【参考】

出品作家と作品例

伊阪柊いさかしゅう

The Spumoniザ・スプモーニ》2023年

伊阪柊《Reconnaissance “Tephra”》2022年(参考図版)

《The Spumoni》は、3DCGの映像作品シリーズ「Sp-s」の最新作です。このシリーズは、伊阪の住む親しみのある時空間と、どこか遠い時空間との関わりをめぐるフィールドワークをもとに映像が制作されます。フィールドワークで得られた事実に、伊阪による仮説が織り込まれ、異なる複数の事象や時空が独自の話法によってつなげられていきます。この作品においては、2021年から2022年にかけて太平洋で発生した大きな火山噴火が制作のきっかけとなっており、火山灰や軽石、年縞*、そして仙薬などがモチーフとして取り上げられます。また、伊阪が作品制作と並行して進めているエッセイ・フィルムと呼ばれる映像作品形式に関するリサーチ(「Excitation of Narratives」。メンバー:玄宇民、竹内均、伊阪柊)も、本作の制作に活かされています。

  • *年縞:湖底などに木の年輪のように泥などが1年ずつ規則正しく連続堆積した地層のこと。(出典:日本大百科全書(ニッポニカ))

evalaエヴァラ

《大きな耳をもったキツネ》2013 - 14年

evala+鈴木昭男《大きな耳をもったキツネ》2013年

《大きな耳をもったキツネ》は、ICC無響室のために制作された8.1ch立体音響によるサウンド・インスタレーションです。鈴木昭男の自作楽器による演奏や、evalaの故郷であり鈴木にも縁の深い京丹後でフィールド・レコーディングした音源をもとに、evalaが録音場所の空間の残響と反射を擬似的に作り出し、そこに音響的変化を伴う音の運動を再構成して作曲しています。2013年から14年にかけて4曲が制作されたほか、2017年には《Our Muse》が無響室のために新たに発表されました。近年、3DCGやVRなどの映像技術の発達と普及、さらに立体音響制作ツールの整備などの影響により、立体音響への関心や理解は大きく高まっているといえます。最初の発表から10周年を迎える今年、《大きな耳をもったキツネ》全4曲および《Our Muse》を再展示します。

Natura Machinaナチュラ・マキナ筧康明かけひやすあき+ミカエル・マンション+クアンジュ・ウ)

Soundformサウンドフォーム》2019年 - 

Natura Machina(筧康明、ミカエル・マンション、クァンジュ・ウ)《Soundform No.2》2022年

《Soundform》は、熱により空気が振動し音が発生する熱音響現象を利用した、インスタレーション作品のシリーズ名です。この作品で使われているレイケ管は、ガラス管の中に発熱体を設置した装置で、発熱体に電気を通すとガラス管に温度差が生まれ、管内部に空気が引き込まれ自励振動*することで音が発生します。どのような音が鳴るかは、ガラス管の素材、太さや長さ、空間の気流や温度などに依存するため、人間が完全に制御することはできません。この装置を複数設置したうえで、その環境に応じて人間が介入する要素やその度合いを調整することで、音がさまざまなタイミングで共鳴する場が生まれます。ここでは、鑑賞者もまた、場に影響を与える存在となります。

  • *自励振動:振動体それ自体の運動によって、振動的ではない外力からエネルギーを取り込むことで起こる振動。(出典:デジタル大辞泉)

菅野歩美かんのあゆみ

《未踏のツアー》2022年

菅野歩美《未踏のツアー》2022年

《未踏のツアー》は、福島県西会津町を元に作られたCGの街をツアー形式で踏破する映像インスタレーションです。菅野は、自身では訪れたことのない福島県西会津町に関係する物語を、小説やウェブ上の広報誌、住民とのビデオ通話を通して集めました。そしてこの地の3DCG模型を作成し、集めた資料に基づいて様々な物語を埋め込みました。このCG模型は、現実の西会津町が完璧に反映されたものではありません。しかしこの中を物語と共に巡ると、土地に馴染みの深い鑑賞者も、またそうでない鑑賞者も、割合は異なるにせよ、時に懐かしく時に奇妙な感覚を覚えることになります。そこには、現実の土地と紐づけられながら同時に遊離した、あらたに土地の記憶や物語を紡ぐ場としての可能性が秘められています。

小光こみつ

《Five Years Old Memories》2023年

小光《Five Years Old Memories》2023年

《Five Years Old Memories》は、小光が知人から集めた5歳頃の記憶を元に制作された、オムニバス形式のインタラクティヴ・アニメーション作品です。日々の食事や送り迎えのときに感じていたことや、幼なじみとしていた遊びなどのエピソードが手描きのアニメーションで表現され、インタヴュー時の音声とともに再生されます。それぞれのエピソードの途中では、鑑賞者が操作を行なうことでお話が進行するポイントが用意されており、より能動的にお話を体験できるようになっています。「ICCアニュアル 2023」では、ICCの展示室に合わせたインスタレーションとして展開します。会期中に、エピソードの追加も予定しています。

津田道子つだみちこ

《東京仕草》2021年

津田道子《東京仕草》2021年
「Back TOKYO Forth」展示風景(東京国際クルーズターミナル、2021)
Photo: ARAI Akira (Nacása & Partners Inc.)

《東京仕草》は、映画『東京物語』(小津安二郎監督、1953)に代表される小津映画に登場する女性の仕草に着目し制作された映像インスタレーション作品です。映画中の女性の動作を抽出して、撮影セットを概念化した空間やイラストレーション、動きの軌跡、映像などによって構成しています。生活空間における人の振る舞いには、その人の文化的背景だけでなく、その場の環境やそれを現前させている技術の歴史の蓄積すべてが反映していると捉えることができます。『東京物語』が発表されたのは、江戸時代末期から昭和の高度経済成長に至る、テクノロジーの発展とともに生活様式が劇的に変化していった期間のちょうど半ばにあたります。その時期の、家事の主な担い手であり続けてきた女性の所作に着目することで、過去から現在、そして未来へと向かう文脈を鑑賞者に想像させます。

時里充ときさとみつる

《ハンドメイドムーブメント season1 大体の事柄は布に覆われてしまっている》2022年

時里充《ハンドメイドムーブメント season1 大体の事柄は布に覆われてしまっている》2022年

《ハンドメイドムーブメント》は、1話ごとに2体の不思議なパペットが対話する様子を描いた、3DCGアニメーションのシリーズです。各話の制作は、時里が自宅の周辺や訪れた場所を3Dスキャンするところから始まりますが、その後の制作過程には、時里以外にもAI(画像からの物体検出、また単語群からのセリフの生成)や人間の声優(声の演技)など、さまざまな「他者」が介在し、リレーのように創造行為が連鎖します。各話には明確なつながりや起承転結はありませんが、共通して登場する言葉や鑑賞者自身の経験からの連想を通して、鑑賞者自身が固有のつながりや意味を見出していくことになります。展覧会会期中に、オンライン・アーティスト・イン・レジデンス プログラムとして、シーズン2の制作を予定しています。

東京大学 舘知宏たちともひろ研究室 × 野老朝雄ところあさお × [    ]

「つながるかたち展 2.5」

「Connecting Artifacts 01 つながるかたち展 01」展示風景(2021、東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 駒場博物館)

単純なかたちが一定のルールでつながり、全体を構成するしくみは、人工物、自然現象を問わず現われる普遍的な原理です。美術家の野老朝雄はこの原理を「個と群」と呼び、多様な作品を生み出しています。また、東京大学教養学部で開講されている「個と群」(文理融合ゼミナール)では、受講者が野老と東京大学の舘知宏と協働し「個と群」の創造プロセスを実践しています。その過程で生まれた副産物からは、芸術、科学、情報、工学、数学をまたいだ豊かな学際的研究領域が広がっています。この活動を端緒として始まった展覧会「つながるかたち展」はこれまでに2回開催されています。本展ではそのスピンオフとして、かたちをつくることから始まる学術の連鎖を紹介します。