「長期増分費用モデル研究会」報告書(案)に対する意見


平成14年2月28日
東日本電信電話株式会社
西日本電信電話株式会社



(長期増分費用方式に対する考え方)

1.

 日本の電気通信市場は、マイライン競争に伴う市内通話等やインターネットアクセス等の分野において、新規事業者の参入が相次ぎ、今や世界的にみても最も競争が進展した市場になっています。また、電話からIP通信や携帯電話への需要のシフトにより市場構造が急激に変化しております。
 このような競争状況下において、日本の市内通話料金やインターネット接続料金は、世界に類をみない低廉な料金となっております。

2.

 今後のIT時代を展望した場合、これを支える確固としたインフラ基盤の整備が不可欠であります。しかし、長期増分費用方式は「仮想的なモデルによる未回収費用の不可避的な発生」(※)という構造的な欠陥を有しており、このようなモデルコストを接続料金に今後も適用すれば、NTT東西のみでなく、他事業者も自らインフラ設備を構築するインセンティブを著しく減退させ、本来あるべき設備競争による電気通信市場の活性化が図られません。さらに、今後のブロードバンドサービスの普及に向けてのインフラ基盤の整備に支障が生じる等、新たな弊害も生じることとなります。


現実のネットワークが、通常一定の将来需要を見込みながら各時点の技術を取り入れつつ、長い時間をかけて構築されるのに対し、長期増分費用方式モデルは「現時点で利用可能な最も低廉で最も効率的な設備と技術を用いて瞬時に構築する」という前提に基づいており、現実の事業者には到底実現できない仮想的な性格を有するものであり、現実にこれまで投下してきた資本を回収できなくなるというという財産権の保護に関する根本的な問題を内包しているものであります。

3.

 NTT東西は、中期経営改善施策や数次にわたる希望退職の実施など徹底した経営効率化に取り組んで来ましたが、競争の進展による料金の引き下げと長期増分費用方式による減収の発生という状況により、財務状況が大幅に悪化しており、それ故、抜本的な構造改革への取り組みにより一層の効率化に努めているところです。
 長期増分費用方式については、最大限の経営の合理化に努めてもなお実際のコストとモデルコストには依然として大幅な乖離があり、接続料収入については、平成13年度において概ね▲1,000億円以上の影響(NTT東西合計)が発生しております。
 従って、NTT東西としては、更なる減収を伴い、且つユニバーサルサービスの安定的な提供やインフラ整備に支障を生じかねないような今回のモデル案の受け容れは困難であります。

4.

 米国においても、コスト未回収の発生は財産権を侵害し違憲ではないかとして、長期増分費用方式の妥当性について連邦最高裁で審理中であり、さらには、設備投資を伴わずに既存事業者の設備の開放(アンバンドル)に依存する競争政策についての見直し議論が行われているところであります。
 日本においては、米国以上に、市内電話等への新規参入事業者により競争が進展した市場となっており、また、電話からIP通信や携帯電話への需要のシフトによる市場構造の急激な変化が起きていると認識しております。これによるNTT東西の経営状況が大幅に悪化している現状及びインフラ投資インセンティブへの悪影響を考慮すると、規制方法や競争政策の見直しが不可欠であり、接続料金についても、長期増分費用方式の早急な廃止が必要と考えています。


(モデル案に対する基本的考え方)

    

 今回のモデル案では、ZC接続コストなど、本来必要なコストの算定漏れを是正するなど、現実的な見直しが一部図られておりますが、なお下記に述べるように、モデル案には問題があると考えており、その結果、コストを過小に算定しているものと考えます。
 また、長期増分費用方式については、現行制度を前提とした場合においても前述のような問題があることに加えて、報告書案には、き線点RTを端末回線に付け替えた場合のコストも記載されていますが、この場合には、き線点RTコストを事業者ではなく、お客様負担とし、基本料を1回線当たり月額約107円値上げすることが必要となるため、現実的でなく全く採り得ないものと考えます。


モデル案が過小に算定されている主な要因を以下に示します。

(1)

交換機の経済的耐用年数における技術革新の考慮(報告書案 P.140〜141関連)

 モデル案における実際の運用データに基づき推計するという手法は適切だと考えておりますが、経済的耐用年数の推計において、技術革新により既存設備の陳腐化が急速に進むことが考慮されていません。
 特に、交換機においては、IP等の技術革新の進展により、経済的耐用年数は短縮していく傾向にありますが、モデル案では、実際の法定耐用年数の2倍以上と長い15.6年に延長され年間設備コストが低く算定されております。
 このような、技術革新の影響を受けやすい設備については、法定耐用年数を用いるなど一定の考慮が必要です。

(2)

官公庁等の重要通信の確保のための交換機への分散収容(報告書案 P.70〜71関連)

 官公庁等の重要通信については、災害や設備故障時の通信確保を図るための種々の対策が行われています。その一つとして、重要通信回線の集中するビルにおいては、その回線を複数の交換機に分散収容している実態があります。
 しかしながら、モデル案では、重要通信回線の集中ビル(例えば、東京の千代田区などの都心部エリアのビル)において、1ビル1ユニットとなっているため、分散収容ができない状態となっており、結果的に交換機コストが低く算定されております。このため、分散収容の実態に即した見直しが必要です。

(3)

相互接続の需要変動を考慮した設備選定及びコスト算定(報告書案 P.98、132〜135関連)

 NTT東西では、接続事業者からの設備利用申し込みに柔軟に対応でき、かつ、経済的となるように、増減設のしやすい設備を選定して設備構築を行っております。しかし、モデル案では、このような需要増減を想定せず、固定的な大規模設備を前提としてコストを低く算定しております。
 例えば、電力設備については、需要の増減に適宜対応できるよう分散型の給電方式を採用しています。しかしながら、モデル案では、需要の増減に対する柔軟性に欠ける集中型の給電方式が採用されており、現実に主流となっている分散給電方式の採用の検討が必要です。
 また、前モデルでは、GC接続とZC接続の料金差が過小(14年度認可料金 約0.28円/3分。欧米の3分の1の水準)であったため、現在、GC接続を解約しZC接続に移行する需要が発生し、現実には伝送設備などを増設せざるを得ない状況にあります。今回のモデル案では、料金差が欧米水準並みに是正されたことから、逆の需要変動が生じることが想定されます。
 現在は、このような需要変動により、わずか1〜2年で過剰設備となってもその設備コストが回収できない接続ルールとなっております。従って、モデルコストを算定する上で、相互接続申込みの短期間での需要変動(ZC接続からGC接続への変更など)に対する設備保有リスクのコストを盛り込む検討が必要です。仮にモデルにおいて考慮されない場合は、設備保有リスクについて接続替え工事料の新設や最低利用期間などの別の対処手段が必要です。

(4)

保守費算定の見直し(報告書案 P.117〜118関連)

 前モデルでは、保守実態と乖離した保守費算定となっていたため、今回のモデル案では保守実態に即して加入者線路と加入者交換機について一部見直しが図られました。しかしながら、それ以外の設備の保守費については、基本的に、投資単価が低下すれば保守費も連動して低減するロジックとなっており、結果として、実際コストよりも約4割(約1,800億円)低くコストが算定されております。
 保守の実態を勘案すれば、中継線路、伝送無線機械、中継交換機、土木設備などの保守費についても、保守実態に即して同様の見直しが必要です。

(5)

モデル案における入力値(設備単価)における現実との乖離(報告書案 P.11〜12関連)

 モデル案に設定された設備単価は、「信頼性のある入手可能な直近の再調達価額データ」(報告書案)に基づき、回帰などの手法で決定されたものと考えられます。しかしながら、一部の設備(管路、ケーブル、電柱など)では、国内で最大の設備取得実績を有するNTT東西のデータよりも最大▲50%も縮減した単価が設定されており、現実的でありません。これにより、大幅に低くコストが算定されております。
 各事業者の「再調達価額データ」は、各設備の工事環境などにより一概に比較できないものであり、NTT東西のデータよりも最大▲50%も縮減しているものは過大に調整されているものと考えられますので、見直しが必要です。

(6)

中継伝送専用機能(局間専用線)に関する問題点(報告書案 P.75〜78関連)

 モデル案では、中継伝送専用機能について新たにモデル化することを試みております。しかしながら、モデル案で算定される専用機能コストは、交換機等と異なり都市部に偏在する需要を前提としており、この都市部のコストを山間部や島嶼部など高コストなエリアには適用することは困難であります。
 また、専用機能については今後も需要が大きく変動することが想定されることから、モデルの適用は問題があり、現在の実際費用方式での接続料とすべきと考えます。
 なお、報告書案でも次のように指摘されております。

   <1>  中継伝送専用機能に代替するものとして、現在はダークファイバー等が存在している。これらの影響により、専用機能の需要は、不透明であり、需要変動が大きくなった場合にはモデルコストが安定しない恐れがある。また、このような場合、電話モデルと一体としてコストが算定されるため、電話のコストに対しても影響が考えられる。
   <2>  専用機能の需要は都市部中心に偏在している。この需要を前提としてモデルを作成し、これによるモデル料金をルーラルエリアをも含めて、全国に適用することは更に検討が必要と考えられる。

(7)

トラヒック実績の反映(H13及びそれ以降毎年度)(報告書案 P.131〜132関連)

 モデル案ではH13年度予測トラヒックを使用しておりますが、報告書案にあるようにH13年度実績トラヒックが確定した時点で入れ替えることが必要です。
 また、IPへのシフトなど、技術革新や競争の進展に伴い、通信手段や通信設備の構築方法が多様化していることから、接続トラヒックの変動が想定されます。このため、モデルコストは、トラヒックの実績を毎年度反映したものとすることが必要です。


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