雪が溶けた昭和村の春の風物詩、例年からむしの始まりを告げる5月の「焼き畑」は、からむしの品質の均一さを図って、害虫駆除や根に刺激を与えて一斉に発芽をさせる芽揃えと、残った灰を肥料にするなどの目的があり、往時の大正以前には、至る所のからむし畑が火の海となり、夕空を焦がす様子が壮観だったといわれています。
焼き畑の翌日、有機肥料を蒔いて施肥し、乾燥と雑草を防ぐためにワラを敷いて畑の周囲に杭を立て、倒れや擦れを防いで密集して成長させるために棒ガヤ(カヤ)の垣で囲み、2ヶ月後の夏の刈り取りまで成長を見守ります。
齋藤さんは、一年を通してからむしに関わる作業の中で、夏の刈り取りが近づく頃の心境を次のように話します。
「刈り取りが始まる7月中旬が近づくと、気持ちがワクワクしてきます。この時期を過ぎると、からむしが成長し過ぎて繊維が固くなるので、限られた期間に全てを刈り取ります。朝から刈り取りを始めて、刈り取ったからむしをその日の内に苧引き(おひき)をするので、体力的にはきついのですが、今年のからむしの出来はどうかとか、キズが少ないといいなとか、ドキドキしながらも楽しみな作業のひとつです。」
秋にかけて屋内で良く乾燥させたからむし(原麻)を、糸の太さに合わせて爪で細く裂き、おぼけと呼ばれる丸ワッパに、繊維を捩り合わせて紡いだ糸を平らに溜め、更に糸車で撚(よ)りをかけて丈夫な糸に仕上げ、昔ながらの地機(じばた)や高機(たかはた)にかけて、手織りのからむし織が作られます。
からむしの生産と苧引きの技術が国選定保存技術に認定され、からむし織が県指定重要無形文化財に指定される伝統を継ぐ織姫の立場をお聞きすると、
「からむし栽培は、もともと村の人たちが田んぼでお米を作ってきたように、昔からずっと続けてきた素朴な毎日の生活の一部で、特別なことをしているとは思っていません。村の人と同じように、私もここで毎日生活をしながら、からむし織に関わらさせて貰っているだけです。」
齋藤さんは一人の村の人間として、村に受け継がれてきたからむし織を、今自分がお年寄りの方に教えて頂きながらやらせて貰っているだけと話し、
「からむし織は高級なものですが、大切に取っておいて貰うものよりも、お財布やブックカバーやコースターのような、毎日の生活でいつも身近に置いて、大切に使って貰える、そんなものを作っていきたいと思っています。」
と、自分なりのからむし織に向かう姿勢を静かに話します。
齋藤さんは今年の4月から、昭和村と都市部との交流を基に、村との交流や定住人口の促進を目的に2007年(平成19年)に設立された「NPO法人苧麻倶楽部(ちょまくらぶ)」へ所属し、「地域産業の振興を図る事業」のひとつとして、“村の魅力を伝える場”として一軒の民家を借り受け、「工房toarucafe(トアルカフェ)」を10月にオープンしました。1階の工房では齋藤さんのからむし織の作業が見られ、自作のからむし作品やまたたび細工などが展示販売されています。また、2階のカフェスペースには絵本などの図書が置かれ、広い和室の円卓や長机に向かってのんびりと座り、お茶を飲みながら気軽に集える場として人気となっています。
「毎年12月から翌年の4月までは、村を離れて近隣のスキー場へ住み込みでアルバイトへ行っていました。このカフェが出来たお陰で、今年から冬も村に居ることが出来ます。近所のお年寄りやこの村に魅力を感じてくれている観光客の人達が来てくれて、お茶を飲んでくつろいでいる様子を見ていると、とても嬉しい気持ちになります。」
海に面した神奈川の真鶴に生まれ育った齋藤さんが、縁あって奥会津の山間の昭和村に移り住み、生活の一部として受け継がれてきたからむし織を、一人の村の人間として受け継ぐことは、からむし織と昭和村の暮らしに惹かれて暮らす齋藤さんにとって、昭和村の一員になれていることの証なのでしょう。
今回ご登場を頂いたのは、奥会津昭和村のからむし織姫 齋藤環(さいとうたまき)さん。昭和村の「織姫体験生制度」11期生として、来村されて今年8年目。約600年の伝統を誇るからむし織を伝承することは、それなりに力の入れ方が違うものかと想像をしていたら、「村の人が田圃でお米を作ってきたように、からむし織も生活の一部。」の言葉に目から鱗。昭和初期まで日本の農家でよく見られたという、衣料自給自足の機織りの在る生活が少し分かったような、そんな貴重な取材となりました。なお、「平成24年度からむし織体験生(織姫・彦星)」の募集期間は終了しましたが、興味をお持ちの方は、昭和村役場窓口へ。
◎昭和村役場:http://www.vill.showa.fukushima.jp/
〒968-0103 福島県大沼郡昭和村大字下中津川字中島652 TEL:0241-57-2111 FAX:0241-57-3044
◎NPO法人苧麻倶楽部(ちょまくらぶ)/工房toarucafe(トアルカフェ):http://www.chomaclub.jp/
TEL/FAX:0241-57-2240 Mail:info@chomaclub.jp
※工房toarucafe(トアルカフェ)営業日:金・土・日・月 10:00〜16:00