関東病院


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呼吸器外科

扱う疾患および特色

当院は地域癌拠点病院に指定されており、原発性肺癌に対して地域癌診療の中心的な役割を担うべく専門的な外科治療を行っております。当科における手術の対象疾患としては 原発性肺癌以外では転移性肺腫瘍、自然気胸、縦隔腫瘍などがあります。

原発性肺癌について

  1. 原発性肺癌の増加 小型肺癌の増加
  2. 肺癌の診断と手術適応について(主に呼吸器内科の先生が行います)
  3. 肺癌の病期(進行度)について
  4. 肺の解剖(構造)について
  5. 原発性肺癌の術式について

転移性肺腫瘍について

自然気胸について

縦隔腫瘍について


原発性肺癌について

1.原発性肺癌の増加 小型肺癌の増加

平成25年度の肺癌検診受診率は男性47.5% 女性37.4%と上昇してきており、検診も変化しつつあります。

現在区単位行われている一般的な肺がん検診は胸部レントゲンで行われています(有料の場合、無料の場合もあります)。さらに当院がある品川区の肺がん検診においては40歳以上ならば胸部レントゲン検診は無料で受けられます。(多くは少額の有料制を採用している治自体がほとんどですが)さらに数千円の自己負担でヘリカルCT検診に変更できます。(医師会への申し込みが必要です)ただし他のエリアにお住いの方は居住地の医師会に問い合わせいただくか、当院のような人間ドックを有料で受ける形になります。

CT等の検診により小型肺癌が発見され検診医療機関、開業の先生、2次検診を行う中核病院から紹介頂くケースが増加しています。また当院の人間ドックでもCTにて小型肺癌が数多く発見されています。

肺癌を早期に発見することは大切です。早期肺腺癌の特徴といわれているスリガラス陰影は胸部レントゲン撮影では見つけることは困難で、大部分がCTによって発見されます。

肺癌は平成26年度の厚生労働省の人口動態統計によると、癌死亡1位で増加傾向が続いています。特に男性では平成5年に胃癌を抜いてさらに増加傾向が著しいです。男女別で男性は肺、胃、大腸、肝臓、膵の順で1位、女性では大腸、肺、胃、膵の順で2位となっております。とくに女性では大腸癌と肺癌は年々増加傾向にあります。肺癌と喫煙は密接な関係があるものの、非喫煙者にも発生します。

図1 出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」図1

肺がんの罹患率の上昇に伴い、肺がんの手術数も年々増加傾向にあります。(図2)

図2 出典:2013年日本胸部外科学会学術調査図2

肺癌は小細胞肺癌と非小細胞肺癌に分けられます。このように分けられるのは小細胞肺癌が早期から転移を起こす悪性度の高い肺癌で、治療は抗癌剤治療(化学療法)や放射線治療の効果が高く、非手術治療が主体になります。非小細胞肺癌はさらに組織学的な分類で腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌に分けられます。新規抗癌剤や放射線治療の進歩により肺癌の治療効果は高くなってきましたが、現段階においても肺癌治療の最善は出来るだけ早期に肺癌を見つけ、手術により完全切除することが一番と考えられています。

2.肺癌の診断と手術適応について(主に呼吸器内科の先生が行います)

肺癌の診断、病期診断

  1. 胸部レントゲン写真、胸部CT検査などの検診で発見(場所、拡がりを確認)
  2. 血液検査(腫瘍マーカー測定、進行具合と肺癌の種類を概ね予測可能)
  3. 気管支鏡検査(のどの局所麻酔で直接腫瘍細胞の採取=肺癌の確定診断)
  4. 全身転移の検索

    ①脳造影MRI(微小脳転移の検索目的、肺癌は脳転移のきたしやすい癌種です。)(図3)
    ② PET/CT検査(放射性元素を用いた検査法で、癌の進行度を見るうえで重要な検査です。全身の転移状況(リンパ節転移、血行転移)を調べ、最終的に転移の状況をみて手術適否を判断します。都内には多数のPETセンターがあり当院では外注の検査になります。)(図4)

図3 脳MRI(単発脳転移)
図3 脳MRI(単発脳転移)

図4 PET/CT検査 (右下葉肺癌 縦隔リンパ節転移の例)
図4 PET/CT検査 (右下葉肺癌 縦隔リンパ節転移の例)

ここまでで肺癌の診断と進行度を評価し、手術可能な非小細胞癌であることを確認します。

それとは別に

耐術性(全身麻酔や予定する手術に耐えられるか?)の評価を行います。
当院で必ず行う検査として

  1. 呼吸機能検査(肺切除を行っても十分な呼吸機能が残ることが大前提です。)
  2. 心電図、負荷心電図、心臓超音波(狭心症、心筋梗塞、心不全など心臓にトラブルを抱えていると手術は困難です)心臓に問題のある患者さんについては専門の循環器内科の先生と相談して、個別に評価いたします。

3.肺癌の病期(進行度)について

現時点での肺癌取り扱い規約を元にした分類を紹介します。肺癌の拡がりの評価にはT(腫瘍自体の拡がり、大きさ等)N(リンパ節転移の拡がり)M( 遠隔転移=血流に乗った飛び火ないし播種)の組み合わせで考えています。 TNMの組み合わせからStage1AからStage4まであり,Stage 1AからStage 3Aの一部までが手術治療の適応と考えられます。
それ以上のステージにある進行肺癌については、手術成績は不良で、化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療の適応になります。進行肺癌で放射線+化学療法を呼吸器内科にて行い、癌の進行度が下がり手術適応になる患者さんもいます。また術前Stage1と考えて手術を行いましたが、最終的にリンパ節転移があり、術後補助化学療法(再発予防の抗癌剤治療)を行うこともあります 。

T因子
  • T1a: 腫瘍の最大径が2cm以下
  • T1b: 腫瘍の最大径が2cmを超えて3cm以下
  • T2a: 腫瘍の最大径が3cmを超えて5cm以下、あるいは3cm以下であっても胸膜に浸潤がある
  • T2b: 腫瘍の最大径が5cmを超えて7cm以下
  • T3: 腫瘍の最大径が7cmを超える場合ないし胸膜、横隔膜、心嚢(心臓の周りを覆う膜)などに浸潤がある、または主気管支への浸潤が気管分岐部から 2cm 未満
  • T4:縦隔組織、心大血管、気管、食道浸潤
N因子
  • N0:リンパ節転移なし
  • N1:同側肺門、肺内リンパ節転移
  • N2:縦隔リンパ節転移
  • N3:対側縦隔、肺門リンパ節転移ないし頸部リンパ節転移
  • N因子
  • M0遠隔転移(全身転移)なし
  • M1a:対側肺内転移、播種、悪性胸水、悪性心嚢水
  • M1b:全身転移あり
上記T N Mの組み合わせで
ステージ1A T1a or 1bN0M0
ステージ1B T2aN0M0
ステージ2A T1a or 1b or 2aN1M0, T2bN0M0
ステージ2B T2bN1M0, T3N0M0
ステージ3A T1a-3N2M0,T3N1M0,T4N0-1M0
ステージ3B T4N2M0, T1a-4N3M0
ステージ4 anyT anyN M1a or M1b

4.肺の解剖(構造)について

肺の手術法を理解する上で必要な解剖についてご説明します。
肺は皮膚、筋肉、肋骨の下、心臓などの真ん中の構造物(縦隔といいます。)に左右隔てられるように存在します。通常左肺は2枚、右肺は3枚に分かれておりそれぞれを葉と呼んでいます。(左なら上葉、下葉、右なら上葉、中葉、下葉)

図5 肺の解剖 (レントゲンと同じで、右側が左肺、左側が右肺になります。)

5.原発性肺癌の術式について

1)肺癌の標準手術について

現時点においても原発性肺癌の標準術式は肺葉切除(肺のブロック切除)+リンパ節郭清とされています。(図8の右側) 肺癌は肺葉(肺のブロック)の根元に向かう進展があり、肺の付け根のリンパ節(肺門リンパ節)さらには縦隔リンパ節(肺の外のリンパ節)に転移を来します。そのため腫瘍だけをとるのではなく、腫瘍の存在するブロック(肺葉)と転移する可能性の高いリンパ節を系統的に切除することが必要です。

2)アプローチ法について

通常の肺葉切除に関しては、2つのアプローチ法があります。

  1. 開胸手術 皮膚切開は8-12cm程度で、肋骨の間(肋間)を切って拡げるアプローチする直視下手術です。当科では標準的な肺葉切除+リンパ節郭清を行う際には、前側方ないし後側方のアプローチで行っています。大きな傷をつける手術ではありませんので、見えにくい場所は胸腔鏡を併用し、胸腔鏡で手術(胸腔鏡補助)することもあります。

    写真1 開胸 後側方切開、右肺下葉切除術 主に直視下手術で、開胸器といった肋骨の間を切って拡げることが必要です。
    (10年以上前の画像で、現在はかなり小さい傷で開胸手術も行っています。)
  2. 胸腔鏡下手術(VATS=Video-Assisted Thoracoscopic Surgeryといいます) 1か所は2-4cm前後の皮膚切開(ここから空気を抜いた肺を取り出します)、他に5-10mmの2-3ヶ所に小さな穴(ポート)をあけて行う手術です。手術内容は開胸手術とほぼ同等で、開胸手術と概ね同じ範囲のリンパ節可能の切除は可能です。1期肺癌での胸腔鏡手術成績は良好で、良い適応と考えられます。しかしながら術前からリンパ節転移の疑われる場合や、胸壁浸潤や血管浸潤などの局所進行肺癌例などの進行肺癌例でも胸腔鏡手術は可能ですが、アプローチの差で手術成績や手術リスクが高くなる場合、開胸手術をお勧めします。当院では最新の内視鏡ビデオシステムを備え、より高度な内視鏡下手術を目指して研鑽を重ねています。 高齢者や低肺機能例については、開胸手術に比べて胸腔鏡手術は術後のダメージもすくなく、術後早期のQOL(生活の質)の低下も少ないため積極的に胸腔鏡を使用しています。

図6 胸腔鏡下肺葉切除のきず(右肺上葉切除 4ポートの場合)


写真2 胸腔鏡下肺葉切除のきず
(右肺上葉切除 4ポートの場合) 


写真3 胸腔鏡下肺葉切除の術中イメージ

3)肺癌の縮小手術について

2cm以下のとくにスリガラス陰影を含む1期肺癌の手術成績は良好です。そのため肺葉切除以下の肺切除量で、肺葉切除と同等ないしそれ以上の手術成績を期待できる縮小手術が行われるようになりました。肺の切除量が少なければ、術後の呼吸機能の低下を最小限度に押さえられ、生活の質(Quality of Life)も下がりません。肺切除量を減らす術式とは

  1. 区域切除 右肺には10の区域、左肺には8つの区域に分けることができます。(図3) 腫瘍の大きさと位置により、切除する区域が決まります。その根元に存在するリンパ節や葉切除ならば肺内にあたるリンパ節を切除して転移の有無を評価します。リンパ節転移がなければ区域切除が可能で、転移があれば術式を葉切除に変更します。区域切除の適応を概ね2cm以下の末梢病変に限定することで葉切除と同等の成績は得られると推定されます。(区域切除の成績については多数報告例がありますが、現在全国的な葉切除との比較試験が行われています) アプローチについては区域切除の手法にもよりますが、@区域間の形成には切除すべき区域を膨張させ、区域間を同定することや、A区域間の肺静脈を丁寧に確認して行うため、B膨張した肺を取り出すため、小開胸を併用していることが多いです。(図8の真ん中)
  2. 部分切除 胸膜直下の腫瘍で1cm以下の小結節の場合や、スリガラス陰影(図7)が大部分を占める患者さんの場合は、部分切除による腫瘍の完全切除で治癒するケースもあります。 (図8 左側)

図7 CT(HRCT:高分解能CT) 
スリガラス結節:高分化腺癌の特徴的な画像で、肺の正常組織を置き換えるように発育します。

図8 肺癌の術式について(右肺上葉肺癌の場合)

早期発見された肺癌については、可能なら肺の切除量を減らす1-2の術式を積極的に行っています。いずれにしても肺癌の性状(スリガラス陰影か?充実腫瘍か?)病期(進行具合)と患者さんの年齢、呼吸機能、併存疾患を考え合わせて、切除範囲、手術のアプローチを決めています。いくつか選択肢がある場合はそれぞれのmerit とdemeritを十分お話しし理解していただいた後、患者さんに適した術式を相談して決めることになります。 従来スリガラス結節に対する部分切除、区域切除はCTであらかじめ推定していた場所を胸腔鏡(カメラ)でみながら、腫瘍の触診を行い切除します。微小な病変や胸膜表面から離れたスリガラス陰影は触診が困難です。そのため触診による腫瘍の同定困難な症例については当院では2016年10月からVAL-MAP法をいう気管支鏡下のマーキングを導入しています。この方法により病変部位が色素で染まりカメラで確認できるため、触診頼りの従来法より確実に病変を切除できるようになりました。
詳しくはこちらにから。

肺癌の手術は全例全身麻酔で行い、肺癌の肺葉切除または区域切除の場合手術時間は1時間半から3時間程度、入院期間は6-7日間、早期肺癌例の胸腔鏡下肺部分切除では手術時間は1時間程度、入院期間は5日間となります。

転移性肺腫瘍について

様々な臓器の癌が手術で取り除かれ、術後の経過観察中に肺転移が見つかる場合があります。肺はフィルターの様な臓器で、血液を介して細胞レベルで肺に着床し増大します。大腸癌などの肺転移は切除することにより生存期間の延長が認められるという報告が多数あり、現時点では3個までの転移は切除の適応になります。他の癌についても条件によっては肺転移の切除を行う場合があります。

図9大腸癌 左下葉肺転移

手術としては胸腔鏡下に部分切除します。すなわち腫瘍の完全切除を目的とした術式です。腫瘍が胸膜表面でなく深い場所にある場合、腫瘍が大きいため部分切除が困難な場合は区域切除や肺葉切除を行う場合もあります。

大腸癌の肺転移の胸腔鏡下肺部分切除の場合、手術時間は1時間程度、入院期間は5日です。

自然気胸について

いわゆる肺のパンクです。肺の表面に風船状の病巣(ブラ、ブレブ)が出来て、そこに穴があくことによって起きます。通常肺は肋骨の内側にぴたっとついた状態で呼吸にあわせて膨らんだりしぼんだりしますが、肺のパンクにより本来肺は壁に密着していますが、間に空気が入りこむため、肺は萎んだ状態になります。これが気胸という状態です。ブラの薄い膜に穴が開くと肺の外に空気が入りこみ、肺が虚脱するため、痛みや息苦しさといった症状が出現します。

写真4 若年者自然気胸
肺尖部分にあるブラ(風船状の病変)の破裂
空気漏れのテスト:水を胸の中に入れてタイヤのパンク修理の要領で、肺を膨らまして空気漏れのcheckをしています。

写真5 肺気腫に伴う続発性気胸(癒着あり)
タバコ肺にできたブラの破裂。肺尖の非常に薄壁の大きなブラに穴が開いていました。

自然気胸は主には20歳前後の細身の男性に多い病気です。また高齢者のタバコ肺(肺気腫)や肺線維症等に伴い起こる気胸があり、気胸が発症するピークが20歳前後と60歳以降にあり、2つの大きな山を作っています。

症状としては空気が胸の中(肺のまわり)に入ることにより痛みが生じたり、肺が萎んで息が苦しくなったりします。ほぼ全例胸部のレントゲン写真で診断がつきます。治療としては肺のしぼんだ程度により、軽ければ安静により治癒する場合もありますが、多くは肺の外に貯まった空気を外に逃がす脱気治療(胸腔ドレナージ)が必要になります。

自然気胸の治療はまずは保存的(非手術)に行うのが原則です。胸腔ドレナージを行い、肺からの空気漏れをチェックします。空気漏れが止まったら気胸が治ったと判断して管を抜き、レントゲンでも確認します。(当院ではトパーズというシステムで空気漏れをチェックします。)

手術適応については

  • 2回以上の気胸歴があり、再発予防を含め手術希望のある場合
  • 両側に気胸歴がある場合(両方同時に肺が萎んだら大変です)、または両側同時に気胸となっている場合 また出血を伴う気胸(血気胸)の場合
  • 胸腔ドレーンを入れたが、空気漏れが止まらない場合
  • 初回気胸でも 手術希望がある場合(CTにて治療対象のブラがあることを確認します)

特別なパターンと考えられる気胸。

  1. 若年発症
    若年発症(中学生や高校生)手術を行った場合術後再発率が高い傾向があり、できるだけ手術を行わず経過観察や胸腔ドレナージの治療を優先する場合もあります。 すなわち中高校生の自然気胸に対する手術適応の判断は慎重に行うべきと考えております。
  2. 高齢者
    高齢者の自然気胸も特徴があります。喫煙による肺気腫に伴う気胸が代表的です。 それは肺の風船上の変化(肺の破壊)が肺の全体に及び多くは空気漏れの量が多く止まりにくいのが特徴です。そのため空気漏れが止まらないため手術になることが多いのが特徴です。
  3. 女性の気胸
    @ 月経随伴性気胸:妊娠可能な女性に発症して、月経や生理のタイミングで気胸を繰り返すのが特徴です。手術を行っても再発する可能性が高く、手術適応、手術法については十分な検討が必要です。 偽閉経療法などのホルモン療法などの治療もあります。
    A リンパ脈管筋腫症:リンパ脈管筋腫症は、若年女性が罹患し、肺や腎臓で腫瘍が増殖し、次第に呼吸困難が進行する難病です。がん抑制遺伝子の異常によって、嚢胞を形成し気胸を繰り返します。進行すると肺移植の適応になりますが、以前は治験薬であったラパマイシンという分子標的薬の治療が可能になりました。
  4. BHD(Birt-Hogg-Dube)症候群   遺伝性の疾患で多発肺嚢胞を生じて気胸を繰り返し、気胸が再発してから遺伝子検索を行い、本疾患がわかる場合が多いです。線維毛包腫(顔面の皮疹とくに鼻の皮膚の異常)、腎がん(中高令になってから)を伴うことがあります(症候群)。CTでは心臓まわり(縦隔面)や横隔膜周囲(肺底部)にブラが多発する非典型的なパターンを呈します。
  5. 間質性肺炎 肺が線維化する(硬くなる)病態ですが、進行すると嚢胞を形成して気胸になることがあります。

手術は原則胸腔鏡下手術を行っています。全身麻酔下の手術で、傷は5mmから1cmの傷が3ヶ所の小切開手術です。手術は空気漏れのテストを行い、気胸の原因病巣を検索します。その場所を切除ないし結紮して空気漏れを止め、切除ライン周囲を補填剤で補強します。気胸の患者さんはブラ(風船状の病変)の切除部位とその近傍に張力がかかり、ブラが新生しやすくなっています。このため切除ライン周囲を吸収性の補填剤で覆い、再発を予防することが肝要です。

手術時間は1時間程度、術後は2-3日で退院できます。

縦隔腫瘍について

縦隔とは両側の肺の内側にある組織で、縦隔には正常構造としては心臓、大血管、食道、気管などがあります。この場所に出来た腫瘍のことを縦隔腫瘍といいますが、食道がんや気管癌、心臓腫瘍は含まれません。胸部レントゲン検査でも大血管や心臓の陰影と重なることが多く、大部分は大きくならないと発見されません。最近は肺癌検診目的でCTが取られた際に発見される縦隔腫瘍の頻度が高いと思われます。腫瘍は胸腺腫などの低悪性度の悪性腫瘍や良性腫瘍(神経原性腫瘍や奇形腫)、先天性嚢胞(胸腺嚢胞、気管支原生嚢胞 心膜嚢胞)が多く、まれに悪性度の高い腫瘍(胸腺癌、胚細胞腫瘍 縦隔肉腫等)が発生します。検診発見された良性腫瘍や胸腺腫等は無症状であることが多いですが、悪性縦隔腫瘍は腫瘍の圧迫症状、浸潤による症状(胸痛、上肢、頸部の浮腫、嗄声、呼吸困難等)の有症状で発見されることもあります。

胸腺はもともとリンパ球を作る場所(正確を期するとリンパ球が成熟する場)ですが、加齢に伴いその機能は骨髄にとって代わられます。正常胸腺は胸骨(胸の真ん中を縦に走る骨)の裏面に退縮した脂肪組織として確認されます。この部分から派生した悪性腫瘍の一つが胸腺腫です。胸腺腫はリンパ球主体のものから癌に近いものまで様々な悪性度があり、顕微鏡の所見によってWHO分類があります。この腫瘍化したリンパ球のため重症筋無力症という難病を併発することが多いのが特徴です。重症筋無力症ないし重症筋無力症を伴う胸腺腫の患者さんの手術治療として拡大胸腺全摘という術式が考案され、現在は標準術式となっています。重症筋無力症は筋肉の動きを障害する自己抗体(自分を攻撃する)が胸腺組織ないし胸腺腫瘍からは分泌されるため起こる難病です。拡大胸腺全摘により腫瘍とともに胸腺組織が多く含まれる場所(胸腺と脂肪組織を含めて)を可能な限り切除し、重症筋無力症の症状を改善することが可能です。(図10.11) 

図10正面から見た胸壁の構造

図11正面からみた胸腺、甲状腺等の解剖(胸腺全摘の視野)

図13胸骨正中切開のきず

胸腺腫の手術は従来胸骨正中切開(図13:前胸部の中心線を20-30cm切開します。心臓外科の手術でも頻用されるアプローチです。)で行われていました。当院では画像上周囲に浸潤傾向のない胸腺腫や良性の縦隔腫瘍は極力胸腔鏡下に完全切除しており、安全で良好な治療成績を期待できる低侵襲手術を行っています。胸腺腫の胸腔鏡下手術は拡大胸腺全摘が必要な場合は3時間前後で入院期間は5日前後、良性縦隔の場合、手術は1-2時間で入院は3日です。 拡大胸腺全摘は通常当科では胸腔鏡で手術を行っており、その術式を紹介します。

胸腺腫ないし重症筋無力症に対する胸腔鏡下拡大胸腺全摘術(保険術式として認められた手術です)

胸腺腫は重症筋無力症(MG)が併存する場合が多く、従来胸骨正中切開による胸腺全摘が行われてきました。胸骨正中切開(胸の真ん中の骨を縦に切る)を行うことなく、両側ないし右側から胸腔鏡アプローチ(ポート:穴による)で行うものです。重症筋無力症の場合は腫瘍と伴に正常胸腺と周囲の脂肪組織を含めて全摘することが必要です。

【当術式の適応】
@全身型重症筋無力症A腫瘍径は7cm以下の辺縁平滑な腫瘍(浸潤性胸腺腫や胸腺癌を疑う画像は適応外)
【手術の実際】
右側ないし両側の3か所のポートによる胸腔鏡アプローチ+みぞおち(剣状突起下)部分から胸骨挙上します。重症筋無力症は頸部小横切開を加えます。

電気メスや超音波凝固切開装置などの器械を使用して胸腺を血管、心膜等から剥離します。 重症筋無力症の場合は頸部小切開を加えて胸腺組織が豊富に含まれる両側上極の処理を頸部切開から直視下にはじめます。その後胸腔内に連続するように胸腺を確実に処理します。腫瘍はプラスチックのバックにいれ、みぞおち部分の創部から摘出します。(このため腫瘍が大きくても胸部の傷を伸ばすことなく摘出が可能です。)
【結論】
高齢者や術前副腎皮質ホルモン(ステロイド)を内服している重症筋無力症の症例には胸骨の創傷治癒や感染症の心配のない当術式は有用である。また仰臥位ないし左半側臥位の手術であるため、不測の周囲血管からの出血や腫瘍浸潤により周囲臓器の合併切除が必要な浸潤性胸腺腫の場合に胸骨正中切開に速やかに移行できます。

胸腺腫 重症筋無力症なしの患者さんです。

図14造影CT:右胸腔に突出する境界明瞭な6cmの充実性腫瘍です。


図15 手術体位ときず


写真6 術野の実際

写真7 切除標本 腫瘍割面
非浸潤型胸腺腫の結果でした。

術後エアーリーク(空気漏れ、肺瘻)について

デジタル胸腔ドレナージシステム トパーズの有用性について

呼吸器外科が行う疾患は多岐にわたりますが、その多くが肺癌などの肺を剥離したり、切ったり、縫合する手技を伴います。肺は常時、呼吸に応じて膨らんだり、しぼんだりする動きのある臓器です。手術の際に肺を覆う膜(臓側胸膜)に傷がつくことで空気が漏れます。特に肺がタバコ等で脆い場合は、空気漏れの制御に苦労することがあります。手術中に空気漏れを制御する手段としては、気胸の例で供覧した写真のごとく、まずは空気漏れのテストを行い空気漏れの場所と程度を確かめます。空気漏れの程度にも寄りますが、空気漏れ部分を縫合したり、さらにはフィブリン糊という接着剤を塗布したり、補強用の吸収性シートを貼付します。術後ドレーンをいう管を入れる理由の一つは、その空気漏れを体外に回収して肺の虚脱を防ぐことにあります。 この空気漏れがゼロになった時点で、ドレーン(管)が抜去可能になります。

術後管理として当院ではトパーズという持続吸引システムを用いています。 写真1のごとくコンパクトな設計で、点滴台に本体を固定して点滴台とともに移動して離床を進めます。持ち運びは非常に楽です。バッテリー充電されていますので、ベットから離れていても、安全に持続的な吸引が可能となりました。

写真1 患者さん取り付けの様子

トパーズの利点は@空気漏れの量が定量化され、A空気漏れの量が減っていく様子をトレンド画面で(24時間表示)確認することができます。

これにより空気が止まった時期を正確に確認でき、安全にドレーン(管)を抜去することが可能になりました。(以前はクランプテストというドレーンを一度鉗子で閉塞して、時間をおいてレントゲンを撮って気胸になっていないかを確認する必要がありました。)また胸腔内圧をボタン操作で簡単に変更でき、できるだけ速やかに空気漏れが止まるように圧調整しています。

写真2 流量画面  上段の数字が吸引圧(胸腔ドレーンをどれだけの圧で引いているか)、下段は1分間あたりの空気漏れの量を示します。

写真3 24時間当たりの空気漏れの変化(トレンド)の画面です。写真2の画面からボタン一つで切り替えてみることができます。空気漏れの量が少しずつ減少していることがわかります。

当科では7台保有して手術患者さんの術後管理に使用しています。