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VALUE VOICE

岐阜市立本荘小学校 井上 志朗 校長

vol.29
岐阜市立本荘小学校

井上 志朗 校長

初等中等教育における校務や学習のICT化の分野で草分け的な存在として知られ、校務支援ソフトの導入や授業におけるICT機器の活用を積極的に推し進めてきた岐阜市立本荘小学校の井上志朗校長。ICTの活用による教員の働きやすい職場環境づくりや最近の子どもたちを指導する上での難しさについて伺いました。

着任から1年足らずで学校の情報化を完了

本荘小学校に着任されてから学校の情報化を進めてきたそうですが、現在の状況を教えてください。

井上

当初、構想していた情報化は、すでに完了しています。2008年春の着任から1年半以上が経過していますが、学校運営や各クラスの授業については、1年足らずの間に大きく変えることができました。全国的にみても、校務と学習の両面で情報化を進めている公立の小学校はまだ少ないようですが、まずは校務の情報化に取り組んでムリ、ムダ、ムラをなくし、教員に時間的、精神的なゆとりをつくると、学習の情報化に取り組みやすくするという考え方で情報化を実行してきました。ですから、本荘小学校では、着任直後から、職員会議の資料をパソコンでWebブラウザーを使って閲覧するようにするペーパレス化をはじめ、出席管理や通知表のデジタル化などを進める一方で、教員が授業で学習支援システムやICT機器を活用できる教育そのものの情報化にも取り組んできました。こうした情報化のノウハウ自体は、前任の小学校で校長を務めた3年間にすべて確立していましたから、情報化自体はとてもスムーズに進み、大きなトラブルはありません。

以前に比べて教員は、ずいぶん働きやすくなったはずです。これまで校務に割いてきた時間が減って授業に集中できるようになったこともありますが、子どもたちが教員の期待通りに動くようになったことで精神的なストレスが軽減されたことが大きいと思います。以前は少し見られた精神的な疲労による教員の休暇取得はなくなりました。子どもたちの学校生活に落ち着きが出てきました。大きなけがをする子もいませんし、保護者の皆さんには喜んでいただいています。本荘小学校に着任以来、推し進めてきた取り組みについては、先日、『学校が変わる知恵袋』と題する本にまとめ、出版したところです。

わずか1年そこそこの短い期間で学校の情報化が完了したというのは、驚きです。

井上

本校における一連の取り組みについては、校務の情報化という視点からだけではなく、校長や教頭、教員などで構成される学校組織の改革という視点からみることもできます。一般に日本の学校は、校長を頂点に、教頭や教務主任といった中間管理職がおり、その下に一般の教員がいるというピラミッド型の組織ですが、こうした組織は学校を運営する上で必ずしも効率的だとは言えません。例えば、何らかの案件について、担当の教員がまとめた報告書が、教務主任、教頭という順に流れ、最後に校長が決裁するのが一般的ですが、時間も手間もかかります。そこで、電子メールによる決裁に切り替え、担当の教員から直接、校長に電子メールで報告書を上げるようにし、教務主任と教頭には電子メールの同報だけで済ませるようにすれば、より効率的に、スピーディーになるわけです。本校では以前から、教員に1台ずつノートパソコンが貸与され、校内のLAN環境も整備されていましたから、このように、ICTの積極的な活用と並行して、組織を従来のピラミッド型からネットワーク型につくり直すという改革も断行したのです。

井上 志朗 校長 井上 志朗 校長

ネットワーク型の組織運営による業務効率化の一例を挙げれば、苦情への対応があります。保護者から指導に関して苦情などが寄せられた場合、ピラミッド型の組織では、最初に担任が話を聞き、次に教務主任が対応し、さらに教頭が入っても解決できないと、いよいよ最後に校長が出ていくという構図だったわけです。校長が対応する段階では、すでに1、2週間が経過しており、保護者は学校側の対応に不信感を募らせていました。そうなると、校長はもう、保護者に謝るだけです。何のために時間と労力を費やしてきたのか分かりません。これに対して本校では、ネットワーク型の組織への移行に伴い、学校に寄せられる苦情に校長である私が最初に対応する仕組みを採用しました。私が、保護者のお話をしっかりと伺い、きちんと状況を把握する。担任や関係者の話も聞いて、謝るべきことは謝り、正すべきは速やかに正します。保護者に納得していただきやすいですし、担任も不安な気持ちからすぐに解放されます。教務主任や教頭に情報共有はしますが、あえて手を煩わせることもしません。

また従来、学校運営に関係した校務は、それぞれの教員が分担していたわけですが、一般の教員については、学級経営や教科指導に専念してもらい、一切の学校全体に関わる校務は教務主任や教頭、そして校長である私が受け持つようにもしました。学級運営に専念する教員たちが「運営部」、学校全体に関わる校務に携わる私たちが「企画部」と呼んでいます。「運営部」と「企画部」の役割の違いがよく分かるのが、職員会議です。「運営部」の教員は、校務にまつわる資料づくりや意見の調整から解放され、「企画部」の用意した資料を見ながら議事に参加するだけでよくなりました。そうなると、教務主任や教頭など「企画部」の負担が増大するのではないかと懸念されるかもしれませんが、そんなことはありませんでした。職員会議で紙ベースの資料の配付を基本的にやめ、Webブラウザーを使って資料を閲覧しながら議事を進行できるようにする会議のペーパレス化によって、資料のコピーなど準備に以前ほど手間をかからなくなっていました。また、ネットワーク型の組織運営と情報化によって学校全体の校務がスリム化されたことによって、教頭や教員1人ひとりの役割が以前と変わることがあっても、こなさなければならない業務の絶対量が極端に増えるというようなこともなかったのです。

教員はムリをせず、できる範囲でICTを利用する

急速な学校の情報化には、スキル面の不安などから抵抗を感じてしまう教員もいらっしゃるのではないですか。

井上 志朗 校長

井上

学校の情報化を進めるにあたって、すべての教員が、ICTを自在に使いこなせなくていけないというのは、大きな間違いです。教員にはムリをさせず、自分のできる範囲でICTを使ってもらうようにしなければ、情報化は定着しません。例えば、通知表のデジタル化も、ファイルをアップロードしたり、データを変換したり、プリントアウトしたりといった作業のすべてを、それぞれの担任が行わなければいけない状況は、パソコンの扱いに不慣れな教員には大きな負担です。「手書きの方が速い」ということになってしまう。ですから、最低限、担任にお願いするのは、生徒1人ひとりの所見や成績を表計算ソフトなどのファイルに落とし込んでもらうところまで。ファイルを処理して印刷する工程は、企画部の教職員が担当します。朝、ファイルを提出しておけば、午後に授業が終わったころには、通知表がきれいに出来上がっているというわけです。こうした仕組みがあれば、教員は、所見欄の内容を充実させるといった、本来、担任以外にできないところに力を注ぐことができます。教員の立場からすると、毎日の仕事の進め方が「変わる」「良くなる」という程度では、情報化への積極的な動機付けにはならないようです。さらに1歩進んで、「得をした」という実感がなければ、情報化は根付きません。

本校では、グループウェアや校務支援ソフトを導入していますが、セキュリティー面に充分な配慮をした上で、一部のシステムについては教員の自宅からのアクセスを許可しています。家庭事情によっては、「夕方は早めに帰宅して、子育てや家事を済ませた午後9時以降に働きたい」といったニーズもあるわけですから、教員それぞれが働く時間や形態をセレクトできるように、ネットワークを通じて自宅でも学校と同じように仕事ができる環境を整えたのです。教員が持てる能力を発揮しやすいように、ICTを活用する。このように人とICTを上手に組み合わせていくことを、私は「心機融合」と呼んでいます。

井上 志朗(いのうえ しろう)

岐阜市立本荘小学校校長。1949年、岐阜市生まれ。1972年から理科担当教員として、岐阜県内の公立小中学校や岐阜大学教育学部附属中学校に勤務。県教育委員会学校指導課指導主事(理科・環境・情報教育担当)や岐阜大学教育学部附属中学校副校長などを経て、2005年から岐阜市立京町小学校校長、 2008年から現職。著書に、『21世紀の学校IT革命』(高陵社)、『知恵と工夫の学校経営』(同)、『学校が変わる知恵袋』(同)などがある。

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