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励ましとつながりをバネに、走り続ける - 男山本店(気仙沼) 菅原昭彦 社長
励ましとつながりをバネに、走り続ける - 男山本店(気仙沼) 菅原昭彦 社長

思い入れのある酒

1912年創業。気仙沼で100年の歴史を誇る「男山本店」。菅原昭彦社長に「一番思い入れのあるお酒を」とお願いしたら「ちょっと待ってて」と持ってきてくださったのは、蒼いラベルの一升瓶。それが「男山本店を救った酒」だった。

「蒼天伝(そうてんでん)特別純米」です。「蒼天伝」ブランドの中で、一番最初に開発しました。名前は、気仙沼の海と空の「蒼」をイメージしています。味は気仙沼に揚がる魚、中でも日本一の水揚量を誇るカツオとあわせられるように、透明感のある、すっきりとした中にも甘旨味があって、後口はスパッと切れる味。香りは、ライムのような爽やかで穏やかな香り。そんなお酒に仕上げました。

「蒼天伝」第1号が出来上がったのが、およそ15年前、2002年ごろのこと。そこから試行錯誤を繰り返し、菅原社長が納得の行く味に仕上がるまで、さらに数年を要した。

震災直後、残ったもろみの状態は温度計と目視で確認するしかなかった

一口に「すっきりとした」と言っても、客観的な指標があるわけではありません。私と作り手とのイメージをあわせるのに、時間がかかりました。自信を持って世に問えるお酒ができたと、2006年に「蒼天伝おいしんぼ会」というイベントをはじめました。地元の日本酒ファンを集め、地元の料理と蒼天伝を楽しんでもらおうと、酒の会を開いたんです。徐々に蒼天伝ファンも増えはじめ、また「蒼天伝」の種類も「特別純米」から、「純米吟醸」、「純米大吟醸」と広がっていった。やっとブランドが一つの形になったな、と実感できたのが、2010年だったんです。

もろみが、2本残った

その翌年、2011年3月11日。男山本店の酒蔵は、海岸から少し高台にあったために津波の被害は免れた。しかし海沿いにあった本社は、津波に流された。倉庫には大量の在庫。水道や電源、流通などインフラが失われ、製造も、販売もできない。そんな中、酒蔵には、奇跡的に「2本のもろみ」が残った。

搾る前、発酵がある程度進んだ状態の「蒼天伝」のもろみが、酒蔵に2本(2槽)、残ったんです。もろみは生き物ですから、毎日世話をしてやらないと死んでしまう。震災直後「どうせやることもないから」と、杜氏と私、それに動けるスタッフで、毎日もろみの世話をしていたんです、売るあてもないのに(笑)。普通だったら、アルコール度数や比重を計測・分析して、もろみを全部データ化していくんですけど、電気が止まっているから、手動とカンでやるしかない。温度を下げるのも、冷房が使えないから、非常用に取っておいた氷を使って、もろみの槽の周りに巻いたり。

人の励ましで「スイッチ」が入った

そうこうしているうちに、3月15日ごろ、杜氏が「そろそろ搾らないと」と言い出した。搾るといっても、そのための水も、電気もない状態だ。

搾るためには、2日間電気を通し続けなければいけない。大量の水も必要です。まだ震災から2週間も経っていないのに、用意できるわけがない。でも杜氏が騒ぐので、あてもなく街に出ると、たまたま近隣の福祉施設が発電機を持っていることがわかった。恐る恐る聞いてみると、「こっちは一足先に電気が復旧したから、持っていっていいよ」と言う。でも発電機って2トンくらいあるんです。どうやって運ぼうかなと悩んでいると、となりの鉄工所が「工場は流されたけどトラックは残ったから、使っていいよ」と、トラッククレーンを貸してくれました。次は運んだ発電機を建物に通電しなくちゃいけない。ダメ元で電気屋さんに電話したら、避難所につながった。「自分の家は流されて、道具もないけどそれでもいいか」って言うから、「道具はこちらにありますので来てください」と工事してもらいました。

男山本店社長・菅原昭彦さん

もろみを搾るための設備は整った。最後に残ったのは、燃料をどうするか、だった。

もろみ1本につき2日間、2本で4日間通電し続けるための燃料が必要でした。当時は被災地はもちろん、全国的にも燃料が不足していた。どうしようかなと思っていたら、ガソリンスタンドをやっている友人が、困っているんじゃないかと連絡をくれたんです。事情を話すと、なんとか燃料を用意してくれるという。しかも「お前が知り合いだから出すんじゃないぞ、お前のところが酒を出すことが、気仙沼が元気だっていうことを全国に伝えることになる、だから出すんだ」って言われて。まあ一晩大泣きですよね。そこから「スイッチ」が入りました。これだけの人が励まし、支えてくれているんだから、在庫の心配なんて、そんな情けないこと言っている場合じゃない、と。

「蒼天伝・特別純米」は、菅原さんにとって特別な酒だ

こうして、1本目のもろみを3月22日に、2本目を24日に搾った。搾りの様子はテレビや新聞で取材され、全国に広がった。

その時の酒の味ですか? 覚えていないくらいすごかった。味にならないというか。いや、普通に美味しかったですよ。立派なお酒でした。でも私には「ほっとする味」がしたんです。あの感覚は、生まれて初めてでした。

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