関東病院


頚肩腕の痛む方へ

頚・肩・腕の痛みはいろいろな原因でおこります。 原因としては変形性頚椎症、椎間板ヘルニア、椎間関節症といった首の骨(脊柱)に関連しておこるものと、五十肩など肩関節に由来しておこるものがあります。その他に耳や鼻の病気や眼の病気、心臓や肺などの病気でもおこります。当科に今まで来られた頸肩腕痛の方は約8,033名です。

どんな病気がありますか

ここではこの痛みを起す代表的な病気について述べます。

1.変形性頚椎症

中年以降の方で、いつも肩がこって背中に痛みがあったり、手が痺れるというような症状がある。このような場合は首の骨が一種の老化現象をきたして変形している事が原因と考えられます。

首の骨(頚椎)あるいは骨と骨の間のクッションの役目をしている椎間板が痛んで骨のとげ(骨棘)や軟骨が出来てくることで、首が痛くなる状態を頚椎症といいます。うなじ(項部)や肩甲骨の周囲にも鈍い痛みがでることもあります。軽い体操や温めたり、または安静にすることではじめは様子をみます。この状態が進み、手足のシビレや痛み・運動麻痺や進行して排尿障害が生じてくることがあります。骨棘の部位やその大きさをレントゲン線写真で調べ、脊髄や神経症状の程度を見て、ついで脊髄変形を頸椎MRIなどで検査する必要があります。この様に神経麻痺や運動麻痺がでてきた場合は頚髄症が考えられます。軽度のシビレ感・感覚障害・痛みといった症状であれば薬や神経ブロックの治療をします。

2.頚椎椎間板ヘルニア

首を動かすことで、首から肩・手にひびく痛みがおこったり、せきくしゃみで痛みが強くなったりします。また手も痺れることがあります。手を下げていると痛くなったりしびれたりするので、思わず手を頭に持ってきてしまうなどの症状もあります。

この病気は骨と骨のクッションの役目をはたしている椎間板の髄核が周囲の線維輪に亀裂が入り、脱出することで神経の根元を圧迫し神経を刺激する事が原因と考えられます。

椎間板は、首の骨と骨の間に存在し、首に動き(可動性)を持たせながらクッションとしての役割をします。椎間板は真ん中に髄核とその周りの線維輪で構成されています。髄核は水分を多く含むゲル状の物質からなり、線維輪は丈夫な線維からなる帯状のシートが何枚も重なっており、髄核を取り囲んでいます。椎間板は、10代後半から老化(変性)が始まり、髄核の水分量の減少や線維輪に小さな傷が生じます。その傷から髄核が外に飛び出した状態が椎間板ヘルニアです。頸椎椎間板ヘルニアは、中年以降の方に多くみられます。症状はヘルニアの出方によって違います。一般的にはどちらかに偏って出ることが多く、その場合には脊髄から分岐した神経の枝(神経根)を圧迫することにより、片側の頚部、肩から肩甲骨の痛みやしびれ感、腕へひびく痛みや手の力の低下を生じます。一方、真ん中に大きく出た場合には脊髄を圧迫し、手や指の細かな運動がしづらい・歩行障害・膀胱直腸障害(頻尿、尿閉、尿失禁または便秘など)などの症状が出現します。治療は保存的な治療が中心ですが、脊髄の圧迫による神経障害が出現した場合には手術を要する場合もあります。

3.頚椎椎間関節症

頚椎の小さな関節が捻挫や関節の変形で、首と肩や背中の痛みをおこし、寝違いのような強い痛みを生じます。

関節にある小さな組織が関節に挟まったりした場合は、首が動かない状態になります。いわゆる寝違いも、首の関節の異常で起こる場合があります。

神経ブロックや薬の保存療法が中心におこなれます。

4.頚椎後縦靭帯骨化症

首の骨の後面で、脊髄に接している後縦靱帯に石灰がたまって骨化し、脊髄を圧迫する病気です。進行すると脊髄圧迫による頚部や肩の痛み・手足のしびれ・手指の運動や歩行の障害などを生じますが、進行は非常にゆっくりで転倒などの外傷がない限り、症状の進行はほとんどありません。40〜50歳台の男性に多いとされています。原因については、はっきりしません。診断は頚椎のレントゲン写真で可能ですが、脊髄の圧迫の程度をみるにはMRI検査が有用です。症状が軽い場合は、装具をつけて安静を保ったり、薬物療法、神経ブロック(星状神経節ブロック)などの保存療法を行います。手指の運動障害や歩行障害が出てきた場合には、手術が必要となる場合があります。

5.いわゆる“ムチウチ症”(頸椎捻挫外傷性頚部症候群)

追突などの交通事故や転倒で起る事があります.頚・肩甲背部が痛い・頭が重いなどが主な症状です。ときに目まいや目のかすみ・耳鳴・嘔吐などの症状が出てくることがあります。また手がしびれたりすることがあります。

このムチウチ症の中に、低髄液圧症候群が生じている方がまれ(数%という報告があり)にいます。この病気は、脳脊髄液がどこからか漏れており、特に立っているときは絶えず漏れているために頭蓋内の圧が低下し、頭痛・嘔気・めまい・だるさ・背中や首の痛みが強く認められることがあります。立位や座位で症状が悪化し、横になると軽快します。脳脊髄の手術後・腰椎麻酔の後・自動車の追突事故・軽微な外傷後に症状が現れることが言われています。

6.胸郭出口症候群

この病気は第1肋骨とその周りの筋肉や腱の間で血管や神経が圧迫されて起こる病気です。若い女性でやせ型肩幅が狭くなで肩の人が多くかかります。症状は多彩で一般には頚から肩腕にかけての痛み・痺れ・凝りや手の冷感などが生じます。特に腕を挙げると症状が強く出ます。

7.五十肩(肩関節周囲炎)

肩の関節をつくっている筋肉や腱.滑液包などが老化現象を起して発症する病気です。顔に手を持っていく・帯を結ぶなどの動作がつらくなり、腕のやり場がない・夜間に痛みが強くなるというような特徴的な症状があります。場合によって、肩腱板に石灰が沈着する石灰沈着性腱板炎があり、強い痛みを伴います。超音波で診断する場合があります。

8.肩腱板断裂

主に肩を打撲した既往がある人に起こり、肩の腱が切れる事により、腕の上げ下げで、肩の外側が痛いという症状がある事が多いです。

MRIや超音波で診断します。

9.肩こり

原因としては首の骨の変形・不安・ストレス・無理な姿勢があります。長時間の不自然な姿勢によっても起ります。

10.寝ちがい(急性疼痛性頚部拘縮)

頚椎の椎間関節や軟部組織に原因がある場合が多いのですが、扁桃など鼻やのどに病気があっておこる場合もあるので注意を要します。

その他に末梢神経が色々な原因でしめつけられて痺れ・痛みがおこる病気、腕や手に傷を受けてなおったあとに痛みが起るカウザルギーといった病気などがあります。

ムチウチ症

頸椎捻挫や外傷性頸部症候群は難しい病気で思うようによくならないことも多くあります。そのなかには硬膜(脊髄を覆っている膜の一つ)に穴があくことにより髄液が漏れて、頭痛・頸部痛・自律神経失調のような様々な症状を来す低髄液圧症候群という病気が含まれていることもあります。

治療について

1.星状神経節ブロック

いままでにあげた病気のすべてに適応があります.頸部にある交感神経や星状神経節に局所麻酔薬を注入し、片側の顔や頸部肩上肢の血行がよくなる事で痛みを緩和します。

2.トリガーポイント注射・局所注射

指で押して特に痛い所に細い針で注射をします。 東洋医学でいう“つぼ”に一致します。

3.浅頚神経叢ブロック

頚の表面が痛むときにおこないます。

4.後頭神経ブロック

後頭部が痛いときにおこないます。

5.硬膜外ブロック

以上の治療で余り効果がみられない時におこないます。

脊髄の近くに局所麻酔薬を注入する事により、頸部から腕・上半身までの広範囲の疼痛を緩和することを目的に行います。

6.肩甲上神経ブロック

五十肩など肩の痛い方に効果があります。

7.肩甲背神経ブロック

首から背中にかけて痛い方に行います。

8.肩関節滑液包内注射

五十肩など肩の痛い方は関節の中の滑液包に炎症や癒着を起こしています。肩の痛みと動きをよくする事を目的として、関節内に局所麻酔薬や潤滑油の働きをする薬を注射します。

超音波ガイド下に行うと、注射がピンポイントに正確に行われて効果的です。

レントゲン透視下や超音波ガイド下のブロックとは

次のブロックはレントゲンテレビや超音波(エコー)テレビをみながら針先を確認して正確にブロックします。

9.肩関節ブロック・パンピング法

肩関節内に局所麻酔薬をいれて肩の痛みをとります。また肩の癒着を強制的にはずす事により、肩の動く範囲を大きくします。パンヒングとは生理食塩水を繰り返し、肩関節にいれたり吸引したりして、肩の関節を拡げます。

10.肩関節高周波熱凝固法

肩関節高周波熱凝固とは関節を支配している神経の枝を高周波熱凝固で遮断する方法です。電気で刺激をしながら痛む神経の枝を探して行います。痛む神経を遮断できれば痛むところに響いた部分は即座に軽くなり長期間の効果をみます。

11.腕神経叢ブロック・頚部神経叢ブロック

椎間板ヘルニアや変形性頚椎症で腕の痛みが強い場合、神経の束が集まっている所に局所麻酔薬を浸潤させてブロックします。

12.椎間関節ブロック

頸部の椎間関節に痛みがあると思われる時におこないます.診断目的に行う場合もあります。

13.神経根ブロック

腕の痛みが強い、椎間板ヘルニアや変形性頚椎症の方に行います。障害されている神経に針をあてて局所麻酔薬を注入する事により激痛を治します。

14.神経根高周波法

神経根ブロックで効果が短い場合に、神経根に高周波の微弱電流を流して治療を行うことがあります。この治療法には、パルス高周波法と低温高周波熱凝固法の2種類があります。パルス高周波法は、間欠的に微弱電流を流して、42℃以上温度が上がらないようにします。それにより神経の障害がなくて、痛みを長期間軽減させます。低温高周波熱凝固法は、神経根に対して45〜65℃程度の温度にして、痛みの神経線維を熱で減少させて、痛みを軽くする方法です。この治療法の欠点として、ブロック後に足がしびれたり、足の力が少し弱くなる場合があります。患者さんによって、2つの治療法のどちらかを選択したり、温度の調節を行います。

15. 椎間板ブロック

椎間板ヘルニア・首の骨の不安定性による頚・腕の痛み・肩こりのひどい方におこないます。又外傷性頚部症候群の方に行なう場合もあります。これで痛みが軽くなる方も多いです。

16. 後枝内側枝高周波熱凝固法

この治療は椎間関節の傍を走っている非常に細い神経を熱でブロックする方法です.首や肩の痛い方に行い、他のブロックと比べると長期間の効果が見られる事が多いです。

17.脊髄刺激装置植込み術

五十肩痛みで帯が結べない。 五十肩痛みで帯が結べない。

上肢のカウザルギー(外傷後・手術後)など持続的な強い痛みに対して行うことが多いです。頸部の脊髄の近くに電極と呼ばれる医療用の機械をいれる事により、脊髄を電気刺激して痛みを緩和する事を目的に行います。 入院治療が必要となります。

入院治療とは

入院治療は外来で治療を行っていても疼痛の強い方・当院に通院が困難な方・集中的に治療が必要な方に行っています。入院時はいままで挙げた治療の他に、特殊な治療を行うこともあります。例えば持続硬膜外ブロックといって、脊髄の近くに細いカテーテル(医療用の管)を挿入します。持続的に局所麻酔薬を注入する方法であり、強い痛みを緩和するのに役立ちます。その他にもさまざまなブロックがあり、薬物、リハビリ、心理療法士への面接などを医師が患者様の症状にあわせて治療を計画します。

ブラッドパッチ法

脳槽シンチやMRIなどの様々な検査を行い、低髄液圧症候群の疑い、もしくは診断された場合は、自分の血液を硬膜外腔に入れて治療するブラッドパッチ法という治療があります。脊髄を覆っている一番外側の膜である硬膜と背骨の間には脂肪組織があります。そこに患者さんの静脈から採取した血液を注入する事により、髄液が漏れている硬膜の穴をふさぐ方法を硬膜外自己血パッチといいます。注入された血液は硬膜に薄く広がり、髄液が漏れていた部分を覆いノリの役割を果たし漏れた部分をふさぐのです。低髄液圧症候群は診断方法が確立されておらず、本治療の有効性についても報告によって未だばらつきがあります。現在、この治療に保険適応はなく、入院医療費は自己負担となります。(必ずしも1回の治療で完全に治るとは限りません。)

当院ではMRIや核医学検査(脳層シンチ)などの画像診断法を参考にし、低髄液圧症候群が現在の疼痛の原因として考えられる患者さまを対象に、硬膜外自己血パッチを実施しています。当院ペインクリニック科では今までこの治療法を30例程度施行しております。他施設と比較すると少ないですが、この治療法の手技は私達が外来で腰下肢痛の患者様に行っている腰部硬膜外ブロックと同様に行えます。実際にはレントゲンを使用しながら行いますので、さらに安全に施行することができると考えています。

検査はどんなときにおこないますか

1.

まず痛みの原因となっていると考えられる場所、例えば頚椎・肩関節のレントゲン写真を必ず撮影します。しかし、妊娠している方や事情がありレントゲン写真を撮りたくない方は申し出て下さい。またMRI検査を行う際は体の中に金属が入っている場合は必ず主治医に申し出て下さい。脳・心臓手術後の方ペースメーカーを埋め込んでいる方などは検査ができないことがあります。

2.

何回か神経ブロックを行って効果が少ない・原因をはっきりさせたい時は以下の検査を行う事があります。しかし以前に造影剤でアレルギーをおこした方は申し出て下さい。

1)CT
痛くない検査で首の骨と椎間板や脊髄などの横断面をみます。
2)頚部硬膜外造影
造影剤を硬膜外腔にいれて神経の走行や圧迫の程度をみます。
3)神経根造影
痛みの原因と考えられる神経に造影剤をいれて神経の走行や圧迫の程度をみます。
4)椎間板造影
椎間板内に造影剤をいれて椎間板の状態やヘルニアが神経を圧迫しているかどうかをみます。造影後必ずCT検査します。
以上のCT検査以外は、レントゲンで透視したテレビをみながら検査と治療を同時に行いますので、原因がそこにあれば痛みが軽減又は消失します。
5)肩関節造影
造影剤を肩関節内にいれて肩の腱が切れているかどうかみます。同時に治療にもなります。
6)超音波(エコー)による検査
頚部の動脈、肩関節、手根管、ばね指などの検査を超音波で検査する場合があります。治療と同時に行うことが多いと思います。

日常生活の注意と体操療法はどのよう ものがあるか

以下の体操を行って痛みが強くなるときは軽くするか中止して下さい。

1.五十肩の注意と体操

発症1週間は可能な範囲で肩を動かします。夜痛くて眠れないときは座ぶとんをわきの下にあてて、腕と体をあけることも大切です。また肩が冷えて痛みがひどくなるときは肩を冷やさない様にサポーターなどで保護します。神経ブロックを行い、痛みが軽減した時は必ず肩を動かす体操を行って下さい。

発症1〜2週間以降は念入りに運動療法を行います。特にぬるめのお風呂にゆっくり入り、肩を暖めて痛みを軽くした後に運動療法を行うと効果が上ります。この時期は少々痛みがあっても、それをこらえて体操をすることが必要です。その理由は痛みのために肩を動かさない状態が続くと、血流が悪くなり代謝が低下して、関節が固まった状態になってしまうからです。以下の体操はこの固まる状態の予防としても有効です。

1)アイロン体操(コッドマン体操)
上体を前屈させた姿勢で、体の力をまったく抜き、痛みの強い肩側の手でアイロンもしくはハンカチかフロシキに約1Kgの重りを下げて、前後左右に動かす体操です。初めは何も持たずに運動をします。朝夕2回・5分程度行います。
2)お風呂に入ったときなどの体操
良いほうの手で痛む腕の肘をつかみ、お風呂に入ったときにゆっくりと痛い肩の腕を前の方に挙げていく動作を行います。これを10回ずつ、3回程度を繰り返して、肩の動きを良くします。