関東病院


麻酔とは?

麻酔状態とは

外科手術の際の痛みを取り除くため、薬物、鍼などを神経に作用させ、一定時間、無痛、反射喪失の状態を作り出す方法を『麻酔』といい、全身麻酔と局所麻酔とがあります。中枢神経あるいは末梢神経を、一時的に、しかも可逆的に抑制するものを『麻酔薬』と呼び、それによって引き起こされる状態が『麻酔』です。主として中枢神経を可逆的に抑制するものが『全身麻酔薬』で、末梢神経を抑制するものが『局所麻酔薬』です。このような麻酔状態がどのようなメカニズムで起こるのかはまだ十分には解明されていませんが、全身麻酔状態の特徴は、(1)無意識、(2)無痛、(3)筋弛緩、(4)反射の抑制のすべての状態が整うものとされ、患者さんは眠っている間に手術が終わる仕組みになっています。

麻酔法の種類

麻酔の方法は、全身麻酔法と局所麻酔法の2つに大別されます。 全身麻酔法には、吸入麻酔法(気管内挿管法、マスク麻酔法)や静脈麻酔法があります。局所麻酔法には、表面麻酔法、局所浸潤麻酔法、伝達麻酔法(脊椎麻酔法、 硬膜外麻酔法、神経叢遮断法)などがあります。患者さんの状態や手術の種類に応じて、麻酔法を選択します。

麻酔法の選択

病気の部位と病気の性質、手術の方法や手術時間に応じて麻酔方法が決まります。 合併症があったり、特殊な手術である場合は麻酔方法の利点、欠点を考えて、最終的に麻酔方法を決めます。全身麻酔では、気道を確保する必要があり、これにはマスクで行う方法と気管の中にチューブを挿入する方法(気管内挿管法)があります。顔面、頭部、頚部、背部の手術、心臓、肺臓、腹部、食道の手術では、 気管内挿管が必要です。マスクで管理できるのは、仰臥位で行う四肢や体表の手術ですが、2時間以上かかる長い手術では気管内挿管が必要です。 短時間の下腹部手術や下肢の手術では、脊椎麻酔や硬膜外麻酔が選択されます。 最近は手術中、手術後の鎮痛を目的に硬膜外麻酔が全身麻酔に併用されることが多くなっています。

全身麻酔法について

(1)麻酔の方法

気管内挿管麻酔のさいには、あらかじめ静脈麻酔や吸入麻酔法にて患者さんの意識 を失わせ、筋弛緩薬を投与して全身の筋肉の弛緩を得ます。そして喉頭鏡を用いて直視下に患者さんの気管内にチューブを挿入します。 さらに酸素とともに麻酔ガスを吸入させ、肺(肺胞)を介して麻酔ガスを体内(血流)に送り、脳(中枢神経)を麻痺させる方法です。また、今日ではこの全身麻酔法に局所麻酔法を併用することにより、手術中はもとより手術後の痛みを軽減すること (術後鎮痛)を期待した麻酔方法が用いられています。 麻酔中は、血圧計、心電図、酸素飽和度計などを用いて、患者さんの安全を確認しながら麻酔をします。

(2)適応と禁忌

体のどこの部分の手術でも、適応があると考えられたときに選択されます。 とくに頭蓋内の手術、顔面、頚部、胸部、心臓の手術の全身麻酔には気道が確保されるので、必須の麻酔法と考えられています。禁忌の症例は特別ありませんが、 挿菅が困難な症例の特殊な場合、気道がどうしても確保できない場合、体が非常に弱っていて麻酔に耐えられない場合や、全身麻酔を選択すべきでない場合です。

(3)使用される薬物

全身麻酔薬にもいろいろなものがあります。今日では、ひとつの吸入麻酔薬にこだわることなく、安全な麻酔のために、いくつかの麻酔薬を併用したり、いろいろな麻酔補助薬を使います。例えば十分な筋の弛緩を求める場合には、筋弛緩薬を補助的に用います。このため吸入麻酔薬の濃度を減らすことができ、麻酔薬による危険性を軽減できます。こうすることによって、麻酔薬の内臓臓器に与える障害もできるだけ少なくすることができます。

  • 1.吸入麻酔薬:笑気、セボフルレン、イソフルレンなど
  • 2.静脈麻酔薬:チオペンタール、プロポフォール、ミダゾラム、ジアゼパムなど
  • 3.筋弛緩薬:ベクロニウム、パンクロニウム、スキサメトニウム
  • 4.各種の鎮痛薬:モルヒネ、フェンタニール、ペチジン、ペンタゾシンなど

(4)合併症

すべての麻酔に合併症が発生する危険性があります。それぞれの麻酔薬は、特徴ある薬理作用を示し、麻酔薬を投与した時、患者さんにとってはこのましくない現象、例えば血圧の低下、頻脈、徐脈、悪心、嘔吐、興奮、異常運動などが見られることもあります。とくに特殊な病気や手術の危険度の高い患者さんでは、予想もできないような突発的で重篤な薬理学的、生理学的変化が起こることもあります。 まれですが、心臓血管系の異常や循環の抑制、低換気、気道内分泌物による気道の閉 塞など、いろいろな偶発合併症が起きる危険性があります。このほかに、気管内チューブの閉塞、屈曲、呼吸回路からの離脱など、いろいろなものがあげられます。しかし、我々麻酔科医は細心の注意を払って患者さんの安全を守っております。

脊椎麻酔法について

(1)麻酔の方法

脊椎管内のくも膜下腔(脊髄を保護するために脳脊髄液を溜めているところ)に 局所麻酔薬を少量注入して、脊髄神経を麻痺させる方法です。普通は腰椎部で針を刺し、腹部と下肢の神経を麻痺させるので、腰椎麻酔とも呼ばれています。

(2)適応と禁忌

腹部疾患とくに下腹部の臓器(小腸、大腸、虫垂、直腸、子宮、卵巣、膀胱) と陰部、骨盤、下肢などの手術の麻酔として広く用いられています。意識のない患者さん、失血や循環血液量が不足している患者さん、穿刺部位に感染がある患者さんには禁忌です。この麻酔法は、効果の現れ方が速やかで、十分な筋の弛緩が得られることが特徴です。

(3)穿刺体位と穿刺部位

穿刺体位は、座位と側臥位がよく用いられます。いずれも脊柱を強く屈曲して脊椎 間腔をできるだけ開いた体位で、第2腰椎以下の椎間(小児では第3腰椎以下)から穿刺します。理由は穿刺した針で脊髄を傷つけないためで、成人では脊髄の下端が終わる、第2腰椎以下の椎間から穿刺します。

(4)使用される薬物

テトラカイン、ジブカイン、ブピバカインなどの局所麻酔薬を少量(2 〜3ml) 注入します。麻酔の範囲は、使用薬液量と体位で調節します。

(5)合併症

くも膜下腔に注入された薬液が、急速に拡散して、広い範囲の脊髄と脊髄神経を麻痺させるので、血圧の低下、徐脈、呼吸の抑制など、いろいろな生理学的な変化がみられます。

1.手術中の合併症
血圧下降、呼吸抑制、徐脈、悪心、嘔吐のほか、きわめて稀に心停止の報告があります。麻酔の拡がりの速さと自律神経の麻痺のアンバランスなどが、原因不明の心停止を招くと推測されています。いずれも発見されたらただちに治療を開始し、最善の処置をとりますのでご安心ください。
2.手術後の合併症
よく見られるものに、頭痛、排尿困難、尿閉、穿刺部痛、腰背部痛などがあります。このほか、脳脊髄膜炎、外転神経麻痺や聴神経麻痺をはじめとして、動眼神経、滑車神経、顔面神経などの脳神経麻痺が見られたとの報告もありますが、きわめて稀です。

硬膜外麻酔法について

(1)麻酔の方法

脊椎硬膜外腔は、脊椎を保護している硬膜と黄色靭帯や脊椎骨膜部でできている間隙です。ここに局所麻酔薬を注入して脊椎神経を麻痺させます。針を穿刺する部位によって、頚部、胸部、腰部、仙骨硬膜外麻酔と呼ばれています。手術の麻酔や術後の鎮痛のために、硬膜外腔に細いカテーテルを挿入して、持続的に薬物を注入する方法が用いられています。

(2)適応と禁忌

顔面、頭部以外の手術のすべてに用いることができます。胸、腹部外科、整形外科、小児外科、産婦人科、泌尿器外科、などの手術の麻酔に用いられる他,術後の鎮痛やペインクリニックにおける鎮痛法としてよく用いられています。禁忌は、出血傾向のある人や穿刺したい付近の皮膚に感染があったり、この方法を拒否する患者さんの場合です。乳、幼児では、全身麻酔をしてから行います。

(3)穿刺体位と穿刺部位

胸、腰部硬膜外麻酔では、側臥位で穿刺することが多く、仙骨硬膜外麻酔では腹臥位で行われることもあります。穿刺の部位は、手術部位を含む鎮痛させたい領域で神経支配の中心部の椎間から、特殊な針を用いて穿刺します。

(4)使用される薬物

リドカイン、メピバカイン、ブピバカインなどの局所麻酔薬が主体になります。 手術後の鎮痛やペインクリニックでの鎮痛には、濃度の薄い局所麻酔薬にごく少量 の麻薬鎮痛薬を混ぜて用いることがあります。

(5)合併症

  1. 手技上の合併症   硬膜穿刺と脊髄液の漏出、くも膜下腔への薬液の誤注、血管内への誤注、仙骨部では骨髄注入、脊髄や脊髄神経根部の穿刺、損傷、カテーテルの切断、遺残
  2. 循環系の合併症  血圧下降、徐脈、不整脈など
  3. 硬膜外腔の感染と膿瘍形成、血腫形成など
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NTT東日本関東病院麻酔科
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