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先進医療:気管支鏡バーチャル3D肺マッピング(VAL-MAP)

以前より東京大学医学部附属病院を中心に臨床研究として実施されていたVAL-MAPが、2016年6月の厚生労働省先進技術審査部会、同8月の先進会議で承認され、10月から当院でも先進医療として実施されることになりました。

VAL-MAPとは?

微小肺病変に対する外科的診断・治療に際して行われる術前CTガイド下マーキングは、空気塞栓による心筋梗塞・脳梗塞、出血、気胸の合併症が報告されており、部位による制限も多くありました。これに代わる方法として佐藤雅昭医師が京都大学(当時)で2012年に開発したのが、Virtual Assisted Lung Mapping (VAL-MAP)法です。高解像度CT画像を基に3次元再構成したバーチャル気管支鏡をガイドにして、気管支鏡下に少量の染料(インジゴカルミン)を肺表面に吹き付け印をつけます。複数個所(2−6箇所程度)の印を同時につけることで、可塑性に富む「肺」という臓器の表面に角度、相対的距離といった位置情報を与えることができるため「マッピング」と呼んでいます。

図1【図1】

図1 VAL-MAPにより肺に描いた「地図」(A)CTで認められた肺癌疑いのすりガラス様病変に対して(B)3Dバーチャルイメージで地図を設計、それぞれのマーキングポイントに至る気管支をバーチャル気管支鏡で計算して、(C)のような4点のマーキングを頼りに右肺S8a亜区域切除術を施行。過不足のない切除を行った。手術時間は1時間半程度、診断は肺癌(腺癌)だった。(文献1より一部改編し許諾を得て掲載)

当院では手術の前日に内視鏡室で喉に局所麻酔をして気管支鏡を行います。胃カメラに似た処置ですが、点滴から鎮静薬を少量入れて行うため、患者さんはほとんど処置のことを覚えておらず、苦痛の少ない処置が可能です。約20分の間に、目標とする気管支から1.8mm径の細いカテーテルをいれ、その先端が胸膜(肺の一番外側)に達していることをレントゲン透視で確認して、1ccのインジゴカルミン(青い色素)を注入します。この色素は広く胃カメラなどでも使用され、食品添加物にも用いられる安全なものです。この処置が終わったらCTを撮影し、実際に肺のどこに印がついたかを確認し、さらにこれを3次元に構成して最終の手術計画をたてます。こうすることで、印の実際の位置が多少計画とずれていても、この段階で手術計画を修正することができるため、VAL-MAPの高い精度を維持することができます。VAL-MAPのまれな合併症(約4%)として気胸がありますが、通常ごく軽微なものであり、これまで治療が必要だったことはありません。その他の危険性、合併症については担当医にご相談ください。

図2【図2】

図2(A)バーチャル気管支鏡、(B)VAL-MAPに使用するカテーテル、(C)実際の気管支鏡写真と目標気管支へのカテーテル挿入、(D)レントゲン透視でのカテーテル位置の確認。

図3【図3】

図3 肺にみつかった小さな2つのすりガラス病変。3か所のマッピングを行い、肺部分切除を施行。手術時間は30分程度、いずれも早期の肺腺癌だった。(文献1より一部改編し許諾を得て掲載)

VAL-MAP法はまだ保険診療では認められていないため、臨床研究として実施しておりました。この方法が特に有効と思われるのは、胸腔鏡を用いた手術では指で触れて確認することが難しい小さな病変や、CTですりガラス様陰影を呈するやわらかい病変、また確実な切除マージンを確保した過不足のない切除を必要とする手術などです。


VAL-MAPのよい適応と考えられる手術・病変

  • 原発性肺癌が疑われる小さなすりガラス様病変(ground glass nodule)
  • 小さな転移性肺腫瘍
  • 複雑な区域切除
  • 葉間にまたがり、切除マージンの確保が重要なすりガラス様病変
  • 胸膜癒着が予想され、肺部分切除・区域切除が必要な場合

VAL-MAPは従来のマーキング法を超えて、胸腔鏡下の精密縮小手術(肺部分切除、区域切除)を可能とする次世代の手術ナビゲーションシステムであり、世界からも注目されています。VAL-MAPを用いた手術の有効性、再現性を検証するmulti-institutional lung mapping study (MIL-MAP) Studyが日本国内の20近い施設で進行し、2016年4月までに500件の症例集積がなされ、高い有効性と安全性が示されました。

先進医療としてのVAL-MAP

多施設共同研究(MIL-MAP study)において良好な結果が得られたこともあり、2016年6月の厚生労働省先進技術審査部会、同8月の先進会議で承認され、2016年9月より東京大学医学部附属病院が主体となって先進医療として実施する見込みになりました。実施するVAL-MAP自体は基本的にこれまでのものと同様ですが、近い将来、保険診療(一般の医療)としてこの方法を全国、そして世界に普及させ、より多くの患者さんがこの方法を使って、精度の高い手術を受けられるようにするため、安全性、有効性をさらに追求していきます。
『微小肺病変に対する切除支援気管支鏡下肺マーキング法の非対照非盲検単群試験(臨床試験登録番号:UMIN000022991)』

今のところ、全国16施設がこの先進医療を実施するべく準備を進めています。当院では10月から先進医療が開始されます。
先進医療では、VAL-MAPにおける気管支鏡下マーキング部分の実費(当院では16,500円)を患者さんに請求させていただき、それ以外の入院費用(検査・手術等の費用)は通常の保険診療でまかなわれます。VAL-MAPの適応については専門的な判断が必要ですので、担当医にご相談ください。

参考文献

1)Sato M, Omasa M, Chen F, Sato T, Sonobe M, Bando T, Date H. Use of Virtual Assisted Lung Mapping (VAL-MAP), a bronchoscopic multi-spot dye-marking technique using virtual images, for precise navigation of thoracoscopic sublobar lung resection.

J Thorac Cardiovasc Surg.2014;147(6):1813-9.
2)Sato M, Aoyama A, Yamada T, Menjyu T, Chen F, Sato T, Sonobe M, Omasa M, Date H. Thoracoscopic wedge lung resection using virtual-assisted lung mapping.
Asian Cardiovasc Thorac Ann. 2015;23(1):46-54.
3)Sato M, Yamada T, Menju T, Aoyama A, Sato T, Chen F, Sonobe M, Omasa M, Date H. Virtual-assisted lung mapping: outcome of 100 consecutive cases in a single institute.
Eur J Cardiothorac Surg. 2015;47(4):e131-9
4)佐藤雅昭.小型肺癌の術中局在同定法―術前マーキング法とvirtual-assisted lung mapping―肺癌. 2014;54 (6):835-42.

上記内容は http://cts.m.u-tokyo.ac.jp/column/val-map から一部改変し承諾を得て掲載しております。