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マルチヘリの活用

大規模災害に備えて 安心・安全をつなぎ続ける、頼もしいパートナー「マルチヘリ」。

自然災害は道路や橋梁など、あらゆる“ルート”を破壊し、遮断してしまいます。東日本大震災でも、地震と津波がNTT東日本の多くの通信設備や通信ルートを道路や橋とともに押し流しました。道が消え、瓦礫(がれき)に埋まり、人が立ち入ることが困難となった場所が、通信サービス復旧を阻みました。その教訓をもとにNTT東日本は、平常時はもちろん、災害時にも安心・安全なプラットフォームを提供するため、人の目となり、手足となって、被災地や立ち入り困難区域での復旧作業や点検作業を実現する独自のマルチヘリ(ドローン)開発に着手しました。これまでの通信インフラの構築と数々の災害対応で、脈々と培ってきたスキル・ノウハウをマルチヘリ運用に活かし、その活用範囲を次々と拡げています。

きっかけは、津波で橋とともに流失した通信ルート復旧

契機となったのは、東日本大震災で被災した岩手県陸前高田市の気仙大橋での復旧活動でした。この橋は大切な通信ルートを構成する設備が設置されていました。支柱だけが川の中に残された橋を前に、応急復旧作業の開始時にはランチャーロケットや釣り竿などを利用して対岸までの通信ケーブル敷設を試みましたが、川幅が広く、これらの方法では敷設できませんでした。そこで地元の漁師さんに協力を要請し、ルートを迂回させ漁船で対岸まで通信ケーブルを牽引することで、応急復旧を行いました。
この経験から、安全性、迅速性、そして効率性を重視した新しい手段を検討し、マルチヘリの採用を決定。2012年より独自の開発が始まりました。

東日本大震災では、橋とともに通信ルートが流失するケースも多かった

独自開発したNTT東日本のマルチヘリ(6事業部へ導入した3次試作機)

東日本大震災の翌年から、試作を重ねる

マルチヘリは、2012年のプロトタイプから、危険箇所に人が立ち入ることなく安全に通信ケーブルを敷設出来る機能を有しています。マルチヘリで通信ケーブルのリード線を運搬し、リモコン操作によりそれを切り離すことで、目的の場所で待つ作業員にリード線を確実に渡すことができ、ケーブルの敷設作業が素早く行えるようになりました。翌年にはGPS機能を活用し、目的の場所までの正確な自動飛行が可能となった2次試作機を開発。また、カメラを搭載したことで、上空からの被災状況の確認も可能となり、人に代わって被災状況の確認や橋梁や管路点検を行えることを実証しました。また、2015年には6事業部への配備版となる3次試作機を開発、カメラ性能と映像配信性能を強化しました。

プロトタイプ(2012年12月)

2次試作機(2013年12月)

土砂崩れや雪害などで実証しながら開発を加速

このように、さまざまな機能を備えたNTT東日本のマルチヘリは、土砂崩れや雪害による通信設備への被害状況の確認、迅速な復旧計画の立案、そして復旧作業など、さまざまな災害現場で活用されるようになりました。こうした、実際の現場での作業を通じて、安全性、迅速性、そして効率性を高めつつ実用性を検証しながら開発を加速しました。その結果、2015年3月にはNTT東日本管内6事業部に1台ずつ配備し、マルチヘリの本格運用を開始しました。さらに2016年前半までに、NTT東日本が管轄する17都道県ごとに、少なくとも1台のマルチヘリを配備する予定です。

土砂崩れによる災害現場でもマルチヘリが活躍

危険箇所に人が立ち入ることなくリード線を目的の場所へ運搬

実際の災害現場でのマルチヘリの活用事例

  • 2013年1月 新潟県小千谷市での雪害

    新潟県小千谷市の山間地において、豪雪の影響で木が倒れ、林の中を通る通信ケーブルが切断されました。従来であれば、雪深い林を迂回しケーブルを張るところですが、マルチヘリを活用し、林の上を越えて通信ケーブルを通すことで、応急復旧を迅速に行うことが出来ました。

    小千谷市の豪雪による倒木で通信ケーブルが切断

  • 2013年8月 埼玉県飯能市でのがけ崩れ

    埼玉県飯能市に位置する有間ダムの堤防の斜面部分が崩落、道路とともに、道路沿いに設置されていた電柱も流失し、通信サービスが途絶しました。再崩落などの二次災害の危険もある中、従来であれば、崖下の河川などを経由する迂回ルートを使って復旧するところですが、マルチヘリで崩落現場を越えて通信ケーブルを通すことで、安全かつ迅速に通信サービスを応急復旧することが出来ました。

    飯能市有間ダムの崩落した堤防斜面

  • 2015年4月 北海道羅臼町での海岸線崩落

    北海道羅臼町の海岸線で約300メートルに渡り地滑りが発生しました。付近の町道が崩落するとともに、電柱が宙吊りになるなど通信設備も被害を受けました。被災箇所は人の立ち入りが不可能でしたが、マルチヘリを活用することにより被災状況を確認することが出来ました。

    羅臼町の海岸線崩落は300メートルに渡った

活用の幅を通信インフラの構築・維持の日常業務へ

マルチヘリは災害復旧にとどまらず、日常業務にもその活用の幅を広げつつあります。例えば、高所作業を伴う、橋梁点検や建物点検、鉄塔点検といった危険を伴う業務の中でマルチヘリを活用することで危険作業の負担を軽減するとともに、業務を効率的に実施出来るようになりました。
これを実現するための機能開発として、2015年には独自の超音波センサ技術を導入した“衝突防止機能”を付加しました。対象物に接近しても衝突しないよう一定の距離を保つとともに、橋の下などGPS信号を受信しづらい場所でも安定的な飛行を実現し、操作者が恐怖感を感じずに利用出来るようになりました。また、カメラをマルチヘリの上部にも搭載することで、橋の下からの映像撮影を可能にしています。

橋梁などの障害物に接近しても衝突しないよう一定の距離を保つ

鉄塔での点検作業模様。安全で迅速な作業が可能

“安心・安全のDNA”を受け継ぎ、新たな価値を創造

一般的に“ドローン”と呼ばれるマルチヘリの技術は、世界的に見てもまだ発展途上である中、NTT東日本はマルチヘリを安心・安全に東日本エリア全域で活用するために組織的に取り組んでいます。例えば、マルチヘリ運用のスキル・ノウハウを標準化するためのマニュアル、従事するパイロットの育成・拡大のためのトレーニングプログラム・社内資格といったソフト面の充実とともに、練習場や廉価な練習機の配備、トレーニング環境の整備なども実施しています。また、ハード面の進化は日進月歩。リード線を張り、それを用いて通信ケーブルを引くという現在の工法から、今後は、約20Kgもの重量物を運搬出来る大型のマルチヘリに通信ケーブルそのものを搭載し、直接、ケーブル敷設する工法の導入が検討されており、これが実現することで、復旧作業のスピードが格段に上がることが期待されています。
さらに将来的には、マルチヘリに限らず、ロボット、AI、クラウドなどの最先端技術を保全作業に積極的に活用していくことにより、作業の無人化・自動化、正確性の向上などを推進し、業務の効率化・省力化を図ることを視野に入れています。

マルチヘリの操作者育成模様

大型マルチヘリに直接、通信ケーブルを搭載したデモンストレーション風景

「マルチヘリ」(4分47秒)
マルチヘリの活用と、その安心・安全な運行を支える様々な取り組みを紹介します。