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金寳仁井田本家18代目蔵元 仁井田穏彦

仁井田穏彦

創業300年にして創業期へ回帰する無農薬・無肥料の自然酒造り

JR郡山駅から南東に約10キロ、阿武隈川を渡った国道49号線をしばらく南下した郡山市田村町一帯は、かつて水戸藩御連枝(ごれんし)※の支藩、守山藩(もりやまはん)の領地があったところで、水戸藩第2代藩主徳川光圀(=水戸黄門)の甥 松平頼貞によって、2万石を拝領して1700年(元禄13年)に立藩されました。
今から丁度300年前の1711年(正徳元年)、藩命によって領内金沢村で酒造りを始めたのが、今回お訪ねした金寳仁井田本家(きんぽうにいだほんけ)。江戸時代に建てられた正門には、軒下に杉玉が吊るされた重厚な長屋門(ながやもん)が今に残されています。
今回「ふくしま人」へご登場を頂いたのは、仁井田本家18代目の仁井田穏彦(にいだやすひこ)さん。創業以来「酒は健康に良い飲み物でなければならない」を信条に、先代から始められた農薬・化学肥料を使わずに栽培する“自然米”作りを受け継いでいます。
「うちの蔵は、“日本の田んぼを守る酒屋になる”を一番の使命に置いて、冬は酒造り、夏は自社田の米作り、農薬を使わない元気な田圃と水を守って次の世代へ残す、そんな酒造りをしています。」と丁寧に話します。
日本で初めて、先代が無農薬による純米酒銘柄「自然酒」の醸造・販売を始めたのが1967年(昭和42年)のこと。その後も動物・植物の有機肥料の試行や無肥料の試行を何度か繰り返し、7〜8年前からほぼ無肥料の自然栽培に定着したと話します。
「私たちが行っている米作りは無農薬の自然栽培で、よく一般的に耳にする有機栽培とは違います。つまり肥料を使わない無農薬の“自然米”作りです。これまでも動物系の有機肥料や植物系の有機肥料を使ったこともありました。確かに有機肥料を使うと米の収量は上がりますが、土本来が持っている力、純粋な“地力”だけで米を作ることに拘った結果が“無肥料”でした。始めた頃は1反歩(990m2)の田圃から2〜3俵しか穫れない時期が5〜6年続きましたが、ここ数年次第に収量が上がって、今年は5〜6俵は穫れると期待をしています。」
土の保水力や通気性、養分となる化合物の含有率、また作物に有用な微生物などの地力が、肥料を与えなくても上がり、ここ数年の収量が増えてきたと話します。
「昨年までの総仕込みの97.9%の使用米が自然米でしたが、創業300年を迎えた今年の目標としていた、自然米100%の総仕込みがようやく達成できます。うちの蔵が無農薬・無肥料の米を沢山使うことで、この地域に無農薬の元気な田圃を作る農家が増えて、それが日本の宝とも言える元気な田圃がもっと拡がることを望んでいます。」
収量が落ちることを覚悟で無肥料に徹底し、地力だけの自然米作りに拘って、創業300年の今年を目標にしてきた、自然米100%の総仕込みを達成する仁井田さんの表情には、より洗練された質の高い酒造りができることの安堵感と、それを確かに継ぐ環境を整備できた自信とが表れているようでした。

※御連枝(ごれんし):江戸時代に御三家(尾張徳川家、紀州徳川家、水戸徳川家)より分家、立藩した、松平姓を名乗る大名。