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会津本郷焼窯元 宗像利浩

宗像利浩

人と科学と伝統を繋ぐ“ものづくり”の思いで蘇った復興の登り窯

 会津本郷の白鳳三山のひとつ「観音山」の山麓に位置する宗像窯では、約35度の山の急斜面を利用し、江戸中期に築かれたと推定される全長約20m、幅約5m、窯内7室の「登り窯」を使った焼成が代々受け継がれ、今も唯一稼働する東北最古の登り窯の壮大な景観は、会津本郷焼のシンボルとして、また歴史を伝える貴重な文化財として、会津美里町の指定文化財となっています。
 2011年(平成23年)3月に起きた震災では、焼成で最初に火を入れる下部の「大口(おおぐち)」と、それに続く2つの窯室が崩れ落ち、当時の被害の様子と、それから始まった「登り窯再生プロジェクト」についてお聞きをしました。
 「震災の時は、一番下の大口と2つの窯が完全に壊れました。どうしても下に比重が掛かりますので、揺れも大きかったものですから。その時は中に人が入っていなくて、誰も怪我をしなくて良かったというのが一番の思いです。被害の様子を見て、登り窯を完全に直すのは当分無理かなと思っていましたが、以前からのお客様で、東京でトンネル設計のコンサルタント会社をされている、棚倉町出身の大塚孝義さんが『なんとか直しましょう』と言って下さり、大塚さんが中心となってプロジェクトを立ち上げ、協賛金を集めて下さって復興の道に入った訳です。」
 「宗像窯登り窯再生プロジェクトの会」を立ち上げた大塚さんは、宗像窯の先代からお付き合いのあるトンネルを専門とする土木技術者で、本業で培った技術力を生かし、登り窯という伝統を現代の科学と工学で支え、新しい歴史を創造することに意義があると、大手ゼネコンや大学教授ら総勢36名の発起人を集め、地元の感心や応援を受けながら2012年(平成24年)5月にプロジェクトを発足させます。プロジェクトには栃木県益子町の築窯師 川尻浩史さんを招き、鉄骨を打ち込んだ基礎の設計・施工を大塚さんが担当し、窯本体は川尻さんと、最新の科学技術と伝統技術を融合させた修復工事が進められます。宗像窯の最高温度1,350度に耐えられるプラチナ製の熱センサーを3ヶ所に設置し、窯を造る珪藻土(けいそうど)を干して練り固めた「窯土」を益子で作りながら、窯の筋となる冬の竹を大量に集め、ボランティアなどによる瓦礫の撤去作業から着手した修復工事は、2013年(平成25年)4月に完成し、会津本郷焼のシンボルが蘇ります。
 「今回のプロジェクトにあたっては、大きなもうひとつのテーマに、ただ生産性を上げるだけの窯ではなく、江戸中期にできた窯の持っている風格をいかに再現するかということで始まりました。風格というのはなかなか目に見えないのですが、その見えないものに対する大事さを、きちっと皆さんと一緒に持ってまとまっていった気がします。昔は登り窯というと量産的に焼く窯で、瓶とか大きな物を入れるために部屋(窯)が大きい方が良く、まとまりも良く、色も良く、ほどほどにいい物が製品になっていたのだと思います。今これから求められる物は、ひびが入っていたり歪んでいても、その中に本質のいいものが潜んでいる物を選んで焼く。いい物というのは一見平凡に見えますので、いい物を選ぶ眼力が更に求められると思います。」
 今回のプロジェクトにより、宗像さんは人との出会いや繋がりの有り難さを痛感し、人との出会いによって風が吹き、自分が動かされる機会を作って頂いたことに感謝していると話します。その風のひとつに奈良東大寺から大仏茶碗奉納の依頼があり、2013年1月、修復された登り窯に北河原公敬(きたがわらこうけい)別当と関係者を招き、再建した登り窯で5月の初火入れで焼き上げる大仏茶碗に「大」の字を揮毫(きごう)※し、登り窯復興祈願の読経が行われました。
 「北河原別当に書いて頂いた奉納大仏茶碗を、まずは初窯できちっと完成させたいと思います。登り窯は自分だけのものではなく、地域の復興のシンボルになるように、もっともっと自分も謙虚になり、皆さんに愛される作品作りを目指したいと思います。生産量は少なくても、やはり質の高い物を、福島県や会津の力を日本や世界に発信するお役に立てればと思います。」
 一言一言を丁寧に話す宗像さんは、5月の新緑を迎える初火入れを楽しみにしながらも、常に本質が潜んだ本物を追求し続けています。

※揮毫(きごう):毛筆で文字や絵をかくこと。

取材後記

今回、「ふくしま人」へご登場を頂いたのは、会津美里町の“宗像窯”8代目当主の宗像利浩(むなかたとしひろ)さん。飴釉、鉄釉、白釉などを使った温もりのある外観と、堅牢で実用的な実質を合わせもった器はどれも美しく、土を扱い作品を作る成形場の整然と整頓された様子が印象に残ります。物作りに対する見識と教養、そして常に本物を指向する姿勢が、作品を創り上げる素養に繋がっているのだと実感した取材でした。
◎宗像窯:http://www.munakatagama.net/