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VALUE VOICE

千葉大学教育学部 天笠 茂 教授

vol.38
千葉大学教育学部

天笠 茂 教授

さまざまな教育改革が活発化する中、義務教育段階の新しい学校の在り方が模索されています。各地で実践が進む「小中一貫教育」の取り組みを中心に、学校と地域の連携、東日本大震災後の学校、またICT活用の可能性などについて、学校経営学を専門とする千葉大学の天笠茂先生にお話を伺いました。

学校制度における各段階の接続の在り方が問われている

小中一貫校の設立や小学校と中学校の連携強化など、義務教育9年間の一貫性や小中の連携・接続を重視した取り組みが各地で進んでいます。その背景や目的について教えてください。

天笠

[写真 天笠 茂 教授]天笠 茂 教授

近年、子どもが中学に進学するに当たって、学習環境や生活環境の変化に不適応を起こし、不登校やいじめが急増するという現象、いわゆる“中一ギャップ”が問題化しています。また、高校生の基礎学力の低下も憂慮されています。義務教育9年間はこのままでいいのか。もう少し接続の在り方を考え、義務教育として子どもたちをしっかり育てなくてはいけない。教育界の底流にそうした問題意識があることが、1つの大きな背景となっています。

もう1つは、少子化の時代にあって子どもの減少がより顕著な地域で、学校の統廃合を検討する際、従来のように小学校同士を束ねるのではなく、小学校と中学校をまとめて考えようという発想が、地域の人々にも出てきたことが挙げられます。つまり、単なる統廃合ではなく、むしろそれを機にこれからの新しい教育の方向性を見出そうという動きです。

さらに加えるなら、子どもの発達と成長に対して学校制度がうまく対応しきれなくなっていることへの反省もあります。つまり、子どもの発達が加速しているのに、学校制度はそのまま。それが先ほどの“中1ギャップ”などの現象を引き起こしている可能性もあり、学校制度の在り方をもう一度見つめ直そうという気運が高まっているのです。

このような接続の在り方への問い直しは、小中に限らず、幼稚園と小学校、中学校と高等学校、高等学校と大学といった各段階の相互の学校間でも起きています。日本の教育制度全体にかかわる問いかけであるとも言えるでしょう。

小中一貫・連携の具体的な取り組みは、いつ頃から始まり、またどういった内容の取り組みが行われているのでしょうか。

天笠

2000年に、文部省(当時)の研究開発校として指定を受けた広島県呉市や千葉県南部などの中学校区で取り組みがスタートしました。そして、東京都品川区や京都市など構造改革特別区域研究開発学校設置事業の認定を受けた、いわゆる教育特区でも取り組みが活発化しています。特に品川区をはじめ京都、奈良、呉が中心となって2006年から毎年「小中一貫教育全国サミット」を開催し、リーダーシップを取ってきました。直近の第6回全国サミットは2011年7月に呉市で開催されましたが、全国から2,000名を超える教職員が集まり、関心の高さを物語っています。

取り組み内容としては、9年間を4・3・2などで区切ったカリキュラムの開発を大きなテーマに、小中教職員が互いに授業参観をしたり一緒に合同行事を行ったりするのに加えて、双方が相互に乗り入れてチーム・ティーチング授業を行ったり、小学校の授業を中学校の教諭が行ったりと、小学校・中学校の間で継続的な人的交流が進められています。

小中一貫教育の立地タイプとしては、品川区が設立した日野学園に代表される施設一体型の小中一貫校のほか、小中が同じ敷地に併設された隣接型や、従来のような分離型に大きく分けられます。校長が1名だったり2名いたりと組織の形態もいろいろです。分離型は“一貫”というよりも人的交流を主とした“連携”の試みと言ってよいでしょう。さらにこれら3タイプの学校の中には、いわゆるコミュニティー・スクール(地域運営学校)を基盤として小中一貫教育に取り組んでいるケースも多くあります。

小中一貫は教育改革の手段、真の課題は学校の組織マネジメント

小中一貫の取り組みが始まって約10年ということになりますが、現在の状況や成果について教えてください。

天笠

例えば呉市では、パイロット校だけの取り組みから全市での実践へと面的な広がりを見せており、小中一貫教育は、今、実践を深める段階へ至っています。パイロット校だけで実施されるような場合は、教育委員会が主導する形で、ともすると先生の側に「やらされる」という負担感もあったのですが、これからは教育委員会のビジョンをそのまま受け入れるのではなく、各学校が主体性を持ってビジョンを検討することになります。それも小中で一緒に作ったり、どちらかが作ったものを共有したりするなど、それぞれの学校や先生方が主体的・自律的に取り組み、実態に合った工夫ある実践を浸透させていくことが重要です。

[写真 天笠 茂 教授]

これまでの取り組みの具体的な成果としては、同じく呉市の例で、中学生の不登校減少や学力テストの結果向上などが報告されています。ただしそれを、小中一貫教育を実施した成果であると短絡的に結び付けるのはどうかな、と私は疑問に思います。むしろ小中一貫教育という改革への問題意識やそれに取り組む環境などの総体が、硬直化した学校教育のさまざまな問題の改善に影響を与えた、と言うべきではないでしょうか。

つまり、小中一貫教育を作っていくプロセス自体に意義があるのです。学校の将来を探り、ロマンを語り、コンセプトを固めていく過程で、侃々諤々と話し合い、協働することこそが1つの大きな成果だと思います。換言すれば、小中一貫教育はあくまで教育改革の1つの手段であり、それを目的化すべきではないということです。

では、実際に先生方が小中一貫教育に取り組む際のメリットや動議づけ、また逆に、これからの課題についてはどのようにお考えでしょうか。

天笠

動機づけの1つは、9年間という長期にわたって、子どもの連続する成長の姿を実感できるということです。それにより、その子の発育と学習の連続性を重視した学力や人間関係の育成が図れます。また、授業に対する見方、考え方が広がることも大きなメリットでしょう。小学校・中学校に固有の、あるいはそれぞれの学校独自の、閉鎖的な文化の中で物事を判断するのとは違って、より広い視野に立って新しい考え方に気づいたり新しい価値観を創造したりできるということです。

一方、そこで問題になるのが組織のマネジメントです。学校はもともと教師が個々に動く組織であり、協働する組織体になかなかなりません。ましてや文化の違う2つ以上の学校が一緒になり、校長先生が2人になる場合もあるわけですから、そこで連携を図っていくためにどうマネジメントしていくか、非常に難しいものがあります。実践校ではそれなりの枠組みができているものの、今のところうまく機能させているとは必ずしも言えないのが実情です。2人の校長先生の関係づくりやコーディネータの設置と役割の明確化などについて、まだまだ試行錯誤の段階です。

学校における組織マネジメントのポイントは、一人ひとりの先生方が組織の一員としての意識を高め、目標を共有するとともに、互いにつながりのある関係をつくることです。そして、校長先生のリーダーシップで、いかに中堅層の先生の力を動員していくかが重要になります。小中一貫教育では、これまで以上にそうした組織づくりが重要になってきます。

天笠 茂(あまがさ しげる)

千葉大学教育学部教授。1950年東京都生まれ。筑波大学大学院教育学研究科博士課程単位取得後退学。専門は学校経営学、カリキュラムマネジメント。中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会臨時委員,学校の第三者評価のガイドラインの策定等に関する調査研究協力者会議座長,文部科学省教育研究開発企画評価協力者会議委員などを務める。著書に『学校経営の戦略と手法』(ぎょうせい)、『小中一貫教育のマネジメント』(監修・ぎょうせい)、『学校管理職の経営課題(全5巻)』(編集代表・ぎょうせい)など。

  • 文中記載の法人・団体名・組織名・所属・肩書きなどは、すべて取材時点でのものです。
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