

「ICT活用と学力」については、赤堀氏は既にOECD(経済協力開発機構)のPISA調査(学習到達度調査)、Becta(英国教育工学通信協会)の調査、アメリカテキサス州の調査を中心に考察した「諸外国におけるICTの活用と学力の関連」と題した研究論文を発表しています。
本セミナーでは、その中からOECDやBectaによる調査分析の一部を紹介し、自身の考察を開陳しました。具体的には、PISAの成績とコンピュータの使用頻度との関係や、Bectaの試験におけるICT機器活用校と非活用校の教科ごとの成績比較などから何が読み取れるかなどに触れた上で、赤堀氏は次のように指摘しました。
「ICT機器を使えば使うほど学力が伸びると単純にはいえません。また、学年や教科によって有意差がある場合とない場合があります。全体的には使った方が学力向上につながるようですが、だからといってどんどん使えと言うのは疑問です。韓国もシンガポールも単に学力を上げるために使っているのではありません」
では、「世界は、何のためにICT機器を活用するのか。『1人1台のコンピュータ』で何をしようというのか」――赤堀氏はさらに新たな問題を提起しました。

実はICT機器の活用が重要とされる背景には、OECDが21世紀の学力観として定義している能力の概念「キーコンピテンシー(主要能力)」があります。
このキーコンピテンシーには、1.道具を用いる力(言葉や知識、ICT機器を含め、社会・文化的、技術的ツールを相互補助作用的に活用する能力)、2.自律的に活動する力(自分で考え、自分で評価し、行動する力)、3.異質な集団で交流する力、という3つの力が含まれます。3.については、グローバル化する世界の中で、社会的に異質な集団とコミュニケーションし、競い合える能力を、学力と見なすということです。PISA調査については、現在の15歳対象だけでなく、大学生対象の試験なども計画されているそうです。
つまり、例えば韓国が、一斉授業の中での個別学習において個々の課題追求を重視するのも、自分で考える力の育成の重視につながっているのです。また、日本はPISA結果や大学ランキングなどでも明らかなように小中学校から高校、大学、社会人へと進むほど学力が低下する「右下がり」になっていますが、シンガポールや韓国ではそうではなく「右上がり」を図るべくICT利活用に注力しています。こうした考察をもとに、赤堀氏は次のように講演を締めくくりました。
「分数ができない大学生といった従来の単なる知識重視の学力低下論にとらわれるのではなく、『生涯にわたる学力』あるいは『学力から能力へ、人間力へ』といった発想を持たなければ、世界に伍していけません。情報教育の分野でいえば、情報活用能力を高めることがこれからの人材育成で重要となります。文部科学省が新学習指導要領や『教育の情報化ビジョン』などでキーワードとしている『生きる力』は、これからのいわゆる『知識基盤社会』の中で子どもたちが生きていく力のこととして提言されているのです。つまり、知識のグローバル化が進み、競争と技術革新が絶え間なく生まれ、そのため幅広い知識と柔軟な思考力に基づく判断が一層重要になるといった社会です。これからはそうした認識に立って取り組まなくてはなりません」
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※文中記載の法人・団体名・組織名・所属・肩書きなどは、全て2011年2月取材時点でのものです。