ホーム > 企業情報 > 公開情報 > 通信サービスの使命 > 第1回 大規模災害と通信ネットワーク


第1回 大規模災害と通信ネットワーク

災害用伝言ダイヤル『171』

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、死者6432人、負傷者4万3792人、家屋倒壊24万9180棟という激甚災害となった。電話も約28万5千回線が不通になり、応急復旧に約2週間を要すという大災害であった。

阪神・淡路大震災は、NTTの災害への取り組みにも大きく影響した。震災を機に、通信の災害対応におけるソフトの重要性が増してきたのである。それまでは、通信網の2重化や災害対策機器(ハード)の充実が図られてきたが、その充実もあって「通信網とシステムを使い、もっと確実に連絡を取り合える方法(ソフト)」についての要望が高まり、そこから開発されたのが、災害用伝言ダイヤル『171』だった。

震災後に東京大学(旧)社会情報研究所が行った調査では、被災者が被災直後に最も欲しいと思った情報は、「余震の見通し」(神戸市で63.1%)、次いで「家族や知人の安否」(同47.8%)であった。阪神・淡路大震災は、未明に起きたために自宅で被災した人が多かったが、もし地震が日中に起きていれば外出している人が多く、さらに「安否情報」を求める声が多かったに違いない。さらに同研究所が過去の大規模災害の調査結果を調べ直したところ、安否情報を望む割合が高まる傾向にあることもわかった。

さらに安否情報では、自分の無事を知らせる「被災者からの情報発信方法の充実」を求める声が多かった。

こうした教訓をもとに、災害時に特化した目的で開発された世界でもまれな安否確認システムが、災害用伝言ダイヤル『171』である。一般電話だけでなく携帯電話やPHSからも利用できる。
『171』は、自宅の電話番号などを用いてメッセージの録音と再生ができる。録音する側は「171+1+Aさんの電話番号」を、再生する側は「171+2+Aさんの電話番号」を指定する。つまり「Aさんの電話番号」が共通の暗証番号のような役割を果たしている。1番号当たりの最大録音件数は10件で、48時間保存される。全体では、最高800万件分の伝言を録音できる。
『171』の最大の特徴は、録音する側も再生する側も電話がほぼかかることだ。その理由は、伝言を蓄積する装置が、全国約50カ所に分散されていることにある。指定された電話番号の下3桁によって蓄積する場所が決まるのである(例えば下3桁の番号が500番台ならば広島で録音・蓄積する)。番号によって通信量(トラヒック)がコントロールされることになり、再生する際にも被災地に電話が集中することなく輻輳を回避できる。

さらに災害発生時からしばらくは被災者の録音を優先し、他のエリアからの録音は少し遅らせる工夫もなされている。
『171』は、基本的には震度6以上の地震が発生した場合や通信ネットワークに輻輳が起きるような自然災害が発生した場合などに起動される。1998年3月のサービス開始から2004年新潟県中越地震までを含め、19回起動されている。新潟県中越地震では、地震発生から約20分後の10月23日午後6時15分にサービスが起動され、過去最多の約35万件の利用があった(12月17日現在)。これまで最多だった2000年の鳥取西部地震の2倍近い。

NTT東日本災害対策室の東方幸雄担当部長は、「2004年は、新潟県沖地震からちょうど40周年で地元では各種の特集番組が放映されましたが、その中で『171』を取りあげてくれていたこと、さらに地震発生直後からテレビが『171』の利用を呼びかけてくれたことが利用者数が過去最多になった理由ではないでしょうか」と推測している。

しかし、まだまだ認知度を高める必要がある。災害時の情報伝達について研究している中村功・東洋大学社会学部教授は、「最多で10万人余とされる新潟中越地震の避難者数からすれば、もっと使われても良いと思う」と指摘したうえで、次のように語る。
「事件は110番、火事・救急は119番とすぐに思いつくように、大地震に遭ったら身を守り、火を消し、少し後に『171』で安否確認する、といった新しい防災意識を作っていく必要があります。その意味では、行政や報道機関と連携した、被災地以外も含めた『171』の活用を促す広報が求められているとも思います。『171』は、実際にやってみると誰でも簡単に使えるところに重要な特徴があり、お年寄りなどの災害弱者を側面から救えるのが『171』なのです」

阪神・淡路大震災は、痛ましく辛い災害であったが、そこから生まれた災害用伝言ダイヤル『171』は、通信インフラが新たに担った公共的役割の1つといえるだろう。

特設公衆電話から利用方法を聞きながら災害用伝言ダイヤル「171」を利用

東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科 中村功教授

取材:船木 春仁

関連リンク
災害用伝言ダイヤル
NTT東日本
https://www.ntt-east.co.jp/saigai/voice171/
NTT西日本
https://www.ntt-west.co.jp/dengon/index.html新規ウィンドウで開く
災害用ブロードバンド伝言板
NTT東日本
https://www.ntt-east.co.jp/saigai/web171/
NTT西日本
https://www.ntt-west.co.jp/dengon/web171/新規ウィンドウで開く