有識者インタビュー 第1回

インタビュー(後半)

目立つ子を大人が思いっきり褒めてあげればいい

赤堀侃司先生ご近影

最近、学生を見ていると、こっちが喋っていることをそのままノートに書き写す子が結構いるんですよ。確かに写すことも重要だと思うけれど、じゃあそれに対して自分の意見をプラスする、となると、下手ですね(笑)。今は、学生に質問すると嫌がられるんですよ。うっかり同じ子を二度あてたら「セクハラだ!」って怒られました(笑)。みんな、自分の意見を言って、それが他人の意見とどう違うか、すごく気にするんですよね。だから意見を言いたがらない。他人と同じだと安心するけれど、違うと目立つから嫌だと。でもそれだとコミュニケーションにならないんですよね。
やはり小学生や中学生も、他人の意見に同調しないといじめられる、という危機感を持っているんでしょうかね?

佐々木かをりさんご近影

確かに、「出る杭は打たれる」的なことはあると思います。
でも私は、他人と意見が違うのは“スペシャル”なこと、素晴らしいことだと思うんです。
娘が「学校で変だと言われた」としょんぼりしていたときに、私は「あら素敵!よかったわね!あなただけのスペシャルがあるってことよ!」って言ったんです。娘はちょっと呆れたような顔をしてましたけど(笑)、結局は「こんなお母さんでよかった」と言ってくれました。まぁ、それでうまくいかないことがこれから出てくるのかもしれませんけれど、私自身は人と違う価値観を持っている、ということが好きなのです。

赤堀侃司先生ご近影

そう、それを認められるようになればね。
ガリレオの地動説じゃないけれど、論理的に正しければ自己を主張してもいいんだ、というのがメディアリテラシーの奥にあるんだと思うんですよ。でもどうもそれが、薄れてきているんだなぁ。

佐々木かをりさんご近影

私は、「人間は自分に得なことしかしない」とシンプルに思ってるんですね。
だから、自分の意見を言わないのは、その方が自分にとって得になる、ベネフィット(利益)があると思っているからなんじゃないでしょうか。でも、たとえば素敵な男の子の前で自分を印象づけるためには、自分の個性を出すことを選択するかもしれませんね(笑)。学校生活でもインターネットでも、目立つ子どもや自分の意見を言う子どもを、大人が思いっきり褒めたり賞を贈ったりすればいいと思うんです。そうすれば、自分の意見を言う方がベネフィットがある、と思う子が増えてくるんじゃないかしら。

ルールがあるからこそ、コミュニケーションが増える

佐々木かをりさんご近影

ただ今は、インターネットだと目立つために悪いことをする子がいますね。
先日、娘のクラスである事件が起きたんです。日ごろから「俺はパソコンでいろいろなことができる」と言っていた男子生徒が、同級生のいたずら画像を、クラスメイトに送信したんですね。それで先生も、写真を使われた子のお母さんもすごく動揺して、大騒ぎになったんです。でも、その生徒が本当にメールを送ったのか、何をしているのか、素人にはわからないですよね。

赤堀侃司先生ご近影

今は、メールのなりすましなど、ものすごい勢いでテクノロジーが発達しているから、いろいろな方法があります。だから判断が難しいですね。表面だけを見て安易に決め付けることはできませんよ。

佐々木かをりさんご近影

私はこういうとき、対処のガイドラインがあればいいと思うんです。
インターネットに関連したトラブルが起きたときに、どこにどういった問い合わせをすればいいのか、どういう対処をすべきか、学校側では分からないんですよね。日本全国で同じような問題が起きたとき、ただ大騒ぎするだけで正しい対処をしないと、どんどん悪い方向へ行ってしまうな、と思いました。

赤堀侃司先生ご近影

そうですね。やはりこういうときには、専門機関へのホットラインなどが必要ですね。でないともう、学校の先生では対処しきれない。

佐々木かをりさんご近影

そのいたずらメールを送った生徒に対して、ただ「ダメだ!」と叱りつけてパソコンを取り上げてしまうよりも、その興味をいい方向に目を向けさせてあげたらいいと思うんです。そうすれば、「いたずらメールを送るよりも面白い」ってことになるし、もしかしたらいいビジネスに貢献してくれるようになるかもしれないし(笑)。

娘のクラスの事件が起こった後、先生に「この機にメディアに関する学習機会を持ったらどうですか?」とお話したんです。やはり実際に起きたことをステップにして、生徒に指導したほうがいいですからね。
インターネットの危険な事例、ネガティブな題材ばかり取り上げるのは、かえってマイナスです。悪い事例を1つ出したら、その5倍は良い事例を出したほうがいいと思います。
以前聞いた話で、シンガポールの小学校で「マヤ文明について」という授業をやったとき、あらかじめ教科書は用意せず、児童がグループに分かれてインターネットで調べたそうです。海外の研究者にメールを送ったり、画像を集めたりして、最後にそれぞれが集めたデータをまとめると、オリジナルの教科書が出来上がった。これなんかは、インターネットを活用したいい例ですよね。

赤堀侃司先生ご近影

うん、やはり子どもの頃にインターネットをうまく活用する能力を身に着けたほうがいいですよ。所詮、道具なんですから。ある程度のルールを決めて、その上で技術を活用していけばいいんですよ。

佐々木かをりさんご近影

私は、娘が小さい頃に子ども向けの音楽が流れるウェブページを見せていたんですが、「夜になったらこのページは終わっちゃうのよ」と教えていたんですよ(笑)。小さい子どもには、インターネットは24時間アクセサブルだ、ということまで教える必要はないですから。大きくなったら通用しませんけれど(笑)。子どもの時は、インターネットのベネフィットだけ共有できればいいと考えています。今は、子ども用のパソコンはリビングルームに置いたり、通信ゲームをするときは私のパソコンからするなど、目の届くところで使わせるようにしています。

赤堀侃司先生ご近影

そう、こう言ってしまえば簡単なんですけれど、それぞれの家庭でルールを作ればいいんですよ。ルールがあるからやりたいことが制限されるのではなく、逆にコミュニケーションが増えるんです。
インターネットを題材にして、先生と児童、親と子がルールの下で顔をつき合わせてコミュニケーションする機会が増えれば、インターネットに関するトラブルは減って、メディアリテラシーが向上していくんですね。