【参考】

出品作家と作品例

ウー・チーユー
《セルロイドの物語:無主地のデータ》2024年
《セルロイドの物語:展示された映画の工場》2025年 ほか

ウー・チーユー「セルロイドの物語」シリーズの展示風景2025年

初期の映画フィルムに用いられたセルロイド。その原料である樟脳は、日本統治期の台湾において重要な生産資源でした。「セルロイドの物語」シリーズはこの樟脳を起点に、映画の成立を支えた植民地の歴史を辿り、森林伐採や資源採取、そこに動員された労働に光を当てるとともに、現代のAIによるイメージ生成を支える構造への接続を試みます。本展では、本シリーズの複数の映像作品を中心に構成されるインスタレーションを発表予定です。

キム・ヨンウン
《未来の聴取者へ 1》2022年
《未来の聴取者へ 2》2022年
《未来の聴取者へ 3》2025年

キム・ヨンウン《未来の聴取者へ3》2025年 © YoungEun Kim

音や聴取は社会政治的および歴史的に構築されたものと捉える作家が、蝋管録音を起点に、録音メディアに内在する政治性を問い直す三作品。20世紀初頭に蝋管に録音された韓国の伝統音楽や、アメリカにおけるアイルランド移民の歌を手がかりに、ノイズ除去による断片化、蝋管への再録音、AIによる女性合唱への変換といった手法を用います。これらのプロセスを通じて、録音が声を記録すると同時に排除してきた構造を浮かび上がらせます。

小林こばやしむく 新作

小林椋 新作のためのスケッチ

作家・稲垣足穂(1900-77)は、第一次世界大戦以降に実用性のみを追求するようになる前の飛行機にこそ意味を見出し、生涯関心を寄せつづけました。そして、実用性を失った、飛行の不可能性を象徴するものとして「空中飛行器」という言葉を好んで用いました。小林は、この言葉に含まれる足穂の飛行機観と、リンク・トレーナーと呼ばれる初期のフライト・シミュレーターという、二つの「飛ばない飛行機」を起点として、「飛ぶこと」または「落ちること」の実践を考察する器具群を新作として発表します。

SUGAIすがい KENけん 《「...ん!?」-虚響室-》(仮題|新作)

SUGAI KEN

ICCの無響室のために制作される新作。模造した家鳴り音や、特殊な設定でバイノーラル録音した無響室での足音などを高精細なスピーカーで鳴らすことにより、音が展示室内であたかも発生しているかのような錯覚を誘発し、在るはずのない誰か(もしくは何か)の気配を出現させます。SUGAIはこの作品において、「ここではない何処か」への架空トリップではなく、「今ここにいること/在ること」への聴覚的な揺さぶりを志向します。

すずえり+比嘉ひがさとる 《Resistanceレジスタンス Arrayアレイ》 2026年

すずえり+比嘉了《Resistance Array》2026年
撮影:西野正将 参考図版

《Resistance Array》は、現代において情報がミームとして伝播する様子とそれによる連帯のあり方に着目した作品です。デモにおけるレーザーポインタの利用がSNSを通じて世界各地に広がった経緯を参照し、投稿されたテキストの内容と投稿同士の関連性を機械学習で分析し、ネットワーク化した結果が投影されます。また、本作品ではすずえりが近年取り組んでいる光に音声重畳を行う可視光通信の仕組みがレーザー光に応用され、レーザー光が受信機に当たった時だけ、音声がスピーカーから出力されます。

葉山はやまれい 《LYMENAリーメナ》 2025年

葉山嶺《LYMENA》2025年

《LYMENA》は、CGのコウモリたちが生息する「立ち入ることのできない洞窟」と、その周囲に生じる瞑想的時間からなるインタラクティブな映像作品です。作者が完成させた3DCGのコウモリたちは、敢えて目の前から隠されています。それでも、プログラム上は確かに存在する彼らの気配は、小さな森の霧の中に漂います。姿を見ることができない何かとの間に関係を生み出すことや、立ち止まることの創造性について、作者は問いかけます。

ローサ・メンクマン「Imageイメージ Remainsリメインズ」2026年

ローサ・メンクマン「Image Remains」2026年

メンクマンは、画像処理の分野では「解像度」を意味する「Resolution」をより広く捉え、処理を実行するうえで前提となるプロトコルや基準とそれらの解釈との関係性によって変わりうるものとして研究しています。本作は、画像処理技術において「何が遺され/失われるのか、それを決めるのは誰か」を問う、主に3つの映像作品からなる作品シリーズです。過去の作品と同様、ヴァルター・ベンヤミン(1892-1940)の論考「歴史の概念について」で「歴史の天使」として言及されたパウル・クレー《新しい天使》(1920)が主人公となり、直線的ではない、より多様な記録や歴史の作られ方について考察していきます。

森永もりなが泰弘やすひろ 《Auto-ethnographyオートエスノグラフィHAMAKAIハマカイ》 (新作)

フィールドワーク時の記録写真(2023年、ブラジル)参考図版

本作は立体音響技術を用いた没入型サウンド・インスタレーションです。ハマカイとはアマゾン最後の狩猟民と言われるアワ族が、森での狩猟中に獲物となる動物の鳴き真似をするボーカル・コミュニケーションの一種です。作家は現地でフィールドワークを行いハマカイをレコーディングし、同時にアワ族が直面している違法な森林伐採や製鉄原料の運搬鉄道などの音も記録してきました。現在のアワ族の居住空間に併存する多様な音を捉え、さらに参与観察を行う作家自身の視点の客観化を演劇的な手法によって試みた多元的な音表現を行います。