支店ホーム > ふくしま人 > 現代美術家 山本伸樹


現代美術家 山本伸樹

山本伸樹

田人の森から俯瞰(ふかん)する現代美術で表現する3.11後の世界

 田人町は作品の制作と趣味を楽しむところとして、山本さんにとって申し分のない理想的な環境を提供する中で、現代美術家として昔から疑念を持っていたものが原子力発電だったとのこと。もし仮に田人町で原発事故に遭い、チェルノブイリの例で日本全体に被害が及べば、どこに居ても同じことだと理由付けをし、結果的に田人町に住む結論に至ったことは、今となっては後悔はあるものの、多分大丈夫という安易さがあったと話します。
 「今回のことを僕なりに調べて検証すると、チェルノブイリのように炉心そのものが大爆発していたら、今頃日本中が大変なことになり、田人町でこうはしていられなかったと思います。奇跡に近いところで踏み留まるように、責任感を持って対処した人達には敬意を払いたいと思います。ただ、何も終わっていないし、分からないように正確な情報が出されていないので、何も安心できる状況ではありません。ようやく素晴らしいところで今までやれなかった活動が出来るようになったのに、見た目には何事もなくても、僕はやはり芸術家で少なくても現代美術をやっていると、単に見た目の問題ではなく、背後に潜む現実にはなかなか見えないものを、想像力と論理、情報を出来る限り取り入れて現実的なシビアなイメージを描く生き方をしているので、似たような風景でも全く別の風景になってしまいました。人間の傲慢な論理で意図的に操作された情報をもとに『もう大丈夫』とは思えない状況で、実は内心不安を感じながら田人町で暮らしています。」
 2001年(平成13年)から山本さんらが中心となり、山本さんの住まい周辺や古民家を改装したギャラリーなどを会場に、国内外の友人作家らによって始められた「アートミーティング『田人の森に遊ぶ』」は、小規模なものを含めて2009年(平成21年)まで5回開催され、震災と原発事故後の展覧会の意義や可能性を思い始めていた山本さんの意図と、過疎化対策の地域振興を進める地元協議会からの要望もあり、前回の開催から4年を経た今年8月、田人地域振興協議会が主催となって、自然豊かな田人町の約20ヶ所の会場に国内外の芸術家42人の作品が展示され、田人支所と田人公民館の協力を得ながら、参加者と作家とのワークショップや田人町全体を舞台に見立てたパフォーマンスが披露されました。
 「震災以降、いろいろな意味で展覧会の可能性を思い始めた時に、地域がどんどん衰退している気配が如実にあり、それを何とかしたいと思う人達が、これまでの芸能人を呼ぶような一過性の地域振興イベントでは意味がないと、我々アーティストと一緒にやることになりました。田人町の貝泊(かいどまり)地域では、子供の減少対策へ非常に熱心に取り組み、若い家族が移住してくる状況が生まれつつありましたが、あの事故で大きな可能性の芽が殆ど断たれてしまいました。今、田人町の小学校は殆どが閉校してなくなりつつあり、放置しておくにはとてももったいなく、今回も展覧会の会場として有効活用したり、ひとつのサンプルとして提案出来る切っ掛けになると思います。地域を元気にするには見せかけの元気や見せかけの人集めではなく、少しでも元の状態に戻す根本的な問題が解決しなければ無理で、今の日本で当たり前な論理が通らないことが日本人として恥ずかしく、嘆かわしく、アーティストが出来る範囲でこれからも提案しながら、少しでも元の素晴らしい田人の状態へ戻す一助の一端になりたいと思います。」
 阿武隈山地特有のなだらかな田人の豊かな自然の中で、現代美術の創作活動を通して作家同士や地域住民が相互にコミュニケーションを持ち、敬いつつ恵みを甘受してきた自然と人間社会に思いを巡らせながら、山本さんの想像力と論理から創り出される現実的でシビアな作品が、3.11後も田人の森から発信され続けます。

※俯瞰(ふかん):高い所から見下ろし眺めること。

取材後記

今回、「ふくしま人」へご登場を頂いたのは、いわき市田人町の現代美術家、山本伸樹(やまもとのぶき)さん。自然豊かな田人町全域を舞台にし、国内外の現代美術家による展覧会「アートミーティング2013『田人の森に遊ぶ』」を震災を経たこの夏4年振りに開催。田人の森の光や音、匂い、風などを感じてイメージを膨らませる美術家同士が、美術家と地域振興に努める人達とが交歓し合い、再開ではなく、3.11後の田人町から発信する新たな「田人の森に遊ぶ」アートミーティングが始まりました。
◎山本伸樹Facebook:http://www.facebook.com/nobuki.yamamoto.5