関東病院


腰痛について

腰痛と脊椎の自然経過

腰の痛みを訴える人は、日本で一番多い症状といわれ、ほとんどの人が一生の内、少なくとも1度は経験すると言われていると思われます。 腰痛は、10代から起こりはじめ、働き盛りの40代で多くなり、その後は少しずつ減少しますが、60代より再び増加に転じます。その状態に関しては、腰椎(腰骨)の一部である椎間板、椎間関節(腰の2つの関節)、腰骨である椎体の変化や老化(退行性変化)が関係しています。これに悪い姿勢が絡み合って起こる腰痛が最も頻度の高いものといえます。その他、腰痛の原因になる病気として、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、脊椎分離症・脊椎すべり症、骨粗鬆症などがあります。また、時には、癌の背骨への転移、化膿した脊椎炎、圧迫骨折なども原因となります。腰痛の経過は比較的良好で、1〜2週間で痛みは和らぐのが一般的です。また、腰骨以外に内臓の病気で起こることがあります。しかし、激しい痛みがある場合、痛みが長引く場合、腰痛以外に足の痛み・しびれが出る場合などには、注意が必要です。いずれにせよ、腰痛の治療に際しては、初めに的確な診断をうけることが大事です。

年齢や遺伝、仕事の程度(重いものを持つかどうか)などにより、その変化のスピードが異なります。

腰の痛みは、急に起こる<ぎっくり腰>のようなものや、ゆっくり起こるもの、ときにものすごく痛くて身動きできなかったり、ときには大したこともなくなんとか我慢できるものであったり、千差万別です。

腰痛が強い人や長く持続する人は、民間療法、整形外科を中心とした臨床各科やペンクリニックに訪れます。

ただ、腰痛でペインクリニックを訪れる方の多くは、すでに他で何らかの治療を受けている場合が多いようです。

これはペインクリニックというものがどういうものかを理解されていないことが原因と思われます。さてペインクリニックとはどういうものかを簡単に説明してご理解を得たいと思います。

1.それでは、ペインクリニックについてお話します。

ペインクリニックとは、痛みを主な症状とする患者さんを対象として、その診断と治療を神経ブロックを応用して行う診療部門です。

神経ブロックとは、痛む神経やその近くに注射することで、痛みの診断と治療を行う方法ですが、ペインクリニックでは、必ずしもこの神経ブロックだけではなく、薬の内服、理学療法、電気刺激療法、東洋医学、心身療法などを併用して痛みの治療を行います。その併用の度合いは施設により異なりますが、診療の主体はあくまでも診断に基づいて行う神経ブロック法です。

また、顔面神経麻痺や顔面痙攣、アレルギー性鼻炎、突発性難聴、多汗症、自律神経失調症などの痛みを伴わない疾患の中にも神経ブロックが有効なものがあり、ペインクリニックの治療対象になります。

外国では、この様な診療領域に様々な表現が用いられていますが、本邦では発足当初より40年間、一貫して“ペインクリニック”という用語が用いられていまして、一つの臨床診療部門、学問領域としてほぼ確立しています。

2.ペインクリニックの特徴についてお話しします。

慢性的な痛みを主な症状とする病気の治療は、単純に病気の<ある><なし>では,割り切れないところがあります。完全に痛みが取れてしまえば、それに越したことはありませんが、慢性的な痛みは、しばしばそう簡単にいきません。このような患者さんの治療で大切なことは、完全でないまでも極力痛みを軽減し、疾患と上手に付き合っていくことをサポートすることで、生活の質を改善して、早期の社会復帰を図ることです。これが、ペインクリニック科で行う治療の目標であり特徴であるといえます。

慢性痛ないろいろな面や顔をもっています。 慢性痛ないろいろな面や顔をもっています。

3.次にペインクリニックの必要性について述べます。

ペインクリニックの必要性

今までの医療は、痛みがある場合、その原因を診断することに重点が置かれ、痛みそのものの軽減は後回しにされる傾向がありました。これに対してペインクリニックは、痛みの軽減にも重点を置き、病気の診断や治療を平行して行っていきます。

ペインクリニックで駆使する神経ブロックには、痛みを早期に改善する従来の治療法にはない効果がありますが、同時に治療に対する反応を観察することが痛みの原因を診断する助けになります。

慢性の痛みは,多くの場合、原因以上に痛みそのものが問題であり、その治療の意味、ペインクリニックの必要性は先に述べたとおりです。

これに対して、急性の痛みには、病気の警告反応という意味あいがあります。

痛みの警告 痛みの警告

ペインクリニックの必要性

しかしながら、一旦診断がついてしまえば、痛みは、患者さんの日常活動にマイナス面があるだけで、痛みの治療と疾患の治療を平行して行うことに何ら問題はありません。これは、我々の経験からいえることですが、痛みに対する治療は、開始が早ければ早いほど効果的であり、これが遅れると慢性の痛みに移行し、その治療はより困難なものになります。従って、痛みの治療は、できるだけ早期に、あらゆる方法を駆使して、計画的に行う必要があります。

今回は、腰痛の中でも<ぎっくり腰>のような急性の腰痛を中心にお話ししますが、このような場合も、ペインクリニックと神経ブロックに対する理解が深まることを願っています。

腰痛:ぎっくり腰についてについて、Q&Aの形式でお話しします。

Q1.まず腰痛の患者さんが痛みの治療では、ペインクリニックにどの程度おいでになるのですか?

A1.

腰痛の患者さんは、外来の患者様の内40%程度の方が外来を通院していらっしゃいます。動けない方は、外来通院ができませんので、入院治療を行います。ペインクリニックは、腰痛の保存療法を行うクリニックでもあります。

その前に腰ぼねである腰椎の構造についてお話しします。

腰骨は5個からなり、その下で仙骨とつらなり、しっぽの名残りといわれる尾骨で終わりになります。腰骨は、第一に体重を支える柱の役割、第二に体を曲げたりねじったりする役割、第三に脊髄や神経を守る役割があります。

腰骨は、おもに柱の役割をしているおなか側にある椎体と、クッションの働きをする軟骨組織である椎間板があり、この椎間板の中にあるゲル状の髄核が外側の線維輪から破れてでるとヘルニアになります。椎体の後ろに脊髄を入れる脊柱管というくだがあり、それを取り囲む形で背中側に膝の関節と同じような2つの小さな椎間関節があり、背中の中央で触れる棘突起があります。以上述べたそれぞれの部位で障害が起こると痛みになります。

腰椎とその周辺に交感神経や神経根、椎体、椎間板などがあります。 腰椎とその周辺に交感神経や神経根、椎体、椎間板などがあります。

腰椎の構造

Q2. 腰痛が起こってくる原因には、どのようなものがありますかという質問です。

A2.

小さい円がヘルニアでその周りに炎症(赤くなり浮腫あり)が生じて痛みを強くします。 小さい円がヘルニアでその周りに炎症(赤くなり浮腫あり)が生じて痛みを強くします。

腰痛の原因は大きく分けて3つに分類されます。

1つ目に、重いものを持ったりしたときに起こるぎっくり腰のように、腰にかかる負担が、腰の強度を上まわるために生じる腰痛があります。

2つ目に、例えば椎間板ヘルニアや骨粗鬆症による圧迫骨折などのように、腰そのものに異常があるために起こる腰痛があります。椎間板ヘルニアは、腰骨と腰骨の間にクッションの役目をしている椎間板という軟骨が破れて起こります。椎間板をあんパンに例えれば、あんパンのあんこ状のものがパンの皮をおしてこぶのように突き出たり、皮を破ったりして起こり、ヘルニアが神経を圧迫したり、刺激したりします。その後炎症を起こし神経を過敏にして痛みがまします。その他の原因も多数あります。

これは椎間板ヘルニアで膨隆型ヘルニアにより神経を圧迫しています。 これは椎間板ヘルニアで膨隆型ヘルニアにより神経を圧迫しています。

3つ目に、例えば尿管結石や、水疱瘡と同じウイルスで皮膚に発疹が起こる帯状疱疹のように、腰以外の原因によって起こる腰痛があります。

Q3. 急に生じて、人を不安にさせるぎっくり腰とは、どのようなものですか?

A3.

ぎっくり腰の原因2つ(椎間板後方部分の亀裂,椎間関節損傷) ぎっくり腰の原因2つ(椎間板後方部分の亀裂,椎間関節損傷)

先ほど申しましたように、重いものを持ったり、体をひねったりしたときに突然起こる強い腰痛で、人によっては歩いたり、腰を動かすことができなくなります。ドイツでは、ぎっくり腰のことを<魔女の一撃>と呼びますが、声をあげる余裕もなく、その場にうずくまってしまうほどの強い痛みをいいます。

ぎっくり腰は、不自然な姿勢をしたり、不用意な動作で体重を不自然にかけたり、不意に動作を行って急激に筋肉を収縮させたときに起こります。くしゃみや咳をしたときにも起こります。

ぎっくり腰を起こしやすい姿勢として中腰の姿勢がありますが、同じ姿勢を長い時間続けたときも、ぎっくり腰をおこしやすいものです。

普段の生活でいえば、重い荷物をもって腰をひねったり、腰を曲げずに布団や荷物などを持ち上げたり、スポーツを行う場合、十分ウオーミングアップをせずにプレーを始めたりするなど、ぎっくり腰を起こす場面はたくさんあります。

Q4. ぎっくり腰の原因は、どういうもので起こってきますか?

A4.

ぎっくり腰には大きく分けて2つの原因があげられます。

1つは、狭い意味でのぎっくり腰で、背骨や椎間板のような軟骨など腰の構造には悪いところがみられなくて、しばらく安静などで良くなるものです。これは<腰をこれ以上使わないで,治るまで安静にして待ってくれ>という痛みによる警報です。背骨周辺の関節の包み、靱帯、筋肉や椎間板に非常に小さな傷が起こった場合です。もちろんレントゲン撮影や血液検査をしても異常が見られません。

もう一つは,広い意味でのぎっくり腰で、背骨が折れたりつぶれたり、椎間板に異常が起こる場合です。この場合は,もともと骨が弱くなる病気があって、例えば腫瘍、骨粗鬆症、細菌の感染などがあって、これにちょっとした力が加わるだけで骨折したり、椎間板ヘルニアを起こしたときに発生する強い腰痛です。この中には、がんの転移や感染などのたちの悪い腰痛の初期症状であることがあります。1週間以上たっても痛みが強くなるようでしたら専門家を訪ねて、正しい診断と治療を受けることが必要です。

Q5. ぎっくり腰の場合、どの程度安静にしていたらよいのでしょうか?

A5.

いままで、急性の腰痛、ぎっくり腰の第一の治療は<安静>とされてきました。しかし、安静は必ずしも有効ではなく、2日間の安静でよいという報告があり、広く支持されています。アメリカの急性腰痛に対する治療ガイドラインでは、短期間のうちに苦痛を最小限にし、早くもとの生活を行い、腰の障害を回復させるために、安全で有効な治療を行うべきであると述べています。ペインクリニックの神経ブロック療法は、早期に痛みを改善させ社会復帰を早めることができると考えています。

Q6. ペインクリニックの神経ブロック治療とは、どのようなものですか?

A6.

ペインクリニックで行う治療の基本は、ほかの科であまり行っていない注射の治療ですが,その注射を神経ブロックといいます。しかし、神経ブロックは静脈注射と違って、痛む神経のまわり、または神経そのものに、痛みを止めたり和らげたりする薬液、即ち主に局所麻酔薬を高い濃度で注入できます。そのため痛む神経に薬液が及びますと、すぐに痛みが止まります。 そのため1回の神経ブロックで痛みがなくなる患者さんもよくみうけられます。

Q7. 腰痛に対する神経ブロックにはどのような種類がありますか?

A7.

腰の痛いところを指で押して痛みを感ずる部位を、トリガーポイントと呼びます。このトリガーポイントに局所麻酔薬を使って注射する治療を、トリガーポイントブロックと呼び、ペインクリニックでは簡単な治療の部類に入ります。

次に、硬膜外ブロックといって、痛む神経の近くの硬膜外腔にブロック針で局所麻酔薬などの薬液を注入する方法があります。このブロックは、薬液で痛みの感覚を脊髄や脳に伝える感覚神経に生じた異常な興奮を鎮めたり、血管を収縮させる神経である交感神経の作用を遮断したりします。そのため、痛みを緩和したり,血管を広げたりしますので、痛みを起こす物質を洗い流して、痛みの悪循環が断ち切られて、持続していた痛みが緩和されます。又痛みによって起こる異常な筋肉の緊張も鎮まり、筋肉由来の痛みも緩和されます。硬膜外ブロックの時間は1-2分ですみます。その後の1時間以上をベッドで休んでいただきます。

ペインクリニック

硬膜外ブロックは、ペインクリニックでは、腰痛治療によく使われます。椎間板ヘルニアや神経を入れている脊柱管が狭くなって神経を圧排する脊柱管狭窄症などには最初に行われる治療です。

そのほか痛む神経に応じて、たくさんの種類の神経ブロックがあります。

仙骨硬膜外ブロック:硬膜外ブロックの一種で仙骨のところから神経の入っている硬膜外腔に薬液を入れるまでの図です。 仙骨硬膜外ブロック:硬膜外ブロックの一種で仙骨のところから神経の入っている硬膜外腔に薬液を入れるまでの図です。

Q8. 下肢の痛み、例えば坐骨神経痛に対しては具体的にどのような神経ブロックがありますか?

A8.

神経ブロックには、外来の治療室で行うブロックとX線透視下でテレビをみながら正確に神経に注射するブロックとがあります。

治療室で行うブロックには硬膜外ブロックのほかに、腰の神経にブロックする大腰筋筋溝ブロックがあります。これらの治療で効果が少ない坐骨神経痛に対してX線透視下で行う神経ブロックがあります。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などで起こった坐骨神経痛に対しては,X線透視によるテレビをみながら、脊髄から神経の出てくる神経根に向かって注射する神経根ブロックがあります。この治療は強い痛みを伴いますが、最近はゆっくり針を進めて余り痛くないように行うことができます。足の痛みである坐骨神経痛に対して、炎症や循環障害を起こしている神経根へ集中的に薬を注入できる有用なブロックです。

神経根ブロックを行っているところです。 神経根ブロックを行っているところです。

カテーテルを挿入して硬膜外洗浄・神経根ブロックを行っているところ カテーテルを挿入して硬膜外洗浄・神経根ブロックを行っているところ

又、坐骨神経痛に効果的な神経ブロックに、私が開発した仙骨硬膜外洗浄・神経根ブロックがあります。ヘルニアなどが神経根にあたっていますと、ヘルニアの異物反応で炎症が起こり、炎症物質ができ、それによって神経がさらに過敏になり痛みが強くなります。X線テレビをみながら細いカテーテルを仙骨から炎症の起こしている神経のそばに挿入します。そこへ生理食塩水を大量に入れて炎症を起こしている物質を洗い流して、その後薬液を注入する方法です。注入時に痛みはありますが、より効果的なブロックです。

Q9. 腰痛に対してどのような神経ブロックがありますか?

A9.

ギックリ腰の一つに腰骨の背中側にある左右の小さな関節が痛んで起こる椎間関節症があります。この痛みは膝の関節の痛みと同様に、関節に一致した圧痛や後屈で痛いなどの症状があります。しかし、膝の関節と違って、小さな関節であり、又厚い腰の筋肉がありますので、X線透視下にテレビをみながらでなければ関節注射ができません。薬液を注入すれば、関節の痛みは直ちに取れます。しかし、慢性の関節症の場合は、薬液注入だけでは痛みが取れない場合があります。そのときは関節の痛みを支配している細い神経に70-80度で熱を加えると、痛みの軽減が1年以上保てます。 椎間板によって起こる腰痛に対しては、椎間板内に薬液を注入する椎間板ブロックもあり、椎間板性腰痛に対して効果的です。

左側が椎間関節ブロックで、右側が関節へ行く神経の熱凝固法である 左側が椎間関節ブロックで、右側が関節へ行く神経の熱凝固法である

Q10. 骨粗鬆症による圧迫骨折の激痛に何か良い治療はあるでしょうか?

A10.

従来、背骨の圧迫骨折に対しては、3週間以上の安静が唯一の治療法でした。しかし圧迫骨折の痛みは、寝返りをうったり、クシャミをしたりというほんの少しの動作でも激痛を伴い、安静にしている事自体が辛いものです。また、高齢者の方が2週間以上もの間床に臥せていると、筋力の低下を来たし歩行ができなくなってしまったり、痴呆が進行してしまったりと痛みがなくなった頃には生活の質が落ちているという事が多く起こっています。その点、圧迫骨折した腰骨に骨セメントを注入する経皮的椎体形成術は、圧迫骨折の痛みを改善するだけでなく、その後の生活の質の維持につながります。経皮的椎体形成術とはCT、X線テレビをみながら背中から折れた背骨に向けて針を刺し、そこに骨セメントを注入するという治療法です。治療は局所麻酔で約30分から1時間で施行でき、苦痛はほとんど伴いません。治療直後より痛みが消失し、翌日より歩行が可能となり、日常生活が送れるようになります。 それでも残った痛みは神経ブロックで改善することができます。

Q11. ペインクリニックの治療は,他の保存治療とちがった有利な点と欠点はどのようなものがありますか。

A11.

体全体に及んで,効果を一部発揮する薬の内服治療と違って、神経ブロックは痛む神経へ直接に高濃度の薬を注入でき、全身への影響はありません。痛み止めで効果のない場合も、神経ブロックは効果を示します。ペインクリニックの診療のやり方は、痛みの治療をしながら、原因を探る診断を平行して行います。ペインクリニックは痛みを患者さんに我慢させて、腰痛の原因を診断するまで治療を行わないということはしません。痛みの治療を行いながらしても、高度の診断能力のあるMRIなどがあり、平行的に診断・治療しても何ら問題はありません。

欠点としては、注射である以上、痛みを多少伴います。薬のようにいつでも服用して痛みを軽くするというように手軽に行えず、神経ブロックは必ずペインクリニックの外来に訪れて行わなければなりません。

Q12. 神経ブロック以外の保存治療を併用しますか?

A12.

患者さんが注射を希望しない場合は、薬で治療する場合があります。ペインクリニックに携わる医者は、痛みを止める、又は軽減するというのが至上命令のように感じています。そのため神経ブロックだけでなく、薬、リハビリ、理学療法などを併用して、早期に鎮痛をはかるために最大限努力します。

痛みを軽減しながら、リハビリテーションを一緒に行えば、早期に社会復帰をはかることができます。

Q13. 腰が痛いときにペインクリニック科を受診したらいい・・。ということがどの程度知られているでしょうか?

A13.

残念ながら、腰が痛いときにペインクリニックに受診したらよいと最初に考える方は、現在のところほとんどいらっしゃらないと思います。こういう機会にペインクリニックが腰痛の保存治療に携わっているということを知っていただきたいと思います。一度、激痛に見まわれた患者さんが、神経ブロックによって即座に痛みが軽減することを経験していただければ、神経ブロックのすばらしさを実感していただけると思います。

ペインクリニックは、数日安静しても痛みが収まらないときと、他科の保存療法での効果に満足できないときに受診されるのがよいと思います。

ペインクリニックで徹底的に保存療法を行って、効果が得られないときに手術を考えてもよいと考えています。

Q14. 慢性の腰痛は、どのように治療をされていますか?

A14.

慢性の痛みは多数の原因 慢性の痛みは多数の原因

腰痛の診断を厳密に行い、どこが悪くて痛いのかを調べる必要があります。 治療を行うには、例えば椎間板が悪いのか、腰の関節である椎間関節が変形して悪いのか、長い間腰痛で悩まされて落ち込んでいるのかなどを調べてその割合を知る必要があります。痛みには神経ブロックを行い、心の問題の場合は薬や心理療法士の心理療法を併用します。その上で痛みのストレスを軽くするために日常生活や姿勢に注意し、痛みのストレスに十分打ち勝つために体操、筋力アップを行い、腰骨を支える力を高めます。ペインクリニックではこのいくつかの治療を組み合わせて、慢性の腰痛を軽くして日常生活や働きやすくします。

Q15. 神経ブロックはどうして、腰痛に効くのですか?

A15.

神経ブロックは痛みを起こしている神経や組織に直接高濃度に局所麻酔薬が注入され、痛みや炎症をなくして軽くします。

又痛みがあると、痛みの反射で筋肉や血管が収縮し、その結果筋肉内の血流が少なくなって、筋肉内が酸素不足になり、痛みを起こす物質が滞って、神経を刺激します。するとまた同じ状態が加速され痛みが持続するという悪循環が起こります。この悪循環を神経ブロックは止めます。

痛みは交感神経を刺激して血管が収縮して先ほどの悪循環が加わります。神経ブロックは、この交感神経をブロックしやすいので、血流の増大が起こります。

痛みを押さえることで、痛みの慢性化を予防します。

以上、いくつかの理由で神経ブロックは効果を発揮します。今まで痛みがとれなかった患者さんが、一旦でも痛みがなくなる時間があるので、ペインクリニック医と患者さんとの信頼関係がよくなり、治療に参加しやすくなって早期に腰痛の改善がはかれます。

Q16. 腰痛の予防にはどのようにしたらよいですか?

A16.

日常生活での気をつける動作、正しい姿勢,良い履き物と痛みに優しい歩き方、椅子の種類と正しい椅子の座り方、よい寝具と正しい寝方,スポーツのやり方、腰痛体操などが腰痛予防に対して重要になります。

自分で努力する腰痛の予防には3つあります。その1つは体重を減らして、腰骨への負荷を減らすことです。もう1つは体型を良好に保つように、腹筋と背筋を強くすることです。これも腰骨への負担を減らします。最後にタバコを吸うことは、椎間板への老化を進行させますので、禁煙をすることです。

Q17. 脊柱管狭窄症とはどういう病気ですか? それはどのような治療法がありますか?

A17.

この症状は、立って腰がのびた状態で痛みが強くなったり、長く歩くと歩けなくなって立ち止まってうずくまるほど腰から足の裏にかけて痛んだり、しびれたりしますが、少し屈んだりして休むと又歩けるようになる(間欠跛行)というのが一般的な症状です。その原因は,腰椎の老化によって起こる病気で、主に脊髄神経への圧迫により脊柱管の下の方の内径が狭くなり、その結果、神経や血管を圧迫するために起こります。

腰の骨がおなか側にずれる脊椎すべり症に起因している例もあると考えられます。

症状が起こる年齢は,中高年に多いです。その他に先天性脊柱管狭窄症(脊柱管が正常より狭く成長したもの)があります。大部分は、後天性の脊柱管狭窄症として、年を取ることで起こります。その例として、すべり症により脊柱管が狭くなったものや椎間板ヘルニアなどの合併により狭窄したもの、腰椎への手術などにより狭窄したもの、外傷によるものなどがあげられます。

ここで『脊柱管とは』背骨の中の神経(脊髄など)が入る管のことです。

以上挙げましたように、腰椎の老化によって起こる病気ですので、根本的な治療は不可能です。したがって、治療は起こっている症状を和らげる対症療法を行うことで、手術も根本的に直すというよりもその延長にある治療といえます。その理由は、平均11年以上の脊柱管狭窄症の方について、一般的な保存治療をしながら経過を見たところ、改善と変わらない(不変)の方は69%に到ったという報告があります。この結果から、脊柱管狭窄症の治療は基本は保存療法と考えられますが、それには薬、理学(牽引、温熱療法など)、装具、神経ブロックなどがあります。

ペインクリニック科での治療は,まず初めに硬膜外ブロックを行い,痛みを軽くして循環を改善します。同時に神経の循環を改善する点滴(プロスタグランジン製剤)を行うと、先ほど述べました間欠跛行がさらに改善します。

場合によっては、前述しました神経根ブロックを行いますと、痛む神経に直接に薬が及んで効果を発揮します。

また、高周波熱凝固を行う最新の器械を使って、血流をつかさどる腰部交感神経を遮断すると下肢の血流増加が長期間保たれ歩く距離が延びます。

排尿や排便の障害が出たり、神経ブロックで効果の見られないときは、整形外科の手術が考えられます。

Q18. 神経ブロック治療で良くなった実例はありますか?

A18.

以前より腰痛のあった40歳台の男性です。数ヶ月まえよりギックリ腰を生じ、近くの整形外科を通院し牽引や鎮痛薬の投与を受けていました。その後次第に左坐骨神経痛も起こり、夜寝ていても痛くて寝返りができないなど激痛になってきました。そのためペインクリニック科を紹介されました。動くことができませんので入院治療となりました。硬膜外ブロックや神経根ブロックや薬の服用を行いましたが、症状は一時的な効果しか得られません。そのため硬膜外洗浄・神経根ブロックを行いましたところ、翌日より歩行可能になり,数日で退院可能となりました。

日本整形外科学会の腰痛治療判定基準では、改善率が81%と著明に改善しました。

以上ペインクリニックにおける腰痛治療について述べさせていただきました。

今後、神経ブロックによる治療で皆様の腰痛時にお役に立てることを願っています。

NTT東日本関東病院 ペインクリニック科 大瀬戸 清茂