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第2回 島を守る通信ネットワーク

島のリスクに向かい合う

山口県周南市の徳山港から巡航船で約40分。瀬戸内海に浮かぶ大津島は、300世帯余が暮らすのどかな島である。かつては石材の産出で知られ、現在は漁業が盛んである。また、旧海軍の人間魚雷「回天」特攻隊の訓練基地があったことでも知られている。
2004年9月7日、この静かな島が台風18号の直撃を受けた。列島を縦断し大きな被害の出た台風18号により、大津島でも猛烈な風雨と高波に襲われた。家の瓦が吹き飛ばされ、床上浸水も起きた。高波による海岸沿いの道路の崩落もあった。さらに、全島停電による水道ポンプの停止で断水が発生した。この他、巡航船の船着き場である浮き桟橋が動かなくなる等の被害があった。巡航船が運休すると、本土と行き来することができない。
「島の自然災害は、いくつものリスクが複合的に重なります。特に孤立だけはなんとしても避けたい」と周南市役所大津島支所の山﨑郁生支所長は語る。

台風18号では、通信網も被害を受けていた。大津島への海底ケーブルが切断されてしまったのだ。錨を下ろしていた船舶が流され、錨で海底ケーブルを引きちぎる様に切断したと見られている。このためNTT西日本山口支店では、3台の衛星携帯電話を島へ設置することを決定した。

しかし大津島の人たちは通信網が切断したことに誰も気がつかなかった。山﨑支所長も、「台風の後、NTTの人たちが島に入り、『衛星電話を設置します』と言ってきたのだけど、電話はつながっているのになぜ衛星電話が必要なのかわかりませんでした」と打ち明ける。

実は、海底ケーブルの切断時、瞬間的に電話回線が有線から無線(マイクロ波)に自動で切り替えられていたのである。無線への切り替えは、電話の利用者に影響はない。普段と全く同じ様に電話が使用できるからだ。いつでも問題なく電話が使えるよう、大津島の通信網は、海底ケーブルとマイクロ波で二重化されている。通信ルートの二重化はリスク回避の基本なのだ。しかし、島に設けられている無線(マイクロ波)の送受信装置もダメージを受けていた。装置を冷やすために外気を取り入れているが、濃い海水が混じった外気が装置の作動を不安定にしていたのだ。いわゆる塩害であり、これも島の通信が抱える大きなリスクのひとつである。また、商用電力の停止により装置は非常用バッテリーで動いていたため、早期に発電機を動かす必要があった。

台風通過後、通信設備の保守を担当するNTTネオメイトの技術者は、すぐに船をチャーターし、衛星携帯電話と発電機の燃料を積んで島に入った。

1回のガソリン補給で発電機が稼働するのはおよそ8時間だけ。このため、停電が復旧するまでの3日間、技術者は現地で無線アンテナの下に寝泊りして対応した。
海底ケーブルの修理が終わるまで、大津島に小型の可搬型無線(マイクロ波)送受信装置を置くことも決められた。無線装置も二重化して万が一に備えたのである。
一方、切断された海底ケーブルの修理手配も進められていた。NTTグループで海底ケーブルの敷設を行うNTTワールド・エンジニアリング・マリン(NTT-WEマリン)所属船が長崎に待機しており、急遽、大津島へと向かった。台風が去って10日後には、切断されたケーブルの引き上げ作業が始まった。接続作業や検査などを経て、被害を受けてから15日で大津島への通信網は完全復旧した。

台風18号により、山口県全域の7割が停電し、NTT西日本でも156ある電話交換局のうち92で停電。停電の復旧まで最長85時間を要した地域もあったという。
山口県内で被害が多数出る中、「海底ケーブルが切断されていたなんてまったく知りませんでした。私たちは、『電話は大丈夫』と安心していました。」(山﨑大津支所長)と驚くほど、島の通信は守られていた。

取材に同行した河村伸登・NTTネオメイト山口第ニネットワーク設備運営担当課長は、「島には本土では想像がつかないような多大な孤立のリスクがあります。しかし、情報の発信ができれば、被害報告やけが人発生等の連絡がとれ、災害への対応が大きく違ってきます。そのライフラインである通信網を守るのが私たちの使命だと思っています。そのために海に詳しい漁業者と良い関係を築くなど、日頃の準備こそが大切です」と語るのだった。

メンテナンスのため来島時には巡航船を使用。

「電話が途絶えると島が孤立してしまうのです。」山﨑郁生大津島支所長

可搬型無線(マイクロ波)送受信装置

海底ケーブルの敷設船「すばる」(NTT-WEマリン)

取材:船木 春仁