今回のプロジェクトがスタートした背景について教えてください。
NTT東日本の通信ネットワークを活かして、「地域のお客さまのビジネスを下支えするIoTサービスを広く展開していきたい」「お客さまの生産性向上や省力化を実現したい」という思いがありました。当社は、各地域の企業さまや自治体との密なつながりを大切にしており、良好な関係を構築していたアグリビジョンさまと意見交換を重ねていく中で、アグリビジョンさまが抱えている課題を伺い、「IoTでその課題を解決できるかもしれない」と思ったのが、協業のきっかけです。
当社では、グロワー(栽培責任者)がトマトの生育状況を毎日確認し、収穫量を予測し、出荷調整と農作業スタッフの配置を行っています。要となる収穫量の予測には多大な稼働が必要で、グロワーにはかなりの負担がかかっています。さらに、予測に失敗すれば販売機会の損失、スタッフの適正配置が不可能になるなどの問題も発生。そんな状況を改善せねばという思いがありました。
お話を聞いて、AIによる画像解析を使えば、「佐藤さんたちが抱えている問題を解決できるかもしれない」とひらめきました。画像解析は、“大容量・高速通信”という固定通信のメリットを最大限に活かせるIoT技術です。この技術は将来的にさまざまな業種・業態で活用できる可能性を秘めています。そういった部分でも魅力を感じ、共同で実証実験を進めさせていただくことになりました。
グロワーのみなさんが経験によって培ってきた目利きの技術をAIに学習させることで、農業の分野に新しい常識をうみだしたいと考えました。
具体的には、どのようなトライアルを行ったのですか?
目的はトマトの生育状況を“可視化”し、収穫可能なトマトの量を予測すること。そのために、農園の中で使用している作業台車にカメラを取りつけて、まずは走行しながらトマトを撮影することからはじめました。撮った画像データをWi-Fiでクラウド上にアップロードし、AIで画像解析。解析結果をもとに、「スタッフの翌日の配置や取引先への情報提供につなげよう」という試みです。
これは世界的に見ても前例のない試みでした。誰も答えを持っていないので、私たちも本当に手探り状態で……。スタート当初から問題が山積みでしたね。
たとえば、どんな問題が?
「台車にとりつけたカメラで綺麗にパノラマがとれない」「トマトの実が葉に隠れて見えづらい」「時間や天気で写り方が一定でない」など、撮影段階から問題だらけでしたね。さらに、撮影が上手くいったように見えても、画像解析の段階になると、「グロワーさんがもともと行っていた収穫量予測とは、かけ離れた結果が出る」という日々が続きました。撮影や解析の方法について、あらゆるパターンの仮説を立てては、地道にデータを収集。それを少しずつAIに教える……ということをひたすら繰り返しました。
地道な観測・検証から導き出された“正解”をAIに教えて、徐々に精度を上げていきます。その“正解”のもととなるのが、佐藤さん、福田さんがこれまでの経験から得てこられた知識。ですので、アグリビジョンさまと共同で進行したことで、画像解析の精度がより高められたと思います。
そうですね。ただ、本当にひとつひとつを手探りで進めていく必要がありました。アグリビジョンさまと一緒に、どのようにすれば精度が上がるのかまったくわからない状態から試行錯誤して手がかりを集めてきたのですが、最初の数カ月は上手くいかないことの連続でしたね。