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第6回 雷と闘う

雨に打たれながらの復旧作業

富山県が激しい雷雨に見舞われた2004年7月25日、NTTネオメイト北陸・富山支店の松倉美樹は石川県を挟んだ福井にいた。

福井県はその1週間前の福井豪雨(7月18日)により河川の堤防が決壊し、土石流も発生。各地で電柱が倒壊し、通信ケーブルが切断・損傷するなど通信設備は大きな被害を受けた。松倉はその復旧のための応援班の一人として作業にあたっていたのだ。

大量の流木や汚泥と格闘しながらの連日の作業により、被災回線の修理が完了した25日の夜、ほっと一息ついたのもつかの間、富山から緊急連絡が入った。「こっちでは雷が鳴ってるぞ。大急ぎで戻ってきてくれ」。翌朝に予定されていた応援班の解散式にも出席せず、松倉たちは石川県からの応援班と共にすぐさま富山に戻った。

富山では予想を上回る大規模な雷害が待ち受けていた。この雷害による故障修理の出動件数は6日間で2,000件を超えた。

26日の朝のミーティングでは、被害規模、故障発生件数、班割りなどの情報共有を普段よりも念入りに行い、最後に富山支店メンテナンスインテグレーションサービス部門長の岩本行雄は「安全第一」を改めて強調した。

「あの日は、石川県など他エリアからも応援班が来ていました。彼らは土地勘がないことなどから、現場へと道を急ぐ気持ちが焦りにつながり、交通事故も招きやすい。そもそも電柱に取り付けられた通信設備を修理する高所作業自体が危険を伴うものなのです」

雷害による故障の修理は雨の中でも行われる。いや、大半が雨に打たれながらの作業だと言ってもいい。濡れた足元は滑りやすいため、電柱からの転落事故の危険性も高くなる。ほんの一瞬の気の緩みが、取り返しの付かない事態を招いてしまうのだ。

車で故障現場へ向かう途中にも、何度も稲妻が走り、雷鳴がとどろく。技術者たちは「なるべく人の住んでいない所に落ちてほしい」と祈りながらハンドルを握る。

故障現場で目的の保安器が見当たらず、付近を探してみると、黒こげになった状態で見つかったこともある。直撃雷の衝撃で吹き飛ばされていたのだ。「電柱に上っているときに、目の前でビリビリッと光ったこともあった。今思い出してもゾッとする」と松倉は思わず身震いする。

誘導雷により大きな電流が流れ、ケーブルが溶けて、通信ケーブル同士が融着してしまい、混線していることもある。アクセスサービス担当課長の長澤博幸は「故障修理の者が試験通話をしてみたところ、同時に3カ所の故障先とつながった、という話もある」と苦笑する。

高所作業車を利用する場合、現場に到着した技術者は、まず作業車を電柱の脇に寄せる。三角コーンで車両の周りを囲み、黄色回転灯をつけ、一般通行車両の安全を確保したうえで、輪留めをし、4本のジャッキで車両を安定させる。その後、技術者は安全帯を着用し、工具と資材を担いでバケットと呼ばれる作業カゴに乗り込み、レバーを操作して上昇していく。

目的の通信設備の高さまで来ると、天幕と呼ばれるビニールシートを張って雨よけにし、作業をする手元が濡れないようにして故障修理を行う。

「電柱に上っていると、高所作業車のNTTのマークを見て『私の家の電話も直して』『私のところも』と近くの人たちが大勢集まってくることがあります。『分かりました。安心してください』と答えたいのですが、あとには次の故障修理先が待っているし、どうするべきなのか…」と松倉は唇をかむ。

1995年に起きた阪神・淡路大震災の被災地での消火活動においても、消防隊員たちは同様のジレンマを感じていた。多数の火災が同時に発生したため、119番通報を受けて現場へ向かう途中、より規模の大きなものも含め何件もの火災を発見し、どの火災の消火を優先すべきかという苦悩があったのだ。大震災の際の消火活動を検証したある消防署では、議論の末、当初の指示通りの消火活動を行うことが最善との結論に達したという。

松倉と同じ部署の主査、中林恭夫は「そうした声に各現場の判断で無秩序に対応してしまうと、全体の復旧計画に狂いが生じ、例えばすでに故障修理を手配済みの案件で、出動が重なってしまったりと、結果的に非効率な対応となりますし、公平性の問題も出てきます。結局より多くのお客さまにご迷惑をおかけすることになってしまうのです」と説明する。ただし、これは杓子定規なルールではなく、ケース・バイ・ケースで現場の判断で実施している。

確かに、全体としての効率性、公平性を考慮すればその方法が正解なのだろう、と松倉も頭では理解している。ただ、自分に助けを求めてくる人を残して次の現場へ急ぐときには、やるせない気持ちが募る。しかし、次の現場のお客さまも自分を待っているのだ。携帯電話を持っていない独り暮らしのお年寄りには対応する、などと自分なりの基準を決めて割り切るしかない。その場の故障を完璧に修理し終えても、松倉の心は晴れない。

「インターネットが普及した今、電話以外の故障修理も増えている」と松倉美樹

他エリアからの応援班を含めたミーティングでは、普段よりも念入りに情報共有が図られた

「非常事態だからこそ『安全第一』の意識が重要」という岩本行雄

「まずは応急的にでもお客さまの通信サービスを回復させること。通信設備の本格復旧はそのあとの話」と長澤博幸

降りしきる雨の中、天幕と呼ばれる雨よけをかけながら、故障修理を行う