地域課題に取り組む人に話を聞いたからこそだと思います。そこから自己内省し、考え、共創意識を育み、実際にその後も越境経験に自ら挑戦する社員も見られました。

そして地域にとっては、域外の学習者との交流が活動のヒントになり、当たり前と思っている魅力や課題を外からの視点で見つめ直す機会になるのではないでしょうか。喬木村のプロジェクトでは、メーカーでの対話において、高校生ならではの感性やアイデアが見られました。また、探究学習に地域住民が関わることは、住民同士のコミュニティの活性化にもつながり、深い地域理解にも寄与すると思います。

これらのことから、都市と地方の循環の触媒となり得る人材を発掘してタレントマネジメントしていくことは、教育に対する効果はもちろんのこと、地域活性化にもつながっていくのではないかと考えています。


地域を旅するさとのば大学 To Palette

PRESENTER:信岡 良亮氏

「地域を旅するさとのば大学」というコンセプトで、新しい大学システムをつくっています。学生は、日本の住民1万人以下ぐらいの地域に1年ずつ留学しながら、4年間で4つの地域を巡って卒業します。大学と冠していますが、文部科学省の単位認定とは関係なく、新しい学びが必要なのではないかというところでつくった仕組みです。

地域を巡る学びの形

いま北海道から鹿児島まで14か所の地域と連携して、各地域の社会起業家の方々と一緒にこの新しい仕組みをつくっています。学生が1年ずつ地域に留学する時に、各地域の社会起業家の方々にメンタリングや住居の手配を手伝ってもらっています。学生から1学年80万円の受講料をいただいていて、そのうちの35%を地域側に落としています。

旅する大学ということで、日本版ミネルバ大学みたいですねと、すごく光栄な紹介をされることがあります。ミネルバ大学は、世界の7〜8の都市部を集団で移動していきます。さとのば大学は、分散登校と呼んでいますが、今年1年どこに行きたいかを学生が自分で選びます。宮城に行ってから島根に行って3年目に岡山の林業再生のプロジェクトに携わる学生もいれば、長野に行ってから石川に行って、岡山で合流してくる学生もいます。そうすると、おもしろいことが起きます。この2人が一緒にプロジェクトをしようとなると、寄せ鍋をするだけで5地域分ぐらいの食材が集まってきます。岡山の学生が「海士町に行ってみたい」と言うと、「私、去年行っていたのでアテンドできます」と言う学生がいます。日本中にミツバチが飛び散って、それぞれ受粉して回っていくように、地域同士もさとのば生を通じて縁が深くなっていくということが起きています。

これを僕らは共同子育て感覚と呼んでいます。彼らは1年間ずつ、修了の発表会をオンラインでするのですが、そこに今までお世話になった地域の方々が見に来てくださっています。たとえば、1年目に受け入れた岐阜の郡上の方が、2年目に宮城の女川にいる学生のプレゼンを聞いていると、「うちの子、1年前はあんな感じだったのに、そっちですごく大きくなっていて、ありがとうございます」と、まるで父親みたいに女川の方に感謝している。共同子育てを通じて、地域も親戚関係になっていく。そういうネットワークを目指しながら動いているというのが裏テーマでもあります。

僕らは、誰もがプロジェクトをつくれる人材になるということを、科学的に再現性のある形で育成メソッドに落とし込みたいと考えています。「好きなことをすればいい」と言いつつも、どう関わっていいかわからないという話ではなくて、少しずつ確実にレベルアップさせていくことをカリキュラムの基礎に置いていて、プロジェクトを10段階ぐらいのレベルに分けています。

学生はだいたい「何かしたいと思っているけれど、どうしたらいいかわからない」というところから始まります。最初は、それを人にきちんと伝える形にしてみよう。たとえば「カフェをつくってみたい」という話があれば、週末に空き店舗を借りてコーヒー屋さんを始めてみよう、ごっこ遊びでいいから動いてみよう、から始めて、お金と向き合ってみたり、チームと向き合ってみたりしながら、少しずつプロジェクトレベルを上げていきます。これを繰り返しやっていくという、PDCAサイクルを回すような学びを設計しています。

ただの普通の市民大学で文科省と無関係に動いていると、やはり高校から大学に上がるタイミングの進路としてはなかなか選んでもらえないので、保護者や先生に安心してもらえるように、オンライン大学と提携しています。オンライン大学で大学卒業に必要な単位をとってもらい、そちらで新卒一括採用就職に乗るための流れは確保しながら、オリジナルのキャリアをつくるための私塾としてさとのば大学があるという、ダブルスクール型キャンパスライフという形にしています。いま4年制になって5期目を迎え、この3月に長野で初めて1期生の卒業式がありました。

4年制の「旅する大学コース」だけではなくて、たとえば普通の大学に行った方が1年休学して海外に行くように地域留学できる「ギャップイヤーコース」、また、地域おこし協力隊の方々が、一人で初めて地域に行って非常に難しい思いをしながら起業に向けてチャレンジしているので、そういう自分のフィールドがある社会人向けに、留学しなくても自分のフィールドからオンラインコミュニティに入れる「マイフィールドコース」もつくりました。社会人から19歳までが一緒に学ぶ、多世代型学習の仕組みをつくっています。

これまで生んできたインパクト

学習成果の話をしましょう。日本は肯定感最貧国のようなところがあって、「自分を大人だと思う」「自分は責任がある社会の一員だと思う」「将来の夢を持っている」という若者の割合が、先進国の中でかなり低い状況にあります。

さとのば生にも同じアンケートをとりました。黄色が18歳の日本人の平均で、かなり低い状況です。青色がさとのば生で、薄い青が地域に入り始めた4月末、濃い青が11月にとったものです。軒並み30ポイントぐらいプラスになっています。

「自分には人に誇れる個性がある」「自分は他人から必要とされている」という感覚を全員が持てている。「自分は責任がある社会の一員だと思う」「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」という割合も高い。僕らは自己肯定感と社会的肯定感という表現をしていますが、どちらも教育や学習環境によって大きく左右されることが、数字として表れていると思います。

これを支えるデータとして、「発起人として取り組んでいるマイプロジェクトの数」は平均で3個ぐらい、それ以外に「コアメンバーとして、主体的に関わっているプロジェクトの数」は4〜5個、「地域で関わった人」は平均で60人以上です。

60人の大人たちは、基本的に僕らが用意した人脈ではなくて、彼らが暮らしながら自分の足で稼いできた人脈です。自分が動いて、自分の人徳や信頼貯金によって、人々がおもしろがってくれて、自分を仲間として認めてくれるという感覚を持って、彼らは一年一年を過ごしていきます。その結果、「プロジェクトを始めようと思ったときに相談できそうな人」を平均で6人ぐらい獲得しています。ふだん高校生に聞くと、「未来の話って先生と親ぐらいにしかしたことがない」、それも結構否定的な話をされるので、「あまり喋ったことがない」とか「あまり考えないようにしている」というなかで、未来のことを考えるのが当たり前になっていけば、それを誰かと共有して、次のことを考えることができるようになっていくのではないかと思います。

環境、社会、経済の輪の中で

持続可能な社会とは何だろうと探究しているなかで、環境、社会、経済の3つが交わるところが持続可能だという話を友人としていたのですが、これも図として嘘があります。何かというと、輪のサイズが全然違う。本当は環境という一番大きなものがあって、その母体の上に社会というものができて、経済という仕組みがつくられてきたのは、ここ200年ぐらいの話です。この行き過ぎた経済理論の結果、環境という母体のサステナビリティが壊れてきたので、持続可能性が大事だという話が出てきたし、そもそも持続可能という言葉が出てきた背景だと思います。

一方で、たとえばこういう事業をしていると、よく「その事業は持続可能ですか」と聞かれますが、だいたいそれは「経済的にサステナブルなのか」という問いで、「その事業は社会的にすごくサステナブルですね」とか「環境的にサステナブルですね」とはあまり言われない。

地域と都市は何が違うかと言うと、僕は、環境と社会の接続点を地域、経済と社会の接続点を都市だと考えています。地域から人が減っていったり、お金が出て行ったりするのは、環境がお金にならないからです。環境問題というのはすごく大きくて、等身大でイメージするのが難しい問題です。この環境と社会の接続点である地域が、どんどん衰退していっているということは、環境を見守る人、育む人がどんどん成立しなくなっているということで、それが現在の日本の状況、世界の状況なのだと思います。この物差しの仕組み自体を変えていかない限り、社会は本当にサステナブルにはならないだろう。そういう意味で、この地方創生が経済的にどう寄与するかではなくて、社会、環境という基礎的な母体を、どうやって都市と地域の両方から守っていくかという共創関係になるための人材育成をしていきたいと思っています。


地域住民の「はしご」論
―地域住民のエージェンシーを醸成する3つのポイント―

PRESENTER:早坂 淳氏

私は地域住民に着目し、地域に定住している人たちのエージェンシー1を研究しています。定住者というと、地域との関わりが強い人たちだと思われがちですが、私がこれまで触れてきた方々の多くは、定住はしているが、地域との関わりをほとんど持っていない。そもそも地域の活動にあまり興味がない。忙しくて、あるいは経済的な状況で、それどころではないという人もいます。また、逆に関わりが強くなると、地域のしがらみにとらわれてしまって、地域で何かをやりたいという想いが減衰していくというタイプの方もたくさん見ています。このさまざまなタイプの地域住民が、どのように自らのエージェンシーを獲得していくかというプロセスを、ここ数年、追って研究しています。

研究の成果から見えてきたことがいくつかあります。大事だと思われる3つのポイントを、本日は皆さんと共有させていただきます。

コミュニティスクールと汽水域

いまの子どもたちは本当に多様で、一つの公教育という器では、その多様性が収まりきらなくなってきています。収まりきらずに学校に行けない、あるいは行かない子どもたちの中に、とても魅力的な子どもたちがたくさんいるということもわかってきています。この多様性を、学校教育や地域での社会教育を緩やかにつなげて受けとめていこうとするときに必要なのは、学校と地域の多様性です。

私がいま研究対象にしているコミュニティスクール2は、コミュニティの中にある学校という視点だけでなく、コミュニティによる学校という視点も当然あるわけです。地域が主体となって学校を運営していくというあり方が可能になれば、多様な人材が学校に加わることになって、学校の持っている受け皿としての多様性が増す結果、いろいろな子どもたちを公教育の中で今まで以上に受けとめられるようになるはずです。そうやって地域とともに学校が発展していくということがあり得るだろう。

学校と地域を融合させて、たとえば地域が海水で、学校が淡水だとしたら、海水と淡水が入り混じる汽水域を増やしていきたい。私たちはどこでも学べる。子どもは学校でなくても学べるし、地域の人もその中で自分を磨くことができる。そういう汽水域をたくさんつくりたい。そういうビジョンを持って活動しています。

*1 変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力。(OECD、2019)
*2 コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)は、学校と地域住民等が力を合わせて学校の運営に取り組むことが可能となる「地域とともにある学校」への転換を図るための有効な仕組みです。(文部科学省、https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/community/

エージェンシーを可視化する

長野県におけるコミュニティスクールに関する実態調査を、2018〜19年に県の教育委員会と協働で実施しました。その結果、学校が越境して地域に出て行き、地域が越境して学校の中に入っていき、地域と学校がつながって、海水と淡水が入り混じった汽水域をつくっている学校や地域が長野の中にいくつもあることが見えてきました。その中でも、学校の先生や行政の職員ではなく、地域住民が中心になって動いている学校は、汽水域としてかなりいい感じになっていることがわかってきました。

そうすると問題なのは、地域にいてこの汽水域をつくっている人たちです。汽水域なので、海水の中でも生きられるし、淡水の中でも生きられる。学校の理屈しかわからない淡水魚が海に出ていくと苦しいですが、その両方を行き来できる人がいます。そういった人は最初からそうだったのか。そのエージェンシーは何によって獲得されたのか。また、獲得されたエージェンシーをさらに醸成していくのは何なのか。そもそも、今この人のエージェンシーはレベルいくつというように可視化できないだろうかというのが、リサーチクエスチョンとしてありました。

そこで使えそうなのが、社会学者のアーンスタイン(Sherry Arnstein)やハート(Roger A. Hart)の「参加のはしご論」という考え方です。はしごを1段目から2、3、4と上っていくように、住民が自らのシティズンシップ、市民性を高めていくという考え方です。これを加工して、長野県の12校を対象に、地域と学校をつないでいる汽水域に生存できる特殊な人の追跡調査を2021〜2024年に行いました。

わかったことがいくつかあります。地域にいて学校と地域をつないでいるコーディネーターと呼ばれる人たちがいますが、この役割を学校の先生や行政の職員が担うと、成果があまり上がりません。公立学校の先生や行政の職員は、定期的に異動してくる「風の人」です。逆に地域にいる人は、その地域に根を張っている「木の人」です。この木の人たちが、5年前はどういう状態だったのか。はしごの何段目にいたのか。それがコミュニティスクールに関わって、どのようにエージェンシーを上げていったのか。12名のコーディネーターの追跡調査を続けていくなかで見えてきた結論は、次の3つです。

  1. すべての地域コーディネーターが「はしご」を上昇
  2. エージェンシーの多様性
  3. エージェンシーの3つのポイント

結論①は、基本的にすべてのコーディネーターが、はしごを上っていったということです。学校と地域をつなごうとする活動をしている人たちは、時間とともに自らのエージェンシーを上げていく。つまり地域のこと、教育のこと、子どものことを自分事として捉える心的な姿勢がバンバン上がっていくということです。

結論②は、エージェンシーは多様だということです。小中学校の探究学習はだいたい地域探究で、地域に出て行ってリアルを学んでいくのですが、それをやるには学校の先生の力だけでは難しい。地域の財、つまり、教育に使える人材や資源がどこにあるかを把握しているのは地域住民なので、地域の方にコーディネートをしていただいて探究活動が回っていきます。このコーディネーターを、ズブの素人から始める人もいますし、すでに町づくりや移住促進をやっている人たちが、いきなりスーパーコーディネーターとして活躍する場合もあります。コミュニティスクールで初めて地域に出て行きましたという人たちもいますが、その人たちも年数とともにはしごを上がっていくので、その人たち自身の人材育成の場としてコミュニティスクールが見直されているということです。

エージェンシーを醸成する3つのポイント ―つながり、やりがい、自分らしさ―

結論③は、今回の報告のサブタイトルでもあるエージェンシーの3つのポイントです。

地域の人たちが自分事として教育に関わろうと思うきっかけの1つ目はつながりです。しかもそのインパクトは、学校よりも地域と、地域よりも子どもとつながった瞬間のほうが強い。これまで地域との関わりはあまりなかったけれど、立場上なってしまったみたいな感じでコーディネーターになる方も結構います。そういった方がコーディネーターをやりながら、自分のエージェンシーを上げていくプロセスでは、このつながりが注目されます。

2つ目はやりがいです。やってよかったと、子どもとのつながりの中で共感し、この活動は良かったと、地域の人や学校の先生とのつながりの中でやりがいを感じて、「私たちにはできる」という自己効力感、自己有用感を体感すると、エージェンシーが高まっていくということが見えてきました。

3つ目は自分らしさです。やらされている仕事、仕方なく義務感で行われている活動というのは、エージェンシーをむしろ著しく下げてしまうことが見えています。

「寝ている人」をいかに起こすか

このつながりとやりがいと自分らしさを究極まで上げていくタイプの地域住民を、一つのワードに凝縮して説明すると、「越境」にたどり着きます。

スーパーコーディネーターと呼ばれる人が全国にたくさんいて、そういった人たちは、地域に定住していながら越境しています。仕事で越境する場合もあるし、趣味で越境する場合もあるし、物理的な越境だけではなくて、文化的な越境、世界観の越境、宗教性への越境、言語圏を超えた越境など、さまざまな形で今にとどまらない人たち、つまり、定住しているのだけれど、他地域の関係人口にすでになっている人というのが強いエージェンシーを持ち得るということが見えたということです。

最後に、定住している人だけれど自分事になっていない人、エージェンシーが低い人、私はそういう人を「寝ている人」と呼んでいます。寝ている人をいかに起こすかが私のライフワークです。エージェンシーを高めていく人になるには、つながり、やりがい、自分らしさ、この3つの要素を何らかの形で織り交ぜていくことと、学校の汽水域が、こういった人たちを育成するかなり有効な仕組みの一つだということが見えてきました。

自己決定理論(Self-Determination Theory)という、ウェルビーイングをいかにして高めていくかというときの心理学の基礎理論になっているものがあります。つながり、やりがい、自分らしさは、自己決定理論の3要素である関係性、有用感、自律性そのものだということが、コミュニティスクールの活動から見えてきたということです。


パネルディスカッション・質疑応答

伊藤
ここからはパネルディスカッションということで、共通点や示唆的なことを、Slidoも拾いながら議論していきたいと思います。

地域と教育をつなぐ持続可能な仕組みとは

信岡
Slidoに質問が来ているのですが、なぜ地域と教育が離れてしまったのかというと、僕は、公・共・私という3つの領域の話があると思います。それは別の面で、自給経済・贈与経済・貨幣経済という3つのエコノミーの話だと思っています。昔の社会は自給経済と贈与経済が中心で、貨幣経済が少ししかない世界だったというなかで、地域と接続していくことは自分たちが生きていくうえでの基盤だったということがありました。いまは地域と関係なく、貨幣経済でどう生きるかというところに教育がシフトしたので、そもそもそこに関わること自体にインセンティブが働かないし、学校教育自体が貨幣経済に向けてなので、地域接続する必要性がないという状況になってしまっています。これをいま個人の想いで支えてしまっているので、かなり無理ゲーをしているという感じがあります。ほぼすべての農業が農家の心意気でなんとか成立しているという話がありますが、これをどうしますかという問いから、もはや待ったなしという感じを受けています。
伊藤
いまの話は非常に重要です。ミライ研としても、社会的価値と経済的価値をテーマに掲げています。コミュニティスクールで地域と学校をつなぐという話にしても、人口が減って、財政的に厳しくなって先生も雇えないという経済的な事情が根底にあって、じゃあ地域とつながろうという手段的な部分もあるような気がしています。そういうなかで、コミュニティスクールは制度化して、一部の取り組みではなく、全国的にやっていこうとしています。大規模に仕組み化していく、制度化していく、そこに学校や行政や、教育機関、地域を巻き込んでいくことの成功部分がある一方で、やはり難しい部分、壁に直面していることもあるのではないかと思うのですが、早坂さん、いかがでしょう。
早坂
ご指摘のとおりです。いまコミュニティスクールは日本全国に広がっている制度で、公立学校の3分の2がこの制度を取り入れています。ただ、それがきちんと本来の願いの形で運用されているかどうかは別の問題です。導入はしたけれども、その制度自体が形骸化してしまっている地域や学校も少なからずあります。それでもこの制度が、その地域にいる人たちを、半ば強引にであれ学校に行かせて、子どもたちとの関わりを新たに生み出すことで、地域住民のエージェンシーを緩やかに高めていくということ自体は、どうやら間違いないだろうと言えます。
あとは、これを人が減っていくなかで、どう持続可能にしていくか。まさに他の領域と全く同じ課題が、コミュニティスクールにもあります。いくつかのコミュニティスクールは、学区単位ではもう維持できなくなっています。小さな町村で連合を組んだり、学園都市構想で市全体をコミュニティスクール化していくような動きもあります。とりあえず私は、まだ起きていない人がたくさんいるので、寝ている人を片っ端から起こしていって、そして外の人をつなげていくために、きょうお話しいただいた越境型の探究学習の手法も活用していきたいと思います。
信岡
いまのお話の中で、寝ている人を起こすというのは素敵な表現だなと思う一方で、たとえば、寝ている人が起きてパンドラの箱を開けた瞬間に暴動になるという話もあると思うのです。みんな幸せに起きられるのでしょうか。
早坂
とてもおもしろいです。起こしてはいけない人がいるかという議論ですか。
信岡
起きた時の現実に耐えられますか、という問いだと思います。
早坂
なるほど。起きた瞬間にいろいろな課題が見えるようになって、本当に頭を悩ませていく方はたくさんいます。長野のいいところは、社会教育、生涯学習が進んでいることです。公民館の数が全国で一番多く、地域の人たちが寄り添いあって学び合える空間がたくさんあります。起きた時に右往左往しないで済むというか、先に起きた人がもう右往左往していて、いろいろな活動をやっているので、困っていたら「ちょっとこっちへおいで」みたいな感じで招き入れられる風土があります。生涯学習とのセットで、多様性が地域にないと、起きた人がこぼれ落ちてしまいます。

コーディネーターは手弁当でいいのか

本間
きょうご紹介した探究学習に取り組むなかでも、やはり地域の方、木の人に参画いただくことがすごく重要な鍵になるということを感じました。地域でコーディネートされる方が重要だと思ったとき、そういった方をどう掘り起こすのか、そもそもすでに活躍している方がどういう動機で始めたのかが気になりました。
伊藤
どの取り組みにおいても、中間人材、コーディネーター的な人は不可欠であるということは、きょうの結論の一つだと思います。一方で、そういう人たちに対して手弁当でいいのか、どれだけ時間を割いてもらうのかなど、悩みも尽きません。媒介してつなぐ人にどう関わってもらうのか、また、関わり続けてもらうにはどうすればいいのでしょうか。
信岡
いま高校魅力化でも、かなり無理にそこをやっています。学校教育の本質的な部分であるにもかかわらず、地域おこし協力隊という3年任期の方々ががんばっているという現状が多くあります。僕らはそれ自体が課題だと思っているので、地域の方とレベニューシェアできるモデルをつくろうとしています。
一方で、そうは言っても、それができる地域や状況をつくるのはかなり難易度が高いので、普通の地域はほぼできません。とすると、地域で浮いているリソースがどこにあるかというと、高齢者のところにしかない。では、高齢者がそういう教育を担えるようになるのかという話があります。あるいは、高齢者に労働側を少しカバーしてもらって、現役世代の労働者が、グーグルの20%ルールのような形で、地方貢献すると地域通貨を配るとか、高齢者の方々に農産品を無料で配るとか、自給経済や贈与経済と接続させながら設計していくようなことをしないと、そもそも限界があるという感じがしています。
早坂
いまご指摘いただいた手弁当でいいのかという問題は、コミュニティスクールの文脈でも大きな論点です。実際、コーディネーターはかなり高齢の方が多くて、仕事の第一線は退いたけれど、まだ体も心も元気で、最初はボランティアとして参加していた人が、だんだんと当事者性を上げていってコーディネーターになったというパターンがすごく多いです。
ただ、ご承知の通り、今年は人口ボリューム最大の団塊の世代がみんな後期高齢者になった年です。何らかの形で、現役世代も巻き込んだ形に組み替えていかなければ、この仕組みは持続可能ではありません。自治体によっては、会計年度任用職員としてコーディネーターを雇用する、あるいは行政側の人がやるというパターンもありますが、それは先ほどの理屈と反してしまいます。異動のある行政の役職だと、なぜか成果が上がっていきません。いまはボランティアの方々におんぶしている状況だということは、論点として残しておきたいと思います。
本間
そこはまさに私もすごくモヤモヤしているところです。きょうご紹介したプロジェクト以外でも、やはりボランティアのような、人の善意や熱意に頼るような取り組みだと、その火が消えてしまった時に途絶えてしまうリスクを感じています。そこは信岡さんの言われた環境・社会・経済の話になるのかもしれないですが、ある程度仕組み化して持続的にしていくには、必ずしも貨幣だけではない何かインセンティブというか価値の交換のようなことが、しっかりなされていくことが必要だと感じています。

つながりながら自分事化していく人を増やしたい

伊藤
Slidoにコメントが来ています。
「私もずっと『自分ゴト化』はもともとできないと思っていて、もっと違うレベルでの意識の醸成がないと地域で動ける人は増えないと思っています。なので、マイプロジェクトの話も、行動できる人を増やしたいという想いにも共感します」
やはり自分事という言葉は一つのキーワードだと思います。自分事化していく人を増やすという話がある一方で、自分事化は難しい。自分事というある種の理想と、そのプロセスというかレベル感というか、この辺も鍵になると思いました。最後に、登壇者の皆さんからコメントをいただきたいと思います。
本間
教育と地域をどう掛け合わせて活性化していくかは、簡単に正解が出るようなものではないですが、きょうのお話を伺って、やはり着実に積み重ねていく取り組みが重要だと感じました。なにより、こうした場でそれぞれの立場から話をすることによって、新しく見えてくることがあります。そこから得られたアイデアや知見を踏まえて、今後どうしていくべきか、具体的な実践の部分から抜本的な社会の仕組みまで、引き続き一緒に考えていきたいと思いました。
信岡
僕個人は、地方創生というより日本再生だと思っています。地域がなくなった時には日本はほぼ詰んでしまうと思っていますので。みんなでこれを自分事化するしかないですが、自分事化するのは一人でやっても心が折れてしまうので、どんどんつながって仲間になってもらえるとうれしい。一緒に何かしたいと思った方は、ぜひつながってもらえるとうれしいです。
早坂
こんな素敵なつながりの場に身を置かせていただけて、とても幸せだと思います。これまでの物の見方、物差しの刷新が必要だということを、あらためて確信しました。これからの学びのあり方が、旧来の公教育のあり方を大きく転換していくという意味で、本間さんの言われた越境型の学びのあり方はこれから広がっていくべき内容だと思います。信岡さんのさとのば大学の実践もそうです。経済の理屈で物事を見すぎている我々への反省もあり、貨幣経済の仕組みからの脱却をいかに私たちは地域の中で達成していくか、いかにお金を持っているかではなくて、いかにつながっているかで評価される物差しを、地域の中できちんとつくっていかないといけない。きょうは発見と驚きと感謝の連続でした。
伊藤
本日は長時間にわたって、非常に充実した議論ができたと思います。では、これでPalette第2回「都市と地方の交流/循環は、地域と教育に何をもたらすのか」を終了とさせていただきます。ご参加いただいた皆さん、本当にありがとうございました。

メンバー紹介

  • 本間 愛佳

    Aika Honmaエバンジェリスト

    研究員として、サステナブルな地域社会のモデル創出に向け、「関係人口」や「教育」を主なテーマとして調査・研究。棚田や雪などの自然や教育などを起点とした入り口から地域活性を目指し、越境的な人材を創出する取組みをフィールド実践型で実証している。

  • 伊藤 将人

    Masato Ito国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)研究員

    地方移住定住や関係人口、交流人口など地域を超える人の移動と、持続可能なまちづくり/地域振興に関する研究や実践、政策立案に携わる。近年は、移動の社会学をテーマに、移動から世界/社会を考える研究にも力を入れている。

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