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NTT東日本関東病院における手術中の異型輸血事故に関する報告

平成28年9月14日

1.はじめに

平成28年7月11日(月)にNTT東日本関東病院(以下、「当院」と記す)において、上行結腸切除術(途中、高度癒着により腹腔鏡下から開腹術に変更)を実施中に、血液型O型の患者Xに誤って、B型の血液製剤(赤血球液LR2単位、約280ml)を輸血するという事故(以下、「本件事故」と記す)が発生しました。
 本件事故発生直後から患者の救命および回復に病院を挙げて努めるとともに、当院医療安全管理委員会および医療安全管理室を中心に、事故発生状況の確認、および背後要因の分析、再発防止策の検討を行ってきました。今後第三者の外部委員を含めた事故調査委員会を設置し、さらなる検証を進める予定ではありますが、現在までに検討した内容についてここに報告をいたします。

2.事故の経過

(1)術前の経過

患者Xは胃癌(幽門側胃切除)、前立腺癌(前立腺全摘術)の既往あり。前医の内視鏡検査にて上行結腸隆起性病変を指摘され、当院へ紹介された。精査の後、手術治療の方針となった。

(2)手術開始から異型輸血発生までの経過

平成28年7月11日(月)13時40分、患者X(血液型O型)の手術が手術室6(全10室)において開始された。手術は当初腹腔鏡下で行われていたが、癒着が高度のため、15時4分に開腹手術へ変更された。15時50分、外回り看護師Aが術前訪問のため、看護師Bに申し送りを行い、外回り業務を交代した。

16時過ぎ出血量が増え血圧が不安定のため、麻酔科医師Aが動脈圧測定ラインを作成した。16時15分出血量が900mlに達したことから、麻酔科医師Aは電話で輸血部にO型赤血球液LR6単位を緊急でオーダーした。
同時刻頃、手術室3において患者Y(血液型B型)に輸血の必要性が生じたため、同手術を担当する麻酔科医師Cが輸血部に電話でB型赤血球液LR6単位を緊急でオーダーした。

16時25分麻酔科医師Aの勤務が終了する時刻となったことから、麻酔科医師Aは麻酔科医師Bに輸血のオーダーを含め申し送りを行い交代した。
その頃、輸血部では緊急オーダーである患者YのB型赤血球液LR6単位中、4単位分の準備が早く完了した。輸血部は電話で「患者YのB型赤血球液4単位分の準備が完了したので送る。」旨の連絡を手術部のクラークにした。患者YのB型赤血球液LR4単位は自走台車にて手術室へ払い出された。輸血部から電話を受けたクラークは、ナースステーションに居たサブリーダー看護師Dに患者Yの赤血球液(B型)が届くことを伝えた。

まもなく手術部のナースステーションに患者YのB型赤血球液LR4単位が自走台車にて届けられた。サブリーダー看護師Dは自走台車から赤血球液を取り出したが、ナースステーションには血液製剤と「払出書・受領書・返納書(以下、「払出伝票」と記す)」をダブルチェックする相手となる看護師が居なかった。
患者Xの手術をしている手術室6では、術前訪問に出た看護師Aが戻ってきたこと、また準夜の看護師Cも出勤してきたことから、16時30分に看護師Bは当該二名に引継をして手術室6を出た。

サブリーダー看護師Dは、届いたB型赤血球液4単位(手術室3で使用予定であったもの)の受領確認のため、ナースステーションに戻ってきた看護師Bに声をかけ、赤血球液受領のダブルチェックを行った。確認については、看護師Bが払出伝票を読み上げ、看護師Dが赤血球液を持ち、読み上げられた内容と赤血球液に記載のある患者Yの氏名、血液型、ID、輸血番号に相違がないか確認し、その後それぞれの看護師が払出伝票のチェックボックスに確認のサインをすることにより実施した。看護師Bは、B型赤血球液LR4単位を手術室6へ運んだ。

16時38分頃、手術室6において、B型赤血球液LR4単位を持ってきた看護師Bと麻酔科医師Bが投与前の輸血確認を行った。確認については、看護師Bが赤血球液を持ち、患者Yの氏名と血液型、ID、輸血番号を読み上げ、麻酔科医師Bが払出伝票に記載された氏名と血液型、ID、輸血番号が読み上げられたものと相違ないかを確認することにより実施した。麻酔科医師Bは確認作業を終えた後、血行動態が不安定であったため、すぐにB型赤血球液LR2単位の輸血を開始した。持ち込まれた残りの2単位は看護師Bが手術室6内にある冷蔵庫にしまい、外回り看護師Cにその旨を伝えた。

16時55分 最初に開始した輸血が終了間近となったことから、麻酔科医師Bが続けて2本目の輸血を看護師Cに依頼したところ、看護師Cが赤血球液に記載されている患者氏名が実際の手術患者のものとは異なることに気づき、直ちに三方活栓をOFFにして輸血を中止した。麻酔科医師Bは、異型輸血が判明した時点で他の麻酔科医の応援を要請した。

3.異型輸血の影響と術後経過

当該患者Xの血圧は一時的に40mmHg台まで低下した。異型輸血判明直後から、術中の出血への対処と手術を完了することに努め、並行して急性の溶血反応・腎障害・DIC等異型輸血に対する治療法を検討し順次開始した。異型輸血に関連する病態に対して行った特別な治療法は以下の通りである。

  • ショックに対する治療(昇圧剤投与、ステロイド治療)
  • 急性溶血に対する治療(血漿交換など)
  • 急性腎障害に対する治療(持続血液ろ過透析)
  • 特別な輸血療法(AB型の新鮮凍結血漿輸血)
  • 播種性血管内凝固症候群に対する治療(蛋白分解酵素阻害薬投与など)
  • 凝固障害/難治性出血に対する治療(輸血治療)

手術後はICUで気管内挿管管理下に集中治療管理を継続し、術後7日目(7月18日)に人工呼吸器より離脱した。
術後10日目(7月21日)にはICU内で経口からの食事摂取を試みられるまで一旦回復した。術後14日目(7月25日)の腹腔ドレーン排液の培養検査で細菌感染を認めたことから、感染源のコントロールとビリルビン高値の改善を目的に術後18日目(7月29日)に腹腔内血腫除去術を行った。この手術中、器質化した血腫と肝臓の癒着が強く剥離面より出血を認めた。同手術後は引き続き、ICUにて人工呼吸器など使用し集中治療を継続した。術後21日目(8月1日)、血液培養にてカルバペネム耐性腸内細菌(Enterobacter cloacae)が検出された。術後25日目(8月5日)、突然、心室頻拍が生じたが、抗不整脈の投与で改善した。術後30日目(8月10日)に、気管切開術を施行し、その後人工呼吸器から離脱した。現在は、リハビリを中心とした治療を継続中である。

4.事故後の対応

(1)ご家族への対応

本件事故発生直後に、患者のご家族へ説明、謝罪を行うとともに、7月13日にご家族へ発生した事実を文書にてお渡しし、治療方針等の説明を行った。その後ご家族から複数質問をいただいたこともあり、7月17日、7月24日に追加でご家族に説明する機会を設けた。また患者ご本人ついては、人工呼吸器離脱後の7月19日に事故に関する説明と謝罪を行った。なお、ご家族からの求めにより、入院前の経過から現在に至るまでの診療録に関しては、すべて開示とし、ご家族に資料を渡している。

(2)院内への対応

7月12日全看護長緊急招集による説明、7月19日院内診療科部長をメンバーとする部長会議にて経緯説明、7月27日全職員を対象に事故の報告と日常業務における当面の対応について説明会を開催。説明会未参加者に対しては、部署管理者の責任のもと、院内LAN環境において説明会資料の閲覧と説明会模様を収録した動画の視聴を実施している。

(3)院外への対応

7月14日に東京都(福祉保健局医療政策部医療安全課)への報告を行ったほか、日本輸血・細胞移植学会 理事会に7月19日に報告した。また日本医療機能評価機構、国際病院評価機構(JCI)の規定に則り、現時点で判明している情報に基づいた本件事故の根本原因分析(RCA)や再発防止策をまとめ、日本医療機能評価機構には8月24日に報告したほか、国際病院評価機構(JCI)には更新審査時に提出することとしている。

今後、第三者の外部委員を含む事故調査委員会を立ち上げ、事故原因の分析と再発防止策に関する提言を得る予定。

5.調査経過(8月24日現在)

7月11日から7月12日 
         本件事故発生時に居合わせた、手術室並びに輸血部など関連する部署の職員から事実関係を聴取し時系列を確定

7月12日から
医療安全管理委員会並びに臨時対策会議を随時開催(8月24日までに計7回開催)
7月19日
輸血療法委員にて、異型輸血の防止策を検討し、「輸血の取り扱いガイドライン」を改訂
7月20日

輸血療法委員会と医療安全管理委員会による合同委員会にて、異型輸血の背景及び
手術部における緊急の対応策を決定
8月3日
病院カンファレンスルームにおいて、院内の各職種60名が参加し全体での根本原因分析(RCA)を実施
8月23日
RCAの結果を踏まえ、事故原因およびその背景要因に対して対策を決定
8月24日
日本医療機能評価機構へ院内事故調査報告書を提出

6.原因と要因

本件事故は、直接的にはヒューマンエラーが連続したことが原因であるが、背景には以下のような病院としての管理、教育体制の不備等によるシステムやプロセス要因が考えられる。

① ナースステーションに届けられた赤血球製剤が誤った部屋に運搬された

  • 同時刻に二つの手術室から輸血のオーダーがあったことが、看護師間で共有されていなかった。
  • ナースステーションでのダブルチェック時、運ぶ先(手術室)は確認されなかった。
  • ダブルチェックの相手であった看護師は、直前まで外回り業務をしていた部屋で使用するものと考え、血液製剤を運んだ。
  • 手術室の輸血実施手順書に、輸血患者の手術室を確認する手順は明記されていない。

② 運ばれた赤血球液が外回り看護師に渡されなかった

  • “名前を声に出し、外回り看護師に渡す” および“ホワイトボードに書かれている患者の氏名と払い出し伝票の患者氏名が一致しているかを確認”するという手順に従って実施できなかった。
  • 血液を搬送した看護師自身が直前まで当該手術室で外回り業務をしていたことも影響した可能性がある。
  • 上記の手順の項目が異型輸血を防ぐための重要な方策であり、手順を体得するための教育が行われてこなかった。
  • 手術室における輸血において、手順の各プロセスの遵守状況はモニタリングされていなかった。

③ 投与直前の最終ダブルチェックにおいて、異なる血液型製剤であることに気が付かれなかった

  • 投与直前の最終ダブルチェックは、ナースステーションから血液を運搬した看護師と麻酔科医との間で行われた。
  • 麻酔科医は、ダブルチェック時に払い出し伝票と血液製剤の一致を確認したが、患者(患者の情報を読み取った麻酔システムや麻酔チャート)との照合確認を行わなかった。
  • 麻酔科医の業務手順には、「輸血開始前に、患者氏名、血液型、種類、数量、ロット番号、交差試験結果、照射の有無、有効期限を、看護師と声を出し合って確認する」との記載があるが、具体的な患者の確認方法は示されていない。
  • 麻酔科医に対しても、手術室看護師同様に手順書に沿った継続的な教育訓練がなされていない。

④ 機器による血液製剤の確認が行われていなかった

  • ヒューマンエラーを防止する手段として、手術室に血液製剤のバーコードやPDAなど電子的な確認システムを導入することが挙げられる。しかし4年前に有線によるバーコード読み取りシステムが手術室で試行されたが、業務フローに合わないことなどを理由に導入は中止となった。
  • 他の病院では、血液型の色分けに注目して、手術室の輸血用の点滴台に色分けした札(たとえばA型であれば黄色、B型であれば白)をかけている施設も多いが、当院ではそのような対策は行われていなかった。

⑤ 業務の引き継ぎ体制の不備

  • 手術室において、麻酔科医・看護師は、術前訪問、業務時間の終了等の理由により業務の引き継ぎを行い、交代することがある。引継があった場合、術式・手術の進行状況(出血量や輸血オーダーなど)、患者の全身状態を管理する際に注意すべき事項(既往やアレルギーなど)などは重点的に引き継ぎされるが、患者識別に関する引き継ぎには十分に注意が払われていない。
  • 引き継ぐ内容に関しては、統一された規定がなかった。

⑥ 輸血療法に関する体制の不備

  • 手術室ではPDAまたはバーコードリーダが使用できる環境ではないにも関わらず、院内輸血ガイドラインには「輸血の実施はPDAまたはバーコードリーダを使用する。」とあり、PDA等が使用できる環境を前提に記載されていた。
  • 輸血業務を管理する輸血療法委員会が手術室の輸血手順書の作成に関与せず、輸血状況もモニタリングしていないなど、輸血業務の標準化が手順書によって管理されていなかった。
  • 手術室が独自に輸血業務手順を定めていたが、輸血受領確認時に運搬する部屋の確認、輸血実施時に血液製剤と照合する対象の記載がなかった。
  • 輸血療法委員会における手術室関連の委員は麻酔科医師1名のみであり、手術室の意見が十分に反映される体制ではなかった。

⑦ 職員教育体制の不備

  • 輸血ガイドラインに基づく教育は、新規採用時にのみに行われており、その後の継続的な教育体制はなかった。
  • PDAが使用できない環境での輸血については、現場において実施方法を伝達するのみで、継続的な教育は行なわれていなかった。

⑧ 病院管理体制の不備

  • 輸血業務などハイリスク業務をモニタリングし、改善するなどの管理が不十分であった。そのため、手順書等が形骸化し、是正・改善のための教育訓練体制の構築など組織的な取り組みが十分できていなかった。

7.対策

再発防止のため、以下の①から⑤の対策を実施する。

① 血液製剤の誤運搬防止

  • 手術部は、輸血療法委員会とともに手術室の輸血実施手順書を更新し、手順書に沿った教育訓練を継続的に行い、これらの手順の遵守状況をモニタリングする。

<これまでに行った再発防止策>

●手術部における血液製剤受領時の確認手順の変更

  • ナースステーションで行う血液製剤受領時のダブルチェックにおいては、看護長、主任、リーダーまたはサブリーダーが確認に加わる。
  • 輸血を行う患者の手術室の部屋番号をナースステーションのステータスモニターで確認し、払出伝票に記載する。

●個別の手術室へ血液製剤を運搬するスタッフの明確化

  • 受領確認後、血液製剤を個別の手術室に運搬するのは看護長、主任、リーダーまたはサブリーダーとする。

② 血液製剤照合の徹底

  • 手術部は、手順書に沿った継続的な教育訓練を行い、これらの手順の遵守状況をモニタリングする。
  • 手術部は、血液型を色分けして輸血用点滴台に札をかけるなどの方法を導入する。
  • 情報システム部門は、手術室の環境を調査し、病院は機器による輸血照合システムをできるだけ早期に導入する。

<これまでに行った再発防止策>

●手術室での手術患者確認手順の変更

  • 麻酔科医師は、手術患者が手術室に入室後、ネームバンドを麻酔システムで照合することにより麻酔システムを立ち上げる。
  • 輸血時は、麻酔科医と外回り看護師の2名で、麻酔システムの画面と血液製剤と払出書の患者氏名と血液型が一致していることを確認する。

③ 業務引き継ぎ手順の確立

  • 手術部は、手術室の看護業務及び麻酔業務の引き継ぎ内容を定め、リスト化して運用する。

④ 輸血療法体制の確立

  • 輸血療法委員会は、各現場の実情を調査し、現場とともに輸血に関するガイドライン、手順書を作成し整備する。手順書に沿った教育訓練を継続的に行い、これらの手順の遵守状況をモニタリングする。

<これまでに行った再発防止策>

●輸血療法委員会による手順遵守のチェック体制の確立

  • 平成28年8月より検討を開始、9月より試行運用、10月より継続的に実施可能な体制へ移行する。
  • 輸血療法委員会に、手術部関係者として手術室看護師を加えた。

⑤ 患者安全に対する管理・監督体制の構築及び職員教育

  • 病院は、患者安全に関する課題(輸血などのハイリスク業務)について、専門委員会(輸血療法委員会など)が、手順書に基づいて継続的に教育訓練を行い、現場での遵守状況をモニタリング・分析できる体制を構築し必要な資源を充てる。

8.おわりに

異型輸血という医療事故の重大さに鑑み、病院としての責任を痛感しております。

また、患者様並びにご家族様には多大なご迷惑とご心配をおかけしていることを心よりお詫び申し上げます。引き続き、病院として患者様の治療に最大限努めるとともに、ご家族様にも誠意をもって対応させていただきます。

今後、再発防止に総力を挙げて取り組むとともに、医療の安全と質の向上に邁進して参る所存です。

以上

NTT東日本関東病院
院長 亀山 周二