【参考】

1.出品作家と作品例

相川勝あいかわ・まさる

《K2を登る》2021年 ほか リアル、オンライン

相川勝《K2を登る》2021年

相川は、一般に公開されている衛星写真と地形データを組み合わせて、K2やマッターホルンなどの世界の名山や砂漠など、自分が行ってみたい場所周辺の3DCG空間を自ら構築しました。さらに、それらの仮想空間内を自由に歩き回り、実在する登山ルートをたどって山頂まで到達したり、国境線に沿ってずっと歩いたりしています。本展示では、仮想空間内を移動していくところを記録した映像作品と、そのなかで撮影された写真作品を併せて展示します。

青柳菜摘あおやぎ・なつみ佐藤朋子さとう・ともこ

《TWO PRIVATE ROOMS-往復朗読》2020年- リアル、オンライン

青柳菜摘+佐藤朋子「TWO PRIVATE ROOMS-往復朗読」(theca、東京、2020)展示風景
撮影:wada shintaro

青柳と佐藤は、コロナ禍が本格化した2020年4月から、その日ごとに物語やその断片を読みあう〈往復朗読〉に取り組んでいます。このプロジェクトは二人がお互いに会うことなく、交互に本を選びTwitter上でライブ配信をするというオンライン朗読パフォーマンスとして現在も継続中で、これまで、パフォーマンスの映像記録や付随する作品を展覧会やウェブサイトで発表してきました。本展では、SNSという場が、パフォーマーおよび鑑賞者が自分の今いる場所から物理的な移動なしでアクセス可能なステージとして機能していることに着目し、リアル会場での展示やオンライン配信など複数の手段を用いたメディア・プロジェクトとして展開する予定です。

うしお鶏うしお・けい

《かえり道》(新作) リアル、オンライン

うしお鶏《かえり道》2022年

うしおは、日常生活で発生するシチュエーションや日用品などをモチーフに、自作のマンガやアニメーションなどと組み合わせたインスタレーション作品などを発表しています。本作品はICCのオンライン・アーティスト・イン・レジデンス・プログラムの一環として制作されたものです。うしおは、オンライン上での作品展示という前提から、映像やマンガなど既存の手法を踏まえつつ新たな物語りのあり方を探っていくなかで、ウェブブラウザを閲覧する際に一般的に使われる画面スクロール操作に着目しました。鑑賞者は、マウス等でスクロール操作をすることで、作品内の空間の奥のほうに自らも進んでいく感覚を得ながら、同時に物語が展開していくのを読み進めていくことができます。

制作協力:森浩一郎

臼井達也

《amazon basics 83,799》2021年 ほか リアル

臼井達也《amazon basics 83,799》2021年 撮影:竹久直樹

《amazon basics 83,799》は、世界最大手のECサイトAmazonのプライベート・ブランドであるAmazonベーシックの商品を実際に購入し、それらを組み合わせて空間に配置し、空間的に構成したインスタレーションです。タイトルにある数字「83,799」は本作を制作するのに使用した商品の総購入額を表しています。これらのモチーフの組み合わせは、日夜Amazonをブラウズして鍛えられた臼井の選択眼によって集められたもので、アーティストのこだわりや指向性が表れています。一方で、83,799円を支払いさえすれば、全モチーフをAmazonで入手し、本作を再現することができます。臼井はこの作品で、美術作品とはなにか、インターネット・ショッピングから生まれる現代における既製品芸術(レディメイド:既製品やすでにあるものそのものを加工したりせずに作品として提示するもの)や、作品の複製性(芸術作品とは唯一無二のものであるという考えかたに対して、同じ芸術作品が複数存在すること)について問いかけています。

海野林太郎

《チュートリアル》2019年 ほか リアル

海野林太郎《チュートリアル》2019年

海野は、FPS※6に代表される一人称視点のビデオ・ゲームをモチーフにした映像作品を複数制作しています。登場するのは現実の空間や人物であるにもかかわらずビデオ・ゲームそのもののように感じられるのは、プレイヤーが操作する主人公の動きに伴って生まれる画面の微妙なブレや急激な移動などを、カメラを固定した海野自らの身体を巧みにコントロールすることで、忠実に再現しているからです。出演者もゲーム内のアバターのように振る舞い、両者に備わったビデオ・ゲーム的身体性によって、現実とバーチャルな空間との境界が揺るがされ、世界が多層なものとしてあらためて立ち上がります。

  • ※6First-Person Shooterの略。主人公=プレイヤー本人の視点でゲーム中の空間を任意に移動でき、武器もしくは素手などを用いて戦うアクションゲームのスタイル。

谷口暁彦

《やわらかなあそび》2019/2021年 リアル、オンライン

谷口暁彦《やわらかなあそび》2019年

《やわらかなあそび》は、クッション素材でつくられた子供のための遊び場「ソフトプレイ」をモチーフに、現実のシミュレーションとしてのバーチャル空間と、現実との関係をテーマに制作/上演されたパフォーマンス作品です。

谷口本人が、舞台の上で作者自身のアバターを操作しながら上演され、初期コンピュータとネズミの関係性、インターフェイスとしてのマウスの由来や、タッチパネル、ハーメルンの笛吹き男、3DCG空間での身体について、VRchat上で実際に起きた事件などに言及しながら、部分的に似ていて、部分的に似ていない、バーチャルな空間と現実の空間との関係性について語っています。

本展覧会に際して、展示用にアップデートし、さらにハイパーICCバージョンとしてリメイクされる予定です。

ホズニ・アウジ

《Airplane Mode》2020年 リアル、オンライン

ホズニ・アウジ《Airplane Mode》2020年 パブリッシャー:AMC Games

《Airplane Mode》は、プレイヤーがパイロットではなく乗客となるフライト・シミュレーター・ゲームです。民間の旅客機に乗り込み、大西洋横断のフライトを待つ間、プレイヤーは窓際の席でどのように過ごすかを決め、あとは現代の航空技術に委ねます。出発地から目的地まで、実際にかかる飛行時間を体験することができます。

セマーン・ペトラ

「Monomyth: gaiden」2018-2020年 リアル、オンライン

セマーン・ペトラ《Monomyth: gaiden / Return》2019年

「Monomyth: gaiden」は、2018年から2020年にかけてセマーンが日本滞在した際に制作された全四部作の映像作品です。神話学者ジョーゼフ・キャンベルは、世界中の民話や神話が、英雄が日常から非日常へと旅立ち、通過儀礼を経てまた日常に帰還するという共通の構造をもつと論じ、それを単一神話論と名付けました。タイトルの「Monomyth(モノミス/単一神話)」はそれに由来し、セマーン自身をモデルにしたアバター「Yourself」が、モノミスの物語構造をなぞりながら、実写映像、写真、アニメーション、CGといったさまざまなデジタル領域が多層的に重ねられた〈非日常〉世界を旅します。そして映画やアニメーション、ビデオ・ゲームにおけるリアリティとフィクションの交わりを見つめながら、私たちの記憶や自分自身がどのように構築されているかを解明しようとしています。

2.コモングラウンド概念図と監修者略歴

コモングラウンド概念図 (制作:noiz)

概念図

豊田啓介

1972年生まれ。東京大学生産技術研究所特任教授

東京大学工学部建築学科卒業。安藤忠雄建築研究所を経て、コロンビア大学建築学部修士課程修了。SHoP Architects(2002‐06)を経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所noizを蔡佳萱、酒井康介と共同主宰(2021年より兼任のためデザインアドバイザー)。コンピューテーショナルデザインを積極的に取り入れた設計、製作、リサーチ、コンサルティングなどの活動を、建築からプロダクト、都市、ファッションなど他分野横断型で展開している。2021年よりnoizおよびgluonとの兼任で現職。バーチャル初台およびハイパーICC制作監修。

3.関連イベント

会期中には、アーティストや有識者を招いたトークなどの開催を予定しています。