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第5回 山間部の生活を守る

初夏の長雨が故障を知らせる

「いよいよ長雨の季節の到来か…、今日も故障対応で忙しい1日になりそうだな」

久慈市にあるNTT東日本-岩手・久慈サービスセンタでは、厚い雲が低く立ちこめる山の方向を見つめながら、技術者たちがその日の保守業務について確認していた。

例年6月初頭から7月中下旬まで、岩手では冷たい雨の降る日が続く。東風(やませ)と呼ばれる低温の風が入り込み、山間部ではストーブの世話になることもある。この時期は通信設備の保守を担当する技術者たちにとって、故障修理に大忙しの時期でもある。

NTT東日本-岩手では、県内を「盛岡」「水沢」「宮古」「釜石」の4つのエリアに分け、それぞれに2〜3カ所ずつのサービスセンタを配置する体制で保守業務を展開している。このうち「宮古」が受け持つ保守エリアは、青森県に隣接する種市町から三陸海岸沿いの宮古市、内陸部の川井村に至る2市3町6村。エリア内には、日本三大鍾乳洞である国の天然記念物の龍泉洞がある、本州一広い町(東西51キロ、南北41キロ)の岩泉町も含まれる。この極めて広範なエリアを宮古サービスセンタと久慈サービスセンタの2つのサービスセンタでカバー、両センタ合わせて約20人の技術者で対応している。

地域のIT化ニーズに対応するため、岩手県下の各サービスセンタでは地域のお客さまへのサービス窓口として「ITプラザ」を開設。通信機器やサービスの販売も行っている。久慈サービスセンタでは技術者が窓口業務を兼任している状況もあって、この長雨の時期は特に多忙を極める。

宮古サービスセンタの保守エリアにおいて、この時期に発生する故障件数は、週平均20件ほど。毎日2〜5件の故障が発生している計算だ。自ら故障修理の先頭に立つ久慈サービスセンタ所長の田村雅宏は「久慈市街に雨が降っていなくても、故障発生の電話が鳴り出し、スタッフ全員がにわかに忙しくなることで、山間部に雨が降り出したことがすぐ分かる」と、その状況を説明する。

それでなくともこの地域には、「広域性」や「住居の点在」など、通信サービスにとって厳しい条件が揃っている。さらには険しい山間部を抱えるが故の通信障害も多く発生、それがこの長雨の時期に一斉に露見する。ひと春ごとに大きく成長する樹木と電話線との摩擦、春先のドカ雪による倒木、キツツキのついばみや狩猟の散弾などで、山中の通信ケーブルは人知れず傷つけられる。長雨でそうした損傷部分から水が入り込み、通話時の雑音や回線不通などが起こるのだ。

故障連絡が入ると直ちに、NTT東日本-岩手の技術者はさまざまな故障に対応可能な機材を一通り装備した高所作業車に乗り、故障発生現場へ急行する。

「故障連絡が10件あれば10件とも内容や条件が違う。たとえその場で修理が完了しなくても、極力、通話できるように仮復旧させておくなど、臨機応変な現場判断が求められる」。NTT東日本-岩手・宮古サービスセンタの早川邦男は語る。保守を担当して30年以上のベテラン技術者である早川でも、気を抜くことはできないという。行く手に倒木があれば脇に避けて道を作り、高所作業車が通れない場合は梯子を担いで山道を登る。丸木橋が渓流の増水で水没していることもある。晴れてケーブルが乾くと障害が収まってしまい、故障箇所の発見が困難となる場合もあり、雨のうちに作業を完了しなければならない。

そのため、現場への唯一の道が土砂崩れで通行止めになっていても、引き返すことなく山裾を大回りして迂回したり、同時多発的な障害発生時には広範な担当保守エリアを端から端へ何時間もかけて移動したり…。ここでの保守はまさしく移動時間との闘いだ。通信ケーブルの著しい損傷などのように一目で判別できる場合以外は、雨に濡れた電柱を何本も登って、故障発生箇所の特定につとめることがある。故障箇所がようやく判明した後も、冷たい雨に打たれながら電柱の上でさらに長時間を費やすことが少なくない。「細い心線を1本1本つなぐなど細かい作業の連続に、雨に濡れた寒さで指がしびれ、動かない時もある。防水着はもちろん、冬でなくても防寒具の用意も必須」と早川は語る。

電話が故障すると、「隣の家」まで電話を借りに数キロの山道を歩かなければならないお年寄りがいる。故障修理のため一人暮らしのお年寄り宅を訪れたところ、つながらない電話に心配して、各地から親戚一同が集まって来ていたこともあったという。

「もう30年近くも前のことになりますが、自分が入社した当時、木を伐採しながら山の上まで電柱を1本1本立てていって通信ケーブルを敷設し、電話を開通させた一軒家に、今でも元気に暮らしているお年寄りがいらっしゃいます。自分が建てた電柱が30年間にもわたってこのお宅の安心を支えて来たと思うと感無量です。そうした設備の故障を直すことは、まさに自分の使命で、保守を続けることは、自分にとって誇りです。一刻も早く修理を完了して、電話が開通したあの日のように、喜ぶ笑顔をまた見たいですね」。NTT東日本-岩手・久慈サービスセンタの北川良吉は、修理を終えた後、笑顔をほころばせながら語る。

山の向こうへとどこまでものびる通信ケーブル

落雷の季節に備えて、屋外の保安器に異常がないかを確認

故障箇所の特定には、辛く厳しい雨中の作業が避けられない

熊も通るという丸太橋は住民の手作り。作業車はおろか台車すら使えない

「長雨の季節になると特に気合が入る」NTT東日本-岩手 久慈サービスセンタ所長 田村雅宏

「臨機応変な現場対応を心がけている」NTT東日本-岩手 宮古サービスセンタ 早川邦男

「保守を続けることは自分にとっての誇り」 NTT東日本-岩手 久慈サービスセンタ 北川良吉