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再生不良性貧血のATG療法

1.ATGとは

ATGとは抗胸腺細胞グロブリンすなわちantithymocyte globulinのことであり、抗リンパ球グロブリン(antilymphocyte globulin: ALG)とも呼ばれます。胎児ヒト胸腺細胞や胸部手術時に胸管から採取したヒトリンパ球やヒトリンパ球細胞株をウマあるいはウサギに免疫してえられたポリクロナール抗体のことです。日本ではヒト胸腺細胞をウマに免疫してえられたATG製剤が広く用いられています。

再生不良性貧血の治療にATGが用いられるようになった発端は、再生不良性貧血の患者にATG単独による前処置で骨髄移植を行ったところ、自己造血の回復がみられたという1970年のMathe`sらの報告です。その後、再生不良性貧血にATGを投与して有効であったという報告が相次いでなされました。そしてアメリカでのランダマイズ試験の結果、ATGの有効性が確立されました。

2.ATG療法のメカニズム

再生不良性貧血では、リンパ球の一種であるT細胞が造血を抑制していることが明らかにされています。ATGにはT細胞のさまざまな表面抗原に対する抗体が含まれており、ATGを投与するとT細胞を減少させます。そこで、ATGはT細胞を抑制することによって再生不良性貧血に効果があると考えられています。しかしながら、再生不良性貧血に対するT細胞に対するモノクロナール抗体の投与とポリクロナール抗体であるATG投与の比較試験では、ATG投与にくらべてモノクロナール抗体の効果は著しく低いことが明らかにされています。

ATGはT細胞を抑制する一方で、造血に関わるさまざまなサイトカイン(ホルモンの一種)のT細胞からの分泌を促進します。また、ATGには、T細胞に対する抗体の以外に、すべての血液細胞に対する抗体が含まれており、また、腎、肝、乳腺、肺、小腸などさまざまな組織に対する抗体も含まれています。血液細胞を用いた実験結果から、ATGは直接に造血前駆細胞(血液細胞を生み出す源の細胞)の増殖を促進することがあきらかにされています。そこで、ATGの再生不良性貧血に対する効果はこれらの複合的な作用によるものと考えられています。

3.ATG療法の実際

入院して、1日に12時間以上かけてATGの点滴静注を5日間おこないます。あとに書きました血清病などの副作用に注意するために点滴がおわった後、2-3週間、入院して経過を観察します。
先に書きましたようにATGには血液細胞以外のさまざまな組織に対する抗体が含まれているため、ATGの副作用として点滴静注部の血管炎があります。そのためにヨーロッパでは中心静脈から輸注していますが、血小板減少のために中心静脈の確保による出血の危険性を考え、われわれの施設では末梢血管から点滴静注し,血管炎が起こるたびに他の血管を確保して行っています。
シクロスポリン(Cyclosporin A: CyA)という免疫抑制薬の飲み薬も再生不良性貧血に効果があります。ATGとCyAの併用療法の方がATG療法単独にくらべてより効果があります。そこで、多くの場合ATGの点滴と同時にシクロスポリンの服薬を始めています。

4.ATG療法の副作用

ATGは異種蛋白、すなわち、ヒトのタンパク質ではなくウマあるいはウサギのタンパク質です。そのためにATG療法ではアレルギーや血清病などの副作用がみられます。ATG療法の副作用としては、ATG投与中にみられる即時型アレルギーと一時的血球減少、投与後しばらくしてみられる血清病、併用薬による障害などがあります。

4-1. 即時型アレルギー

投与開始直後から1〜2日目によくみられる発熱、発疹、気管支下apなフィラキシーがあります。これらは副腎皮質ステロイドや抗ヒスタミン薬によく反応します。即時型アレルギーの予見のための皮内反応は感度および特異性が両者とも低いためおこないません。そのかわりに、わが国では投与濃度よりも希釈したATGを最初に投与することが一般に行われていますが、このテストでアナフィラキシーが起こらなくてもATG投与時にアナフィラキシーは起こり得ますので、注意しながらATGを投与しています。

副腎皮質ステロイド大量投与は、以前、再生不良性貧血の治療として広く行われていました。ATG療法の際には、その副作用の予防のためにステロイドを同時に投与します。ATG療法の際に、通常量ステロイド(1mg/kg)を投与する場合と大量(5mg/kg)を投与する場合をくらべると、再生不良性貧血に対する効果に差はありません。一方、ステロイド大量投与では大腿骨頭壊死の問題があります。ATG療法の際に通常量ステロイド(1mg/kg) 短期間投与を受けた症例では大腿骨頭壊死はみられないのに対して、ステロイド大量投与(5mg/kg)を受けた症例では大腿骨頭壊死の発症率は21%と報告されています。ATG療法にステロイドの大量療法を併用しても効果はかわらず、大腿骨頭壊死の危険性があるため、現在では、ステロイド通常量短期投与をおこなっています。

なお、ステロイドを投与していても発熱はよくみられます。

そのほか、徐脈、心室細動などの不整脈がみられることがあります。ATGに含まれるリンパ球以外に対する抗体による非アレルギー性のものと考えられています。

4-2. 一時的血球減少

ATG投与第1日目直後より白血球減少と血小板減少がみられます。

血小板減少は致死的出血を起こし得ますので、ATG投与期間中は血小板を輸血します。

4-3. 血清

発熱、発疹、関節痛、筋肉痛、リンパ節腫脹、漿膜炎(心外膜炎、胸膜炎)、蛋白尿などを呈するもので、ATG投与開始5〜14日目に起こり始め、8〜12日間続きます。ATG投与にともなう血清病の頻度は50〜90%といわれています。

血清病では補体価の低下がみられます。これらは血清病の病勢のモニターリングに有用であり、当院ではATG投与後に1週間に1回、補体価を測定しています。 血清病には副腎皮質ステロイドの投与が有効です。

4-4. 併用薬による副作用

肝障害はCyAや蛋白同化ステロイドを併用する場合によくみられ、1/3の症例でみられます。また、ウィルス性肝炎や輸血によるヘモクロマトーシス(鉄沈着症)を合併する症例では肝障害が重篤になることがあります。なお、ATG投与の際にCyA投与を併用すると発熱や血清病の頻度が下がるといわれています。

即時型アレルギーや血清病の予防に用いられる副腎皮質ステロイドは糖尿病、高血圧、胃潰瘍をおこし、また、先に書きましたように大量投与では21%の症例で大腿骨頭壊死をおこします。

5.ATG療法の効果

再生不良性貧血に罹ってから、早期(1年以内)にATG療法を受ける方が有効率が高いことが知られています。これは、再生不良性貧血の罹病期間の長い症例では輸血を受ける頻度が高く、輸血による感作のためと考えられています。

ATG療法による効果(貧血の改善、血小板数の増加など)は投与直後にはみられず、ATG療法後3〜4ヶ月してみられることが一般的です。1年以上経ってから効果がみられることもあります。 骨髄移植とは異なり、ATG療法による造血機能の回復では血算(白血球,赤血球,血小板の数)が完全に正常化することはまれであり、ほとんどの場合、ある程度の血球減少は残ります。これはシクロスポリン(CyA)療法でも同様であり、再生不良性貧血の免疫抑制療法一般に言えることです。

6. ATG療法後の再発に対するATG再投与

ATG療法によって改善をみた症例のうち、約35%が再発します。

再発またはATG療法が無効であった症例に対してもATGを再投与すると、初回のATG療法に匹敵する有効率がえられます。

日本のATG製剤の添付文書には同じATG製剤の再投与はアナフィラキシーをおこす危険性があるために禁忌であると記載されていますが、欧米では以前から再投与が行われています。同じATG製剤を使いますと、ATG再投与時には確かに即時型アレルギーの頻度は高く、血清病がより早期に起こりますが、急性型の副作用と血清病の頻度はかわりません。そこで、ATGの再投与は十分に注意して行えば安全であることがわかっています。また、日本の再生不良性貧血の治療のコンセンサスカンファレンスのガイドラインでも、ATGとCyAの併用療法6ヶ月後に改善のみられない成人例と、造血幹細胞移植のための血縁ドナーのいない再発例では、ATGの再投与を勧めています。