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人工膝関節全置換手術

整形外科:人工膝関節全置換手術

人工膝関節置換手術について

人工膝関節手術は、関節疾患に対して1980年代になって世界的に広く行われるようになり、その後人工関節に用いられる新素材の開発や手術方法の改良によって世界中で手術が行われています。日本でも年間4万件以上が行われる一般的な治療法です。人工膝関節置換術は変形性膝関節症、慢性関節リウマチなどの疾患による膝関節の障害の治療に行われ、関節の痛みを軽減させ、歩きやすくし、生活の質の改善が見込めます。全置換型人工膝関節(TKA:Total Knee Arthroplasty)(写真―1)と部分置換型人工膝関節(UKA:Uni Knee Arthroplasty)(写真―2)があります。TKAは、膝関節を構成する大腿骨と下腿骨の両方と膝蓋骨の関節面を人工のコンポーネントに取り換える手術です。大腿骨と下腿骨の関節面をチタンやコバルト・クロム合金などの強靭な金属やセラミックで取り換え、下腿骨側にポリエチレン製のコンポーネントを装着します。UKAは大腿骨と下腿骨の内側のみを取り換えます。

【写真-1】 【写真-1】

【写真-2】【写真-2】

当科の人工膝関節全置換手術(TKA)について

MIS(mini invasive 微少侵襲手術)の技術を使って手術を行います。膝の正面を10cmから15cm程度縦に切開し、変形した部分を人工関節に取り替えます。手術時間は1時間半程度です。体格がよかったり、変形が強かったりすると、皮膚切開が長くなったり、手術時間がさらにかかる場合もあります。順調に手術が進めば、皮膚切開が10cm程度ですみ、1時間以内に手術が終了します。膝の変形が強かったり、合併症があったりすると皮膚切開が15cm程度に長くなったり、手術時間が2時間以上かかることがあります。手術時間とは麻酔がかかって安定し、消毒などの準備が終わった後に、皮膚に切開をしてから皮膚を縫合するまでの時間です。その前後に麻酔を導入し、麻酔が安定し、機械を揃える時間が必要です。手術後は麻酔が覚醒し安定するまで手術室で様子を見ます。当科で主に使用する機種は、日本の厚生労働省の認可はもちろんですが、アメリカの厚生労働省にあたるFDAの認可を得た機種を選択しています。FDAの認可基準は世界で最も厳しい基準のひとつです。日欧米で安定した成績を残している標準的な機種を選んでいます(写真―1)。日本式の生活に合わせた深屈曲対応型も開発され、当科も使用しています。

当科の人工膝部分置換型手術(UKA)について

UKAの適応は、薬や足底板などの保存治療に効果がなく、TKAを適応するほど軟骨や靭帯が傷んでいない場合です。膝関節の内側のみをMISの技術を使って置換します。

当科の成績について

2009年の1年間では、人工関節手術は143人161関節に手術を行いました。人工膝関節手術は106膝で、そのうち両側同時手術が18膝でした。UKAは4膝でした。2000年の新病院開院から2009年末までの期間、手術件数は増加しています(図−1)。

人工膝手術件数【図-1】

上記の手術件数はいわゆる他の病院の人工関節センターでの手術件数と遜色あるものではありません。

同時両側手術について

左右どちらとも変形が強く、障害が著しい場合、1回の手術で両側の人工膝関節置換術を行う場合があります。片側のみ行い、再度反対側を行う場合もありますが、片側だけ膝の変形が矯正され、反対側がそのままなので脚の長さが異なるため、脚長差が生じてリハビリが進みにくい場合があります。このような時両側同時に行うとリハビリが順調に進みます。もちろん片側ずつのご希望であれば、時期をずらして2回に分けて手術を行うことも可能です。両側同時に行う場合、侵襲が大きくなり、体への負担が強いられますので、合併症や年齢 体力を考慮して手術するかどうかを判断する必要があります。

ゆるみと再置換手術について

TKAは成績の安定した手術です。ほとんどの場合、長期間にわたって、膝の痛みが軽くなり、歩行が楽になります。ただし膝の曲がりについては、最新の深屈曲対応型でも正座が難しい場合があります。人工関節の性能が向上し、設計上深屈曲が可能でも、膝関節周囲の筋肉や腱などの軟部組織が衰えて、正座に耐えられなかったりするからです。またリハビリをあまりやらないと曲がらないうちに固まってしまうときもあります。人工関節手術後、人工関節は時間がたつと骨と金属との間でゆるんでくる場合があります。現在では技術の進歩と素材の開発により、人工関節自体は、手術後10年程度問題がないように設計され、さらに長期間20年から30年機能するようになってきています。しかしリウマチのような骨破壊が進行する病気を伴えば、長期の耐久性がない場合もあります。

手術の準備について

手術を受けることを決められたら、手術の準備を次のように行います。

【全身状態の評価】
手術を受けることが可能かどうか調べるために、手術予定日の4週間以内に術前検査を行います。血液・尿検査、心電図、胸部レントゲンなどの検査を行います。検査に異常があれば手術を行うことが可能かどうか調べるため、さらに詳しい検査や専門医を受診して頂くことになります。
【併存症と処方】
当院以外で治療中の病気がある場合は、その病名や治療、処方薬などの情報を、受診されている医師に確認してください。薬剤の中には、手術前にあらかじめ飲むの休薬したり、投薬量を調節する必要なものがあります。
自己血貯血 TKAは通常輸血が必要な手術です。輸血には同種血輸血(日赤血による輸血)と自己血輸血の二つの方法があります。
自己血輸血は、自分の血液をあらかじめ貯めておき、手術による出血を自分の血液で補う方法です。自己血輸血を希望される場合、手術の4週間前から1回から2回前後、外来で自己血の採血をします。貧血などのため、自己血を貯めることができない場合があります。また、自己血だけでは輸血が不足する場合は、同種血輸血が必要となります。

合併症と危険性について

TKAは決して小さな手術ではありませんが、現在では、十分に安全な手術となっています。 それでも感染(化膿)、静脈血栓症、肺梗塞、肺塞栓、人工関節の脱臼などの起こり得る合併症や危険性について知っておくことは大切です。

(1)人工関節は感染(化膿)がおきると、治るのに長期間の治療を要する場合が多く、感染を起こさないように細心の注意を払います。手術で切開した部分に感染がおきないよう、無菌手術室で行い、予防的に抗生剤を用いて対処します。
また人工関節手術後、虫歯や水虫などを放置しておくと、感染部位から人工関節へ感染が波及する場合がありますので、できるだけ早期の治療をお勧めします。

(2)静脈血管内に血の塊ができることがあります。血栓症といいますが、手術後、足の裏を断続的に圧迫する器械を装着し、血栓形成を予防します。手術した部位からの出血が止まったら、保険適応となっている血栓予防薬を使用します。弾性ストッキングも使います。血栓ができると、血栓が血行性に体内を移動して、肺梗塞や肺塞栓をおこすことがあります。肺梗塞や肺塞栓がおきると重症化する場合が多いのですが、幸い当院の人工膝関節手術で肺梗塞 肺塞栓で重症化したことはありません。万一肺塞栓が起きた場合は、総合診療科 循環器内科 呼吸器・肺外科がありますので、連携対応して治療にあたります。

手術後の経過について

手術の傷は通常2週間くらいで治ります。手術直後2日から3日は傷の痛みも強いですが、持続的に痛み止めを注入する器械で痛みを緩和します。ただし血栓症や塞栓症になったことがある方や脊椎の手術を受けたことのある方は使えない場合もあります。
膝関節内の出血が貯まらないようにするチューブを入れ、出血が止まったら抜きます。手術後チューブが抜けたら、CPMといって器械で膝の曲げ伸ばしを行い、理学療法士が、筋力をつけ、膝を曲げるリハビリを行います。膝の状態が良くなってくると立ち上がりや歩行練習も行い、手術後2週から3週間位の入院で杖を使い歩いて、退院可能になります。両側同時に行った場合は、手術後3週から4週間の入院で杖を使って歩いて、退院できるようになります。片側のみに比べて1週間程度入院が長くなります。手術後杖を使って歩くのが4週間以上かかる場合や、杖歩行ができるようになっても更にリハビリを希望される場合はリハビリ病院に転院してリハビリを行う場合もあります。

退院後の生活について

段々に日常生活に慣らしていきます。馴染んでくるのに3ヶ月から6ヶ月くらいかかります。従来の機種では膝をつくことが難しい場合もありましたが、深屈曲対応型では膝をつくこともできるようになってきています。
人工関節はあくまでも「人工の」関節ですから痛みがとれたからといって、激しい衝撃を加えるような乱暴な動きをすると早くいためてしまい、ゆるみの原因となります。

費用について

人工膝関節手術にかかる費用は、健康保険や介護保険を使い、老人医療やその他の諸制度の活用で負担軽減が可能な場合があります。当院総合相談室でケースワーカーがどのような制度が利用可能かどうか調べて対応致します。保険を使わない場合はまずありませんが、その場合概算で100万円くらいです。諸制度の手続きをせずに健康保険を使うと、保険自己負担分の1割もしくは3割となります。

当科への受診方法について

当科は予約制となっています。かかりつけ医の紹介状を用意して、診療予約を当院予約センターでおとりください。予約センターの電話番号は03−3448−6004です。 詳しくは当院ホームページをご参照ください。

(2010年2月 鈴木 誠也)