小正月の1月15日、例年真冬の会津地方では、竹や藁、松飾り、注連縄(しめなわ)などで組んだ櫓に火を付け、正月に家に迎えて祀る歳神様を天にお送りし、去る年への感謝と新しい1年の無病息災、五穀豊穣を願う冬の伝統行事「歳の神(さいのかみ=どんど焼き)」が行われ、真っ赤な炎に“団子刺し”をかざし、神の火の熱に触れて健やかな1年を送ることができるようにと、小正月の伝統行事「歳の神」への会津の人々の想いが込められています。
2013年(平成25年)2月、南会津郡下郷町の湯野上温泉では、幼児から高校生までの子供達が、湯の神「湯神さま」温泉神社から頂いた火を会場内の松明に灯し、アーティストが観客の目の前で大きなキャンバスに絵を描くライブペイントや、和太鼓とアフリカンドラムに合わせたファイヤーダンスのパフォーマンスなどが繰り広げられ、『毎日を楽しくする切っ掛けを作ること』を目的に、一過性の観光イベントに終わらず、人と人、人と文化を繋ぐ始まりを作ることを願って、第1回目の「“火とアートの祭り”湯野上温泉火祭り」が開催されました。
夏は温泉街らしく「湯野上温泉湯祭り」と題し、「お湯かけ祭り」の要素を加えた子供達のお神輿や、温泉神社のお社を舞台にしたライブなどが開かれ、秋には温泉街の蔵や民家の壁、宿や飲食店内にアーティストが描いた絵を自由に巡る「湯野上温泉Art散歩」、そして保育園児から小学生の子供達を対象に、写真家による写真ワークショップも開かれ、古くから大川渓谷沿いの雄大な眺めと豊富な湯量で知られる南会津の素朴な温泉街に、『温泉・アート・音楽』の3つのキーワードで新風を吹き込む新しい取り組みが進められています。
今回「ふくしま人」へご登場頂いたのは、これらのイベントを企画する湯野上温泉観光協会の若手中心人物のお一人で、ご家族で営む民宿「紫泉」6代目の鹿目信和(かのめのぶかず)さん。今年第2回目の「“火とアートの祭り”湯野上温泉火祭り」を間近に控え、準備に多忙な毎日を送られる合間にお訪ねし、まず鹿目さんのプロフィールからお話しをお聞きしました。
「僕は湯野上温泉で高校まで過ごし、今から4年前に戻ってきたのですが、父や祖父母が書道家だったり、母が幼稚園の先生でピアノをやっていたり、そんな環境もあって中学の頃から音楽が好きになり、自分でも音楽をやってみたいと高校からベースをやり始めました。3年間本当に夢中になり、東京へ行ったり、各所でライブをやらせて貰いながらいろんな人と出会い、福島市の大学へ進んでからギターに転向し、そこでもいい仲間と出会い、DJや打ち込み(DTM※)を経験したり、音楽以外のアートに対する想いだったり、いろんな人と交流することで、会津への愛着みたいなものがフツフツと自分の中に出てきました。家業が温泉宿をやっているのですが、人手が足りなかったり、後継者のこともあり、姉と相談して僕が戻って家業を継ぐことになりました。地域のことも温泉宿の仕事も好きでしたので、余り抵抗もなく、戻って来てから今に至ります。」
温泉街を盛り上げる様々なイベントがそれまで開かれてきた中で、その日だけ盛り上がり、地域に根付かない一過性のものではなく、湯野上温泉に行けばいつも何か楽しめ、それを楽しみに湯野上温泉に行く誘客方法を仲間達と話し合いを重ねた当時を、鹿目さんは次のように振り返ります。
「まだ火祭りという形が出来る前に、2月頃に湯野上温泉で何かやりたいという声が仲間内から上がっていて、『歳の神』のような地域住民だけが楽しむものではなく、ここで長く生活していく上で、1年に1回で良いから、楽しくて子供達が自分にも出来るという想いが芽生えるような、そんな特別な一日、一夜を作りたいという話しから火祭りの原形が徐々に出来上がりました。音楽だけでなく、アートや写真などへの自分の憧れや想いがあり、それを皆んなに見て貰いたいという純粋な衝動から始まりましたが、2月の火祭りだけではなく、365日ずっと続くものとして、アートに触れ合っていくイベントとして、去年『湯祭り』や『Art散歩』も始めました。」
湯野上温泉観光協会が主催となり、『温泉・アート・音楽』の3つのキーワードで始められたそれぞれのイベントは、観光地としての湯野上温泉を訪れる観光客を増やすことを意識することは当然として、「地域の様々な世代間のコミュニケーションが、実は自分の中で大切なことのひとつ」とも話し、引き続きイベントを活かした地域作りや人作りへの想いをお聞きしました。
※DTM(Desktop Music):コンピューターを使って作成される音楽、またはその音楽制作行為。「DTP(Desktop Publishing)」をもじった和製英語。