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シンガー・ソングライター 堀下さゆり

堀下さゆり

この街に咲く小さな花達が教えた作者が見失った“音楽の力”

 “音楽の力”を信じて歌を作り、歌い続けてきた堀下さん自身が、震災の大きさの現実に圧倒され、当事者の立場になると、とても音楽どころではないと感じ、悲惨な映像を見ていると、音楽そのものを自分の心が受けつけず、“音楽の力”を信じてきた自分が、そんな姿になっていることがショックであり、“音楽の力”を信じて上げることが出来ないことが更にショックだったと話します。何かをしなければと避難所の物資運びの手伝いをしている時に、堀下さんは相馬市に立ち上がる災害ラジオ「そうまさいがいエフエム」のパーソナリティのボランティアを依頼されます。
「災害ラジオでは生活情報が主でしたが、音楽を流すこともあって、曲を選んでいるだけでも自分が助けられ、不安を抱える子供達が喜ぶような曲を流そうと、そう自分が思える気持ちにさせてもらえたことに感謝しています。災害ラジオをやっている内に、自分もそうでしたが、先の見えない未来に大人が不安を抱え、それを子供が敏感に感じ取って泣き、それを親が叱る悪循環を何とか出来ないかという声があって、子供達が喜びそうな「みんなのうた」や「アンパンマン」、「ジブリソング」をよくかけました。自分の曲の中に子供達が喜ぶ曲があれば良かったと、その時思いました。」
 10日程遅れて相馬市の新学期が始まる頃、堀下さんの母校旧福島県立相馬女子高校(現福島県立相馬東高校)の旧校舎には、南相馬市からの避難所に指定されて大勢の子供達が避難しており、まだ新学期が始められない状況の中、有志の教師らが寺子屋授業を開いていました。音楽の授業を望む子供達がいるなかで、それに対応できる音楽教師がおらず、「音楽の授業をやりたいと言っている子供達に、よかったら音楽の授業を」と堀下さんに声が掛かります。
「それまでどこかで音楽を避けていましたが、子供達が望んでいるならやるべきだと思いました。教えることは出来なくても一緒に歌うことは出来ると思い、昔の音楽教科書から『春が来た』と『小さな世界』の2曲を何度も歌いました。始め小さかった子供達の声が大きくなり、表情がどんどん変わって行く様子を見て、“音楽の力”とはこれなのかと思いました。そのことが切っ掛けになり、音楽でやれることはやはり有って、やっと自分自身が何かをやりたいと思えるようになりました。」
 その後、避難所でのライブ活動が始まり、夏には堀下さんとスタッフの企画による“子供達のための子供達のアルバム”を子供達と一緒に作る『福島の子ども達に笑顔をプロジェクト』が動き出します。当初4〜5校を想定していたものが、相馬市長、教育委員会、校長会の了承を得て、また(社)相馬青年会議所の協力も得ることになり、相双地区の幼稚園から高校までの全22校1,307人が参加し、約3ヶ月に渡るレコーディングによる16曲入りのフルアルバム『スマイル:)』が作られます。
「最初にヘッドホン体験をしてもらい、先生方に協力してもらいながら子供達と練習を重ね、ひと月後に録音をしました。子供達が頑張り、子供達自身が目をキラキラさせながら楽しんでくれて、それぞれの学校にいろいろなエピソードがあり、大勢の方々にご協力を頂いて、大変な作業でしたが私自身が大切な思い出を頂いたことにとても感謝しています。」
 日常のありふれたことが大切だと歌い続けてきた堀下さんが、日常が一気に変わってしまった震災を自ら体験し、何気ないことで笑ったり泣いたり、大切な人と語り合う日常がいかに幸せであったかを改めて知ったと話し、これからもそのテーマを歌い続けながら、音楽で笑顔を増やしていきたいと堀下さんは話します。

※トップ写真協力:堀下さゆり様

取材後記

今回ご登場を頂いたのは、相馬市出身のシンガーソングライター、堀下さゆりさん。昨年、子供達と作り上げたフルアルバム『スマイル:)』が、地元・相双地区での販売を熱望する声に、遂に3月9日全国リリース緊急決定。また、春のワンマンライブツアー「いのりとひかり」も3月開催。さらに中断していた5年振りのニューアルバムが今夏リリース予定。詳しくは堀下さんのウェブサイトをご覧ください。※『スマイル:)』の収益は、経費をのぞいた収益全額を福島の子ども達の学力向上とこころのケア等の為に寄付されます。
堀下さゆりOFFICIAL WEBSITE「Lilylife」:http://www.lilylife.net/