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町おこしを企画する民宿6代目 鹿目信和

鹿目信和

アートと音楽で“人と人”“人と文化”を繋ぐ新:湯野上温泉スタンダード

 2013年(平成25年)夏の「湯祭り」では、湯野上温泉駅前と湯野上温泉神社を中心に、温泉神社のお社を舞台にしたシンガーソングライターのライブが開かれ、秋から始動したアートプロジェクトでは、アーティストが温泉街の蔵や民家に壁画を描き、旅館やホテル、民宿などの室内に描かれた作品が展示公開され、温泉街を自由に巡る「湯野上温泉Art散歩」が開催されました。音楽やアートを目の前で直接体感して触れることで、それまでの湯野上温泉に住む人達と観光客の意識が序々に変わっていく様子を、鹿目さんは次のように話します。
 「音楽やアートだけを鑑賞していると、一見どうしてもアーティストが主役になりがちで、アーティストとオーガナイザーとの交流や、お客さんと自分達との交流はあっても、一番大切にしていたのは、ここに住んでいる人達のイベントを通してのコミュニケーションで、見慣れた風景にひとつ色が入ることで、『僕はこう感じた。違う人はこう感じた。』と、これからの街作りや人作りに必ず活きていくし、活かすために音楽やアートという手段を取ったこともあり、そこを強く意識しています。壁画を描いている時におじちゃんやおばちゃん達が差し入れを持ってきてアーティストに声を掛けて下さったり、『今年は何をやるんだ?、次はどうするんだ?』と、どんどんと膨らんでいったことが、僕の今の大きな推進力だと感じています。」
 湯野上温泉に住んでいる人達が単に観客やボランティアとして関わるだけではなく、「この場所が好きだから、こんな絵をここに描いたら面白い。」、「いつも散歩している綺麗な所を残すために、アートやイベントの力が有効では?」と、普段見過ごしている大切な時間や残したいものを気付く切っ掛けやヒントになり、住んでいる人全員が学芸員のように関わることを目指していると鹿目さんは話します。
 「いろいろなところでそれが芽吹いている感じがしています。来年の壁画の候補地として漠然と湯野上温泉駅を考えていたら、『小さな待合室にいろいろな思い入れがあるから何とか残したい』というお話しを頂き、その時に凄く感動しました。アートによって自分達が残したいものを可視化し、そこに愛着が湧いて人に自慢したくなり、もちろん観光にも繋がって、人作りやコミュニケーション作りとしても、とても良いフローが出来る感じがありました。誰か分からない人にアートを描いて貰い、それをただ説明するという形ではなく、自分達で場所を選び、描いている作業を見て、アーティストと触れ合いながら、湯野上温泉に住んでいる人達や観光客、近隣住民、世代の垣根を取り払い、残していくことを切っ掛けに深い繋がりを築いていくことがコミュニケーションという形で捉えています。」
 観光地としての集客や地域のコミュニティデザインに繋がる活動を続けながら、対象物と向き合いながら音を採集し、その音を自然に還元することをテーマにライブパフォーマンスやサウンドインスタレーション※などの音楽活動を続けてきた鹿目さんは、南会津の自然の中で収集した音を素材に、電子音や生楽器などのサンプリング音で構築した曲を作りたいと話し、南会津の自然や風土を実感しながら、湯野上温泉で活動するこれからの抱負を次のように話します。
 「この2年間は作り手というより企画者に近い立場で動いてきましたが、いろいろな人との出会いで刺激を受け、自分自身もこの場所で作品を残したいと思っています。1年間をかけていろいろな南会津の音を収集したので、『湯野上温泉の四季』というタイトルで、約40分で1曲という壮大な曲を作りたいと思います。他にも子供達やお年寄りと一緒に何かモノを作っていきたいと思います。観光という仕切りを抜けて、視点の違いやその面白さで個人と個人とが繋がり合い、自分達が作りたいモノを作るという流れを、今年1年間で自分の中で形にしていけたらと思っています。」
 南会津という土地の歴史や、過去からの永い繋がりや言い伝えや伝説は、この土地の奥行きを示す財産で魅力だと鹿目さんは話し、南会津の素朴な佇まいの湯野上温泉に吹く新しい風は、単に新しい魅力を作り出すことだけではなく、抗(あらが)うことが出来ない過去からの風と共に吹いています。

※サウンドインスタレーション:現代美術用語で使用され、アートワード分野で、時間よりも主に空間に規定される音を使う芸術。

取材後記

今回、「ふくしま人」へご登場を頂いたのは、南会津郡下郷町の湯野上温泉民宿「紫泉(しせん)」6代目の鹿目信和(かのめのぶかず)さん。古くから大川渓谷沿いの雄大な眺めと豊富な湯量で知られる南会津の素朴な温泉街に、『温泉・アート・音楽』の3つのキーワードで、観光客×アーティスト×地域の人達とのコミュニケーションを育みながら、新しい湯野上温泉の魅力作りと人作りに取り組んでいます。今年も2月22日(土)・23日(日)の2日間、湯野上温泉には大勢の観光客と地元や近隣の人達で賑わい、『温泉・アート・音楽』の3つのキーワードが、着実に湯野上温泉のスタンダードとして根付いています。
◎紫泉:http://www10.ocn.ne.jp/~sisen/
◎Novsemilong:http://novsemilong.com