平成14年8月30日

東日本電信電話株式会社


「長期増分費用モデルの見直しを踏まえた接続料算定の在り方について」答申草案に対する意見


I .長期増分費用方式の見直しについての基本的な考え方

1.

 我が国の電気通信市場は、固定電話からIP通信や移動体通信へ急激な需要シフトが生じており、今後VoIPなどIP通信の普及により更なる需要のシフトが想定されます。また、マイライン等の競争政策の導入による市場競争の激化に対応するために、弊社としては、市内通話料金やインターネットアクセス料金の大幅な値下げを行うとともに、接続料についても、過去3年間(11〜13年度)でGC接続で約▲21%、ZC接続で約▲51%など、総額約2,700億円の大幅な値下げを行いました。
 弊社は、このような状況の中で財務基盤の再構築を図るため、4万人のアウトソーシング会社への移行をはじめとする抜本的な構造改革を推進中であり、更なる減収となるような接続料の見直しを受け容れられる状況にはありません。

2.

 長期増分費用方式は、「現時点で利用可能な最も低廉で最も効率的な設備と技術を用いて瞬時に構築する」という現実の事業者には到底実現できない仮想的な前提に基づくことから、事業者が現実に投下した資本を回収できないという構造的な問題を有しています。
 このため、事業者のインフラ投資インセンティブを著しく減退させるとともに、さらに、今後のブロードバンドサービスの普及に向けてのインフラ基盤の整備に支障が生じる等、新たな弊害も生じることとなります。
 また、IP通信の急速な進展による市場構造の急激な変化により、各事業者が固定電話への新規投資を凍結又は抑止するなど、今後交換機を用いた電話ネットワークを新規に構築する事業者は想定されず、モデルの前提が現実の事業環境とそぐわないものになっています。
 以上のことから、長期増分費用方式自体の早急な廃止が必要と考えます。


II .答申草案についての基本的な考え方

今回の答申草案に対する弊社の基本的な考え方は次のとおりであります。
  ※( )内は答申草案の項目

1.

 14年度は、既に認可を受けている接続料金で凍結。(改定モデルの適用開始時期)

2.

 15年度以降については、長期増分費用方式廃止に向けた検討を早期に行い、速やかに実際費用をベースとした算定方法に移行。(改定モデルの適用期間、今後の接続料算定の在り方)
 仮に、長期増分費用方式廃止までの間、改定モデルを使用する場合でも、
  (1)  モデルコストを回収する観点から、トラヒック及び回線数等の需要データについては適用年度の実績を反映したものとすることが必須。(入力値の入替え)
  (2)  長期増分費用方式の適用はGC、ZC接続料金に限定し、新たな機能への適用拡大は行わない。(新たにモデルを適用する機能)

3.

 現行制度を前提とした算定方式の継続(き線点RTは従来通り従量制料金で回収)。(コストの回収方法(NTSコストの扱い))

4.

 東西別接続料金を導入することは現実的には不可能。(東西別接続料の設定)

5.

 事業者からの不経済な設備申込を防止するため、回線工事費、トランクポート等について、15年度から事業者の個別負担とすることが必要。(回線工事費及びトランクポート等の扱い)


III .答申草案の各項目についての考え方

1.

 14年度は、既に認可を受けている接続料金で凍結
【第 II 章 1.改定モデルの適用開始時期】

 14年度については、既に認可を受けている接続料金を適用することを前提に、抜本的な構造改革による財務基盤の再構築に取り組んでいるところであり、凍結することが適当と考えます。

2.

 15年度以降については、速やかに実際費用をベースとした算定方法に移行
【第 IV 章 今後の接続料算定の在り方について】

 基本的な考え方で述べたとおり、長期増分費用方式については、早急に廃止することが必要と考えます。
 ブロードバンドサービスの普及に向けて事業者の投資インセンティブを付与し、また、固定電話サービスの安定的な提供を確保していくためには、実際の投下コストの回収を可能とする算定方式であることが必要と考えます。
 従って、15年度以降については、長期増分費用方式を早急に廃止し、実際費用をベースとした算定方式に見直していただくことを要望します。
 なお、答申草案では、実際費用がモデルコストを下回る可能性を踏まえて、長期増分費用方式以外の算定方法についても検討が必要としていますが、投下コストの回収が困難であるなど構造的な問題を有する長期増分費用方式については、実際費用の動向に拘わらず、早期に廃止することが必要と考えます。

(1) トラヒック及び回線数は適用年度の実績を反映
【第 II 章 3.入力値の入替え】

 固定電話からIP通信や移動体通信への需要のシフトにより、固定電話トラヒックは急激に減少しています。(14年3月のトラヒック(通信時間)は前年同月に対し約▲18%の減少)
 このような状況において、トラヒックを毎年度入れ替えないで過去の実績等で固定した場合には、モデルコスト総額も回収できないことになります。(仮に、モデル単価を13年度トラヒックで固定した場合の16年度における回収コスト総額(13年度トラヒックによるモデル単価×16年度予測トラヒック量)は、モデル単価を16年度トラヒックに入れ替えた場合の回収コスト総額(16年度トラヒックによるモデル単価×16年度予測トラヒック量)に比較して約900〜1,600億円(16年度予測トラヒック量により変動)過小になるものと推計しております。)
 従って、弊社としては、適用年度の実績トラヒックを反映した接続料とすることが必須と考えます。この場合、適用年度の実績トラヒックは翌年度に判明することから、事後精算制度の導入が必要であります。
 精算制度については、精算額が多額になると事業者の経営に与える影響が大きいことから、精算額を小さくするために、予測トラヒックを用いる等の対処が望ましいと考えます。
 答申草案では、精算について「トラヒックが大幅に減少した結果、著しい乖離が生じた場合」に限定していますが、トラヒックに乖離が生じた場合は、全て精算することが必要と考えます。
 また、回線数についても最新のデータを用いるという観点からトラヒック同様、適用年度の実績を反映させることが適当と考えます。
 他方、機器単価や経費比率等の入力値については、関係事業者が参加したWGや長期増分費用モデル研究会での議論を経て決定したものであり、入れ替える場合は同様の手続やデータの収集等に相当の稼動を要すること、経費比率等については既に効率化等のフォワードルッキング性を考慮して設定していること等から、入替えを行う必要はないものと考えます。

(2) 新たな機能への長期増分費用方式の適用拡大は困難
【第 III 章 新たにモデルを適用する機能】

 答申草案では、端末回線伝送機能及び中継伝送専用機能については長期増分費用方式による料金を適用し、公衆電話機能及び番号案内機能については長期増分費用方式の適用除外とすることとしています。
 前述の通り、長期増分費用方式は、「仮想的なモデルによる未回収コストの不可避的な発生」や「インフラ投資インセンティブを著しく減退させる」などの様々な問題を内包しています。
 また、いずれの機能についても、既存のネットワークへの新規投資の抑制によりモデルの前提条件が現実の実態とそぐわないものになってきているにもかかわらず、実際費用との比較により、公衆電話、番号案内機能のみを適用除外とすることには問題があると考えます。
 以上の観点から、長期増分費用方式の適用範囲を拡大しないことを要望します。

 更に、端末回線伝送機能及び中継伝送専用機能に改定モデルを適用することについては、次の問題があると考えます。
<1> 端末回線伝送機能(PHS基地局回線)
 固定電話の回線数が減少傾向にあり新規投資を抑制していることに加えて、DSL需要の急速な増加など、改定モデルの想定していない市場の変化が生じており、き線点RTの設置条件等がモデルの前提と乖離していることから、改定モデルを適用することは適当でないと考えます。
<2> 中継伝送専用機能
 中継伝送専用機能について、新モデルで算定されるコストは、都市部に偏在する需要を前提としており、地方にも専用機能の需要が発生したとすると、新モデルの算定結果より約20%のコスト増になるものと見込まれます。よって、改定モデルで算定される割安なコストを現在需要の発生している都市部以外のエリアに適用することは不適当と考えます。
 また、中継伝送専用機能については、弊社以外の設備や弊社のダークファイバー等の代替手段の出現により、需要が大幅に減少する傾向となっており、改定モデルを適用することは適当でないと考えます。

3.

 現行制度を前提とした算定方式の継続(き線点RTは従来通り従量制料金で回収)
【第 II 章 4.コストの回収方法(NTSコストの扱い)】

 答申草案では、「現行の基本料体系の下で、NTSコストを基本料に転嫁することは、なお慎重な検討を必要とし、社会的合意も困難」と指摘されているように、き線点RTについては、従来通り、従量制料金で回収する現行制度を前提とした算定方式を継続すべきものと考えます。
 き線点RTのようなトラヒックに連動しないコスト(NTSコスト)の扱いは、欧米においても、各国の政策や歴史的経緯、市場状況などを反映したものとなっており、必ずしも一律に従量制料金から除かれているものではありません。
 米国においては、州内通話、州際通話、市内相互通話それぞれの接続料金におけるNTSの扱いが異なっています。州内通話と州際通話では、接続料金でNTSコストの一部を回収する仕組みとなっています。特に州内通話の接続料金には、加入者線路設備等のコストの一部を含んでおり、NTSコストの割合が高いことから、料金水準も日本より高くなっています。
 なお、ユーザ料金については、国により個々の料金のコスト回収範囲が異なることから単純な比較は困難ですが、基本料、通話料等を合計したユーザ負担の総額で比較すれば、欧米と比べて高い水準ではないと考えます。

4.

 東西別接続料金を導入することは現実的には不可能
【第 II 章 6.東西別接続料の設定について】

 ユーザ料金については全国均一料金で提供することに対する社会的要請が強いものと認識しており、接続料金を東西別にするとユーザ料金にも東西格差が波及するおそれがあることから、東西別接続料金は導入できないものと考えます。

5.

 回線工事費及びトランクポート等の個別負担
【第 II 章 5.回線工事費及びトランクポート等の扱いについて】

 答申草案で指摘の通り、非効率な設備構築を回避し受益者負担とするため、回線工事費及びトランクポート等に係るコストは、各事業者の申込実績に応じて個別負担とすることが必要と考えます。
 個別負担のルール化にあたっては、以下の点について考慮して頂くことを要望します。
トランクポート等における不要回線の削減と個別負担
 トランクポート等については、現在、従量制の接続料に含めて負担していることから、改定モデル上の効率的回線数(GC:約27万回線、ZC:約31万回線)と、現実に事業者からの申込により構築済の回線数(GC:約130万回線、ZC:約60万回線)には大きな乖離があります。個別負担制度を導入することにより、効率的な設備構築を促進するとともに、モデルの回線数を上回った回線についても応分の負担をして頂く必要があると考えます。
回線工事費の個別負担
 答申草案の記載の通り、各事業者からの申込(需要に応じた回線の開通、廃止、増減)で実施している回線工事数は毎年増加傾向にありますが、事業者毎に工事数にバラツキがあり、現在、従量制の接続料に含めているため、申込の少ない事業者も均等にコストを負担する仕組みとなっています。
 コスト負担の適正化を図る観点から、申込事業者の個別負担とすることが必要と考えます。
具体的な接続料の算定方法
 実際に要したコストを回収する観点から、実際費用に基づく接続料を適用することを要望します。
新規投資を伴う設備が必要となる申込みへの対応
 固定電話トラヒックが減少している中で、新規に設備取得が必要となる申込については、短期間での解約によるコスト未回収を回避する観点から、投資リスクの適正な負担をして頂く必要があると考えます。



「長期増分費用モデルの見直しを踏まえた接続料算定の在り方について」答申草案に対する意見(PDF版)[Size : 27KB]

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