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日曜ミュージシャン 菅原ミワ

菅原ミワ

出会いと支えが後押しする音楽で表現する3.11後の心象風景

 菅原さんと村重さんがホームとしているいわき市の江名は、二見ヶ浦の合磯岬から塩屋埼灯台の塩屋岬まで、鳴き砂で知られる白砂青松の豊間海岸が続く風光明媚な海辺の町で、2011年(平成23年)年3月に起こった東日本大震災では、地震と津波によっていわき市沿岸部で最大8.57mの津波に襲われ、江名港や走出(はしりで)、豊間の沿岸部でも多くの人の命が失われ、現在も防波堤などの港湾災害復旧工事が進められています。
 震災後に起こった原発事故により、菅原さんはご家族らと共に茨城県のご親戚の下へ避難され、村重さんは沖縄の友人のミュージシャンの支援により、名護市のドキュメンタリー映画監督輿石正(こしいしまさし)氏の下に奥様とお子様と共に避難します。翌4月に菅原さんはいわきへ戻り、続いて村重さんも単身で沖縄から戻られ、海辺の瓦礫の撤去や知り合いのお店の修復作業にあたりながら、不安を抱える状況のなかで徐々に仕事を復帰させ、ライブへの出演依頼も入るようになっていったと話します。
 「いわきへ戻って来てから、私の中でも迷いがすごくあり、ここに居てもいいのかという不安で、なかなか動けない状況が長く続きました。とても葛藤するものがあり、家族もいわきに居りますし、いろいろなことを常に考えていました。村重さんもご家族を名護へ住まわせて帰って来られ、一緒に瓦礫の撤去などを始めている内にライブのお誘いも入ってきました。県外からのミュージシャンが積極的にいわきへどんどん来るようになり、地元のミュージシャンも出演させて頂き、とても沢山の出会いがありました。それからもずっと迷いや葛藤は続くのですが、支えてくれる方達や応援に駆けつけてくれる方達、ミュージシャンの方達に支えられ、その方達がとても考えて下さって、逆に県外へ連れ出してくれてライブをさせて頂く機会が多くなり、保養目的にもなって、沖縄や熊本、石巻、関西、関東の方へも呼んで頂き、本当にいろいろなミュージシャンと関わらせて頂きました。」
 沖縄の名護市へご家族と共に避難された村重さん家族を受け入れた映画監督輿石正氏は、幼少期を福島で過ごした過去の自分と村重さんのお子さん空(そら)くんとが重なり、空くんを通して原発と基地への人々の想いを訴えたいと、村重さん家族を取り上げたドキュメンタリー映画『10年後の空へ』を発表し、石油備蓄のために1000万坪の沖縄の海を埋め立てる構想に反対した、安里清信(あさとせいしん)の一生を取り上げたドキュメンタリー映画『シバサシ』の挿入歌を『ミーワムーラ』に依頼します。
 「震災と原発事故が自分の人生の中でとても影響していると、今はっきり分かりますが、当り前のことが出来なくなってしまったことで、その反面当り前にやってきたことにとても感謝するようになりました。両親や家族はとても応援してくれ、いつも支えてくれる村重さんの大きな存在や、家族のように支えている人達が私の周りには沢山いるんだなと、とても強く感じるようになりました。震災と原発事故後に音楽はストップして動けない状態が続き、この先どうするかを一度きちんと考えなければいけない状況もありました。村重さんがお世話になっている映画監督輿石正さんが、村重さん家族を取り上げたドキュメンタリー映画『10年後の空へ』を作られ、次の作品『シバサシ』で、スタッフの山城美由紀(やましろみゆき)さんが作られた挿入歌『祈り歌』を村重さんがアレンジし、『ミーワムーラ』で参加させて頂きました。その一曲がとても自分達にとって大きく、すごく迷っていた時に頂いた大事な曲で、またもう一度音楽をやってみようという気持ちにさせて頂いた大きな一曲になっています。私はそういう意味で周りの方々にチャンスをいっぱい貰い、人との関わりで今こうやって音楽が出来ていることを強く感じています。」
 震災で傾いた家を離れて村重さんは小名浜へ移った後も、菅原さんは以前と変わらず今も海が見える江名の高台で暮らし、『家は何もないけれど、都会から来たミュージシャンの人達には羨ましがられ、街中に住んでいれば作る曲も変わる』と、海辺で暮らしていることが曲のイメージやストーリーを作る切っ掛けやヒントになり、それがメロディや歌詞へと影響し、そのことに拘らずにいろいろな目線で作っていきたいと話し、震災後の様々な人達との出会いや機会を経験することで、いわきで出来る音楽活動がより好きになり、自分達を支えて応援してくれる人達によって県外の様々な土地で歌うことにより、自分達の歌からいわきへ興味を持って貰い、いろいろな所からいわきへ来て頂いて、ライブを見て貰えたら嬉しいと、終始控え目で丁寧な口調で、音楽へ向き合う真摯な想いが伝わってきました。

取材後記

今回、「ふくしま人」へご登場を頂いたのは、いわき市のフォーキーデュオ『ミーワムーラ』のギターとヴォーカルを担当する、菅原ミワ(すがわらみわ)さん。実力派ギタリストの村重光敏さんとのユニットは、アマチュアでありながら、その音楽性と実力を七尾旅人やタテタカコなどのプロミュージシャンや音楽関係者から高く評価され、いわき市をベースに、沖縄、関西、関東など、『ミーワムーラ』を応援するミュージシャンなどによって県外でのライブ活動も行っています。ステージ上ではどこか少し物憂げな少年のような菅原さん歌声がオーディエンスを惹きつけ、インタビューで直接お話しをお聞きすると、控え目で丁寧な話し方と、大好きな音楽への真摯な向き合い方が印象に残る取材でした。
◎菅原ミワBLOG『世界の台所』:http://d.hatena.ne.jp/asante777/