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第1回 大規模災害と通信ネットワーク

ネットワーク災害対策の基本とは

通信の確保は、すべての災害対応の前提である。それ故、通信網の災害対策は、大災害との戦いの歴史でもあった。

戦後復興を果たし、来るべき情報通信社会への準備が着々と進められていた当時の日本の通信網が、最初に大きなダメージを受けたのが1968年の十勝沖地震だった。この時、津軽海峡を縦断して北海道に通じている通信網が青森県内で裂断され、さらに商用電力の停電で無線マイクロ波送受信機も停止してしまい、北海道の通信網は完全に孤立した。この教訓から全国規模で取り組まれたのが市外伝送路の2ルート化だった。

75年には北海道の旭川東光電話局で火災が発生して交換機が焼失し、2万回線が13日間にわたって不通となった。この経験から開発されたのが非常用可搬型交換機だった。3万回線規模の臨時電話局を作れる非常用可搬型交換機は、北海道、東京都、広島県の3箇所に、それぞれトレーラー16台分相当が配置されている。

83年の島根豪雨では電話局が水没して1万回線が20日間も不通になった。そのために通信衛星を利用した災害対策機器の開発が始まり、さらに93年の北海道南西沖地震を期に超小型衛星通信装置、ポータブル衛星装置が開発された。

NTT東日本本社災害対策室の東方幸雄担当部長によると、通信網の災害対策の基本は(1)災害に強い通信網作り、(2)災害に強い通信設備作り、(3)災害時の重要通信の確保、の3つからなっている。

災害に強い通信網作りとは、大容量の通信を処理する中継局を各地に分散させ、網の目状に結んだり、さらに通信網全体をループ(輪)化・多ルート化することで迂回ルートを確保したりすることをいう。例えば4つの中継局間に結べるルートの数は6つになる。このうち1つが途絶しても、他のルートを迂回することで通信ルートは確保できる。

災害に強い通信設備作りとは、設備防衛のことである。まず、電話局の防災構造の強化がある。NTTの建物や無線鉄塔は、関東大震災クラスの地震や風速60メートルの強風にも耐えられるように設計されている。また、NTTの建物は立地に応じて防水扉や防潮板が設置されていて通信機械の浸水防止を図ってある。さらに、地下には通信ケーブルを収める専用の管路を敷設し、管路の継ぎ目には柔軟性を持たせたりして災害の影響を最小限にとどめている。火災対策でも、難燃ケーブルや防火壁が採用されている。

災害時の重要通信の確保には、さまざまな対策がある。災害対策機器の開発のほか、消防や警察、自治体などの緊急性の高い電話を優先してつなぐ「災害時優先電話」、さらに無料の特設公衆電話の開設も重要通信確保策の一つである。

重要通信の確保は、NTTが担うユニバーサル(全国一律)サービスそのものである。東方部長は、「災害時に全国あまねく通信インフラが利用できる体制を整えるのは通信事業者の公共的責務です。災害時優先電話の確保は法律に基づいて実施されているものですが、法律があるなしにかかわらず、私たちは重要通信の確保を自らの使命と考え災害対策をこうじてきました」と語る。

さらに、NTTグループには各種の社内資格があるが、「設備危機管理士」「アクセス系メンテナンスプロフェッショナル」「ネットワーク運行プロフェッショナル」などの資格は、災害対応を想定して用意して設けられた資格であるともいえる。特に設備危機管理士は、災害をはじめとするさまざまなリスクから設備と通信網を守るスペシャリスト資格だ。

東方部長は、「人、設備、そして情報のすべてで準備を整えていることが、災害発生時の迅速な対応につながります。将来の大規模災害の発生が予測されている中で、関係機関との情報交換や調整を進め、準備を急いでいます」と語る。

そして通信の災害対応では、90年代後半から新たな課題が浮かび上がってきた。それはソフト(情報)を中心とした対策の充実である。その象徴が、阪神淡路大震災をきっかけに誕生した「災害用伝言ダイヤル171」である。

「安心して通話できる環境を整えることが我々の使命。」NTT東日本本社災害対策室東方幸雄担当部長

通信網全体をループ(輪)化・多ルート化することで災害に強い通信網を構築

災害に強いNTTの建物

ネットワークオペレーションセンタのネットワーク運行管理士

万が一に備え、グループ内の防災訓練の他、行政やライフライン各社と連動の訓練にも参加

取材:船木 春仁

災害時優先電話の仕組み

災害が発生して電話が混みあい、輻輳状態になっても優先的につながる災害時優先電話は、あらかじめ登録された電話番号を交換機が優先することでつながる。電話番号を登録できるのは、気象、水防、消防、警察、自治体、公共機関、新聞社などのマスコミ機関など。災害時優先電話は、被災地や途上の電話設備が被災しない限り優先的に利用できる。

また、「110・119番緊急通話」という仕組みもある。通常の110・119番通話は、NTTの専用回線を介して都道府県の警察本部・消防本部などの指令台に直接つながるが、災害が発生して専用回線が不通になった場合、公衆回線に切り替えることで110・119番通話を確保する対策がとられている。