当事業年度におけるわが国経済は、緩やかな回復傾向が続いていましたが、急激な円高の進行や資源高に加え、事業年度末に発生した「東日本大震災」の影響により、本格的な回復には至らないまま推移しました。
情報通信分野においては、IP化・ブロードバンド化の進展に伴うネット利用の普及による広がりに加え、通信と放送、固定と移動の融合や、SaaS(※1)、クラウドコンピューティング(※2)、CGM(※3)等ネットを活用した新たなサービスの拡大、スマートフォン、タブレット型端末の普及等により、構造変化が進展しています。
ブロードバンドサービス市場においても、光アクセスサービスがブロードバンドサービスの過半を占めるまでに拡大し、事業者間の設備競争およびサービス競争の進展に加え、映像配信も含めたトリプルプレイ提供の拡大、多様な無線端末を活用した新たなサービスの登場など、市場環境が大きく変化しています。一方、電話市場においても、光アクセスサービスの拡大に伴い、既存固定電話から光IP電話への移行が進み、また、他事業者によるドライカッパ回線を利用した直収電話サービスやCATV事業者による電話サービスとの競争が続いています。
当社は、このような厳しくかつ激変する事業環境のもと、お客様が安心してすべてを任せることができる「身近な総合ICT(※4)企業」として、良質かつ安定的なユニバーサルサービスの提供・維持に努めるとともに、平成20年5月に日本電信電話株式会社が策定したNTTグループの中期経営戦略「サービス創造グループを目指して」の実現に向け、NGN(※5)の構築とそのネットワークを活用した新しいサービス・商品の提供や、お客様にとって“使いやすい”新しい料金メニューの提供等を通じて、お客様や地域・コミュニティのニーズにあった安心・安全・便利に配慮した信頼性の高い魅力的なブロードバンドサービスの普及拡大に積極的に努めてきました。
一方、「東日本大震災」の影響により、東北地方を中心とした地域において、サービスの一部がご利用いただけない状況となり、お客様にご不便をおかけいたしました。全社を挙げて通信サービスおよび通信設備の復旧に取り組むとともに、被災地域における連絡・情報収集手段の確保を図るなどの取り組みを行ってきたところであり、引き続き、通信サービスおよび通信設備の本格的な復旧や、被災者支援・被災地域復興に向け、全力で取り組んでまいります。
NTTグループ中期経営戦略「サービス創造グループを目指して」の具現化に向け、「フレッツ光」(※6)について、自治体との連携等により提供エリアを拡大しました。契約数については平成22年8月には800万契約を突破しましたが、「東日本大震災」等の影響もあり、平成23年3月末時点での契約数は851万契約にとどまりました。そのうちNGNを活用した、信頼性に優れ、帯域保障型アプリケーションも利用可能な光アクセスサービス「フレッツ 光ネクスト」の契約数については296万契約となっており、「フレッツ光」新規開通の大半を占める状況になっています。
「フレッツ光」の普及拡大と利活用促進に向けては、スマートフォン、タブレット型端末等、多様化・パーソナル化しているWi-Fi(※7)端末市場に対応し、宅内外での無線LAN接続を実現するモバイルWi-Fiルータ「光ポータブル」の提供開始とあわせ、公衆無線LANサービス「フレッツ・スポット」の一部メニューについて月額利用料を値下げしました。また、「フレッツ光」を活用してサービス提供者と利用者を結ぶ「フレッツ・マーケット」と家庭用クラウドデバイス「光iフレーム」の提供を開始しました。更には、「フレッツ・ソフト配信サービス」の対象OSおよびソフトのラインナップを拡大し、「フレッツ光」マンションタイプ ミニの提供条件を見直すなど、サービスの拡充による利用シーンの創出や新しい料金メニューの提供に取り組みました。
また、「フレッツ光」については、より多くのお客様にご利用いただけるよう、月額利用料や工事費等の各種割引施策を実施するとともに、CRM(※8)の充実によるお客様満足の向上を目的とした会員制プログラム「フレッツ光メンバーズクラブ」については、平成23年2月に会員数が150万を突破し、更には、ポイントプログラム交換メニューとして、音楽ダウンロードや電子書籍等のインターネットサービスメニューを追加するなど、お客様に継続してご利用いただくための取り組みを強化しました。一方、住まいや暮らしの中での光アクセスサービスの最新利用シーンを体験・実感できるショールーム「光HOUSE(ひかりハウス)」をオープンし、光アクセスサービスの先進性・利便性・安全性の理解促進に努めました。
更に、集合住宅オーナー様、管理会社様および管理組合様向けに提供している「フレッツ・テレビ 建物一括契約プラン」(※9)の月額利用料を値下げし、宮城ケーブルテレビ株式会社様との協業による「宮城ケーブルテレビ&フレッツ光」(※10)の提供を開始するなど、映像系サービスの拡充にも努めました。加えて、インターネット診療順番予約サービスを提供するアイチケット株式会社様との協業によるクリニックや医院向け「アイチケットonフレッツ光」の提供を開始するなど、幅広い分野の事業者との連携を図りました。
お客様サービスの向上に向けては、サービス提供までに必要な期間の短縮に向け、お申込み受付時の工事日決定・ご案内、無派遣工事の推進等により、光アクセスサービスの開通納期短縮に継続的に取り組みました。なお、「東日本大震災」等の影響により、工事等について、お客様要望に迅速な対応ができない場合もあり、お客様にご不便をおかけしました。また、お客様に安心してご利用いただけるサービスの取り組みとして、ネットセキュリティサービス「フレッツ・ウイルスクリア」について、複数台のパソコンの契約情報管理、セキュリティ設定を一括で実行することが可能な「フレッツ・ウイルスクリアv6管理ツール」の提供を開始し、パソコンやルータ、プリンタ等のブロードバンド全般に関するお客様からの幅広いお問い合わせに遠隔で対応する「リモートサポートサービス」については、平成22年11月に200万契約を突破しました。
一方、平成22年11月には、PSTN(※11)のマイグレーション(※12)に関する概括的展望について公表しました。PSTNからIP網へのマイグレーションについては、IP系サービスへの需要のシフトおよびPSTN交換機の寿命などを勘案し、概ね10年後の平成32年頃から開始し、平成37年頃に完了することを想定しています。PSTNからIP網へのマイグレーションにあたり、一部提供を終了するサービスがありますが、お客様への十分な周知期間を取ったうえで、お客様対応を実施します。なお、PSTNからIP網にマイグレーションした後も、お客様がPSTNでご利用いただいている基本的なサービスを継続してご利用可能とすることはもとより、今後とも引き続きIPベースのサービスを拡充し、お客様の利便性向上に努めることにより、IP・ブロードバンドの普及拡大を図っていきたいと考えております。
自治体、教育等の分野に対し、業界の特性や動向を踏まえた業界特化型のソリューションを中心に、ICTの利活用により地域のお客様に喜んでいただけるよう、効率的かつ効果的な営業活動を展開しました。
自治体分野については、条件不利地域(※13)の自治体における光設備構築に参画し、IRU(※14)契約により当社が自治体の光設備を借り受け、ブロードバンドサービスを提供することで、デジタル・ディバイドの解消に積極的に取り組むとともに、地デジ再送信や防災告知等のソリューションをあわせて提供するなど、地域のニーズに合わせたブロードバンドサービス環境の提供に積極的に取り組みました。また、宮城県栗原市、福島県三春町・南会津町との連携により、遠隔健康相談システムを提供しました。更には、地方自治体が容易に導入可能な会議録作成支援システム「VoiceAir(ボイスエア)」の提供を開始しました。教育分野については、総務省におけるフューチャースクール実証実験へ参画しました。
企業向けVPNサービス拡充の取り組みとしては、「フレッツ・VPN ゲート」について、1Gbps品目に契約者回線を二重化構成で提供する「デュアルクラス」を加えるとともに、100Mbps品目のアクセス回線に「フレッツ 光ネクスト ビジネスタイプ」を加えました。また、「フレッツ・VPN ワイド」についても、アクセス回線に「フレッツ 光ネクスト ビジネスタイプ」を加えました。更には、「フレッツ・VPN ワイド」、「フレッツ・VPN ゲート」、「フレッツ・キャスト」を対象に、24時間一元受付や、回復状況通知機能、レポート報告機能、工事・故障情報通知機能によりお客様の保守・運用を効率的にする「サポートオプション」の提供を開始しました。
事業所向けサービス拡充の取り組みとしては、「フレッツ 光ネクスト」で「ひかり電話」をご利用のお客様に対し、帯域確保型データ通信サービスを実現する「データコネクト」、「データコネクト」に対応し、高品質の多地点テレビ電話会議等にも利用可能な大容量・多チャンネルのセンタ拠点向け光IP電話サービス「ひかり電話ナンバーゲート」の提供を開始しました。また、中堅中小企業のお客様からのオフィスICT機器の使い方等の相談や、お客様の故障・不具合等のトラブルが発生した際、専用のコールセンタにてワンストップで対応する「オフィスまるごとサポート」の提供を開始しました。更に、ホームページの脆弱性診断および改ざん検出を安価に利用可能な「Webセキュリティ診断」をメニューに追加し、サービスの充実を図りました。一方、東芝グループ(株式会社東芝およびグループ各社(※15)様との中堅中小企業向けオフィスICT機器販売、ネットワーク構築、保守サポートに関する協業や、オムロン株式会社様との協業による企業向け環境ソリューションの提供を開始し、ヤマハ株式会社様との遠隔地間を繋ぐ演奏環境ソリューションの提供に向けた協業に合意するなど、幅広い分野の事業者との連携を図りました。
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事業運営体制については、東京地域において、お客様サービスの向上と業務効率化を図るため、株式会社NTT東日本-東京南を存続会社とした東京地域他4社(※16)との吸収合併を行い、あわせて商号を株式会社NTT東日本-東京に変更いたしました。
また、効率的なコールセンタ業務運営として、継続して113センタ等故障受付業務の拠点集約に取り組むとともに、工事会社も含めたBPR(※17)やシステム改善にも継続的に取り組み、「フレッツ光」受付オーダ処理時間の短縮を実現することに加え、工事会社への工事情報のフロースルー化や、工事従事者携帯用端末のシンクライアント(※18)化を開始するなど、一層の経営の効率化による経営基盤の安定・強化を図り、経営環境の変化に即応した弾力的な事業運営に努めました。
情報通信サービスの提供を通じて、地球環境に優しく、社会の健全で持続的な発展に寄与していくことを企業の社会的責任と考え、CSR活動をNTT東日本グループにおける事業運営の重要な柱の一つとして位置づけ、「NTTグループCSR憲章」(平成18年6月制定)を基本に、法令等遵守や環境負荷低減に向けた取り組みはもとより、「つなぐ」ことを使命に、安心・安全な通信インフラの提供による信頼の維持・向上に努めました。
法令等遵守の取り組みとしては、個人情報保護、適正な広告表示、労働者派遣をはじめとした各種法令等の遵守はもとより、公正競争の確保に向け、継続した取り組みを行いました。特に、他事業者に関する情報について、営業部門から隔絶するための措置や適正利用に向けた研修の充実、監査・点検の強化等の取り組みを実施しました。
環境負荷低減に向けた取り組みとしては、お客様への情報通信サービスのご利用による環境負荷低減のご提案や、省エネ型ネットワーク設備への更改、社用車の低公害化、公衆電話ボックス内蛍光灯のLED化等の取り組みを実施しました。更に、社員等の環境意識の醸成に向けて、「eco検定(※19)受験」、「地域清掃活動」、マイカップ対応自動販売機の設置による「マイカップ利用」等を推奨し、職場や家庭、地域社会等、様々な場面での環境負荷低減につながる取り組みを推進する「NTT東日本グループアクトグリーン21」を展開しました。
また、ダイバーシティ・マネジメント(※20)により多様な人材の活用および多様な働き方の推進に取り組むとともに、ワーク・ライフ・バランスの推進を図りました。
一方、危機管理としては、災害時の通信サービスの早期復旧に向け、大規模災害を想定した自衛隊との共同訓練等にも取り組みました。特に、平成22年11月に横浜で開催された「APEC首脳会議」においては、危機管理演習を実施のうえ、期間中は危機管理体制を構築し、安定した通信サービスを提供しました。
これらCSRの取り組みについて、NTTグループCSR憲章の理念を浸透させつつ、グループ一体となったCSR活動を一層推進するために「NTT東日本グループCSR目標」を設定するなど、CSR経営の強化に努めるとともに、「NTT東日本グループCSR報告書2010」を発行し、ステークホルダーへの情報開示にも積極的に取り組みました。
平成23年3月に発生した「東日本大震災」では、地震発生後、直ちに本社および被災地域に災害対策本部を立ち上げ、通信サービスおよび通信設備の早期復旧に向け、取り組みました。移動電源車やポータブル衛星等も活用し、NTTグループ各社や通信建設会社の応援も得て、総勢約6,000名(※21)体制で通信サービスおよび通信設備の復旧活動を行った結果、平成23年3月末時点で、約95%の通信ビルで機能が回復するに至りました。
また、東日本エリア全域での公衆電話無料化、避難所等への特設公衆電話(無料)およびインターネット接続コーナー(無料)の設置、「災害用伝言ダイヤル(171)」および「災害用ブロードバンド伝言板(web171)」の運用等により、連絡・情報収集手段の確保を図るとともに、当社の社員等が被災者からお預かりした伝言を、被災者の家族等に伝達し、不在の場合は「災害用伝言ダイヤル」等に代理で登録するなどの活動も行いました。被災による設備故障で電話がご利用できなかったお客様や、避難指示・避難勧告等によって実態的に電話がご利用できなかったお客様に対しては、その期間の基本料金等を無料としました。一方、「フレッツ光メンバーズクラブ」のポイントプログラムを活用してお客様からの義援金の受付を行ったことに加え、NTTグループの一員として義援金を寄付するなど、情報通信事業者として、被災者支援や被災地域復興に取り組みました。