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前十字靭帯再建術(ACL)

はじめに

前十字靭帯再建の手術を受けられる患者様に、安心して入院期間をお過ごしいただけるように、入院から退院までの経過とリハビリテーションについてまとめたものです。また、前十字靭帯とは何かを知っていただくため、膝のしくみについての簡単に説明してあります。

手術前から読んで頂き、退院後も活用していただければ幸いです。
治療の経過には個人差があり、リハビリテーションの予定を若干変更することもあります。

不明な点があれば、いつでも主治医、理学療法士、看護師にご相談ください。

前十字靭帯(ACL)とは

膝のしくみとACL

膝には大別して、ふともも(大腿骨)とすね(脛骨)の骨、それを覆う軟骨、4つの靭帯と半月板があります。
靭帯には前後の安定のために前十字靭帯と後十字靭帯があり、膝の中で交差しています。前十字靭帯は大腿骨の後方から脛骨の前方へ、後十字靭帯は大腿骨の前方から脛骨の後方についています。さらに内外の安定性のために、膝の内外側にそれぞれ内側側副靭帯、外側側副靭帯があります。
また、半月板は大腿骨と脛骨の間にあり、クッションと膝を安定させる2つの役割をしており、前十字靭帯を損傷する時に同時にいためることが多いです。(下図)

なぜ切れるの?

激しく膝をねじったり、過度に膝が伸びたりして無理な力(約200kg以上の力)がかかると切れます。
スポーツの最中は、ころんだり膝をねじらなくても、急なストップ、ジャンプのときに膝を伸ばして着地したり、スキーで後傾になった時などに切れることもあります(下図)。

切れたらどうなるの?

多くの場合ブチッという音がして切れ、次のような症状がでます。

  • 痛み、腫れ
  • 膝のなかに血がたまる
  • 膝が抜けるような不安定な感じがある

切れたかどうかを調べる方法は?

切れたかどうかを調べるには専門医の診察と、MRIでほぼ診断がつきます。KT2000という器械で膝の不安定度をはかることもできます。

そのままにして運動していたらどうなるの?

痛みがなくても、靭帯が切れた不安定な膝で運動していると、最後には膝全体傷んでしまう可能性があります。

主な治療は?

バスケットボール

手術しない方法

高齢な方やあまり運動をしない方、リハビリテーションを積極的に行えない方は手術をせず装具やサポーターをつけ筋力訓練を中心としたリハビリテーションを行っていただきます。

手術(再建術)

切れた靭帯の代わりの腱を自分の膝の裏の内側からとり、ひも状に束ねて移植する手術です。

ACL再建術の概要

手術の必要性

傷めた膝のまま運動を続けると、十分な活動ができなくなる場合があります。運動をする人や膝をよく使う人は、膝を安定させるため早めに手術を行ったほうがよいでしょう。

切れたACLの代わりになるもの(移植腱再建材料)

膝の内側にある「膝屈筋腱」の一部を使用します。膝をまげるための腱ですが、とってしまっても膝への影響は少なく、リハビリテーションを行えば筋力は回復します。
靭帯再建時にできるキズからこの腱をとることができるため、新たなキズは増えません。キズはすねの内側に3〜4cmほどです。

関節鏡手術

関節鏡手術

内視鏡を使って、からだへの影響を最小限におさえて手術を行います。術中にC-armによるレントゲン画像も使用し、より精度を高い手術を行っております。

方法

骨に穴をあけて、正常のACLと同じ位置になるように移植腱を通し靭帯の代わりのスジを作ります。
原則的に、安田教授(北大スポーツ再建医学講座教授)が考案した、2本の再建材料を使い正常に近い靭帯を再建する方法で手術を行っています。

左膝のTransparent CT 正面像と側面像ACL再建術

ACL再建術後の合併症について

  1. キズのまわりがしびれたり、感覚が一部鈍くなることがあります。手術時に太ももの辺りに止血バンドを使用することで、痺れが1−2日残ることがあります。
  2. 筋力が低下します。また術後1ヶ月位の間で、膝が伸びにくい、曲がりにくいなどの可動域制限が起こることがあります。決められた通りのリハビリテーションをしっかりやりましょう。
  3. 全ての手術で言えることですが、キズや膝の中が化膿する可能性があります。当院では、手術中の無菌操作や術後の傷の管理の徹底の他、抗生剤の予防的投与、定期的血液検査などの対策をとっており膝が感染した事はありません。
  4. 深部静脈血栓症(DVT)
    人工膝関節手術後では予防しなければ5-6割に起こりやすく、下肢の静脈に血栓(血の塊)ができるこの合併症は、肺塞栓症という呼吸困難を伴い、最悪命に関わる合併症を引き起こします。
    靭帯の鏡視下手術では少ないと言われていますが、当院の詳細な調査では30歳未満では約1割弱に起こります。30歳以上の場合は5割と高くなります。しかしほとんどは症状ありません。当院ではベッド上ではフットポンプ(下図)、足関節運動、弾力包帯、早期離床などの予防を行うとともに、早期発見、早期治療に努めています。万が一血栓ができたら、専門の血管外科医に治療していただきます。
    左膝のTransparent CT 正面像と側面像

ACL再建術後の留意点

  1. 再断裂やゆるみの可能性について
    術後の靭帯は、手術直後から3〜4ヶ月程度はかなり弱いため、無理な運動や過度の力がかかれば、伸びたり、切れてしまう可能性があります。
    無理せず、焦らないでリハビリテーション、トレーニングは決められた指示の範囲内で行って下さい!!
  2. 手術した膝を手術直後に完全に伸ばすと、再建した移植腱が伸びてしまう可能性があるため、術後1-2週間は、ふとももの下をロールタオルなどで高くし、少し曲がった状態を保つようにして下さい(下図)。

悪い例

手術後してはいけない姿勢 下腿(すねの骨)が前に出るような動作(ACLが伸びます)

  1. 脚くみ
  2. 下腿の下に枕を置く
  3. 膝をまっすぐより伸ばす(過伸展)
  4. 横すわり

装具について

目 的

  • 膝の角度の制限をする。
  • 過度の外力をやわらげる。
  • いためた膝に注意を促す。

1. 膝固定装具:ニーブレスFX

ニーブレスFX

手術直後から1〜2週間使用するもので、病院から貸し出します。膝を30度ほど曲がった状態に保つようにできています。

2. 術後用装具:HKB(北大式膝装具)

術後用装具:HKB(北大式膝装具)

(森口義肢製作所)
手術後1〜2週目から使用する装具で、腫れや包帯等で太くなった膝、筋肉の萎縮で細くなった膝の状況に対応できるよう、太さを調節できるようになっています。膝の角度も細かく調節できます。入院前に型をとり作成します。

3. スポーツ用装具:(X2K:ブレック社製)

スポーツ用装具

手術後1〜2週目から使用する装具で、太さの調節もできるようになっています。
軽量で、強度や安定性、保護を与える一方で機能性を重視し、パフォーマンスの妨げにならないデザインでスポーツには最適です。膝の角度も調節できます。入院前にサイズを測ります。 2か3のどちらかを使用します。

※装具をした状態でも、無理をすると靭帯がいたむ可能性があるので注意が必要です。

入院、手術の準備

靭帯の手術はけがをしてすぐには行いません。
膝の中の炎症が治まらないうちに靭帯の手術をすると、膝の動きが悪くなったり、腫れたり良くないことが起きるからです。膝の炎症が治まる約3〜4週間後に靭帯の手術をします。

それまでに、以下の準備が出来ていると、手術後の回復も早いです。

  • 膝の腫れがひいて、血や水が溜まっていない。
  • 痛みがなく膝が130°位曲がる。
  • 下肢の伸展(SLR)や足関節の動きがスムーズにできる。
  • 手術する膝にできるだけ筋力をつけておく。
  • パンフレット(本誌)をよく読んでおく。

手術までに全身状態の検査、膝のMRI、筋力測定などを行います。また、外来で手術後に使用する装具を作成します。アレルギーや今までにかかられた病気、手術の内容、使用している薬があればその内容を確認しておいてください。手術に際しての不安・疑問があれば、担当看護師にご相談ください。風邪をひいている場合などは手術を延期する可能性がありますので、体調を整えておいてください。

用意していただくもの

一般的に入院に必要なものに加え、以下のものをご用意ください。

  • パンフレット(本内容の冊子)
  • T字帯1枚。
  • リハビリテーションが行いやすい運動靴と服装
    (例:装具を着けたままで着用できるハーフパンツやTシャツ等)。
  • 完成した膝の装具(HKB、X2-K 等)
  • 膝を冷やすため、氷のうをお持ちの方はご持参ください。

入院中の主な予定

手術前日

医師より手術の説明があります。(未成年の方は保護者にも説明いたします) 麻酔科の診察を受け、看護師より手術当日の予定について説明があります。シャワー浴または入浴を行ってください。

手術当日

水分・食事はとれません。手術前に浣腸や点滴などの処置を行います。背中に針を刺し下半身に麻酔をかけ、眠った状態で手術が行われます。

手術後

手術後にからだに以下のものがつきます。

  • 膝に血抜きのためのチューブ
  • 尿道にチューブ
  • 点滴
  • 酸素マスク(ついていない場合もあります)
  • 青い膝装具と膝を冷やす機械(アイシングシステム)と足に血のめぐりを良くするためのマッサージ機(フットポンプ)下図。

フットポンプ

麻酔がさめ、腸の動きが確認されたら水を飲むことができます。場合によっては食事も許可されます。痛みがあるときは痛み止めの薬を使用できますので、我慢せずにお知らせください。

手術後1〜2日目

尿道や膝のチューブを抜き、車椅子に乗り移動し、リハビリテーションが始まります。

手術後1週間目

松葉杖を使用し、体重の1/2をかけて歩きます。装具を少し膝がまがった状態で固定して歩きます。機械(CPM、右下図)を使い手術した膝を少しずつ曲げていきます。

手術後2週目

体重を全部かけて歩く練習をします。

手術後3週目

筋力測定を行います。筋力や膝の曲がりが良ければそろそろ退院です。

手術後4週目

HKB装具の屈曲位での固定が解除されます。

詳しい経過については別紙があります。外来受診時か入院時にお渡しします。

リハビリテーション

目的

  1. 膝の安定性の向上
    (けがや手術後の安静で低下した筋力を回復するために行います)
  2. 膝の正常化への機能訓練
    (膝のバランスや俊敏な動きをとりもどすために行います)
  3. 全身の運動能力の低下予防

退院にむけて大切なこと

1.日常生活について

基本的には制限はありませんが、手術後2ヵ月間は歩くときや寝るときに装具をつけてください。歩くことで痛みがでたり腫れたりすることがありますので、そのような時は膝を冷やし安静にしてください。

2.退院後のリハビリテーション

可能であれば医師の指示があるまで週2〜3回通ってください。当院に通うことができない方は入院中におこなっていたメニューを主治医の指示のもと、トレーニングジムや公共の運動施設等で継続してください。

3. 装具について

主治医の許可があるまでスポーツを行うときは装具を使用してください。装具の調子が悪いときは、月曜日(午後)か木曜日(午前)に受診し、森口義肢製作所の担当技師にご相談ください。

4. 定期受診について

退院前には再診の予約日時を確認してください。退院の日付がきまったら、看護師から説明があります。その後の通院日は外来で主治医とご相談ください。膝に何かの異常を感じたら早めに受診してください。

5. スポーツ復帰について

膝の状態、筋力の状態により個人差がありますので、必ず主治医に確認したうえで行ってください。主な予定はリハビリテーションのパンフレットを参照してください。その他確認したいスポーツ、リハビリテーションがありましたら、理学療法士や主治医におたずねください。膝の状態や筋力にもよりますが、おおよそ完全復帰は10ヶ月前後です。

6. 金属抜去の手術について

約1〜2年後に膝にはいっているピン(ねじかステイプル)を抜く手術をします。入院期間は2〜4日間ほどです。このときに手術した靭帯の状態や、軟骨、半月板の状態を関節鏡で確認します。膝の状況によってはピンを抜く時期が前後することもあります。外来受診時に主治医にご相談ください。