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インタビュー&レポート 農業編

「圃場マップを用いて作業計画・管理支援を行う」独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構・近畿中国四国農業研究センター サブチーム長 農学博士 吉田智一氏

緯度・経度、高度、人口、土地利用など、位置や空間に関する様々な情報をコンピュータ上で重ね合わせ、情報を加工・分析して視覚的に表示させるGIS(地理情報システム)*1が注目されています。近畿中国四国農業研究センターでは、GISを利用して圃場地図上で農作業を管理できる「作業計画・管理支援システム」を開発。無償でWeb上で公開し、多くの農家から評価を得ています。

*1 地理情報システム(GIS:Geographic Information System)は、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術である。
(国土地理院GPSHP http://www.gsi.go.jp/GIS/whatisgis.html

圃場マップを用いる作業計画・管理支援システムとは、どのようなものですか?

吉田

GIS(地理情報システム)に基づく圃場地図を活用し、圃場、作付け、栽培管理作業に関する情報などを、Windows PC上で、圃場の地図を表示しながら、視覚的に管理できるソフトウェアです。無償でダウンロードして利用できるよう、Web( http://www.aginfo.jp/ )上で公開しています。

作業計画・管理支援システムは、圃場管理、圃場図作成、作業計画作成、各種書類作成など、複数のプログラムから成り立っています。

図表1 構成図
【図表1 構成図】
作業計画・管理支援システムの構成。複数のプログラムで構成されている。
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メインとなる作業計画管理プログラムでは、管理ファイルに圃場地図や基本情報と合わせて、圃場や作付け、作業などを管理する台帳情報が記録されます。現在、土地台帳、作付け台帳、生育台帳、栽培台帳、受託台帳、土壌台帳、施用台帳、品質台帳の8つが用意されています。これらの台帳にデータを入力・更新していくことで、一作の管理を行います。

このシステムの最大の特長は、入力した圃場、作付け、作業などについての情報を、画面の圃場地図上に着色表示して、一目で状況を確認できることです。

図表2 作業計画・管理支援システムの稼働例
【図表2 作業計画・管理支援システムの稼働例】
圃場地図上で示されるので視覚的に把握しやすい。
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また、データをCSV形式*2などで取り出し、マイクロソフトのエクセル*3で利用することもできます。さらに、水稲共済細目書異動申告票の作成など、書類作成の効率化もできます。

*2 表計算ソフトなどで開くことを前提に、データをカンマ「,」や改行で区切って並べたテキスト形式のファイル。
(アスキーデジタル用語辞典 http://yougo.ascii.jp/caltar/CSV形式
*3 マイクロソフト社が開発した表を作成してデータの集計や分析を行うことができる表計算ソフト
(マイクロソフトはじめの1歩 http://office.microsoft.com/ja-jp/2007/FX102135021041.aspx

実際に使うには、まず地図を取り込むところから始めるのですか?

吉田

最初に圃場の地図を作成する必要がありますから、まず下絵となる地形図などを入手します。自治体が持っているGISデータが入手できるようであれば、それをパソコンに取り込みます。なければ、自治体や国土地理院の持っている地形図を入手してスキャナで読み込んで電子化するか、国土地理院などの航空写真を購入してパソコンに画像データとして取り込みます。それもなければGoogleマップ*4の航空写真表示を利用することもできます。ただし、圃場区画などが識別できる高解像度の場合に限定されます。

図表3 地図データの作成
【図表3 地図データの作成】
自治体から入手した電子地図や紙地図、
国土地理院の航空写真などをもとに、圃場地図を作成する。
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そうやって取り込んだデータをもとに、背景図を作成し、次に圃場図を作成します。いずれも作成支援ソフトを用意しており、マウスで地図上をクリックしながら操作できるので、多少の地理座標に関する知識は必要ですが、操作自体はさほど難しくはありません。

*4 マッピング テクノロジーと、お店やサービスの場所、レビュー、乗換案内などを組み合わせたサービス。
(グーグルヘルプ http://maps.google.co.jp/support/bin/answer.py?answer=7060&topic=10778

初心者には、至れり尽くせりのプログラムが用意されているようですね。

吉田

圃場図を作ることについては、我々自身が研究・開発の過程で苦労してきましたからね。自分たちで自治体とかけあってきた中で、どうやって地図を作るかというノウハウはできていました。それを農家の方ができるようにするために、どういうツールを用意しておけばいいのかという発想で、必要な機能を考えたうえで、全部作り込んだのです。ですから、例えばグラフィックソフトがなくても最低限トリミングができるようにしておくといった工夫を盛り込んでいます。

圃場図ができたら、初期設定画面で基本情報を入力します。JAで生産履歴の記帳運動を進めていますが、そこで記入しているものは入れられるようになっています。一例を挙げると、所有者、地番、面積など圃場に付帯する情報、その圃場で栽培・管理する作物や品種などの作物情報、農業機具、肥料、農薬などの資材情報、作付け情報、土壌成分、日々の栽培管理作業情報などがあります。

入力項目は大変多いので、初めてこのシステムを目にすると驚く方も多いのですが、全部入力する必要はありません。農家の経営形態や運用方法に合わせて、必要なものだけを入力しても稼働するようになっています。例えば、農家法人のような場合で、作業者を雇っていればそうした情報を入れたり、任されている圃場の地主さんの一覧表を作ったりする必要もあるでしょうから、そういった情報を入れる「箱」を用意したと考えていただければいいのです。入れる内容も、肥料や農薬なら自分のところで使うものだけでいいわけで、使う農家さんの状況に合わせていただけるようにしています。

圃場図の作成やデータ入力など最初は大変ですが、一度入力してしまえば、いろいろな意思決定や日々の作業の進捗状況や工程管理に大いに役立ちます。例えば、GISですから、昨年のファイルを開いて今年のファイルと重ねて表示させたうえで、昨年の作柄や収量を確認し、今年の作付けをどうするかといった計画を立てることもできます。

図表4 水稲共済細目書異動申告票作成例
【図表4 水稲共済細目書異動申告票作成例】
入力したデータを利用して、水稲共済細目書異動申告票を作成できる。
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このシステムを作成しようとしたきっかけは、何だったのですか?

吉田

写真 吉田智一氏

近年、高齢化と後継者不足から農家をリタイアされる方が増えてきました。それに伴い、耕作できなくなった土地を、大規模に農業経営されている方にお願いして耕作してもらうとか、集落などでまとまってその地域の圃場の面倒を見るといったことが、どんどん進んでいます。その結果、見ず知らずの圃場に出向いて作業するケースや、場合によっては人を雇って、地図上で圃場を示しながら、作業内容を指示することが増えています。

もともと農業は、栽培する作物の特性、圃場の特徴、土壌の性質、天候、生育情報、使用する肥料や農薬などの様々な要因を、生産者の経験や知識に基づいて調整・判断しながら、作業を行ってきました。そうした情報は、生産者の頭の中や、地図、ノート、黒板などを使って整理・管理されていました。しかし、広い地域に分散している多くの圃場を管理しながら、生産を行わなければならなくなった現在、従来のような方法では、追いつかなくなってきたのです。そこで、近年、いろんな分野で利用されているGISを、圃場管理に使えばいいのではないかと考えたのです。

この考え方は昔からあって、例えば、産地全体で果樹園を管理するGISなど、大規模な組織単位で地域を管理するというものは、すでにあります。しかし、個人や中小規模の経営体が、気軽に使えるようなレベルのものはありませんでした。今後、広域に分散している多くの圃場を管理する農家は、どんどん増えていきますから、そういう方の営農に役立つようなソフトを作ろうと考えたのです。

吉田智一(よしだ ともかず)
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構・近畿中国四国農業研究センター・生産支援システム研究近中四サブチーム長。1983年東京大学農学部卒業。農学博士。現在、生産・流通IT化のための農業技術体系DB及び支援システムの開発を担当。研究テーマは、農業情報システム化・システム開発、各種農業情報(現場情報、精密農業、etc)のシステム化・ネットワーク化。圃場作付け状況確認システムで特許取得。2004年農業情報学会論文賞受賞。

※文中記載の法人・団体名・組織名・所属・肩書きなどは、すべて取材時点でのものです。
※文中記載の会社名および製品・サービス名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。